第329話 リムルガルド城 エントランスホール
巨大な炎の鳥が顕現し、優雅にゆっくりと羽搏きながらオーガスターたちへ近づく。
大きな翼を広げるとちょうどこのコロネの先端と同じくらいの大きさとなり、オーガたちの逃げる場所などどこにもなかった。
中には直撃する前から発火するオーガもおり、その熱量が窺える。
オーガたちは術者のスザクを土魔法で攻撃しようとするが石弾はすぐに灰になり、石槍は地面から発現する前に術者のオーガが燃え尽きる。
炎の鳥はオーガスターを丸呑みするように体内に取り込み、必死に逃げようとするオーガも炎の鳥の大きな翼から発現するファイアバードによってあっけなく魔石に変わる。
これが事前に知らされていたスザクの本気か……この魔法の弱点を教えられてはいたが、この状況下ではこれほど有効な魔法はそうもないだろう。
ちなみに教えられた弱点とは、顕現している時間が短い、射程が短い、消費MPが非常に高い、そして意外と思うのだが炎の鳥の速度が思ったよりも速くないという事だ。
「マルス! もう来てるわよ!」
この調子であればスザクの方は大丈夫だろう。視線を後方に戻し、アクアロッドをクラリスに投げて受け取ってもらう。
スザクの話では俺たちに悟られないように近づいてくるだろうとの事だったが、そんなことはなかった。黒光りする1体のオーガを先頭に緑、青、赤のオーガたちが下卑た笑みを浮かべ、ねずみ1匹通さないと言わんばかりにコロネの入り口あたりを密着しながら歩いてくる。
「よし! 俺たちも事前の打ち合わせどおりにやるぞ! とにかく俺を信じてくれ! 合図を出したらクラリス、エリー、アイク兄の順番で来てくれ!」
右手に雷鳴剣を構え、風纏衣を展開し、鳴神の法衣にエンチャントをさせ、未来視を発動すると、先頭のオーガスター目掛けて群れに突っ込む。
オーガたちからは無数の石弾が飛んでくるが、未来視を使い雷鳴剣で斬る。
オーガスターは俺が突っ込むのを読んで、手に持つ棒を両手で構えテイクバックを取る。なんだこいつ? 野球選手かなんかのつもりなのか?
オーガスターが棒を振りぬいた瞬間、雷鳴剣でオーガスターが持つ棒を真っ二つに斬り、左手でオーガスターの頭を掴んで水浸しの地面に後頭部を叩きつける。当然やることは1つだ!
「ライトニング!」
左腕から金色の雷がオーガスターの頭を伝わり、オーガスターの体から地面に金色の雷が伝わると
『バシィィィンンン!!!』
凄まじい音と共に金色の雷が水浸しの地面を這うように広がり、濡れたオーガたちを撫でると、即座にオーガたちはその場に崩れ落ちる。すでに俺の左手で掴んでいたオーガスターは魔石になっており、周囲のオーガたちも大ダメージと共に感電(特大)や感電(大)となっていた。
恐るべしライトニング……いや、これはライトニングフィンガーと名付けよう。これであれば雷がどこに飛んでいくか分からないという事はないし、余すことなくライトニングの威力を敵に伝えることが出来る。
去年は魔力も低く……低いと言っても100はあったが、雷魔法もレベル8だったこともあってかオーガをライトニング1発で仕留めることが出来なかったが、その上位種のオーガスターを1撃だ。まぁ頭に直接叩き込んだという事もあるが、サンダーストームを除けば俺自身の最強魔法……あるいは必殺技かもしれない。
「みんな! いまだ! 来てくれ!」
俺が叫ぶと先ほど俺が言ったようにクラリス、エリー、アイクの順でこちらに走ってくる。雷無効のクラリスから水浸しになっている地面に足を踏み入れてもらい、その後に耐性のあるエリー、そしてアイクの順としている。
3人がこちらに走ってくる間に、氷の刃を抜き感電しているオーガたちを斬り刻みながらエントランスホールへ出ると、エントランスホールにいるオーガたちにもしっかりと雷は伝わっており、倒れていたり、膝をついていた。それは階段から降りてこようとしているオーガにも伝わっていたのか、2つの階段周辺は感電により階段から転がり落ちてきたと思われるオーガの山が出来ていた。
「大丈夫!?」
クラリスがすぐ俺の横に立つと、エリー、そしてアイクが続いてくる。3人の通ってきた道にはオーガの姿はなく全て魔石に変わっていた。
「ああ! 大丈夫だ! エリー! 上にまだオーガはいるか!?」
「……少し……10くらい……」
「分かった! 俺とクラリスで階段の正面に回り、上から降りてくるオーガのヘイトを買うからエリーとアイク兄の2人は階段の上からくる攻撃にも警戒をしつつ感電しているオーガに止めを刺してくれ!」
エリーとアイクに感電しているオーガを任せ、クラリスと一緒に階段の正面に回ると、緑色のオーガが5体ずつ左右の階段から降りてきていた。
「ホーリー!」
すぐさま左の階段の方のオーガにホーリーを唱えると、レジストができないオーガは急いで光の柱から脱出を試みるが、その先で俺が待ち構え5体を即座に片づける。
右側の階段にいるオーガは俺を妨害しようとしているらしいのだが、クラリスの魔法の弓矢への対応に迫られ、石弾を数発撃ってくるのが精一杯のようだ。
左の階段の5体を倒し終えすぐに右の階段に飛び移り2人で右側の階段のオーガを倒し終えると、アイクとエリーも感電したオーガを倒し終えたらしくエントランスにはもう一体もオーガの姿はない。
「まだ階段の上にもいるかもしれないし、左右の扉からいつオーガの群れが現れてもおかしくない! 警戒しながらスザク様と合流しよう!」
奥の騎士の間につながる通路の方に改めて4人で向かうと、オーガを倒しきっていたスザクが俺たちを待っており、ビャッコはというと騎士の間からオーガがまた出現しないかスザクを背に警戒していた。
「まさかこの数のオーガをこうもあっさり倒すとは……俺の予想を遥かに超えるオーガの数だったのだが流石だな……去年5つのAランクパーティで油断をしていなくとも間違いなく全滅は必至の数だろうに……」
スザクがあたりに散らばる魔石の数を数えながら言う。
「さすがにスザク様から事前に情報を頂いてないと、水を撒いてはいなかったので勝てなかったと思います。それに僕たちも去年の段階ではここのエントランスホールの敵はおろか騎士の間から出てくるオーガにも勝てなかった可能性があります」
これは本当に正直な気持ちだ。去年の今頃はサンダーストームなんか使えなかったし、ホーリーがオーガに対して有効という事も知らなかったからな。それに今回は運がよかったというかオーガの慢心にも原因があると思われる。
「そうか……去年のここでの出来事を無駄にしなかった結果か……感謝する……」
スザクの目に少し光る物が見えたので、剣をしまい、スザクとは反対方向、つまりエントランスホールの方に向き直る。
「アイク兄、エリー、怪我はないですか?」
俺の後ろにいた2人に聞くと
「ああ、ちょっとビリっと来ることもあったが、まぁなんとか耐えられた」
アイクが答えるとエリーは首元の雷のアミュレットを大事そうに触りながら
「……痛くなかった……これのおかげ……ありがとう……」
俺の左頬にキスをしてくれる。
「念のためラブラブヒール唱えるわね」
クラリスがエリーに対抗するように右側から抱きつき、エリーと同じように俺の右頬にキスをしながらラブラブヒールを唱える。
「お前らはどこに行っても平常運転だな。まぁそのおかげで俺も肩を張らずにリラックスできているんだがな」
アイクが俺たち3人に呆れた様子で話しかけてくる。これでもしっかりエントランスホールの方を警戒しているんだけどね。
「よし! 行くか!」
スザクの言葉に反応し、再度スザクの方へ向き直ると、目は少し充血する程度でもう光るものは見えなかった。
「俺のこの手が光って唸る! お前を倒せと輝き叫ぶ! 必殺! ラァイトニングゥ フィンガァァァー!!!」
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