第290話 棒神
「お久しぶりです! スザク様! 【暁】15名全て連れて参りました!」
「ああ、よく来てくれた。ミック、彼が前から言っていたマルスだ。うちのカレンの婚約者でもある。そしてこちらがマルスの兄のアイクだ。今回俺が強引に連れてきたようなもので、リムルガルド城に一緒に潜る1人でもある」
スザクが知らない男に俺たちを紹介すると、男も自己紹介をしてくれた。黄色い髪の毛をオールバックにした男でかなり男前だ。
「君がマルスか。スザクやレッカから色々聞いている。俺はミックだ。これでも一応はA級冒険者だ。今はバルクス国王専属のお抱え冒険者としてほぼ隠居状態だがな。アイクもよろしく」
「マルス、フレスバルド公爵やスザク様が俺の火魔法の先生ならば、ミックさんは俺の棒術の師匠だ。たぶんマルスでも相当面食らうと思うぞ?」
レッカがミックの事を補足して説明してくれる。
「初めまして、ブライアント伯爵家次男のマルス・ブライアントです。去年A級冒険者になったばかりで色々分からないことだらけですので、色々教えて頂ければと思います」
俺が挨拶をするとアイクも自己紹介をし、ミックは満足そうに頷いた。
「スザク様、予定通り明日出発するのですか? どうやらジオルグ殿下と出発が被ってしまうとの事ですが」
「ああ、その件だが、ミックたちとは一緒には行かない。これはジオルグの意思でもある。どうやらジオルグが自分たちの力だけで成し遂げたいらしい。俺達も城下町までなら庇ってやれるとは思うが、さすがに城の中まで一緒に潜るとこっちまで全滅しそうだからな」
おいおい……ミックを目の前にしてそんな事言っていいのか? するとミックも
「まぁジオルグ殿下も城下町まで行けばどれくらい厳しい戦いをしているか身をもって分かると思うし、いい経験にもなるさ。俺たち冒険者も最初からリムルガルド城攻略なんて出来るわけないと思っているからな。一部は本気で攻略しようと思っている輩がいるがそんな身の程知らずは何れ死ぬから、俺は助けるつもりはない。命あっての物種だからな」
ミックの表情から読み解くとジオルグの事を少しは評価しているらしい。それなりに優秀な人物なのだろうか?
「では僕たちはどうすればいいですか?」
スザクに質問すると
「俺たちはミックたちが戻って来たら出発する。まぁ2、3日といった所か、マルスたちがどこに泊まっているか後で教えてくれ。カレンとも会っておきたいからな」
「では、紙に書いておきます。それでは僕たちは戻っておりますので、何かあった際には……」
俺の言葉にミックが
「ちょっと待て、マルス。スザクとレッカが手放しで天才と呼ぶ者と手合わせをしない訳にはいかない。俺と一勝負しようじゃないか」
「でたな。ミックの悪い癖が、まぁマルス、ミックと戦う事は今後のいい経験になると思うからやってみればどうか? ミックは俺と同じでA級冒険者の序列が60位台の中堅レベルだ。初見殺し能力は……」
「おっと、スザクそれ以上はダメだぞ? どうだやる気になったか?」
スザクの言葉をミックが遮り、俺に再度試合をしようと聞いてくる。断れる雰囲気でもないし、実際どのくらい強いのか俺も気になったので
「分かりました。それではお願いします。どこでやりますか?」
俺が返事をするとミックが嬉しそうに
「よし! じゃあ、東門から出て少し離れたところでやるか!」
ミックはそう言って飲んでいたグラスを一気に空にすると俺を手招きして外に連れ出した。
東の門にも煌びやかな鎧を着たジオルグの私兵がいたが、当然ミックは顔パスらしく、ついでに俺やスザクの事も紹介してくれて俺達も顔パスで入れるように取り次いでくれた。
やはり東門の付近には西リムルガルドに入れない者たちがいたが、西門よりかは人が少ない。まぁ東門の方がリムルガルドに近く、危険度も高いから当然と言えば当然か。
そのためそこまで街から遠ざかる事無く試合を始めることが出来た。
「マルス、1つだけ俺からアドバイスだ。油断するな。一瞬で決められるぞ?」
構える前にスザクから一言ボソッと言われた。
やはりそこまでの相手なのだろう。大けがとか負ったらシャレにならないな。
30mくらいの距離を開けてから水精霊の剣を構える。
「始め!」
スザクの試合開始の合図とともにすぐにミックを鑑定する。
【名前】ミック・フリッター
【称号】棒神
【身分】人族・平民
【状態】良好
【年齢】34
【レベル】62
【HP】188/188
【MP】425/425
【筋力】102
【敏捷】105
【魔力】96
【器用】104
【耐久】58
【運】1
念のため未来視も発動させるため、すぐに鑑定を切ってしまったのでここまでしか鑑定できなかったが、なんと棒神! これは鑑定しておいてよかった。絶対に近距離戦であれば負けないと自信があったがこれは気を引き締めないとな。
そしてこの鑑定を切った行動は正解だった。すぐに未来視を発動させるとなんと1秒後に俺の左腕がミックの何かしらの攻撃を受ける未来が視える。
30mくらいの距離で1秒後に来る棒攻撃ってなんだ!? 未来視を発動させながらミックの方を見るとミックは先端に赤い水晶のようなものがついた金属製のような棒を俺に向けていた。
未来視ではその赤い水晶の先端から何かが発射される未来を映し出している。
咄嗟に左腕を水精霊の剣で庇おうとすると、ミックは狙いを俺の右腕、つまり現在水精霊の剣を持っている方に照準を合わせ、ミックの持っていた棒の先端の赤い水晶が光り、先端から赤い弾のような物が勢いよく射出される。
風切り音を置き去りにした弾を無詠唱のウィンドで減速させ、咄嗟に水精霊の剣で弾くと
「嘘だろ? 初見で対策されたのは初めてだ……だが!」
ミックは金属の棒を180度縦に回転させると、今度は青色の水晶の先端を俺の方に向ける。
このミックの棒は両端に赤と青の水晶がついているようで、今度は青い弾が出てくるという事か。
予想通り青い弾を先ほどと同じように弾くとミックもすぐに突っ込んできて近距離戦となる。
少し躊躇ったが、俺は雷鳴剣を抜き、風纏衣と未来視も展開する。完全武装だ。
さっきの弾を至近距離で連発されるとちょっとまずいからな。
まぁもしも連発できるようだったら遠距離から撃ちまくっているはずだからその可能性は低いと思うが、警戒するに越したことはないだろう?
お互いの武器の攻撃が届くまでの距離になり、リーチの長いミックから攻撃をしてくると思ったが、一向に攻撃をしてくる様子はない。
その間に先ほどミックの鑑定を全て済ませる。
【特殊能力】短剣術(Lv4/C)
【特殊能力】棒術(Lv10/A)
【特殊能力】火魔法(Lv7/C)
【特殊能力】水魔法(Lv6/D)
【装備】双竜棒
【装備】ミスリルダガー
【装備】プリズムローブ
双竜棒というのか、この厄介な棒は。
【名前】双竜棒
【攻撃】28
【特殊】魔力+3
【価値】A
【詳細】両端に赤竜と青竜の幼体の魔石を冠したロッド。それぞれに適した魔法をエンチャントすると魔力と属性に応じて魔弾が射出される。クールタイムはそれぞれ1分。
1分でそれぞれ1発ずつ撃てるのか。水晶と思っていたものは魔石か。エルシスの竜骨棒もそうだったが棒って相当強いな。
ただこのままずっと攻撃をしないでいるとまた魔弾を撃たれてしまうので、俺から攻撃をしかけたのだが、棒神は伊達じゃなかった。
雷鳴剣でミックに斬りかかると、ミックは双竜棒の中心を持ち、赤い魔石がついた先端で受けながす。
するとテコの原理によって反対側の青い魔石が付いた先端が俺に襲い掛かってくる。
それを水精霊の剣でなんとか弾くが今度はまた赤い魔石の先端が俺に襲い掛かってくる。
くそ! これはいつも俺がやっている流水の棒バージョンじゃないか! 弧を描く距離が短い分、双竜棒の方が威力は低いが小回りが利くから速い。
俺も風纏衣を展開して多角的に攻撃を仕掛けているのだが、ミックの方が戦闘慣れしているらしく、俺の攻撃についてくる。
やはり俺は対人戦の経験が少なすぎる。拮抗した戦いをしたのはヒュージくらいだからな。
ガスターにはボロ負けだったし。
これを何度か繰り返すとクールタイムが終わったようで、ミックは隙あらばこの近距離で魔弾を撃とうとしている。
先端が俺に向いた時点でかなり負け濃厚、もしくは大けがをするリスクを負ってしまった俺は迷うことなく奥の手を使った。
そしてすぐにその効果は出た。
雷鳴剣を受け流し、テコの原理を使おうとしたミックが一瞬、双竜棒を持つ力を弱めた時に雷魔法をエンチャントしたのだ。
「っつ!?」
雷鳴剣が金色の光を帯び、その光が双竜棒を通じてミックに伝わった瞬間、ミックは低い呻き声をあげながら双竜棒を地面に落とした。
「そこまで!」
スザクが驚きながら試合を止めると、棒神との試合は幕を閉じた。
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