第303話 合流
「エリー、もしかしたら逃げ遅れている者たちがいるかもしれないし、テントの中に火喰い狼がいるかもしれない。なるべくテントの中を確認しながら行こう」
ジオルグのテントを過ぎ、東側に進んでいくと焼け落ちたテントが目立つようになった。
「マルス!」
クラリスがテントの中を見て口元を抑えながら俺を呼ぶと、そこには火喰い狼に殺された冒険者たちの亡骸があった。
突然襲ってきた火喰い狼とここで応戦したのかもしれない。もしかしたら焼け落ちたテント全てに亡骸があるのかも……
「クラリス、もう見るな!」
冒険者の亡骸を見て立ち尽くすクラリスを抱きかかえて、エリーに任せると近くにある別の焼け落ちたテントの中を見に行った。
そこにはやはり先ほどと同じように焼死体が転がっており、火喰い狼が噛んだり、鋭い爪で引っ掻かれたような傷も見られた。
「マルス! この辺のテントはダメだ!」
別のテントを見ていたアイクがさらに言葉を続ける。
「マルスはテントの中に貴族らしき者たちの死体を見たか?」
「そうか……じゃあこの冒険者や騎士たちは使命を全うしたわけだ」
アイクがテントの方に手を合わせると俺もそれに倣った。
もしかしたら危険な東側には初めから冒険者や騎士たちしかいなかったのかもしれないがそれを口にはしなかった。この冒険者たちの死を無意味なものにしたくは無かったからな。
「燃えているテントはもうダメだ! 燃えていないテントを見ながら進むぞ!」
東側に進むにつれて火喰い狼の数も多くなり、焼けていないテントなんて1つもなく、生存者はいなかった。
「ちょっとこの火喰い狼の量は多すぎない? もしかしてスザク様たち……」
確かにクラリスの言う通りだ。スザクたちが野営地の東側で火喰い狼を倒していれば火喰い狼が次から次へとこんなに襲い掛かってくるわけはない。
「ああ……もしかしたらかなりやばいのかもしれないな! 急ぐぞ!」
次々と襲い掛かってくる火喰い狼を俺のウィンドカッターとクラリスの魔法の弓矢で倒しながら野営地を出ると、野営地を抜けたすぐ先に、4人の人影が倒れている3人を守るようにして火喰い狼と戦っているのが見えた。
走ってすぐに近づくとまず倒れているのは重傷を負っている知らない冒険者2人と、もう1人はなんと縄で縛られて布を噛まされているカーメル男爵……ユリアンだった。
ユリアンは顔に擦り傷こそあれど、どうやら大事には至ってないらしい。
「スザク様! ただいま参りました! 僕たちも参戦します!」
スザクが振り返って俺の方を見るとホッとしたかのように
「助かる! 悪いが最優先でミック、そしてビャッコの回復を頼む!」
俺は躊躇うことなくハイヒールをミック、ビャッコに唱え、その後重傷者2人にもハイヒールを唱えた。
ミックよりもビャッコの火傷が酷く、何度もハイヒールを唱えてようやく火傷が無くなるほどだった。そして回復させたそばからまた火傷を負っている。
なぜ頼まれてもいない重傷者の2人を回復させたかと言うと、ユリアンの視線は俺ではなくクラリスに釘付けという事は分かったし、2人の冒険者もかなりの重傷で意識を失っていたからだ。
それにここで俺が2人を放置すると絶対に聖女様が2人を回復して、それをユリアンに見られてしまうのを避けたかったのだ。
ミックとビャッコを回復させた後は横になっている3人をクラリスとエリーが守り、俺とアイク、スザクとビャッコ、そしてミックとレッカに分かれて、向かってくる火喰い狼を倒しに行く。
火喰い狼の数は予想外に少なく、野営地の東側とほとんど変わらなかった。きっとスザクたちは火喰い狼を倒す事よりも3人を守る事に重きを置いていたのだろう。
俺とアイクの周囲にいる火喰い狼を倒しきり、クラリスとエリーがいる場所に戻ると、重傷だった2人の冒険者はハイヒールが効いたのかもう既に目を覚ましており、今はクラリスの聖水で喉を潤している。言わなくても分かると思うが2人の目は完全にハートマークになっていた。
「大丈夫ですか? 何があったのですか?」
俺がみんなに近づきながら聞くと、クラリスとエリーがいつものように俺の両脇に収まり、体を寄せてくる。俺たち3人のパーソナルスペースが明らかに近いのを見た2人は俺たちの関係をすぐに読み取ったらしく、少し肩を落としながら答えた。
「まずはお礼を。ありがとう。正直助からないと思ったし、そこの2人の女性を見た時は天国かと思った」
確かに、もうダメだと思って意識を失い、目を覚ましたらクラリスとエリーが自分を介抱してくれていたら、俺でも一瞬天国かと思うな。
1人が俺たちに頭を下げると、もう1人も頭を下げ、話を続ける。
「俺たちはミックを含め最初は5人でリムルガルド城下町の南門で待機をしていたんだ。中に入ろうとする奴らを止める為にな。リムルガルド城下町の南門からは火喰い狼が溢れては来るものの、俺たち5人で見張っていればそう難しい相手ではないからな。それに南門にはちょっとした細工もしてあるし」
ちょっとした細工? あとで詳しく聞いてみるか。
「だがその俺たちをなぜか西側から火喰い狼が襲ってきたのだ。当然俺たちは西門と東門が封鎖されている事を事前に確認していた。予想していない方向からの急襲に仲間の1人が重傷を負ってな。ミックは見捨てると言ったのだが、もう1人の仲間が絶対に見捨てないと言い張って仕方なく重傷者を庇いながら逃げてきたのだが、途中で重傷者もろとも庇うと言ったものまで命を落とした」
男は無念さを滲ませ、さらに続ける。
「最初からA級冒険者のミックのいう事を聞いていればここまでの被害にはならなかったのかもしれないが、野営地で編成された急造のパーティだからな。それに重傷者と庇った者は兄弟だったんだ。余計に見捨てることは出来なかったのだろう。その後はあの3人が駆けつけてくれて合流したところまでは覚えている」
これも俺からすれば頷ける話だった。絶対にアイクが重傷を負ったら見捨てない。というか俺の場合はハイヒールで治せばいいだけなんだが。でも判断としてはミックの判断が正しいのであろう。
冒険者と話をしていると火喰い狼を倒し終わった、スザクたちが俺たちの所に戻ってきて
「取り敢えず、安全な所に戻ろう。本来であれば、この火喰い狼の発生源を先に調べたいのだが、俺とミックの消耗が激しすぎる。マルス、ジオルグたちは無事か?」
スザクとミックのMPは相当減っていた。特にミックなんてもう枯渇寸前になっている。スザクのミリオンダガーでの攻撃も、ミックの魔弾による攻撃もMPを消費するから仕方ないだろう。
「はい、今は12名のメンバーで護衛をしておりますので」
俺の言葉にスザクは安心したかのように頷き、ジオルグたちがいる場所へ戻る。
戻る最中になぜユリアンがここに居るのかを聞くと、貴族や冒険者、騎士たちが逃げ出す際にユリアンを囮として火喰い狼の前に連れていかれる所をスザクが助けたそうだ。助けるかどうか迷ったらしいが、もしも助けて後悔するようなことがあれば、スザク自身がユリアンを殺せばいいとの事だ。
「それにしても本当に助かったぞ、マルス!? で、こっちが噂のクラリスちゃんか。なるほど本当に心そのものが抜き取られるな」
殿で警戒していたミックが、クラリスの顔を見ながら軽口をたたいて俺の所までくる。クラリスは恥ずかしそうに会釈だけするとミックが俺にだけ聞こえるように小声で
「本当に助かった。2人の冒険者には上級回復促進薬を使ったと言っておけ。どうせ意識を失っていて覚えていない。俺も絶対に口外はしないから安心しろ。あとで必ず礼はするからな」
ミックの言葉にみんなが分からないように頷くと、ミックは満足したようでクラリスとエリーに愛嬌を振りまき、周囲を警戒しながら殿に戻った。
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