第293話 能ある鷹
「アイク、マルス。2人に同行を頼みたい」
屋敷に入って人払いをし、誰もいないことを確認してから1つ目のお願いという名の命令をしてきた。当然俺たちに決定権はない。俺とアイクはスザクを見ると
「却下だな。さっきも言ったように2人は俺と一緒にリムルガルド城に潜るからな。6人での連携確認もある」
即座にスザクが否定すると、分かっていたかのようにジオルグが代替案を出す。
「そうか、それでは荷物持ち、いや食料の運搬程度であればどうだ? そちらの連携確認が終わったあと、1日1回、西リムルガルドとリムルガルド城下町の間くらいの位置まで」
「アイクとマルスにポーターをしろと? まぁ2人ならその場所位であれば何の危険もないだろうからいいかもしれんが……」
スザクが俺たちの方を向いて考え込んでいる。これは俺たちの意志に任せるという事か? 本当は断りたいのだが、さすがに俺達に振られると肯定の言葉しか出せない。
「分かりました。では僕たちがスザク様のタイミングで持っていきましょう。もしも僕たち2人が行けない場合は他のメンバーに頼んでもよろしいでしょうか?」
この質問に意外にもジオルグは首を横に振った。
「ダメだ、アイクとマルスだけだ。他の者は認めん」
どうして俺とアイクだけなのか? 当然それは俺だけではなくスザクも思ったようで
「説明しろ、ジオルグ。どうしてアイクとマルスだけなんだ?」
「俺たちはバルクス王国だけ、貴族の力、そしてそれに仕える者の力だけでリムルガルド城攻略を出来ると謳っている。アイクとマルスはまだバルクス王国の貴族だからな。もしもマルスのパーティにバルクス王国の貴族が居るのであれば、そいつは許可をしよう」
確かにそうやって言っていたけどな……そこまで徹底する意味はあるのか?
「分かりました。それでは僕たちだけで伺う事にします」
スザクの方を向くとスザクもまぁそれくらいならという感じで頷いていたが、もう1つのジオルグの頼みに俺達4人は首を傾げるだけだった。
「もう1つ、むしろこっちが本当に頼みたい事なのだが、クロムを……マルスたちのパーティに今だけでも入れることは出来ないだろうか?」
ジオルグの頼みに今度はカレンと顔を合わせる。
「それは、クラン【暁】にクロム殿下を入れるという事ですか? 僕がリーダーでクロム殿下がパーティメンバーというのは流石にまずいのではないでしょうか?」
「今までだったら抵抗があったかもしれないが、マルスはもうA級冒険者だろ? さすがに周りも納得するだろう。どうだ引き受けてはくれないか?」
「理由を聞いてもよろしいでしょうか?」
ジオルグはスザクとカレンに視線を向けて少しまた考える素振りを見せたが、すぐに口を開く。
「スザク、カレン。すまないが席を外してくれないか? 少し込み入った話をする」
だがこの言葉に簡単に頷くスザクではない。
「ダメだ。【暁】への加入は俺が何も口を出すことはできないが、リムルガルド城下町に連れて行くメンバーであれば俺は口を出せると思っている。【暁】にクロムが入ると明らかに戦力ダウンになるだろう」
「クロムが足手まといだと……? いや今はそこではないか。クロムは俺がここに戻ってくるまでパーティ……いやクランに入れてくれていればそれでよい。別にリムルガルド城下町に連れて行けとは言っておらん。だからスザク、ここは俺の我儘を聞いてくれないか?」
ジオルグがスザクの方を真っすぐ見て言うと
「分かった。それであれば俺も何も口を出すことはない。カレン、久しぶりに兄妹で街でも歩かないか?」
スザクはジオルグの言葉に頷き、カレンを街に誘うとカレンは嬉しそうに頷いた。
「じゃあマルス、私はスザクお兄様と一緒に外に出て、そのままクロムが用意してくれている屋敷に戻るわね」
2人が屋敷を出るのを見届けるとジオルグが早速口を開く。
「スザクとカレンを退出させておいて言うのもなんだが、詳しい事は言えないし言わない。今から俺が言う事をお前たちなりに考えて解釈してもらって構わない。質問は遠慮してくれ」
少し申し訳なさそうにジオルグが話し始める。
「クロムはある者たちから疎ましく思われている。それは最近始まった事ではなく昔からだ。実力主義者のクロムを怖がるものたちが多いのだろう。ちなみに疎まれているのはクロムだけではない。新参の実力者であれば全員だ。
クロムの次に疎まれているとすれば間違いなくお前たちの父、ブライアント伯爵だろうな。辺境伯に陞爵させようと国王は思っていたのだが、抵抗勢力が一定数いてな。血筋と爵位が全てと思っている輩からすれば当然なのだろうが」
その中にジオルグは入らないのか? なんて聞けるわけが無い。
「一昨年あたりからそいつらの動きが目に余る様になってきてな。そこで去年リーガン公爵から人質のようなものを要求された時に、国王がクロムをバルクス王国から離すために預けたのだ。あれだけ優秀なクロムを何の理由もなしに他国に送るなんてありえないからな」
そういえばリーガン公爵が何故か一番優秀なクロムが人質として預けられたというようなことを言っていたがそういう理由があったのか。
「これは父上と俺の想像なのだが、クロムは今回命を狙われると思っている。なので父上は俺にバルクス王国専属A級冒険者のミックを俺に託した。表向きはリムルガルド攻略の旗印だが、本当はクロムの護衛役だ。ミックはまだ知らないがな。だがお前たちがクロムを見てくれればミックは本当にリムルガルド城攻略の旗印となる。尤も攻略なんて出来るわけが無いがな」
「え?」
思わず言葉が出てしまった。クロムの事ではなく攻略ができないと思っている事にだ。
すると俺の言葉に反応したジオルグが
「なんだ? 俺が本当にリムルガルド城を攻略出来ると思っているとでも思ったのか?
俺自身戦闘能力は全くないが、それでも何回かはA級冒険者昇格試験を見に行ったりはしている。そしてあの激戦を勝ち抜いた者たちがあっさりとリムルガルド城で命を散らしていることくらいは知っている。ミックからも何度も無理だと言われているからな。
今回の遠征は勅命だ。父上だって攻略できると思っていない。だからこそリスター連合国にクエストを依頼しているのだからな。おっとミックの話と勅命は聞かなかったことにしてくれ」
ジオルグは自分の事を敢えて低く見せているのか? なかなか食えない奴だな。自分の事を積極的に偽る奴なんてロクなやつ……と思ったら俺もだった。
恐らくクロムはジオルグの本質に気づいていない。それはクロムだけではなくリーガン公爵もだろうから、ほとんどの者がジオルグの素顔を知らないのではないだろうか?
「なんだ? どうしても聞きたそうな顔をしているな。言ってみろ?」
ここでジオルグから質問をしてもいいと言われたが、何か俺を試すような目で見ている。アイクもそれを感じ取ったのか俺に目配せをしてくる。
「ありがとうございます。それでは1つだけ。ジオルグ王太子殿下は此度のリムルガルド城攻略をどこまでやるおつもりなのですか?」
俺の言葉にジオルグはにやりと笑いながら
「リムルガルド城下町の前で適当に魔物を倒して終わりだ。城下町にすら入ろうとは思わん。しかし勝手に入っていく者を止めはしない。
今回の遠征はリスター連合国やザルカム王国に侵攻したくても出来ない奴らのガス抜きでもある。
最後に食料などを運ぶ際に必ずクロムの安否だけは正確に伝えてくれ。もしも襲われたりしたら詳細を頼む。これもお前たち2人を指名した理由の1つだ。
これから俺は出立の準備をするからもう下がって良い。クロムを頼んだぞ」
ジオルグの言葉に頷き外に出ると街はだいぶ落ち着きを取り戻していた。
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