第334話 邂逅
「わぁー! ありがとうマルス! 大好き!」
「ありがとうございます! 先輩! 宝物にします!」
砦に戻り、風呂から出て、ダイニングスペースに腰を掛けると、すぐにミーシャが俺の隣にやってきて、何も言わずにニコニコしながらただ俺の顔を見てきた。もうプレゼントが楽しみで仕方ないという表情だ。
それはミーシャだけではなくアリスも同じで、2人はみんなよりも早く風呂を出て俺を待ち構えていた。待ちきれない2人の薬指に早速それを嵌めた結果が先ほどの2人の言葉だ。今はうっとりとしながら2人共薬指に嵌められた指輪を眺めている。
俺が宝物庫で見つけたのは、守護の指輪だった。これは流通量こそ多いものの、その効果からなかなか手に入らない。カレンも風呂から出てきたのですぐに左手の薬指に嵌めると
「アクセサリーは何度も貰ったことはあるけれどもこれが1番……」
途中まで言いかけたが、その後は言わなかった。今ここにはクラリス、エリーの2人を除く全員がいる、つまりバロンもこの場にいるのだ。
恐らくカレンはバロンから色々貰っていたのであろう。バロンからというよりもラインハルト伯爵家からかもしれないが。
「なんだカレン? 何年か前父上に守護の指輪を渡されたら、魔眼持ちが守護の指輪をするのは、魔力に自信が無いとみんなに言っているようなものだからしないと豪語していたのにやけに嬉しそうだな」
嬉しそうな表情をするカレンをスザクが揶揄うと
「お兄様! それは言わない約束でしょう!? それにまだ私は帰りが遅かったことを許しておりませんからね!」
照れているのか、怒っているのか分からないが、カレンが頬を少し赤くしてスザクに迫る。今のカレンからは想像はつかないが、最初に出会った頃のカレンなら言いそうだな。
カレンに迫られスザクが困ったような素振りを見せるが、どうやら秘策を思い付いたようだ。
「まぁそう言うなって。カレン、お前にはいいものを用意してあるんだ」
スザクがそう言うと自分の首にかけていたネックレスを外し、カレンの首にかける。
「それは獄炎のネックレスと言ってリムルガルド城でポップしたアクセサリーだ。効果はマルスに後で聞くといい。フレスバルド公爵家にもそのクラスのアクセサリーは少ないからな」
なんとカレンの機嫌を取るために獄炎のネックレスをプレゼントしてしまった。気持ちは分かるが自分の特化系統の装備品をいくら妹の機嫌を取るためにあげるなんて……あげちゃうな。うん、俺もリーナの機嫌を取るために間違いなく渡しちゃうな。
カレンはまさかのプレゼントに目を丸くするしかなく、これ以上スザクを責めることは無かった。
「ちっ、そんな大量にアクセサリーが手に入るのであれば俺たちも行けばよかったな! アンデッドなんて俺がぶん殴ればイチコロだろうに……」
ブラッドが浮かれている3人を見ながらコディに言うが
「あ、ああ……でもリッチが出たと言っていたよな? リッチは俺も1度だけ討伐に参加したことがあるけど、魔族の高位火魔法使いを数十人と風魔法使いを数人集めてようやく倒せるレベルだったからな……
リッチも厄介だが近くに出現するグールはある意味もっときついぞ? あれはとにかく匂いがきつい……風魔法で匂いを飛ばしても臭いからな……火魔法で燃やした後も何日か匂いが残るから俺は会いたくもないし、戦いたくもない」
コディの言葉に思わず胃の中の物が出てきそうになる。昼食を食べていないから胃酸しか出てこないが。そして今の話を聞いたスザクが口元を抑えながら
「コディ、その話はもう終わりだ。あの悪夢は2度と思い出したくない……だがとてもいい情報を貰えたことは感謝する。1つだけ言えることは俺とビャッコはグールが出てくる限りもうリッチとは絶対に戦わない」
スザクの近くに居たビャッコは思い出しただけで失神しそうになっている。その様子を見たブラッドが
「ビャッコでもそれだけ拒否反応が出るのか……くそ! じゃあ俺も無理という事か……」
悔しさを露骨に吐き出す。前から思っていたのだがブラッドはよほどビャッコの事を信頼しているようだ。
ちょうどそこに風呂から上がってきたクラリスが
「何言っているのよ。ブラが苦手なら誰か得意な人が倒せばいいのだから問題ないじゃない。【暁】はメンバーが多いのだから頼れる人もそれだけ多いわ。ブラがアンデッドを苦手とするのであれば、私がアンデッドを倒すからその分他の人が苦手な所をカバーしなさい」
ある意味誰よりもアンデッドが苦手なクラリスがブラッドを諭すと、俺の両隣はミーシャとアリスが座っているため、テーブルを挟んで俺の真正面に腰を下ろす。クラリスの右隣には一緒に風呂から上がってきたエリーが座り、左隣には先ほどまでスザクと話をしていたカレンが座る。
急にクラリスに話しかけられたブラッドは視線が完全にクラリスにロックされており、数秒前まで悔しがっていた表情はもう既になく、眉が垂れ、目尻を下げ、頬がほころび、鼻の下を伸ばしている。それは話しかけられていないコディも同じだった。
クラリスとエリーが来たことにより全員揃ったのでスザクが早速酒を片手に
「皆! 今日までよくやってくれた! 当初の目的はリムルガルド城攻略だったが、それは厳しいと判断し、ここまでとする! 今回失ったものも多いが、得られた成果も多い! リムルガルド城下町の開放、そしてリムルガルド城の間引きだ! ジオルグやバルクス王国の者、そしてクロムには悪いが上出来だ!
フレスバルド公爵家から【暁】へのクエストは無事達成という事にしたい。もちろんコディへのクエストもだ! また何かあったらお前たちを頼るかもしれないがその時はよろしく頼む! それではクエスト達成に乾杯!」
スザクがグラスを掲げ、久しぶりの酒宴が始まる。
いつもは真っ先に潰れにかかる暴走エルフが今日だけは酒に関心を示さず、左手の薬指をずっとニヤニヤしながら見ている。ここまで気に入ってもらえるとプレゼントした甲斐があるな。そしてそのミーシャを隣でサーシャが嬉しそうに眺めながら、酒を口に運ぶ。
正面に向かい合って座っているカレンとアリスもお互いの指輪を見ながら嬉しそうに話している。これだけ喜んでくれればプレゼントした俺も嬉しくなる。
クラリスとエリーも楽しそうに? 食事をしている。なぜ疑問符がつくかというと野菜嫌いのエリーにクラリスが何度も野菜を食べさせているからだ。その時だけはエリーが俺に助けを求めてくるが、それはエリーの為だからな。愛あるスルーをする。
ブラッドとコディは相変わらずクラリスをずっと見ており、クロムはバロンとミネルバの会話に楽しそうに混じっている。
ライナーとブラムはアルメリアに戻ってまた例の店に行くことを画策しており、スザク、ビャッコ、レッカの3人はいつものように今後の事を話しているようだ。
そしてテーブルの端にいたアイクと眼鏡っ子先輩の方に目を向けると、ちょうどアイクが眼鏡っ子先輩に指輪をプレゼントしているところだった。
眼鏡っ子先輩は指輪をプレゼントされると目から涙がこぼれていたが、俺が見ている事に気づくと俺に向かって何回も投げキッスをしてくる。だいぶ酔っているのかと思ったら酒は飲んでいないようで水を飲んでいた。シラフでこのテンションか……まぁいつも通りか。
本当はもっと宴を楽しんでいたかったが、リムルガルド城から戻ってきたのが遅く、もう日付をまたぎそうな時刻となっている。
明日早く起きてリムルガルド城下町の門の最終確認をしに行きたいのでスザクに声をかける。今日帰ってくるときにリムルガルド城下町の西門をしっかり塞いだが、次いつ来られるか分からないからな。南門も含めてもっと分厚くしておきたいのだ。それに久しぶりにマラソンもしたいしな。
「スザク様、明日の朝リムルガルド城下町の西門と南門をさらに厳重に塞いできますので、僕はこの辺で失礼させて頂きます」
「分かった。ここ数日この辺りを相当厳重に警戒しているが、魔物の気配はなさそうなので大丈夫だと思うが油断はするなよ? まぁ今のマルスであれば1人でもオーガに囲まれたところで傷1つ負う事なく倒せそうだが……」
確かに今の俺であればアルメリア迷宮のボス部屋であれば1人でもクリア出来るだろう。まぁサンダーストーム1発放てばおつりが返ってくる事はほぼ間違いないだろう。
クラリスとエリーもリムルガルド城下町に入らないことを条件に単独での作業を了承してくれた。別に誰かを連れて行ってもいいのだが、アイク、クラリス、エリー以外の者と行くとゆっくり走らなきゃいけなかったりするから1人の方が訓練になるのだ。
その後、みんなに声をかけてから寝室に行くと、当然のように【黎明】女性陣とハチマルが一緒に寝室についてくる。
本来であれば、今日俺と一緒にカレン、ミーシャ、アリスの3人が寝る番なのだが、クラリスの強い要望でクラリスとエリーとなった。
3人も指輪の事もあって、すんなりとクラリスの言葉に頷いた。クラリスと一緒にエリーが寝るのを見届け、エリーに背を向けクラリスと向き合うと、クラリスが嬉しそうに
「ねぇマルス? 気づいた?」
ん? もしかしたら髪の毛を切ったりしたのか? いや、ずっとクラリスを見続けているが、変わったところは無い。世界一のクラリスマニアの俺が言うのだから間違いない。
「いや、ごめん……分からない……でも変わらず、いや昨日よりも、そして今日の朝よりも今のクラリスは綺麗だよ」
嘘をつくとどうせ後でボロが出そうだしな。思ったことを正直に言うと
「あ、ありがとう……でもそうじゃないんだけど……ううん、もういいわ。マルスもかっこよかったわよ。特にライトニングをオーガスターの頭を掴んでから放って、他のオーガたちもまとめて倒した時は嬉しかったし、惚れなおしちゃった」
「嬉しいって?」
「ほら、マルスがアクアロッドで水を撒いていたじゃない? マルスの得意な雷魔法と私の得意な水魔法って相性がいいんだなって、魔法の相性がいいだけで嬉しくなっちゃって……」
クラリスが俺の腰に手を回し照れながら、でもまっすぐと俺の顔を見ながら言う。確かに雷と水の相性って抜群だよな。でも俺たちの相性がいいのは魔法だけではないはずだ。
「……ばか……」
どうやらクラリスは俺の思考を読んでしまったようだ。真っ赤になった顔を見られたくないのか俺の胸の中に顔を埋めてくる。
俺の胸に収まっているクラリスのおでこにキスをしてからMPを枯渇させ意識を手放した。
2032年1月27日4時
行儀よく俺の胸の中で寝ているクラリスを起こさないようにベッドから出る。
俺が起きるとハチマルもついて来たそうにしていたが、ハチマルには悪いが今回は一緒に連れて行かない事にした、カレンに何も言っていないしな。学校に戻ったら毎日一緒に走ってやるから我慢してくれ。
身支度を整え、まだ暗い中、昨日みんなで塞いだ西門の方へ火精霊の鎖を動かしながら走る。念のためサーチを使ったが、近くに魔物はいないようだ。
昨日も砦に戻ってくる時に、土魔法を使えるみんなで厳重に西門を塞いでいたので、こちらはそこまでMPを使わずに満足が出来る厚さになった。これだけ分厚く密度もあれば、オーガの石弾くらいであればビクともしないだろう。
西門を塞ぐ壁に満足した俺は、そのまま南門へ向かう。またさっきのように火精霊の鎖の訓練をしながらだ。
時刻は6時前といったところだろう。徐々に明るくなり始め、南門に着こうかという時だった。
1人の人物が太陽の光を背に東側から歩いてくる。体型からして男である事は分かる。男は背中に長い棒のようなものを背負っている。
その男も俺に気づいているようでずっと俺を見ながら近づいてくる。
徐々に俺たちの距離が縮まり、もう完全にお互いの事を認識できる距離になると
「やぁマルス君。久しぶり」
髪の毛は黒く、目も黒い、俺たちと同じ白に金色の刺繍が入った制服を着ていた男が、その凶悪な顔を歪ませ、不気味な笑顔を浮かべながら、友人に会うかのように声をかけてきた。
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