第311話 命名
310話と時間が重複しております。
マルスが左手をリムルガルド城下町を塞ぐ壁に向け、右手には雷鳴剣を構え火喰い狼の群れに走っていく。
この数の火喰い狼相手にマルスは壁が崩落しないように意識を壁に向け続けなればならないし、火喰い狼達も突撃してくるマルスを第一に狙う。
制約のないマルスであれば、これだけの数の火喰い狼でも倒せてしまうだろうけど、さすがにこの状況では無理がある。
何十体もの火喰い狼から放たれる火の玉をさすがのマルスも躱せない。逃げ道がどこにもないから当然だけど、なぜかマルスの近くで火の玉が減衰し、火の玉自体も小さくなる。もしかしたらマルスは自身の周囲に風か何かのバリアを張っているのかもしれない。
それでも少しずつダメージを受けて、火柱の攻撃を受けそうになると、マルスの装備している鳴神の法衣が薄く金色に光り、ものすごいスピードでマルスが駆け抜け何とか躱すがやはり意識は西門にあるせいか、いつもであれば躱しながら切り伏せている状況でも、火喰い狼が立っている状況が何度かある。
幸いなことに大狼だけは何もせずにただただ静観しているように見える。まだ一度もマルスに対して攻撃をしていない。
私たちもそれをただ指をくわえて見ているわけではない。
クラリスは必死に弓を引き、ミーシャもアイスランスでマルスの近くの火喰い狼に攻撃をする。
エリーはずっとマルスの方に意識を傾けながら私たちに接近する火喰い狼を倒す。
私もマルスの期待に応えるべく必死に鞭を振るった。
すぐにテイム出来たらしく、火喰い狼がお腹を見せたので
「5号! すぐにそこから……」
もうここまで言う頃には5号は他の火喰い狼たちに噛み殺されていた。今まではこちらから攻撃しない限り攻撃してこなかったのに4号といい5号といいどうして?
その後も火喰い狼を攻撃するとお腹を見せてくれるのだが、その度にすぐに火喰い狼たちに噛み殺される。5号の次にお腹を見せた6号まで名付けをした後は、お腹を見せた火喰い狼は敢えて他の火喰い狼に噛み殺させ、名付けをしなかった。
少しだけこの状況が続いた時にミーシャがクラリスに向かって叫ぶ。
「クラリス! 私のアイスランスは火喰い狼たちの火の玉に相殺されて思う様に倒せない! このままでいい!?」
そう言われてミーシャの放つアイスランスを見ると、何個もの火の玉が火喰い狼たちに向かうアイスランスを相殺していた。あの量の火の玉であれば魔力がどうのこうのというレベルではない。
それに比べてクラリスの放つ魔法の弓矢は火の玉では相殺されず、正確にマルスの近くの火喰い狼たちにダメージを与え続けていた。だが相変わらずマルスはリムルガルド城下町西門を塞ぐ壁を補修するのに神経を使っているのか、自身の周りを囲む火喰い狼への攻撃がおろそかになり、西門から火喰い狼がどんどん溢れてきて、マルスに襲い掛かる火喰い狼の数は増す一方だった。それに攻撃をする事よりも火柱だけは食らわないように立ち回っているようにも見える。
「クラリス! 私もテイム出来てもすぐに周りの火喰い狼たちに殺されちゃうけどこのまま続けるわよ!?」
どうやら私がテイムした火喰い狼の周辺にいる火喰い狼たちは、テイムした火喰い狼、つまり裏切り者を優先的に倒しに来ている。そしてそれにクラリスも気づいたのかマルスとは違う指示を出す。
「エリー! カルンウェナンでマルスの近くに行って! ミーシャはエリーの代わりに私たちの周辺の火喰い狼たちを倒して! その際カレンがテイムに成功した場合、その周辺の魔物達はテイムした魔物を倒しにかかるからそこはしっかり狙って! カレン! 辛いかもしれないけど……」
ミーシャの水魔法攻撃が有効ではないと思ったのか、クラリスはすぐにミーシャが一番活きる作戦を指示する。そしてクラリスは私を気遣っているのか、申し訳なさそうに私の方を見て言葉を濁した。
クラリスの言葉に頷く前にエリーがすぐに自身の影に潜り、苦戦するマルスの影から出るとエリーも必死な表情で火喰い狼に向かっていく。エリーは脅威度Bのオーガよりも明らかに戦いにくそうにしている。
だけどこのエリーの必死の援護によりマルスの近くの火喰い狼が徐々に減っていく。西門から出てくる火喰い狼よりも私たちが火喰い狼を倒す量が上回ってきたのだ。
だがその状況に今まで何もしてこなかったように見えた大狼がマルスたちに大きな火の玉を吐いた。
「マルス! 危ない!」
私がそんなことを言わなくてもマルスはしっかりと警戒をしているから、大狼のフレアのような大きな火の玉をしっかりと雷鳴剣で斬るが、連続で放たれる巨大な火の玉の前にマルスは防戦一方となる。
だけどここで異変が起きる。テイムした火喰い狼が急に襲われなくなったのだ。
これに驚いたのはミーシャだった。ミーシャは当然お腹を見せた火喰い狼に、他の火喰い狼が牙を向けると思っていたのだが、お腹を見せた火喰い狼を無視してミーシャに襲い掛かったのだ。
突然のことにミーシャは対応が出来ずに、火喰い狼に噛みつかれそうになるが、そこはクラリスが冷静に魔法の弓矢で大事を防ぐ。
「ミーシャ! 油断してはダメよ! 何が起こるか分からないわ! カレン! 辛いかもしれないけどテイムした子をマルスたちを攻撃している火喰い狼たちの所へ……」
またもクラリスが申し訳なさそうに私に言う。私だって何が一番大事かは心得ている。
「大丈夫よ! 気にしないで! 7号! 大狼の近くのあの火喰い狼に攻撃しなさい!」
私の無慈悲な命令に7号は何も疑うことなく従い、大狼の近くの火喰い狼に襲い掛かる。
これから起こるであろう惨劇に目を伏せたかったが、私はこの子の最後を見届けなければならない気がしたので、目を逸らさずに見ていると、なんと7号が一方的に火喰い狼をかみ殺した。
え!? 何が起きたの!? 少し逡巡すると
「カレン! 7号に次の指示を!」
クラリスが私に言ってくるが、クラリス自身も驚いているようだった。
「7号! 隣の火喰い狼も倒しなさい!」
私の命令に従い7号が隣の火喰い狼に噛みつくと、噛みつかれた火喰い狼は特に抵抗をするわけでもなく、ただただマルスたちに向かって火を吐こうとしている。
もしかしたらと思い、また違う火喰い狼に攻撃をさせようとするが、大狼が7号に攻撃をしかけると一斉に他の火喰い狼たちも7号に攻撃を仕掛けてきた。
なんで大狼がずっと静観していたのかがこの時ようやくわかった。何もしていなかったように見えて、火喰い狼たちに指示を出していたのかもしれない! そうであればこれは突破口になる!
そんなことが頭によぎった時だった。西門から小さな火喰い狼が出てきたのは。
その小狼の事をマルスもすぐに認識し、エリーに指示をして私の方に小狼を連れてくる。
小狼を鑑定するとHPと耐久値が相当低い。これは1撃でテイムしないと2撃目で殺してしまうかもしれない。
そしてテイムした瞬間に他の火喰い狼に殺されても意味がない。
そう思って鞭をこの1撃に全てをかけるつもりで鞭を構える。最近ずっと考えていたことがある。なんで私だけテイムが出来るのか? 私の他にも【鞭王】はいたはずなのに、魔物を従えた鞭王というのは聞いたことがない。
これらについて私は1つの答えを出していた。私はその力を使って小狼に対して鞭を振るう。
エリーに対して夢中で攻撃をしていた小狼が私の鞭に気づき、直撃する直前に私の方を見る。使うのであればこのタイミングしかない! 距離が少し離れているから本来あまり効果がないかもしれない。そして魔物に効くか分からないし、当然雄かどうかも分からない。が、使わないよりはマシだと思い、MP100と引き換えに魅了眼を小狼に使う。
そう、私の出した結論は、テイムは【鞭王】と魅了眼の組み合わせを持った者にしか出来ないというものだった。そしてテイムが成功しても失敗しても当たった瞬間言う言葉がある。
「あのでかいやつに攻撃して、あとはひたすら逃げ回りなさい!」
私の推測が当たったのか、それとも願いが通じたのかは分からないが、小狼は勢いよく大狼に向かって駆け出す。他の火喰い狼もマルスとエリーに攻撃しろと指示されているのか、小狼が背中を跳びまわっても全く気にする様子はなかった。
そして小狼が大狼の目を潰すように攻撃すると一目散に逃げ、大狼たちも小狼憎しと追い掛け回す。
その間にマルスが西門を塞ぐ壁を補修、補強し、そしてクラリスたちがまだここに残っている火喰い狼たちを倒しにかかるが、私はマルスに小狼を頼むと言われ、当然頷く。
私たちの近くに居る火喰い狼を倒し、マルスがしっかりと壁を塞ぎ、そのあと小狼を呼び戻して大狼と火喰い狼を倒しきる。
傷だらけになって小狼が走って私の所まで来ると、少し離れたところからマルスが
「カレン、命名と火魔法で回復をしたらどうか?」
「分かったわ。マルス、少し離れてもらっていい? この子と2人になりたいから」
マルスの質問に答えると
「分かった。だが油断はするなよ? みんなで周囲を警戒しながらカレンたちを見守っているからな」
マルスはそう言うとクラリスとエリー、ミーシャとリムルガルド城下町の西門付近へと戻る。少し離れたのを確認してから小狼に話しかける。
「今回、あなたのおかげで私たちは助かったわ。一番弱いにも関わらず、勇気をもって大狼に向かって行く様は、いくら私が命令したからと言っても勇敢だったわ。だからあなたにはこの名前を与えるわ。強くて、優しくて、尊敬出来て、何よりも私が一番好きな人の名前から取ったのよ。彼みたいになりなさいハチマル。そしてこれを食べなさい」
ファイアボールを浮かばせてハチマルに与えようとしたのだが、いつものファイアボールと何故か色が違った。いつもは真っ赤なのだが、今発現しているファイアボールは白っぽい。
そしてそのファイアボールをハチマルが食べるとハチマルのグレーだった体毛の部分の色が抜けていき、ファイアボールと同じ白っぽくなっていった。
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