第356話 マチルダ
「……クラリス……圧勝!……」
「やっぱりクラリスね! 一瞬ヒヤッとしたけれども心配する必要なかったわね!」
「さすがみんなの姐さん!」
「私もクラリス先輩を目指して頑張ります!」
クラリスと一緒に選手控室に戻るとエリー、カレン、ミーシャ、アリスがそれぞれクラリスの勝利を祝う。
「ありがとう! ここだけは絶対に負けられない……負けるとマルスの隣にいてはいけない気がして私なりに本当に頑張ったの……よか……った……ほんと……」
よっぽどヒルダ戦がプレッシャーだったのか、クラリスはみんなに祝福されると大粒の涙をこぼし、綺麗な両手で顔を覆った。
そのクラリスを胸に抱き寄せると
「……もしも……もしも負けたら……マルスが遠くに行っちゃうような気がして……そんなことないって分かっているのに……怖くて……不安で……」
声を出して泣きながら胸中を吐き出す。クラリスが落ち着くまでそのままでいると、【黎明】女性陣も集まってきてクラリスの肩や背中に触れねぎらう。
途中リーガン公爵が選手控室に入ってきたが、この光景を見て何も言わずにクラリスが落ち着くのを優しい表情をしながら見守ってくれる。
クラリスの頭を撫でていると少し落ち着いてきたのか、埋めていた顔を胸から離すと、クラリスもリーガン公爵の存在に気付き
「も、申し訳ございません。リーガン公爵がいらっしゃることに気付かずに私……」
「いいのですよ。微笑ましい光景でした。それにクラリス。おめでとう。よく頑張りました」
リーガン公爵の言葉を聞いたクラリスの頬にまた涙が流れ、鼻を震わせていた。
「さて、つぎはエリーの番です。エリーも準備できておりますか?」
「……はい!……」
ここまで気合の入ったエリーなんて久しぶりだ。ちょっとマチルダが心配だな。
先ほどと同じようにリーガン公爵に連れられエリーと一緒に闘技場に上がるとすでにリュートとマチルダの2人がリングの中央付近で待機していた。
「さて、では最終戦、エリーとマチルダの試合を始めます。先ほどと同じようにマルスが審判を務めます。マルス、マチルダの鑑定を」
リーガン公爵に促されマチルダを鑑定する。
【名前】マチルダ
【称号】-
【身分】人族
【状態】通常
【年齢】24歳
【レベル】60
【HP】202/202
【MP】104/104
【筋力】89
【敏捷】98
【魔力】35
【器用】37
【耐久】50
【運】1
【特殊能力】体術(Lv7/D)
【特殊能力】風魔法(Lv3/G)
【装備】鉄の爪
【装備】武闘着
【装備】スパイクブーツ
ステータス的には完全にエリーの下位互換といった感じだが油断はできなそうだ。チャイナドレスは武闘着なのか……
「マルス、OKですか?」
「はい。鑑定終了しました」
「審判、先ほどと同じように2人の装備を……」
リーガン公爵の言葉に返事をすると、リュートが先ほどのように装備の事を言ってくる。
「分かっております。エリー、装備を外してもらえないか? マチルダさんもいいですか?」
2人が無言で頷き、マチルダは鉄の爪を地面に放り投げ、スパイクブーツという靴を脱ぎ捨てると、リュートにブーツのようなものを渡され、それに履き替えた。スパイクブーツとはどうやら靴から刃物が出る仕掛けがあるようだ。
エリーはカルンウェナン、風の短剣、ミスリル銀の短剣をそっと地面に置こうとするが
「……これ……クラリス……預けに行っていい?……大事……ここ、置きたくない……」
エリーが困った表情で聞いてくる。前にも言ったがエリーは俺とクラリスがあげた物に関しては本当に大切に扱ってくれているからな。
「分かった。急がなくてもいいからクラリスに渡しておいで」
俺の言葉に安堵の表情を浮かべ頷くと、小走りで選手控室に戻っていく。エリーが戻ってきたところでリーガン公爵とリュートがそれぞれ戻り
「ではこれより試合を開始するが2人共準備はいいか?」
エリーとマチルダに聞くが2人共頷くだけで声に出さない。そう言えばマチルダの声を1度も聞いたことがないな。
「分かった。前の試合でも言ったのだが、2人共それぞれ大切な人がいる事を忘れないでくれ。正々堂々と頼む。はじめ!」
試合開始の合図と共にすぐにマチルダが右太ももを上げ、膝を横に抱えるような構えをとる。
大きくスリットの入ったチャイナドレスのようなコスチュームでその構えをすると、右太ももが露出された状態となり、男性たちはそうとう戦いにくいだろう。
構えをとるマチルダにエリーが突っ込み、戦いが始まると早速マチルダが足技を中心とした体術を繰り出す。
俺と同じように、足の方がリーチが長い分密着すれば有利だと思ったのか、エリーが拳の届く距離まで強引に近寄ろうとするが、最初のマチルダの上段回し蹴りを避けるのではなく左腕でガードすると、その威力に驚いたエリーが咄嗟に距離を空けた。
マチルダは下がったエリーを追う事はなく、そのままの構えでエリーを待つ。
それを見たエリーはスピードに任せてマチルダに迫るが、マチルダはエリーのスピードに慌てることなく、その場で静かに待ち構え、またエリーが足技の届く範囲に入ってくると先ほどと同じように右の上段回し蹴りを放つ。
今度はエリーがそれをガードするのではなく、スウェーしながら避け、間合いに入ろうとするが、マチルダは右上段回し蹴りをスウェーされるとその勢いを利用し、軸足を右足に変え、左足で後ろ回し蹴りを放つとエリーがまた射程の外に逃げる。
その後も右上段蹴りからのネリチャギや踵落としなど多彩な技でエリーの接近を許さない。右の踵落としからの左下段は足の左右こそ違うが往年のK1ファイターを彷彿させるものであった。
「……」
「……」
またも近づけなかったエリーは距離をとり、どうすればいいか考え込んでいる。
一方のマチルダはただただエリーが突っ込んでくるのを待つだけだ。
そしてエリーが覚悟を決めた表情で再度マチルダに突っ込むと、またマチルダは右上段回し蹴りを放ち、エリーがスウェーで躱す。
躱されたマチルダの選択肢は踵落とし、ネリチャギ、そして後ろ回し蹴りだろうが、ここでマチルダは後ろ回し蹴りを選んだ。
エリーはマチルダの腰の回旋を見て後ろ回し蹴りと判断したのか、技と技の繋ぎの隙を狙って一気に間合いを詰める。
マチルダもそれに気づき咄嗟に後ろ回し蹴りをやめ、距離を取ろうとするがエリーはそれすら読んでおり、ついに手の届く距離までに迫るとエリーの猛攻が始まる。
エリーは拳こそ握らなかったが、右の掌底をマチルダの腹に一発ぶちこむと、強烈な一撃にマチルダは思わず顔を歪め、顎が前に出る。
その顎を右の掌底でアッパーのように突き上げようとするエリーに対して、マチルダはビーカブースタイルのように両腕を顔の前で揃える。
しかし右のアッパーはフェイントで本命は左のリバーブロー(右わき腹への攻撃)だった。
こんなえぐい攻撃どこで覚えたんだと思ったが、ビャッコと訓練していたのを思い出した。
綺麗に入ったリバーブローでマチルダの両腕は完全に落ち、それを見逃すエリーではない。
止めの右の掌底がマチルダの顎を捕らえそうになるが、急いで俺がその掌底を手で受け止める。もう完全に試合は決まったからな。
エリーのボディブローとリバーブローをまともにくらったマチルダはその場に倒れこみ、口から嘔吐物を吐き出していた。ここで右の掌底を顎に叩き込んでいたら脳に深刻なダメージが残っていたかもしれない。
「勝者! エリー!」
俺がそう宣言するとすぐにリュートが倒れこんでいるマチルダの下に駆け寄ってきた。
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