第339話 祝宴
「「「お義兄さん! お義姉さん! おめでとうございます!」」」
「アイク様! おめでとうございます!」
宿にチェックインし、荷物を下ろしてからみんなを集めてアイクと眼鏡っ子先輩が妊娠報告をすると皆から祝福された。
「みんな俺から提案があるのだが、今俺たちは西リムルガルドの北北西のアンザーンにいる。このまま北西方面に向かってメサリウス伯爵領まで行き、義姉さんをメサリウスに送ってからリーガンに戻ろうと思うんだが、どう思う?」
当然俺の言葉に反対する者はいなかった。
「アイク兄どうですか? グランザムに行くのは今年の夏くらいだと思いますので、アイク兄もそのままメサリウスに残るというのは? リーガン公爵には早馬で知らせておけば問題ないかと思うのですが」
「いいのか? そこまでしてもらって……このメンバーでメサリウスまで行けるのであれば安心だし、クラリスが近くに居ることによって、エーデの体調面もケアできるから俺としては嬉しい限りなのだが……」
アイクが俺を見た後にみんなを見渡し、恐縮しながら言うとミーシャが
「当然だよ! 今日はお祝いという事でパァーっとお酒……ジュースで乾杯だね!」
こいつ絶対にお酒飲もうとしていたよな。
「ミーシャ、ジュースだなんて言わないで、お酒飲んで盛り上がって。さすがに私はお酒を飲まないけれども宴には参加するわ。アイクも私に構わず今日はお酒を飲んでちょうだい。クラリス、申し訳ないけどまた一緒に居てくれるかしら?」
眼鏡っ子先輩の言葉にミーシャが喜び、アイクとクラリスが頷く。この後自然な流れで安産バッチを皆で買いに行き、夜になった。
2032年1月28日17時
「お義兄さんとお義姉さん、そしてこの美男美女の2人から生まれてくる幸せな赤ちゃんにかんぱーい!」
ミーシャの乾杯の音頭で宴が始まる。今日飲んでいないのは眼鏡っ子先輩だけだが、クラリスは乾杯の時にアルコール入りのグラスに一口だけ口をつけるとすぐにそれを俺に渡し、今は何かの果実を絞ったアルコールの入っていない飲み物を飲んでいる。
クラリス曰く、妊婦さんを任されたからにはお酒は飲めないとの事だ。確かにいくら神聖魔法で酔いを醒ませるといっても、気持ちの問題だよな。
これは眼鏡っ子先輩を頼むと言った俺にも責任があるから、最初のグラスとクラリスの飲みかけのグラスを飲んだら俺もお酒を飲むのを控える事にした。
今日はエリーもお酒を飲んでいる。クラリスとは対照的にいつもより酒量が多い。それはエリーの目の前に置かれている料理に問題があるのだろう。
大好きな肉を食べていると必ずその皿にクラリスが野菜を乗っける。量は少ないのだが、エリーにとっては強敵だ。エリーがいつものように俺に野菜をアーンしようにも、クラリスの厳しい目が光っているので必然的にナイフとフォークが止まり、自然と酒に手が伸びる回数が増えるのだ。
エリーの苦戦をよそに幸せいっぱいの2人にみんなからの質問攻めが始まる。
2人のなれそめ、いつからお互いを意識し始めたのか、初めてキスしたのはいつ、どこで、とかお互いの好きな所を全て答えよとか……中にはもっと突っ込んだ質問も出たが、それらを全て幸せそうな表情で答えていく。
そして突っ込んだ質問の1つのアイクの答えに気になる所があった。
「あと1つあったと思ったのだが無くてな……」
敢えて何のことかは言わないでおこう。ただ分かる人は分かると思う。そしてそれをクラリスに確認する。
「クラリス、知っていたら教えて欲しいんだが、つわりってどのくらいでくるものなんだ?」
クラリスも俺の質問の意図に気づいたのか、俺の耳元で小さく
「日本だと妊娠4~6週間くらいって聞いた気がするけど……ねぇもしかして……」
俺とクラリスが目を合わせて同時に気づくと、眼鏡っ子先輩の方を見る。眼鏡っ子先輩も俺たちに気づき、ウィンクしながら口元に人差し指を立てて、シーッと声を出さずに合図を送ってくる。
え? 何の事か分からないからしっかり説明しろだって? これはあくまでも推論だからな。
今日が1月28日。つわりが始まるのが妊娠してから4~6週間後くらい、眼鏡っ子先輩にある物を貰ったのが1月1日だ。そしてアイクはまだあったと思っていた。もう分かったよな。高価で貴重な最後の1個を俺たちにくれたのだ。
それが無かったからアイクと眼鏡っ子先輩は……俺の推察が当たっていれば、ある意味妊娠は俺とクラリスのおかげという訳か……
眼鏡っ子先輩から自分の皿に目を移すと、いつのまにか野菜が盛られていた。これは俺とクラリスが話している隙に左隣から輸入されてきた物だろう。その証拠にエリーは美味しそうに肉を頬張っている。
ちょっと早いが、あまり眼鏡っ子先輩に負担をかけたくないし、エリーも肉料理に満足したところで宴会はお開きとなり、部屋に戻る。
今日から俺はアイクと2人で寝る事になった。理由は眼鏡っ子先輩が【黎明】の泊まる部屋に来てクラリスと一緒に寝るからだ。
さすがに眼鏡っ子先輩と同じ部屋で寝るのはダメだからな。絶対に何もないと言い切れてもこれも気持ちの問題だ。
逆にクラリスがアイクたちの部屋に行くという案もあったのだが、それはアイクが固辞した。結局俺とアイク2人で寝ることになったのだ。
「そう言えばアイク兄はリーガンに戻ったら義姉さんと2人でゆっくり過ごすというのはなくなっちゃいましたね」
ベッドで横になり、同じく隣のベッドで横になったアイクに言うと
「ああ……これからは3人でだな。まぁこれは嬉しい誤算だな。それにメサリウスに行ったらかなり忙しくなると思うが、エーデと子供の為にも弱音を吐いていられない。しっかり前に約束したとおり訓練だけは続けるから、グランザムに行って足手まといになっているという事にならないようにしておくから安心してくれ」
まぁその点は絶対に大丈夫だろう。努力の塊みたいな男だからな。今度はアイクから聞いてくる。
「マルス、もう1つ頼みがあるが聞いてくれるか? マルスにとっては嫌なお願いかもしれないが……」
アイクが少し申し訳なさそうに俺に聞いてくる。
「いいですよ。兄弟なのですから遠慮なく聞いてください」
「ああ……頼みと言うのはマルスたちがリーガンに帰る時に、クラリスのハンカチを何枚かエーデに渡してくれないか? どうやらクラリスの匂い自体に……」
「アイク兄。大丈夫ですよ。僕も同じことを考えておりましたから。クラリスに頼んでおきます」
何が言いたいのかすぐに分かったので、アイクの言葉を遮るように答えた。これは今言ったように俺からもクラリスにお願いしようと思っていたのだ。使い所によってはキュアよりも効果的だ。
そして俺自身もクラリスから何か私物を貰って、いざという時の為に備えよう。
「何から何まですまないな」
ホッとした表情で謝ってくると、アイクは安心したのかすぐに目を瞑って眠りについた。きっとなかなか言い出せなかったのだろうな。
俺もアイクの幸せオーラを感じながらMPを枯渇させて眠りについた。
アイクフラグ回収完了♪
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