第344話 ラース
気が付くとそこは白い世界だった。
何もない世界。確か俺はベッドの下にあった神託の剣から放たれる光に包まれて……そうだ!? クラリスはどうした!?
そう思って気絶する前にクラリスと手を握っていた左手を強く握ると
「痛い!」
クラリスの柔らかい手の感触と共に、声が急にすると思ったらいつの間にか俺の隣にいた。
「ご、ごめん!? いつの間にここに!?」
俺の言葉にクラリスが
「分からない……ずっと白い景色しか見えなくて彷徨っていたのだけれども、急に右手を強く握られて……ここは……」
クラリスの言葉に答えようとすると聞き覚えのある声がした。
「そうじゃ、境界世界じゃ」
どこからともなく亜神の声がした。しかしあの時とは違い、声の先には白い老人の姿はなかった。あの時もうまく視認が出来なく、消えかかっているような感じだったが、今回はそれすらない。
「お久しぶりです! 亜神様! どこに居られるのですか!?」
俺の言葉にクラリスが驚く。そうかクラリスはこの境界世界の事も亜神の事もそこまで覚えていないんだったな。
「ああ、藤崎裕……マルス、そしてお主はクラリスじゃったな。まさかクラリスまでここに来るとは予想外じゃったが、この剣をお前たちが拾ってくれて助かった。何せ儂にはもう誰かの願いを叶える力が残されていないからな」
そういえば俺に天眼を残して亜神は……そう思っていると
「いやいや、神託の剣には儂がマルスに天眼を授ける前から力を付与しておったからな。別の事で力を使ってしまったのじゃ。だからお主がこれを拾ってくれて助かったと言ったわけじゃが……」
もしかしてと思い、ずっと疑問に抱いていたことを聞いてみる。
「もしかして亜神様が使った力と言うのは壁魔法だったりしますか? 僕をイルグシア迷宮からグランザムに飛ばしたのは誰かなとずっと考えていたのですが……」
そこまで言うと亜神が笑い
「ふぉっふぉっふぉ。やはり正解じゃったな。そうじゃ、儂がマルスをグランザムに転移させた。あの距離を転移させるのでこの神託の剣の力を使い切ってしまった。嫌じゃったか?」
「いえ、これ以上ない願い事だったと思います。こうやってクラリスと一緒に過ごせるのも全て亜神様のおかげでございます」
俺が頭を下げるとクラリスも一緒に頭を下げ
「初めまして、綾小路葵、今はクラリス・ランパードと申します」
どこにいるか分からない亜神に自己紹介をする。
「分かっておる。もう儂にも時間がないから重要な事を話せるだけ話すからしっかりと聞いとってくれ。質問を受け付ける時間は残されておらんからな」
そう言うと亜神は一方的に話し始めら。
「まずはラースじゃ。ラースは転生者で他の世界からお前たちと同じように偶然転生してこっちの世界に来た。今から2000年以上前にの」
2000年以上前!? ラースは今リーガン公爵よりもはるかに年上と言う事か? 俺の心を見透かしているかのように亜神が答える。
「当時のラースは人族で英雄と呼ばれておってな。未来視を駆使して初のS級冒険者になり、闇に染まる世界から救おうと必死に人族の為に戦っておった。当時のラースの未来視の能力は今のマルスの未来視の能力とほぼ同じ能力じゃな」
闇に染まる? そして俺と同じ未来視という事は俺の未来視もまだまだ成長するという事か。
「当然じゃ。儂の与えた天眼の半分の性能すら引き出せておらんが、まさか10年以下で未来視を開眼するとは思わなんだ。よほど努力をしたのじゃな。そこは素直に褒めてやろう」
俺は単純だからすぐに気分が良くなるが、隣にいるクラリスも俺が褒められて嬉しそうだ。
「当時は魔族……悪魔族が猛威を振るっておってな。イセリア大陸だけではなく中央大陸、そして西方諸島にも勢力を伸ばしていたのじゃ。そしてその悪魔族の長、当時魔王と呼ばれていた者をついにラースが退けたのじゃ」
そんな人間が獣人を攫っているという事か? 到底納得できないが……
「今退けたと言ったじゃろ? 退けた代償は大きかった。たくさんの仲間と共にラースも一緒に死んでしまったのじゃ」
え? じゃあヨハンが言っているラースとは別の人間という事か?
「しかしじゃ、ここでラースの固有能力が初めて発動し、ラース自身も初めて自分の固有能力に気づく。なにせ未来視では固有能力が表示されないからの」
死んでから固有能力? もしかして死に戻りして何度も同じ場面をループするというやつか?
「いや、ラースの固有能力は転生術じゃ。死んだら必ず転生する……本人が望む望まないに構わず必ずこの世界にな。呪いではないが、呪いのようなものかもしれんな」
死んだら必ず転生する!?
「何度も転生しその度にラースは魔王に挑む。そして転生するたびに転生術のレベルが上がり、引き継げるステータスもどんどん高くなり、特殊能力の数やレベルも増えていった」
前世のステータスを引き継げるって反則じゃないか? 全てではないニュアンスに聞こえたが、それでもアドバンテージが高すぎる。
「じゃがな、ラースは何度転生しても魔王には勝てなかったんじゃ。人族に転生し、時には獣人、そしてなんと金獅子に転生したこともあった。しかしその時にはもうラースに協力する者なぞいなくなってしまったのじゃ。みんなで力を合わせてようやく深手を負わせることが出来た相手じゃからの。1対1ではどうにもならんのじゃ」
転生術とは色々な種族に転生できるのか。それにどんどんラースは孤立していくのか。
「じゃが金獅子に転生しても魔王に負けたラースは悟ってしまったのじゃ。絶対にこのままでは魔王は倒せないと。そして死にゆく間際に力を望んだのじゃ。流れた魔王の真っ黒な血を啜ってまでな……その結果ついにラースは悪魔族に転生してしまったのじゃ」
「「っ!?」」
クラリスも俺と同時に驚く。
「もうその時のラースは人族の為とか思っていなかった。とにかく自分よりも強い魔王を倒す事に執着したのじゃ。そして悪魔族に転生したラースはあっさりと魔王を倒すことができたのじゃ」
魔王を倒すために魔族にまでなったのか……
「じゃがラースは悪魔族の血に翻弄されたのか、それとも魔王を倒すことに協力しなかった事を根に持っていたのか分からないのじゃが、今度は自身が魔王となりターゲットを人族や獣人に向けたのじゃ。じゃがそこを今度は現【剣神】に討たれ、次の転生先をまた人族にしたのじゃ。このころにはもう転生術のレベルも相当上がっており、過去になったことのある種族を選べるようになっておったのじゃろう。そして自分以外にも転生させることが出来るようになったのじゃ。こうして悪魔族しか使えないはずの暗黒魔法を人族に転生したラースが使えるようになったのじゃ」
他の者も転生させることができる? もしかして……それに【剣神】って聞けば聞くほどとんでもない奴だな。しかし亜神の答えは意外なものだった。
「【剣神】のステータスはそこまで高くもない。といっても今のマルスよりかは圧倒的に高いが、魔王ラースよりは敏捷値以外低かったのじゃ。それなのになぜ【剣神】がラースに勝てたのかと言うと圧倒的な装備の差じゃな。魔族の中でも圧倒的な力をもつ悪魔族の弱点の1つが装備に制限がかかってしまうのじゃ。あともう1つの弱点は予想がつくかと思うが神聖魔法に弱いことじゃ」
装備差か……俺も自分の装備運はないからな……
「何を言っておる。【運】30のマルスの装備運が悪いわけ無かろう。この世界で一番愛されているのは間違いなくお主じゃろうて」
なんと!? いつもみんなの装備しか出てこなかったから装備運が悪いとばかり思っていたのだが……
「それはお主が本当に自分の装備を求めていなかったからじゃろう。それにお主ほど宝箱が出る者など過去にもおらんぞ!? トレジャーハンターと呼ばれている【剣神】よりもお主とクラリスは運が高いのだから」
え? クラリスよりも低いという事は、クラリスと同じアリスよりも低いのか? という事はこの2人も……
「もう時間がないから最後にもう1人の転生者についてじゃ。詳しい事は省くがもしもラースを倒そうとしているのならばヨハンを殺してはならぬ」
どうして? と思う前に亜神の声が境界世界に響くがその声はどんどん小さくなっていく。
「じゃがヨハンとなるべく一緒に行動はするな。あいつに気にいられる事は絶対に避けることじゃ。ヨハンの【天災】の能力はレベルが上がるとステータス増加値が2倍となる。ここだけ見ればもしかしたら【天賦】よりも上かもしれん」
それは凄すぎだろう……でもそう考えるとレベルのわりにはステータスが低い気がするな。もしかしたらヨハンは怠惰なのかもしれないな。剣術も火魔法も風魔法も才能の割りにはレベルが低かったからな。
そう思っていると急に俺の手を握っていたクラリスの力が抜けて、俺の足元に倒れこむ。もしかしたらもう亜伸の力がなくなってここに留まっている事が出来ないのかもしれない。そして俺自身も徐々に意識が遠のく。
「……そのかわ……寿命は1/4だ……そして周……必ず不幸をまき散らす。だからヨハン……ラースの下に……他にも……」
その言葉を最後に俺もクラリスに重なるようにして意識を手放してしまった。
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