第294話 カーメル男爵
屋敷を出るとほとんどの貴族が外に出ていたので街の中は一部を除いて平穏だった。
「せめて名前だけでも教えてくれ! 必ず此度の戦いで武功を上げて俺は辺境伯の座に就くからその時は俺と一緒になってくれ!」
「あなたもしつこいわね! 何度も言っているけど私には婚約者がいるのよ!? 早く行きなさいよ!」
野次馬が出来ている先で男と女が揉めている声が聞こえる。いつもであればこんなのスルーするのだが……
「なぁ? 今の声……」
アイクに言われる前に俺はもう走り出していた。
野次馬が2人の男女を取り囲んでいるところを俺はジャンプで飛び越えて真紅の髪の毛の背が少し小さい女の子の前に立った。
「どうした? カレン?」
もう分かっていたと思うが言い争っていたのはカレンだった。そしてカレンの前にはピカピカの鎧を着た男が後ろに騎士を従えてカレンを見ていた。
恐らくこいつがカレンに付きまとっていた者だろう。
カレンは俺を見るや否や俺の腕を豊満な胸で挟むようにして抱きつきながら
「良かったマルスが来てくれて! あの男がさっきから付きまとってくるのよ! もう少しで鞭を打つところだったわ!」
カレンが指さす男を見ると男が
「なんだ貴様は! 俺はその女と話しているんだ! そこをどけ!」
かなり興奮した様子で喚いてくる。明らかに相手は貴族だからあまり神経を逆なでしないように
「僕はブライアント伯爵家次男のマルス・ブライアントです。ここにいるリスター連合国フレスバルド公爵家次女のカレン・リオネルの婚約者でもあります」
俺の言葉にその男はフリーズしていた。まぁ大陸1のフレスバルド公爵家の者と知らないとはいえかなり無礼な事をしたのだから当然だろう。実際野次馬たちはフレスバルド公爵家という名前を聞いた瞬間、シーンと静まり返った。
しかしその男は違う事でフリーズしていたようだ。
「ぶ、ブライアント家だと……あのブライアント家……こいつらがいなければ……」
なんだ? ブライアント家に恨みがあるのかこいつは? そう思っているとアイクが野次馬をかき分けて俺とカレンの所まで来てくれた。
そしてアイクはその男を見ると表情を曇らせた。アイクもどうやらこの男を知っているらしい。
「アイク兄、あいつは誰なんですか? ブライアント家の事を相当恨んでいるようなんですが……」
アイクが俺の質問に答えようとするとその男が名乗り出て意外な事を言ってきた。
「おい! 俺はカーメル男爵家当主ユリアン・サオルムだ! マルス! 家の誇りとカレン様を賭けて決闘をしろ!」
カーメル男爵ってあのカーメル辺境伯の子供か? いや、だいぶ年がおかしい、それになんでいつも女性が勝負の賭けの対象になるんだ?
「恐れ入りますが、カーメル男爵というのはアルメリアを統治なされていたカーメル辺境伯の……」
「そうだ! 父が爺様から伯爵位を継承するはずだったのに、それを汚い手を使ってお前の父ジーク・ブライアントが奪ったというのは父から聞いている!」
こいつはカーメル辺境伯の孫か。確か孫娘は優秀だと聞いた気がするのだが……それにしてもカレンの事といい、ジークの事といい流石にこうも言われては俺も許せない。
みんな知ってるか? 俺みたいな穏やかな心の持ち主が激しい怒りによって目覚めると伝説の戦士になる事を。
「そこまで言うのであれば受けて立ちます! ですがカーメル男爵も覚悟はなさってください! A級冒険者に挑むとどうなるかという事を!」
カーメル男爵は俺の言葉に驚いていたが、俺は迷う事なく雷鳴剣を抜く。
雷鳴剣を抜くなんてやり過ぎたって? そんなことは分かっている。だけど許せないからな。もう2度とそんなことは言わせない。
「A級冒険者って……お前がか? そんなわけないだろう? それに俺にはジオルグ殿下から直々に拝領したこの剣がある! この剣さえあればジオルグ殿下の聖剣とまではいかずともお前ごとき楽に倒せるわ!」
ジオルグの剣が聖剣って……念のためにこいつの持っている宝石が散りばめられた剣を鑑定すると
【名前】銀の宝剣
【攻撃】3
【価値】-
【詳細】攻撃力は低いが、人によって価値が変わる。
ダメだこりゃ。
カーメル男爵も剣を構えると野次馬の外側から声が聞こえた。
「何の騒ぎだ! 道を開けよ!」
この声の主はすぐに分かる。先ほどまで話していたからな。
野次馬をかき分けてジオルグが俺たちの所まで来ると険しい顔をして
「貴様!なぜここにいる!?」
ジオルグがカーメル男爵を叱責するとカーメル男爵はしどろもどろになり何も答えることが出来なかった。
その様子を見てジオルグが俺の方を見て
「マルス、もしも決闘をするのであれば、終わった後にこいつを俺の所に連れてこい。俺はもう出立するから補給物資と一緒に頼む」
そう言ってジオルグはもう一度カーメル男爵を侮蔑するような目で見ると、また野次馬の向こうに行ってしまった。これで決闘の許可は下りたという事になる。
「ではカーメル男爵からいつでもどうぞ?」
俺の言葉にカーメル男爵が顔を真っ赤にさせて
「貴様らが居なければ! 計画だって……」
どう見ても隙だらけの上段の構えからただただ剣を振り下ろす様は、素人が餅つきをするような様でとても見られたものじゃなかった。
雷鳴剣を金色に光らせカーメル男爵の剣を斬ると、剣は綺麗に2つに別れ、カーメル男爵は意識を失いそのまま地面に伏した。
カーメル男爵の持っていた銀の宝剣も地面に叩きつけられると、装飾されていた宝石が剣からバラバラに外れて地面に転がるとそれを取ろうと野次馬たちが必死に宝石をかき集める。
あ、銀の宝剣を斬ったのは間違いだったかもしれない。ジオルグから貰った物を俺が壊したとなると罪に問わるかも……まぁこいつが勝手にこけたことにしよう。
改めてカレンの所に行き、カレンに
「大丈夫か? 何もされなかったか?」
と心配して聞くとカレンが
「大丈夫よ、私がこんな奴に何かされるわけないじゃない。でもさすがマルスね。かっこよかったし嬉しかったわ。私がやりたかったというのもあるけど。今度もしこいつがなんかしてきたら、私がやるわ!」
カレンの目に炎が灯ったのが分かる。
カーメル男爵がまたやったらどうなるんだろうなぁ……でもこっちの世界の男たちってしつこいし、お約束をみんな心得ているから絶対にまた絡んでくるんだろうな。
俺とアイクでカーメル男爵を運ぼうとすると、カーメル男爵の騎士と思われる者たちが抵抗の意志を見せたが、「ジオルグ殿下の言葉に背くのか?」と脅すと大人しく引き下がった。
先ほどまでいた屋敷に気絶しているカーメル男爵を運び込むが、誰もいなくなっていたので屋敷の前でこいつをどうしようか3人で迷っていた。
それにしても初めて一般人に雷魔法をエンチャントした攻撃をしたが、やはり相当効くんだな。
え? 一般人ってカーメル男爵の事を舐めすぎだって? 鑑定したステータスを晒してもいいがさすがにカーメル男爵が可哀想だからやめておくよ。
今まではヒュージ、エルシス、そしてミックとみんな耐久値が高いから効果のほどが分からなかったが、このくらいのモブであれば相当なダメージを負わせることが出来ることが分かった。
さすがにエルシスを気絶させた時みたいに直接首に雷鳴剣をあてがう事はやめた方がいいな。
「そういえばカレン、スザク様はどこに行ったんだ? スザク様が一緒だから安心してカレンを外に行かせたのだが?」
「そういえば見ないな」
アイクも言うと、カレンが
「スザクお兄様は少し私と歩いていると不審人物がいるからちょっと待っていろと言ってどこかに行ってしまったのよ。なんかコソコソと私たちや屋敷を見ている者がいるって」
もしかしたらこれはさっきジオルグが言っていた者か? だとしたらこれで少しはジオルグも安心できるだろう。
そう思ってしばらくこの場に留まっていると、満足そうに縄を引っ張るスザクとどこかで見た悪人面の男がスザクに縛られて俺たちの所に歩いてきたのだった。
マルスが目覚めるとどうなるんでしょうかね?
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