第295話 天丼
「こいつが俺たちの事を監視していたから捕えたんだが、ジオルグはまだいるか?」
「ジオルグ殿下はもう既に発たれました」
スザクの質問に答え、その捕らわれている男を鑑定すると、やはり俺が思っていたとおりの者という事が分かったが、あえてそのことを言わなかった。
知り合ったきっかけがきっかけだけにここは慎重にならないとな。
たぶんその人はいい人ですよなんて言って心を入れ替えていなかった場合、大変なことになる。それにこいつもミーシャを攫った1人だ。かなり友好的な別れ方をしたと思うがそう簡単に許せることではない。
もう勘のいい人は分かったかな? スザクに捕らわれたのはこいつだ。
【名前】ワルツ・ビスタリア
【称号】-
【身分】人族・ビスタリア準男爵家当主
【状態】良好
【年齢】33歳
【レベル】32
【HP】62/62
【MP】112/112
【筋力】18
【敏捷】24
【魔力】45
【器用】28
【耐久】24
【運】1
【特殊能力】火魔法(Lv4/D)
【特殊能力】風魔法(Lv4/D)
【特殊能力】睡眠魔法(Lv1/G)
ワルツ自身は平民だったのにクロムに仕えているからか準男爵になっていた。
それにしても昔はこのくらいのステータスでもかなり強いと思っていた時があったな。
今ではC級冒険者くらいが妥当と思ってしまうくらいには、俺が強くなったという事もあるのかもしれない。
縄を噛まされているため何を言っているのか分からないが、俺の顔を見て必死に何かを訴えている。
「では僕たちがカーメル男爵と一緒にジオルグ殿下の下へ連れて行きます。今から追いかければすぐに追いつくかもしれませんし」
俺の言葉にスザクが
「カーメル男爵? 誰だそれは?」
と聞いてきたので、俺は先ほど起きた一部始終をスザクに話すと、スザクの表情がみるみる変わり
「こいつが……カレンに……だと? マルス、俺がこいつを処す! 骨くらいは返せるように努力するがいいな?」
可愛い妹を蔑ろにされてキレている。その気持ちは良く分かる。俺だってリーナの事を攫おうとしたゲドーに対して全く同情しないしな。
だが困ったな。カーメル男爵はジオルグ殿下に連れてこいと言われているんだよな……すると俺の表情を読み取った才女が
「お兄様、マルスはこの男を連れてこいと命令されております。ここでお兄様がこの男を灰にしてしまうとマルスにも重い処分が下るかもしれません。ここは私の愛するマルスの為にも拳を下ろしては頂けませんか?」
穏やかで包み込むような声を出すとスザクも兄の優しい顔になり
「む……そうだな。悪かった。ではマルスに任せよう。俺はカレンを屋敷に送ってから戻ることにする。また後で迎えに行くからよろしくな」
今度こそはしっかりとカレンをお願いしますと言いたい気持ちを抑えて
「カレンをお願いします。スザク様」
頭を下げて、2人が戻るのを見送った。
「さぁ! アイク兄、急いでこいつらを連れて行きましょう!」
カーメル男爵を俺がおんぶし、アイクがワルツの縄を持ち急いで西リムルガルドの街を出て東へ向かおうとすると俺たちを呼び止める声がし、
「アイク先輩! マルス先輩! お願いがあるの……」
俺たちを呼ぶ声の方を向くとクロムが走って近づいてきたのだが、アイクに捕らわれているワルツを見て
「先輩! 師匠が何かをしたのですか!?」
ワルツを庇うように聞いてくる。経緯を説明するとクロムの判断でワルツはクロム預かりとなった。
ここでミーシャに伝えるかどうかはサーシャと俺で相談してからにしようと思っている。
無理に辛いことを思い出す必要もないし、おそらくミーシャはゲドーにだけ恐怖心を抱いて、ワルツにはそんな恐怖心を抱いてないと思われる。
なぜならリスター祭の時オリゴを見てもあまり怖がっていなかったからだ。
まぁこればかりはミーシャしか分からないから何とも言えないんだけどね。
「それでどうなされたのですか? 殿下? 僕たちにお願いがあると聞こえたのですが?」
ワルツの縄を解いているクロムに問いかけると
「あ、そうだ! 皆さんこれからどうなさるのですか? もし時間があるのであれば僕に訓練を付けてほしいのですが? 僕は兄上に同行を許されていないので時間を持て余してしまいまして」
正直この提案は勿怪の幸いだ。どうやってクロムを守ろうか迷っていたが、一緒に訓練していれば問題ない。
「分かりました。それでは今日から僕たちと一緒の屋敷で寝食を共にしませんか? そっちの方が訓練時間も取れると思いますので」
俺たちの事情を知らないクロムはとても嬉しそうに頷く。
ジオルグに依頼されての事だが、クロムの表情を見ているとなぜか俺が悪いことをしているように思えるな。
ワルツの縄を解き、クロムが2、3声をかけるとワルツはすぐに俺たちの元から離れた。
3人で急いで街を出てジオルグの下へ走ると意外にもジオルグたちはまだ街からそこまで離れていなくてすぐに追いついた。
俺たちが走ってジオルグが乗っているであろう馬車に迫ると、取り巻き達が一斉に俺たちを警戒するのだが、クロムがいることを確認するとすぐに警戒は解かれ、あっさりとジオルグに謁見することが出来た。
「ジオルグ殿下、カーメル男爵を連れて参りました」
俺の言葉に満足そうに頷いたので、続けて
「クロム殿下が一緒に僕たちと訓練したいとの事ですので、ジオルグ殿下が戻るまで寝食を共にし、一緒に訓練に励もうと思います。よろしいでしょうか?」
こう言っておけばジオルグも少しは安心できるだろう。
そしてその目論見は当たっており、先ほどよりも大きく頷いていた。
「ではまた明日参ります」
と言い、一旦下がるふりをしてアイクとクロムを下がらせると、ジオルグに
「ワルツにクロム殿下を見張るように伝えたのはジオルグ殿下ですか?」
俺の質問にジオルグが驚いた表情で
「なぜ分かった? 確かに俺がバレないようにクロムの警備をしろとは伝えているが?」
「スザク様が監視されている事に気づいてしまい、捕えてしまったので、どうしていいか分からずに聞きました。クロム殿下のご指示で縄は解きましたが……」
俺の報告にジオルグが笑い
「流石にA級冒険者の目をかいくぐる事は出来ないか。まぁ良い。マルスたちが一緒に居てくれればひとまず安心だ。 ミックがマルスは凄いと手放しで褒めていたからな。これ以上話しているとクロムに不審に思われるからもう行け」
ジオルグの言葉に従いすぐに俺はアイクとクロムの所に戻り3人で急いで屋敷に戻る。
なんとか昼前に屋敷に着くと昨日と同じようにクラリスが両手を広げて抱きついてきて
「どこかに行くときは必ず私に一言ちょうだい。カレンが戻ってくるまで不安だったんだから!」
クラリスの目にはもう涙が見えている。
その後も昨日と同様エリー、ミーシャ、アリスと抱き着いてきて、アリスと抱き合っている時にサーシャが
「マルス、本当にこれからはクラリスに一言お願いね。少しでもマルスの所在が分からないとこの子たち急にソワソワし始めて、みんなでマルスはどこ? の大合唱なんだから」
確かに俺もクラリスが急にいなくなったら焦るな。気を付けよう。
「みんな昼過ぎにスザク様が来ることはもうカレンからも聞いているかもしれないが、クロム殿下が少しの間俺たちと一緒に訓練をすることになった。ライナー先生とサーシャ先生にクロムの訓練をお願いしたいのですがよろしいですか?」
2人が頷いたところで屋敷に戻り俺とアイク、クロムは一緒に風呂で汗を流すことにして、他のみんなは食事の準備をしてもらう事にした。
「アイク先輩の体が凄いのは分かるんですが、同じ年のマルス先輩の体を見るとなんか自信を無くしてしまいます」
風呂場でクロムが俺たち兄弟の体を見て驚いていた。
まぁ俺の体が凄いのは当然だ。なんせ俺が何も意識していないところで勝手に相棒が腹筋運動を始めているからな。俺と一緒で相棒も努力家だ。まぁ冗談はこれくらいにしておいて
「前にも言ったことがありますが、僕たちは毎朝ランニングと筋トレをしておりますから。殿下も一緒にやりませんか?」
クロムを誘うと嬉しそうに頷いた。
風呂から上がり、食事もとり、皆で訓練する準備をしていると来客があったので、俺とアイク、そしてクロムの3人で出迎えるとそこには、ビャッコとレッカ、そして少し怒った様子のスザクとなんと……またスザクに拘束されているワルツがいた。
ワルツは忠実に職務を全うしただけなのに……
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