第323話 魔弾
獄炎狼の近くに火柱が真っすぐに上がるとエリー、ビャッコ、そしてミックの獄炎狼の近くにいた3人が火柱から距離を取る。
逆に獄炎狼は火柱の中に入ろうとし火柱に向かおうとするが、まっすぐ伸びていた火柱が空中で弧を描き獄炎狼に火のシャワーを浴びさせたので、獄炎狼はその場に留まりビャッコとエリーに対して口から火柱を吐く。
「ちっ! 氷壁!」
それを見たミックは火柱が上がる地面に氷壁を発現させて火柱を必死に抑え込もうとするが完全には抑えられない。どんどん獄炎狼のHPが回復していく。
クラリスのMPを確認しほぼ満タンになっていたので、ラブエールを解きすぐにミックと一緒に氷壁を唱えなんとか火柱を抑え込み、地面を凍らせることに成功したが、獄炎狼のHPは全快になっていた。
「マルス! こいつのHPは残りいくつだ!?」
「全快になってしまいました!」
スザクの質問にみんなに聞こえるように俺が叫ぶと、嫌な空気を振り払うかのように
「みんな! 次は絶対に命中させる! だからサポートを頼む!」
ミックがみんなに叫んでサポートをお願いする。
「分かった! なるべく俺がヘイトを稼ぐ! ミックはしっかりと魔弾の事だけを考えろ!」
「……」
ビャッコはミックに大声で呼応し、エリーは冷静に頷くだけだった。ミックは2人の後方に下がり、じっと獄炎狼の動きを観察している。その眼はまさにスナイパーだった。
「うおおおぉぉぉ!!!」
ビャッコが大きな声で叫びながら獄炎狼に攻撃を仕掛けようとするが、当然大きな声を出すと獄炎狼もそれに気づきヘイトがビャッコに向かう。そこをエリーがコツコツと短剣でダメージを与えている。
2人共獄炎狼の口から放つ火柱に細心の注意を払っているのでなかなかダメージを与えることが出来ない。それにいくら回避に重きを置いているからと言って2人共無傷なわけが無い。獄炎狼の吐く火柱に直撃しなくとも、近くを通るだけで火傷をしてしまうのだ。それでも2人は攻撃を仕掛け続ける。次の1発を絶対に外さないようにする為に。
2人の決死の時間稼ぎは実り、ミックがまた双竜棒を構える。
ビャッコは真後ろにいるミックの気配の変化に気づいたのか先ほどよりもさらに大きい声で叫んでヘイトを自分に向ける。
「うおおおぉぉぉおおお!!!!!」
この時ばかりはエリーもビャッコの近くに行き、獄炎狼の視線を2人に釘付けにする。
獄炎狼が2人に対して息を大きく吸い、顎を上げて火柱を吐こうという時だった。
気配を消していたミックの双竜棒から魔弾が発射され、獄炎狼の頭に風穴が開く。完璧なヘッドショットだった。
「ギャオォォォオオオンンン!!!」
断末魔の様な叫び声を上げながら獄炎狼は頭を振りながら火柱を周囲にまき散らす。頭を撃ち抜かれてもまだHPは84もあった。
そこら辺の雑魚の84であれば余裕なのだが、こいつは敏捷値と耐久値が高いのでなかなかダメージが入らないのだ。
エリーとビャッコ、そしてミックの3人はあまりにも激しく獄炎狼が火柱を吐くので、近づくことが出来ない。
ここしかないと思った俺はクラリスのMPを確認し、1000以上あったので水精霊の剣を再び抜き火柱をまき散らす獄炎狼に止めを刺しに行く。クラリスにMPをずっと譲渡していたので俺のMPもだいぶ減ってきて700しかなかったが、これならおつりがくると思った時だった。
頭を振りながら適当に吐き散らかした火柱が天井に届くと、今度は獄炎狼の真下から獄炎狼を守るかのように火柱が上がる。
エリーはすぐに火柱を避け、ミックはそもそもそこまで近くに居なかったので事なきを得たのだが、ビャッコは少しダメージを食らってしまっていた。
メンバーの中で一番ダメージを負っているのは左腕を火傷しているミックではなく、先ほどから一身にヘイトを買っているビャッコだった。もう残りHPが30を切ってしまっている。声をかけたかったが、今は何よりも火柱を抑えることが最優先だ。
(ウィンドインパルス!)
(ウィンドインパルス!)
無詠唱でウィンドインパルスを唱え、獄炎狼を火柱の中から弾き飛ばそうとしたが思ったよりも吹っ飛んでくれず、もう1発放ちようやく火柱から離れた所まで吹っ飛ばしたが、その時にはもう獄炎狼のHPが169となっていた。
「ミックさん! 一緒に火柱を止めてください!」
ミックは少し躊躇いながらも俺と一緒に氷壁を地面に唱え、火柱を消滅させたが
「マルス! もう俺のMPは枯渇寸前で魔弾を撃つことは出来ない! 肉壁になってでもこいつの攻撃を止めるから後は任せた!」
何度も氷壁を発現させたミックのMPはもう既に10を切っていた。獄炎狼に対する唯一まともにダメージを与えられた攻撃だったのだが、先ほどの状況を考えると仕方のない事だ。
「ビャッコ様! 大丈夫ですか!? 無理そうでしたら後退してください!」
俺が叫んでもビャッコは全く引く様子がなく
「ここが正念場だ! 俺だけ下がるわけにはいかない!」
ビャッコの意志は固そうだったのでそれ以上は何も言わなかった。ビャッコの言うとおりこいつを倒さなければ、何分かは生き長らえる事が出来ても結局は死んでしまうからな。
水精霊の剣を右手に獄炎狼に斬りかかると、ビャッコ、エリー、ミックも最後の力を振り絞って獄炎狼に立ち向かうが、ついにその時が来てしまった。
「マルス! もう氷結世界を維持することは出来ないわ!」
クラリスを鑑定すると1回しか発現させるMPしか残っていなかった。
「みんな! クラリスの所まで下がれ! クラリスは氷結世界が放てなくなったら結界魔法を張ってくれ!」
俺の言葉にエリー、ビャッコ、そしてミックの3人は従わず、俺と一緒になって獄炎狼に攻撃を仕掛ける。
「みんな! 逃げて!」
クラリスが絞り出すような悲痛な声で叫ぶ。
(ウィンド!)
近くにいた3人を全員纏めてクラリスの方へ吹っ飛ばし、俺も風纏衣で獄炎狼から距離を取ると、ついに獄炎狼が炎柱を纏ってしまった。獄炎狼の残りHPは72、この魔法で倒せなければもう打つ手がない。
そう思い残りMPで放つことが出来る最強の魔法を唱える。
「纏雷!」
俺の体から金色の雷が獄炎狼に向かって放たれる。頼む! 死んでくれ!
纏雷はしっかりと獄炎狼を捉えたが、HP32も残してしまった。だが感電していたのでもしかしたらと思い水精霊の剣にエンチャントして力いっぱい投げたが、炎柱の勢いによって刺さる事無く、吹き飛ばされてしまった。
今俺ができる事を必死に考える。残りMPが10ちょっとしかないから魔法はもう使えないも同然だ。やはり炎柱の中に突っ込んでこの身を燃やしてでも雷鳴剣を獄炎狼の喉元に突き刺すしかない。MPはその時に使うのがいいだろう。獄炎狼の喉元付近の炎柱を少しでも吹き飛ばすことができれば……
「マルス、私も最後まで一緒に戦うわ。マルスだけをあの炎柱の中に行かせたりしないから!」
振り返ると俺の後ろにはディフェンダーを抜いたクラリスとカルンウェナンと風の短剣を握っているエリーがいた。
2人の後ろを見るとビャッコはもうダメージを負い過ぎて立ち上がる事が出来ないようで、ミックは俺が吹っ飛ばした際にどこかを痛めてしまったようだ。
そしてスザクは2人の前に立ち守ろうとしているがスザクのMPも少ない。そう言えばファイアボールが飛んできていないと思い獄炎狼を再度鑑定すると獄炎狼のMPは枯渇していた。
「……マルス……私がマルスの盾になる!……絶対獄炎狼の所……連れて行く!……」
2人は俺が何をしようとしているのか分かっているようだった。
「何を言っているんだ2人共。まだ策はあるに決まっているだろう? 心配しないで見ていてくれ」
捨て身の策だが、まだこの2人が生き残る希望はある。2人を抱き寄せ最後の抱擁をと思った時だった。俺の目にある物が止まる。もしかしたらこれだったら……いやもうこれしか方法はない! 全員が生き残るには!
「すまん2人共! 前言撤回だ! クラリス! 何もエンチャントしなくいい! 魔法の弓矢を放てるだけ放ってくれ! しっかり火柱は躱すように! エリーはいざという時の為に警戒をしてくれ! 絶対に希望は捨てるなよ!」
抱擁を我慢しすぐにそれを拾うとまだ感電している獄炎狼に向かって走る。
2人は俺が何をしようとしているのかすぐに理解してくれたようで、クラリスもディフェンダーを鞘に収め魔法の弓矢をがむしゃらに獄炎狼に向かって放つ。
感電(小)から感電(極小)になった獄炎狼がクラリスに向かって火柱を吐くとクラリスは必死になってそれを避ける。
氷結世界でずっと苦しめられていた相手だけに獄炎狼も執拗にクラリスを狙う。
そして獄炎狼がまた火柱を吐こうと顎を上げ、火柱を吐くために顔を炎柱の前に突き出した時だった。
「これで終わりだ!」
先ほどのミックのヘッドショットを再現するかのように、俺が持つ双竜棒から放たれた魔弾が炎柱を纏う獄炎狼の頭を貫通した。
そう、俺が2人を抱き寄せた時に見た物は、ミックをウィンドで吹っ飛ばした時にミックが落とした双竜棒だった。
ミックが魔弾を放ってから1分は経っていたので、問題は俺が魔弾を放てるかという事だったのだが、どうやら上手くいったらしい。
「ギャオォォォオオオンンン!!!」
獄炎狼は先ほどと全く同じ断末魔を上げると、仰向けに倒れこみ火柱を天井に向かって吐くが、その火柱は天井に届くことはなく、獄炎狼の死体が迷宮に部屋に吸収されると、魔石と一緒に1本の槍が地面に突き刺さっていた。
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