第333話 心配
「本当にアイクを連れてきて良かったな」
スザクが前衛でオーガと戦っているアイクを見ながらぼそりと呟く。そしてその言葉にビャッコが応えてアイクとエリーを褒める。
「確かにそうですね。スザク様の眼鏡にかなう者ですから期待はしておりましたが、まさかこれほどまでとは……それにエリー様のサポートも完璧です」
今俺たちは礼拝堂からまっすぐ伸びた通路を南に向かい、たくさんのメイドルームを片っ端から開け終わり、もうそろそろエントランスホールの東側の扉に繋がる所にさしかかっていた。
隊列は先ほどと同じで、アイクとエリーが前衛で俺とクラリスが中衛、後衛にスザクとビャッコという隊形を取っている。これは後ろからもオーガがちょくちょく迫ってくるのでビャッコを前衛から配置転換したのだ。
「まぁ一番はこの最難関の迷宮とも思えるリムルガルド城でまるでデートをしているような2人のおかげだがな。信じられるか? ここは去年Aランクパーティがいくつも壊滅しているところだぞ?」
「スザク様、これは私たちだけの心にしまっておきましょう。このことを誰かに話しても私たちが嘘つきと思われてしまいます」
ん? 褒められているよな? それに今は近くに居るだけで手を繋いだりはしていない。ただ頬を赤くしたクラリスと見つめあいながら歩いているだけだ。しっかりと周囲の警戒もしているしな。
「スザク様! こちらの大きい扉も開けてよろしいでしょうか!?」
オーガを倒し終わったアイクがスザクに確認しに来た。
「いや! その扉の先がエントランスホールだ! 1度ここで休憩しよう」
スザクの言葉に従い、エントランスホールへ通じる扉から少し離れたところで休憩する。急にエントランスホールからオーガたちが流れ込んできてもいいようにしっかりと扉の方と通路を警戒しながらだ。
それにしても本当にスザクはよく知っているな。今後の俺たちだけで潜る時の為にもスザクに頼んでおくか。
「スザク様、戻ってからでいいのですが、ここの設計図か見取り図のようなものを持っていらっしゃるのですか? よろしければ見せて頂きたいのですが」
俺の質問の答えは意外なものだった。
「いや、俺はそんなものを持っていない。ただ小さい頃このリムルガルド城と同じ造りの城に何度か遊びに行ったことがあるからな。大きさはこれ程ではないが、完全にコピーしているとは聞いている」
リムルガルド城と同じようなお城があるのか?
「それはどこですか? もしよろしければ教えて頂けませんか?」
「ああ、別に構わない。レオナの所さ。カストロ公爵バルサモ家の居城……屋敷がここと全く同じ造りになっている。幼い頃何度か遊びに行ったことがあってな。その記憶を頼りにしているんだが、西の幽閉塔にだけは1回も行ったことがない。当然公爵の私室も入ったことはないがな」
よりにもよってカストロ公爵のところか……行くのはやめておこう。俺の表情を読んだのかスザクが
「行っても門前払いされるだけだぞ。レオナが当主になってから屋敷の方は男子禁制になってしまったからな。まぁ後継問題で色々あったようだから仕方ないと言えば仕方ないのだろうが……」
へー、女性の園か……でもあまり惹かれないな……惹かれないどころか行きたくないまであるな。やはりカストロ公爵がいるからかな?
「だ、大丈夫? マルス? 熱でもあるんじゃない?」
「……マルス……おかしい……女に反応しない……病気?……」
クラリスとエリーが何故か俺の事を心配している。クラリスは俺のおでこを触り、エリーはいつものように左の首筋に顔を埋めてくる。あれ? もしかして俺の心を読んだのか? 前にも言ったかもしれないが、俺は5人一筋だぞ?
「よし! じゃあ休憩はこの辺にしてエントランスホールに行くか! もしかしたらさっきのマルスの魔法の音でエントランスホールにオーガが集まっているかもしれないから十分に気を付けて行こう!」
俺がクラリスとエリーに対して5人一筋ということを言おうと思った矢先にスザクが出発の号令を出す。あとでしっかりと言葉にして2人に伝えないとな。
スザクの言葉に全員無言で頷き、アイクとビャッコがエントランスホールに続く大きな扉を開ける。
全員で警戒しエントランスホールを見渡すが、オーガの姿は少なかった。倒してしまうと他のオーガたちがリポップしてしまう可能性があるため、結局オーガから逃げるように城門から外に出ると、外はいつの間にか暗くなりかけており、城門の前で俺たちの帰りを待ってくれていたみんなが出迎えてくれる。
「「マルス!」」
「先輩!」
「アイク!」
「姐さん!」
「クラリス!」
カレン、ミーシャ、アリスが一目散に俺に抱きついてくると、どさくさに紛れてブラッドとコディがクラリスに抱きつこうとするが、見事に躱され、クラリスを2人から守るようにライナー、ブラム、サーシャの3人が取り囲む。やはりこの3人は俺に仕えてもらわねば。
「良かった……良かったよぉ……あまりに遅いから死んだんじゃないかって……」
ミーシャがマーキングをするかのように涙と鼻水を俺の胸に擦り付けながら泣くと
「先輩……次は私も一緒にお願いします! 絶対に強くなりますから……」
アリスもミーシャの隣で必死に涙をこらえながら肩を震わせる。
カレンも俺の胸に飛び込んできたそうだったが、2人に先に占領されてしまったのでスザクの所にいき
「お兄様! 話が違います! 突入から6時間で戻ってくると仰られていたのに……」
ミーシャと同じようにカレンもスザクの胸の中で泣いてしまった。
「カレン、すまない……みんな、心配をかけてすまなかった。この通り全員無事だ。かなりのオーガを間引き出来たし、アンデッドも倒すことが出来た。さすがに2層やボス部屋に行くには慎重にならざるを得ないが、十分な成果は上げられたと思う」
スザクの言葉に待っていた全員が胸をなでおろす。そしていつまでも泣いているカレン、ミーシャ、アリスに
「スザク様たちも疲れていると思うから、早く砦に戻りましょう。そして愚痴はその後にでも……ね?」
サーシャが3人を説得してくれ、ようやくこの場を出発することができた。それにしてももう17時過ぎなのか……9時過ぎに突入したのだが……まぁそれだけ慎重だったという事だろう。
俺はカレン、ミーシャ、アリスに囲まれながら、俺たちの後ろにはクラリスとエリーが2人仲良く腕を組みながら、スザクとビャッコはレッカと今後の事を話しながら砦に戻る。ハチマルはカレンの周囲を警戒しながらついてきているようだ。
ブラコの2人はクラリスにいいところを見せようと張り切って先頭を歩いており、3人の先生はクラリスとエリーの近くに、バロンはいつものようにミネルバにいいおもちゃにされている。
そして印象的だったのはアイクと眼鏡っ子先輩だった。2人は俺たちと少し距離を取り、いつになく眼鏡っ子先輩が真剣な表情でアイクと何かを話していた。
アイクたちの方に気を取られていると、俺の左腕に収まっていたアリスが
「クラリス先輩、より可愛く、大人な雰囲気になったなぁと思ったらペンダントにピアスも……私もマルス先輩にもらえるように頑張らなきゃ……」
小声で呟くと近くにいたミーシャとカレンがすぐにクラリスを見て「かわいい」「綺麗」「似合ってる」とクラリスをべた褒めする。クラリスは少し気まずそうに「ありがとう」と応える。
3人に悪意があるわけでもなく、本心で言っているのだろう。でもクラリスからしたら私だけと思ってしまうかもしれない。ここはあれの出番だな……
「カレン、ミーシャ、アリス。3人にも俺からプレゼントがある。砦に帰ったら渡すが俺からの気持ちだ。良かったら受け取って欲しい」
まさかの俺の言葉に3人の顔がパッと花開いたように明るくなる。
今回は過去にないほどの豊作だ。俺自身も氷紋剣を手に入れたし、あれだけオーガやオーガスターを倒してもレベルは上がらなかったが、ステータスは上がった。
【名前】マルス・ブライアント
【称号】雷神/剣王/風王/聖者/ゴブリン虐殺者
【身分】人族・ブライアント伯爵家次男
【状態】良好
【年齢】12歳
【レベル】49
【HP】142/142
【MP】3514/8350
【筋力】121
【敏捷】117
【魔力】137(+1)
【器用】114(+1)
【耐久】118
【運】30
【固有能力】天賦(LvMAX)
【固有能力】天眼(Lv10)
【固有能力】雷魔法(Lv10/S)
【特殊能力】剣術(Lv10/A)
【特殊能力】棒術(Lv1/G)
【特殊能力】鎖術(Lv1/G)
【特殊能力】火魔法(Lv5/D)
【特殊能力】水魔法(Lv6/C)
【特殊能力】土魔法(Lv8/B)
【特殊能力】風魔法(Lv10/A)
【特殊能力】神聖魔法(Lv8/A)
【装備】雷鳴剣
【装備】氷紋剣
【装備】火精霊の鎖
【装備】鳴神の法衣
【装備】偽装の腕輪
【装備】守護の指輪
【装備】守護の指輪
強くなったと思わないか? そして装備も入学当時から比べると雲泥の差、スキルのレベルも高くなった。A級冒険者中位以上の実力はあるはずだ。
みんなで無事に戻って来れた事、自分のステータスと今日の収穫に満足しながら仲間たちと一緒に笑顔で砦に戻った。
明日何が待ち受けているかも知らずに……
最後の所で1時間以上推敲してしまいました。
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