第30話 住めば都
「倒したらすぐに次が湧いてくる。頑張ろう」
「ええ。まだ魔力に余裕があるからこのまま魔法の弓矢で削ってからディフェンダーでとどめを刺すわ」
俺はずっとクラリスの戦闘を目で追っていた。
クラリスはようやく1対1でゴブリンジェネラルを倒せるようになっていた。
ただし1対1でないと処理しきれない。
なので湧き部屋に入るとまず俺が1分間に1体ずつ倒す。
29体倒したところでクラリスと交代する。
するとクラリスは1分間1対1の戦いが出来る。
クラリスがダメージを食らったらすぐに俺がヒールをかける。
まだ1撃でクラリスはゴブリンジェネラルを倒すことが出来ない。
HPを削りきらないと倒せないから何回も斬り刻む必要がある。
MPがあるうちは遠くから魔法の弓矢で攻撃してからディフェンダーで攻撃を繰り返す。
MPが無くなってきたら、ディフェンダーだけで倒す。
魔法の弓矢を最初に使ったときは矢を発射することはできても、命中させることが出来なかった。命中させるには器用さが必要らしい。
1体倒すのに1分以上かかることもあるがその時は俺が次のゴブリンジェネラルを足止めなり、倒したりしている。
「これを倒したら安全地帯に戻ろう。MP枯渇させてからまた来よう」
クラリスは頷く。だいぶ疲れていたのか声を出さなかった。
正直なところディフェンダーと神秘の足輪、魔法の弓が無いと1対1も厳しいだろう。
しかしクラリスは必死になって頑張った。
クラリスとゴブリンジェネラルを狩っている時はとても楽しかった。
ゴブリンジェネラルを狩っている時だけではない。一緒にいるときはいつでも楽しかった。
前世での青春時代はずっと1人で努力していたからな。
2人で努力するって本当に楽しい。しかも一緒に努力しているのはとんでもない美少女だ。
俺はなんてリア充な生活を送っているのだろう。
俺とクラリスが迷宮に潜ってからというもの一度も迷宮飽和が起きていない。
ビートル伯爵は迷宮飽和が起きていないのは俺とクラリスが迷宮に潜っているからだと住民たちに説明した。結果俺は剣聖、クラリスは聖女という呼称がより一層定着してしまったが。
ただ悪いことだけではない。グランザムの街の人達ととても仲良くなれた。
敵国の住民たちと仲良くなるという事が悪いことかもしれないが、俺にとってはそうではなかった。
もちろんクラリスが診療所を訪れてヒールをかけていたこともあったし、俺が迷宮飽和を食い止めたこともあって住民たちは出自を明かさない俺を受け入れてくれた。
また迷宮飽和が収まってから住民が増えたらしい。
これはグレイが言っていたのだが、1回迷宮飽和が起きればもう迷宮飽和が起きないだろうとのことで、ほかの都市からの移住者も増えたという事だ。
迷宮の宝箱からポーションが出ると街に戻った時に道具屋に売ったり、インゴットが出た時は武器屋に売ったりした。
それぞれ価格が高騰しているのだが、道具屋や武器屋に納品するときの値段は通常の値段にした。
すると道具屋や武器屋も値段を抑え、街のみんなも喜んだ。
グレイやエルナも俺への警戒心が無くなり、完全に信頼してくれているように見える。
クラリスのゴブリンジェネラル狩りという外泊も許してくれるようになった。
正直このままグランザムの街に住むという事も考えた。
俺はこの街の住民も空気も好きで、慣れ親しみすぎた。
「MP枯渇させてからまた湧き部屋に行って終わったら今日は帰ろう」
「そうね。早くシャワーを浴びたいわね」
「うん。あと1週間くらい湧き部屋に通ったら次は結界魔法を頑張って覚えてみよう。結界魔法を覚えてからボス部屋に潜ってこのグランザム迷宮を……」
「えぇ……そうね……早く攻略しないと……ね」
最近グランザム迷宮攻略をするという話をすると言葉が尻つぼみになる。
お互い分かっているからだ。
一緒に居ることが出来るのはグランザム迷宮を攻略するまでだと。
安全地帯に戻った二人は壁に寄りかかり肩を寄せ合いながら眠るのだった。
ゴブリンジェネラル狩りを終え、街に戻るといつものように住民たちと話をしながら道具屋と武器屋による。ポーションとインゴットを納品しに行くためだ。
もう診療所に行くことはなくなった。クラリスが全員のけがを治したからだ。
道具屋と武器屋に寄った後にランパード家に戻ろうとすると何か違和感を覚えた。
「何か視線を感じないか?」
「いいえ?誰かに見られているの?」
俺は小さな声で言った。クラリスは違和感が無いらしい。
最近たまにあるのだが、誰かから見られているというよりは監視されている感じだ。
気づいていないふりをしてあたりを見回しても、誰から見られているとは分からない。
剣聖や聖女に憧れていて視線を向けてくる人は隠れる必要がない。
俺は疲れているだけなのかなとも思った。
だが何も警戒をしないで悪い結果になるのであれば、警戒をしすぎて悪い結果になった方がマシだと思い、クラリスをいつでも守れるように警戒をしながらランパード家に戻った。
ランパード家に戻るとシャワーを浴びて食事をとった。
俺はいつまでも居候をするのは悪いと思い、クラリスには内緒でランパード家にお金を支払っていた。
最近の俺のふところ事情は暖かいので、大した出費でもなかった。
少し窓の外を見てみる。今は夕方過ぎだ。
先ほどの違和感はすでになく、クラリスは疲れてリビングのソファで横になって寝ていた。
クラリスを鑑定してみる。
【名前】クラリス・ランパード
【称号】-
【身分】人族・平民
【状態】良好
【年齢】6歳
【レベル】13
【HP】28/28
【MP】0/171
【筋力】19
【敏捷】18
【魔力】20
【器用】18
【耐久】18
【運】20
【固有能力】結界魔法(Lv0/A)
【特殊能力】剣術(Lv4/C)
【特殊能力】弓術(Lv2/B)
【特殊能力】神聖魔法(Lv2/A)
驚異のレベルアップだ。
もう俺よりもレベルが上になっている。
亜神様の説明だと天賦は人の3倍の経験値が必要と言っていたが、それは嘘だと思った。
今度改めて天賦を鑑定してみよう。
クラリスのステータスは剣を使っているので筋力、敏捷は上がるし、魔法の弓矢も使うので魔力と器用も上がる。そしてダメージもちょくちょく食らうので耐久も上がる。
剣術、弓術もいい感じに上がっている。
1週間後には結界魔法の練習を始める。
俺の楽しいクラリスとの時間も終わりが近づいてきた。
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