第366話 接点
2032年4月19日10時
「クラリス、ちょっと見ない間に接近戦も強くなったな! マルスみたいに剣を振いながら魔法を使うなんて驚いたぞ!?」
「ありがとうございます。元A級冒険者の方と戦う機会があったので、マルスに付き合ってもらって必死に訓練しました。ですが魔法を使ってもお義兄さんには敵いません」
クラリスとアイクが訓練をしながらお互いを褒め称える。
「アイク様! 俺にも稽古をつけてもらえませんか!?」
「分かった! 次はエリーとやるからその次でいいか?」
バロンの要望にアイクが気持ちよく答えると、今までアイクと訓練していたクラリスが俺の隣に座る。
「やっぱりお義兄さんには接近戦では勝てないわね。まだまだマルスに付き合ってもらわなくちゃ。それで? マルスは何をしているの?」
「鑑定と鎖術の訓練だよ。だけどどっちも行き詰っちゃって……それでもやるしかないからやってるんだけどね」
クラリスしか天眼のことは知らないので敢えて鑑定とぼかした。
「何か私で手伝えることがあれば手伝うわよ?」
ニコッと微笑みながら俺のハートを撃ち抜いてくる。
クラリスが手伝ってくれるのであれば当然……
「透視眼はダメよ? でももっとダメなのは盗視眼……」
先に釘を刺されてしまった。
「と、当然だよ……でもなんで盗視眼の方が覚えてはダメなんだ?」
「それは……私がいつも……」
なんとなくクラリスが言いたいことが分かってしまった。目がよく合うからな。
尤も目が合うのはクラリスだけではなくエリー、カレン、ミーシャ、アリスとも頻繁に目が合うのだが。
「じゃあクラリス、手を出してくれないか?」
顔を俺から背けたまま左腕を差し出してくれる。
「ちょっと冷たいかもしれないが我慢してくれ。変な事はしないから」
火精霊の鎖をクラリスの手に軽く絡ませると、その感触に驚いたのか少し上擦った声を上げる。
「な、何をしているの?」
「ミネルバが鎖術の上達方法は鎖を自分の手だと思って好きな人を縛る事と言っていたんだが、さすがにクラリスを縛って傷付けたくないからこうやって手に絡ませているんだ。嫌か?」
「そういう事ね。ちょっとびっくりしちゃって」
その後は俺に身を任せてくれたのだが、クラリスの手から腕に鎖を絡ませていくと、ミネルバのように体温や肌触りを感じる事は出来ないが、下手すればクラリスの綺麗な肌に跡が残ってしまうという思いから鎖を繊細に動かさざるを得なく、非常にいい訓練となった。
直線的な動きしか出来なかったが、今までよりかは滑らかに鎖を動かすことが出来る。ただ相当集中しないといけないのでかなり疲れるが。
先人の言うことは偉大だな。これからもミネルバ師匠に相談しよう。
「ちょ……あなたたち? もしかしてクラリス……あなたも……」
ずっとクラリスの腕に集中していたため、周りが見えておらず、真後ろに来ていたサーシャに全く気付かなかった。
どうやらサーシャは腕に鎖が絡まっているのを見て、ついにクラリスが開眼してしまったと思ったようだ。
サーシャに事情を説明し、なんとか誤解を解くことが出来たが、この件は【暁】のみんなには知らせておかないと余計な誤解を招く恐れがあるな。周知を徹底しておこう。
「マルス、今日の放課後どこか誰にも見られない所でまた話せない? 出来ればクラリスと3人だけで話したいのだけれども……分かっていると思うけど昨日の件よ」
「はい。でも誰にも見られない所ってどこかありますか?」
俺の質問にサーシャが困ってしまう。俺の部屋やサーシャの部屋であればいいかもしれないが、それはそれで問題があるからな。
サーシャと困っているとクラリスが意外な場所を提案する。
「多分、私たちのクラスが一番穴場じゃないかしら? 3年Sクラスの教室は普段誰も使わないから」
確かにクラリスの言うとおりだな。俺たちは闘技場で訓練し終わったらいつも直帰だからな。
「そうね。では放課後3年Sクラスの教室に行くから待ってて」
次の授業があるのかサーシャがそう言い残すと急いで闘技場を後にする。
「マルス、そういえば昨日サーシャさんと何を話していたのか教えてくれない?」
昨日の件、ダメーズがディクソン辺境伯の名前を聞いて俺とサーシャの話に割り込んできた所まで話した。
あの後、ダメーズは俺がいると話しづらそうだったので2人を残して寮に戻ったのだ。
ラースやヨハンに関わる事だから、後日絶対にサーシャに聞こうと思っていたのだが、サーシャから話しかけてくれて良かった。
場合によっては話せないなんてこともあるかもしれないからな。
ちょうどクラリスに話し終わったくらいでアイクとの訓練を終えたエリーが俺の隣に来て
「……マルス……私も……縛って……」
クラリスの左腕に巻き付いている鎖を見ながら話しかけてくる。縛っているつもりは無いのだが、やはり傍から見ればそう見えるのかもしれない。
だがまさかエリーから縛られたいと言うなんて……もしかしたらエリーはそっちの気があるのか?
そう思ったらエリーはどんなことでもクラリスにしたらエリーにもやって欲しいとの事だ。それはエリーだけではなくカレン、ミーシャも同じようで続けて立候補してくる。
結局エリーの次にカレン、その次にミーシャと腕に鎖を巻かせてもらって誰の肌も傷つけることなく無事に訓練を終えると、緊張からか疲労が一気に溜まり、その後いつの間にか寝てしまっていた。
2032年4月19日15時前
ふと目が覚めると俺の目の前には優しく微笑みながら俺の顔を頭を撫でている女神……いや美神の姿があった。
目が覚めた瞬間に膝枕をしてもらっているという事が分かった。
なぜ分かるのかって? 当然クラリスマスターだからさ。
すぐにクラリスに時間を聞くとやはりもうサーシャとの待ち合わせ時間になるとの事で泣く泣く俺史上最高の枕から離れる。
急いでクラリスと2人でSクラスの教室に向かうと、すでにサーシャが椅子に座っていて俺たちを待っていた。
「お待たせして申し訳ございません」
「いえ、私も今来たところだから大丈夫よ。早速本題に入ってもいいかしら?」
「ええ。お願いします」
俺とクラリスはサーシャに向かい合う様に椅子に座り、サーシャの言葉を待つ。
「これはあくまでもダメーズが言っていた事だけど、ダメーズは私に嘘は言えないという事は頭に入れておいてね」
サーシャの言葉に頷くと早速サーシャが話始める。
「まずダメーズがディクソン辺境伯をどこで知ったのかというと、ザルカム王国の男爵家当主だった頃から知っていたとの事だったわ」
予想はしていたが、相当昔の話だよな。
「その頃のダメーズはグランザムの為にと一生懸命尽くしていたそうなの」
そうは言われても昔のダメーズからは全く想像が出来ない。
「ちょうどその頃、現ビートル伯爵ラウル・グレイスが子爵から伯爵に陞爵し、グランザムも治めるようになったそうよ。ダメーズは自分こそがグランザムの領主と思っていた矢先の出来事だったらしく、納得がいかなくずっと悶々としていた時にディクソン辺境伯に声をかけられたそうなの。グランザムの領主にはダメーズこそが相応しいと」
ビートル伯爵はもっと前から伯爵位だったのかと思ったけど違ったのか。
「そしてディクソン辺境伯はダメーズにグランザムで内乱をおこすように指示をしたらしいの」
「ダメーズさんはそれを飲んだのですか?」
たまらずクラリスが質問する。
「最初は断ったらしいのだけれども、何度も会うたびにディクソン辺境伯の言う事が正しく思えてきたと。なんでもこのままだとバーカー家は取り潰しになるとか、住民はみんなダメーズを嘱望しているとか言われ続けて……その頃から夢にもディクソン辺境伯が現れていたらしく、ダメーズ自身が言っていたのだけれども、あの頃のダメーズは正気じゃなかったと言っていたわ」
もしかしたらディクソン辺境伯に洗脳でもされていたのか?
「実際ダメーズと最初に出会った頃と今ではだいぶ違うでしょう? 私でも驚くくらい変わったと思うもの」
確かにあの頃のダメーズはまともじゃなかったが、今は別の意味でまともじゃない。どっちのダメーズがいいかと言われれば今のダメーズの方がいいに決まっているが……
「ダメーズがこう言っていたわ。ディクソン辺境伯はグランザムを手中に収めたいのだと思うと。もしかしたら今回のグランザムを焼き払うという魔族の計画にもディクソン辺境伯が一枚噛んでいるのではないかとね」
ダメーズはサーシャの奴隷だからサーシャに対して嘘は言えない。だがそれはダメーズというフィルターを通しての事だ。事実はまた違っているのかもしれないが納得できる部分もある。
「最後にダメーズから是非マルスにお願いがあると言われたのだけれども……」
サーシャはとても言いづらそうにしていたので
「何でしょうか? 僕に出来ることであれば構いませんが?」
発言を促すと、サーシャからまさかの言葉が出てきた。クラリスもまさかの言葉だったらしく、思わず俺と顔を見合わせてしまった。
実はディクソン辺境伯は相当前に登場しております。
気になるという方は第34話を見ていただければ……
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