第306話 成長する勇者
305話ですが、寝ているはずのバロンがスザクに頭を下げるシーンがあったと思いますが、修正しました。
「みんな聞いてくれ。カレンについてなんだが魔物をテイム……つまり魔物がカレンに懐くことがたまにあるようだ。先ほどカレンを鑑定したのだが、これは【鞭王】のスキルらしいのだが【鞭王】全員がこの能力を使えるわけではないらしい」
【鞭王】
この世界で鞭術の10傑に入った者に与えられる称号。
鞭の威力UP。この称号を所持時、鞭で魔物を攻撃すると一部の【魔物】をテイム出来る。
ただしテイムは【鞭王】全員が出来るわけではない。
ミーシャはもう能力を知っていたので、俺の説明を聞いても驚かなかったが、クラリスとエリー、そしてアリスは相当驚いていた。
「凄いじゃないカレン! これで大分楽になるわね!」
クラリスが嬉しそうにカレンを褒め称えるのだが、カレンは
「クラリス、私の話を聞いて。これは事前にマルスにも伝えたのだけれどもこの能力を当分の間皆には言わないで欲しいの。言うタイミングは私の方で伝えるから。いいかしら?」
少し浮かない顔をしてクラリスに言うとクラリスも少しトーンを落として返答する。
「わ、分かったわ……でもどうして?」
「……魔物に懐かれた人間に対してみんなどう思う? 多分ここにいるみんなは私の事を受け入れてくれると思うけど、私の事を知らない人がそのことを知ったら、何人かは私を魔物の親……親では無くてもそれに準ずる存在として見る可能性があると思わない? 魔物に家族や子供、大切な人を殺されたものなんてごまんといるわ。特に西リムルガルドに戻っていった者たちは大切な仲間を火喰い狼に殺されているわけだし……それに私自身も今の所、魔物に対して負の感情しか持っていないわ。何度か話したことがあるフレスバルド騎士団の者が死の森で命を落とすこともあったし」
この話を最初カレンから聞いた時、俺は改めてゲームの世界やアニメの世界でしか魔物の事を理解できていなかったと思ってしまった。
いや、テイムが当たり前の世界であればカレンの様な事を思う必要がないのだろうが、この世界でテイムという概念が無かったようだからな。
クラリスもカレンの言葉に納得したようだが一言カレンに
「ごめんなさい……カレンの気も知らないで……考えてみればカレンの言う通りね。でもこれだけは信じて!? 間違いなくその力はカレン自身や私たちを救う力になるわ。絶対に私がカレンを守るから頑張ろう? 何かあったらすぐに私に言って!」
クラリスがカレンの両手を強く握りしめながら言うと
「本当にあなたたちったら……ええ、やるわよ」
カレンが何かを改めて決意した表情をし、俺の方を見ながら言った。
実は今クラリスがカレンに言ったようなことを俺もカレンに言っていたのだ。
「じゃあスザク様の負担を減らすためにも早く寝るか……と言っても7人で6人分のスペースしかないんだけど、どうするんだ? ミーシャ?」
予想をしてはいたが敢えてミーシャに聞くと
「もちろん私がずっとマルスの上になって寝る……と思っていたんだけど、今日は特別にこの最高の指定席をカレンに譲ってあげる。最初は凄いドキドキするけど、だんだんとそれが気持ちよくなるから癖になるよ。ある意味危険なんだけど、マルスなら安心できるし」
ミーシャがカレンに言うとカレンが
「み、ミーシャがそこまで言うのであれば、今日は私がマルスの上になるわ。ま、マルスはいい?」
照れながら俺に聞いてくる。最後の方は声が尻すぼみになっていった。断られたらどうしようと思ったのかもしれない。
「ああ、もちろん。カレンよろしくな」
俺がまずベッドに横になり、クラリスとエリーが隣に来ると、カレンが俺の上にかぶさってくる。カレンの薔薇のような匂いが鼻腔いっぱいに広がるとカレンが
「明日から改めてよろしく頼むわね」
唇を交わしてから目を閉じる。カレンからはもの凄い心臓の鼓動が伝わってくる。
「ああ。おやすみ」
今度は俺から唇を重ねるとカレンの鼓動が徐々に緩やかになり、俺の胸の上で寝息を立て始めた。
2032年1月19日2時
目が覚め、俺の上に跨って寝ているカレンを起こさぬようにベッドに寝かしつけ、寝顔を見ていると愛おしくなってしまったのでキスをしてしまった。隣にいるクラリスにもキスをしエリーにもキスをすると、エリーは目を覚まし、嬉しそうな顔をしながら俺の左首筋を吸い始める。
忘れていた。エリーはMP枯渇をしてないからキスすると起きてしまうんだった。
「ごめん、エリー。起こすつもりはなかったんだ。美容のためにも寝てくれ」
「……睡眠十分……マルス成分枯渇……こっちの方が重症……」
エリーはそう言って俺のいう事を聞きそうにもないので、着替えてから2人で1階に降りるとMP枯渇から回復していた眼鏡っ子先輩とバロンが起きていた。
「おはようございます。2人が昨日寝ていた時に決まった事なのですが……」
俺がそこまで言うと眼鏡っ子先輩が
「さっきスザク様から聞いたわよ。私は南門、バロンは西門でしょ? ここが完成するまでマルスの指示に従えと言われたのだけれども?」
「そうですか。それでは義姉さんは3階部分の外壁を作ったらまたMP枯渇して寝てもらっていいでしょうか? 良い睡眠は肌のケアにもなりますから。バロンはMPを半分くらい残して俺と一緒にそのまま起きていてもらえないか? このまま俺とエリーとバロンは起きて、スザク様たちと見張りを交代しようと思う。もう少ししたらサーシャ先生も起きてくるから4人で見張りをしようと思うのだが」
俺の言葉に2人が頷き早速俺たちは途中だった部分を作り始める。俺は2階部分の小さい浴室を男女1つずつ作り、バロンは眼鏡っ子先輩と同じように外壁部分を作る。
2人とも外壁みたいな大きなものは簡単に作れるのだが、浴槽など形のある物はかなりMPを消費してしまうので、主に砦の外壁を作ってもらった。
MP枯渇寸前の眼鏡っ子先輩をアイクの眠る寝室まで送り届けてから、俺とエリー、そしてバロンの3人でスザクと見張りを交代する旨を伝えると、スザクとレッカは嬉しそうに俺の申し出を受けてくれた。3時過ぎにサーシャも起きて4人で砦の周囲を警戒する。
砦の周囲にはスザクが設置したであろう魔石の力で灯されたランプがあちこちに設置されておりとても明るい。
そしてその灯りに群がる様に火喰い狼が集まってくるので、サーシャに後衛を任し、俺とエリー、そしてバロンの3人で次々と火喰い狼を倒す。
俺はいつものように二刀流で火を斬りながら火喰い狼を屠り、エリーとサーシャ、そしてバロンの3人には連携して火喰い狼たちの相手をしてもらう。
サーシャはどんどん弓を鳴らして火喰い狼を攻撃し、エリーは矢の雨の中を火喰い狼相手に得意のスピードを活かした攻撃で火喰い狼たちにダメージを与えていく。
エリーはあまり無理をせずに止めを刺せそうな場面でも、まずは自分の身の安全を優先に立ちまわっており、ちょこちょこ俺の方を見ている。きっと俺が危なくなったらすぐにでも俺の所に駆け付けられるようにダメージを食らわないように立ちまわっているのだろう。
そしてバロンはというと今までとはまた違った戦い方をしていた。
左手には鎖を、そして左腕に土の盾を発現させて、火喰い狼が吐く火の玉の攻撃を土の盾でいなしながら上手く鎖を火喰い狼の足にひっかけ、倒れたところに右手に持つ剣で止めを刺す。
剣と盾を使うなんてやはりどこかの勇者のような気もするのだがバロンはバロンだった。
火の玉が土の盾に着弾するたびに、バロンが少し熱いような表情を見せるのだが、すぐに恍惚とした表情をするのでちょっと怖い……バロンなら癖になって火の玉攻撃をわざと食らいに行きそうだからだ。
エリーとバロンが少しでも危ないと思ったら、サーシャがすぐに風魔法で2人を援護しているので、バロンの左腕以外そこまで大きなケガもなく最初の火喰い狼の群れを倒し、サーシャの所へ集合してエリーとバロンの怪我の具合を見る。
エリーはどこも怪我をしていないようで、エリー自身も無傷で大丈夫と言っていたので、みんな大好きマルス先生の出番はなかった。まぁ鑑定したらHP満タンだったから本当にどこも傷はなかったのだろう。
しかしバロンの方は左腕以外にも軽度ではあるがあちこちに火傷跡があり、ヒールで直しているとバロンが
「マルスのようにMPを温存しながら戦おうと思ったのだが、俺はこんなにも熱さに弱かったのか……今日からミネルバには蝋燭だけではなく直接火でも攻めてもらわないと……」
と悔しさ1割、楽しみ9割の表情で呟いたのを聞いて、もうバロンとミネルバの部屋には近づくのをやめようと決心した。
少しずつですがバロンは強くなっております。大分遠回りをしておりますが……
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