第345話 勘案
目を覚ますと俺の顔はクラリスの胸と鎖骨の間位にあり、クラリスの上に覆いかぶさるように倒れていた。そしてクラリスの右手と俺の左手はずっと繋がれたままだった。
右手に先ほどまで持っていた神託の剣はすでになかった。
「クラリス、クラリス!」
すぐにクラリスの上からどき、仰向けで気を失っているクラリスの上半身を、抱きかかえて揺さぶるが、クラリスは一向に目を覚まさない。
ここはやはりキスしかないよな。
みんな、言っておくがクラリスが可愛いから、好きだから、愛しているから、キスしたくてたまらないからキスするわけじゃないからな。起こすためにだからな……いや、嘘です。本当は全て当てはまります。
優しく唇を重ねると、クラリスが目を覚まし、俺の顔を見ると安心したのか微笑んだ。
「大丈夫か? クラリス? どこか調子が悪いところはないか?」
「うん……良かった。境界世界で最初どこにいるか分からなくて凄く不安で……でもマルスが私の手を握ってくれて凄く安心したの。マルスがいるだけでどこか分からなくてもホッと出来たの。エリーだけでなく、私にとってもマルスは心の安定剤ね」
クラリスが俺の首に手を回し、お礼と言わんばかりに頬にキスをしてくれる。やはり美女からしてもらうキスは自分からするキスよりもいいものだ。
「それにしてもラースってあんな過去があったのか」
俺の言葉に今まで頬が緩んでいたクラリスの表情も引き締まり
「うん……それにヨハンの【天災】の能力も大体は分かったけれども、最後亜神様の言葉が途切れ途切れになってはっきりとは分からなかったわね」
「ああ、でもデバフ盛り盛りといったような感じだったな。とにかく関わらないほうが良いという事だけは分かった。しかしラースを倒すのであればヨハンと共闘をしたほうがいいとの事だ。かなり難しいな」
「そうね……でもこうやって2人で考えていれば……って今何時!? 今日は19時からお疲れさま会よ!?」
クラリスがそう言いながら勢いよく俺の腕の中から立ち上がり時計を見ると、時計の針はもう19時になろうとしてた。
「このままでは遅れてしまうわ! 行きましょう!」
クラリスの言葉に頷き急いで部屋の外に出る。クラリスと一緒に階段を下りると久しぶりの生クラリスに男子寮にいたみんながパニックになる。こうなる事は予想をしていたが時間がないから仕方ない。
遠くで見ているものは興奮し、近くまで来たものはフリーズし、中にはあまりもの胸の高鳴りに心臓を抑えて苦しそうにする者までもいたが、なんとか振り切って男子寮の外に出た。
「相変わらず凄い人気だな、クラリスは」
待ち合わせの正門まで手をつなぎながら一緒に走ると
「……私はマルスだけってみんなに公言しているのに……やっぱり婚約だからなのかな、結婚すれば……」
クラリスが複雑そうな表情を浮かべながら答える。
「それはないな。アルメリアの奴隷商、ヘリクさんの所に一緒に行っただろ? あの時の事を思い出してごらん。それにクラリスがみんなに好かれるのは俺にとっても嬉しいんだ。あまりにも過激なのは流石に困るが」
俺の言葉にクラリスが納得するように頷きながら
「確かに……お義母様はお義父様と4人の子供がいるにも関わらず大人気だったものね……この世界のその辺の事が慣れないのよね……私もマルスがモテるのは嬉しいのだけれども……」
やはり複雑そうな表情を浮かべる。
正門に着くとやはり遅刻しており、みんなが俺たちを待っていたのでそのまま学校の外に出てお疲れ様会の会場へ向かう。
「「「かんぱーい!!!」」」
いつものようにミーシャが陽気に色々話始める。
どうやらミーシャとアリスの2人は校内を回っていたらしく、その際男子生徒たちだけではなく、女子生徒にも囲まれたらしい。
ミーシャはいつも可愛いと言われていたが、今日は綺麗になった、大人びたと言われることが多かったらしくご満悦だった。アリスはそもそもこの学校でそういった経験が無かったので少し怖かったらしいが、やはり嬉しかったようだ。
やっぱりクラリスに限らずミーシャやアリスも好かれてくれると嬉しい物だな。思わず俺も2人の顔を見て嬉しくなってしまった。特に同性からも好かれるというのは大きい。
エリーとカレンはというとハチマルに早くこの環境に慣れて欲しいとの思いから部屋でハチマルと一緒に過ごしていたとの事だ。カレンは主人だからともかく、エリーはこういう所が優しいよな。だから子供に好かれるのかもしれない……確実に1人は別の目的だが。
そのハチマルはというと今はカレンの隣で大人しくお座りをしている。これじゃあ誰も魔物だなんて思わないよな。
ブラッドは新入生の獣人にいろいろと教え込んだようだ。獣人はやはり問題行動を起こすことがあるらしく、リーガン公爵から厳しく指導してくれと頼まれたようだ。コディもブラッドと一緒に獣人を教育していたようだ。
まぁこの辺りの事はおいおいお互いの事を理解できるようにならないといけないよな。共存を目指すのであれば獣人が俺たちに歩み寄るだけではなく、人族からも歩み寄れるところは歩み寄らないとな。
クロムはというと2年Sクラスに顔を出し、残念殿下とケビンの3人でAクラスと一緒に授業?を受けたらしい。なぜAクラスかって? 残念殿下とケビンは形だけのSクラスだからな。アリス、クロム、ブラッドがいなければSクラスとしての授業は行わないそうだ。
バロンとミネルバは……スマン、ちょっと怖くて聞けなかった。
みんなが何をしていたのかという話を聞くだけでも時間があっという間に過ぎてしまいもうすでに20時を過ぎてしまった。まぁ俺たちが遅刻したから実際ここに1時間もいないのだが。
「門限は21時だからもうそろそろ帰ろう」
ミーシャだけはもっと居たそうだったが、他のみんなが俺の言葉に同意し寮へ戻る事になった。
そして学校に戻っている最中に
「なぁ今日どうしてもさっきの件でクラリスと話したいんだけどいいかな?」
誰にも聞かれないようにクラリスに言うと
「ええ、私も同じことを思っていたわ。でもどうするの? 門限は21時までよ?」
「実はミーシャには悪いんだが、リーガン公爵に今日だけは0時まで良いと言われているんだ。明日学校に登校することを条件にだけど」
どうしてもリーガン公爵は早く俺たちに登校してもらいたいらしいからこのような条件が出たのだ。俺としても好都合だ。それに最近はめでたい事が続いて宴会が多かったしな。ちなみに昨日はリーガンに近づいたからという理由で飲んでいた。
「分かったわ。じゃあ22時に女子寮の前で。【黎明】部屋のリビングならば安全だし、その時にはもうみんな寝ているわ。もちろんエリーもね」
やはりクラリスも俺と同じことを思っていたようだ。
「分かった。じゃあ22時に」
その後はみんなで一緒に学校に帰り、それぞれ自分の部屋に戻る。
2032年3月15日22時
自室で風呂に入ってからクラリスの待つ女子寮の前に着くと、男のロマンを渡される。ステルス状態で【黎明】部屋まで来いとの事だ。
部屋に入るとクラリスが
「もうみんな寝ているから大丈夫よ」
と声をかけてくれたので、早速本題に入る。
「実はエリーの事なんだが……」
クラリスを見ながら言うとクラリスも
「私も同じ、やっぱりあの話を聞くとその可能性が高いと思ってしまうわよね」
真剣な表情で俺の顔を見ながら答える。
「ああ、エリーはいつ、どこでミリオルド公爵……いや、ラースに会ったのかという事だ」
クラリスは俺の話に耳を傾けながら頷く。
「クラリスは知らないと思うが、2人でセレアンス公爵と話したのだが、エリーがセレアンス公爵領にいるまでの間はミリオルド公爵と会う機会がないと言っていた」
これはビャッコと戦う前に2人で話していた事だから俺しか知らない情報だ。すると今度はクラリスが
「でもエリーはなぜかミリオルド公爵の事を知っていた。そしてリスター祭で会ったミリオルド公爵は違うと言っていたわね」
「ああ……前も言ったが、エリーが思うミリオルド公爵は恐らくラースだと思う。そして2人が現世で会う機会はないはずだ。ラースは【剣神】が怖くて外を出歩かないともヨハンが言っていたからな」
クラリスはやはりという顔で俺を見ている。そして俺はクラリスの顔を見ながら、声をさらに絞りながら話す。
「昔エリーに転生者かと聞いたことがあったよな。そしてエリーはすぐにそれを認めた。前世の記憶が曖昧だったが、この世界にいたという事は覚えていた」
「そうね……それにラースはヨハンにこう言っていたのでしょう? エリーだけは殺すなと」
「うん。そしてラースの転生術は他の人をも転生させることが出来ると亜神様は仰っていた……」
完全に俺とクラリスの意見は一致しているようだ。しかし敢えて確認の為に声に出す。
「きっとラースとエリーは前世で会っているんだ。そしてエリーのあの怖がり方はもしかしたら……」
俺がここまで言うとクラリスは声を震わせて
「もうここまでにしましょう。ここまで意見が一致していれば十分だと思うの。これが正解でも、そうじゃなくても」
「分かった。最後にエリーの寝顔を見てから帰るよ」
クラリスと一緒に2人の部屋の扉を開け、幸せそうに眠るエリーの顔を見てから自室に戻った。
伏線回収は一旦ここまでです。
この章の最後辺りに少しだけ回収をしますが。
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