第281話 乙女心
プランA……つまり最初からこうしようと思っていましたが……
「クラリス、手を見せてくれない?」
部屋に入ってきた眼鏡っ子先輩がクラリスに聞くと、素直にクラリスが眼鏡っ子先輩に手を見せる。
「やっぱりクラリスは違うわよね。ちょっとごめんね」
そう言うと眼鏡っ子先輩は急にクラリスの手や腕、背中、肩、そして胸までも触り始めた。
最近クラリスは同性に胸を触られることが多くなったな。ついに女性にもモテ始めたか。
カストロ公爵に触られていた時はむかついたが、眼鏡っ子先輩に触られているのを見てもそういう感情を抱かなかった。むしろ少しだけ相棒が起き始めている気がする。
「な、義姉さん! どこ触っているんですか?」
眼鏡っ子先輩はクラリスの言葉を無視しふくらはぎや太ももまで触り始めている。
一通りクラリスの体を堪能した眼鏡っ子先輩が
「クラリス、今度は私の体を触ってみてもらっていい?」
「え? わ、分かりました」
クラリスが眼鏡っ子先輩の体を触り始める。眼鏡っ子先輩は何がしたいんだ?
「どう? 私の体は」
「凄い引き締まっていて、健康的でいい体だと思います」
「そうなのよ……引き締まっているの……最後にこれを見て」
眼鏡っ子先輩がクラリスだけに見えるように自分の手のひらを見せると、クラリスがビックリしながら口元を手で塞いだ。
「クラリス? 今日は矢をどれくらい射った?」
「今日は100射ってないと思います。いつもはもっと射っていると思いますが……」
クラリスがなぜか申し訳なさそうに眼鏡っ子先輩の質問に答えると、今度は俺の方を向き
「マルス、クラリスの体を触ってもらっていいかしら? 肩、背中、腕と最後に手を触って。クラリスもいい?」
クラリスの方を見ると困ったようにしていたが眼鏡っ子先輩の言葉に頷いたので、言われた箇所を触り、最後に手も触った。
「どう? クラリスの体は?」
なんかエロい聞かれ方だが
「はい、柔らかくて最高でした」
俺が答えるとクラリスは恥ずかしそうにし、眼鏡っ子先輩も微笑む。
「そうね。クラリスの体は柔らかくて最高よね。私もそう思うわ。次は私を触ってもらっていいかしら? クラリスと同じ箇所よ? でもマルスがどうしてもって言うのであればどこを触ってもいいけど?」
眼鏡っ子先輩が胸の谷間を見せつけるように聞いてくる。
触っていいのだろうか? もちろん胸……じゃなくて肩や背中をだぞ? なんかアイクに申し訳ない気がして仕方がないんだが……眼鏡っ子先輩もそれを察したようで
「大丈夫よ、クラリスも見ているんだから」
「分かりました。失礼します」
眼鏡っ子先輩の体を触ると、クラリスの言った通り本当に引き締まっていた。
「とても引き締まっていると思います」
俺の言葉に眼鏡っ子先輩が無言で手のひらを広げて見せてくる。その表情はとても悲しそうだ。
そうか……これが言いたかったのか。だから2層ではなくて3層がいいのか。
「私も足を引っ張りたくないし、みんなの役にも立ちたい。でも肩幅も広がってきてしまった気がするし、背中にも腕にも筋肉がついてきて、手に関していえばマメが何度も潰れてしまって間違いなく分厚くなってる。どうしても耐えられないのよ……」
涙声で眼鏡っ子先輩が胸中を吐き出す。
肩幅や背中の事は正直俺には分からないが、手だけは一目瞭然だった。
「アイクやマルスが私の為に強くなれと言ってくれているのは分かるの。でも弓じゃなくて魔法じゃダメ? 美味しくないマジックポーションも飲むし、3層で戦えばMPが枯渇してもすぐに戻れる、回復したらまた参加するから」
眼鏡っ子先輩の提案は当然Yesだ。だが俺だけで決めていいのか?
「アイク兄はなんと言っているのですか?」
「アイクは私のこの手を見て好きだって。努力した人の手だから」
アイクの言いそう……いや俺もそう言うだろうな。
「アイク兄には、弓を持ちたくないとは言ったのですか?」
「言ってないわ……言っても絶対に私の事を嫌いにはならないという事は分かってる。でもアイクにだけは言えないし、言いたくないの!」
眼鏡っ子先輩が咽び泣きながら心の膿を吐き出すように叫ぶ。
努力好きなアイクにはなかなか言えないよな。アイクも眼鏡っ子先輩の事を絶対に嫌いにならないと思うが、もしもという事が頭を過るよな。
みんなもそう思わないか? 自分の好きな相手の理想になるべく近づきたいと思わないか? 中には飾らない自分を愛してほしいと思う人もいるだろう。眼鏡っ子先輩もそっちの部類の女性だと思ったのだがそうでは無かった。かなり繊細な人だった。
クラリスはすでに眼鏡っ子先輩の手のひらを一生懸命神聖魔法でマッサージをしている。
俺ももう片方の手を取りマッサージをしながら眼鏡っ子先輩と話をしようとすると勢いよく部屋のドアが開いた。
もう誰が来たか分かるよな? 主人公っていいタイミングで必ず来るからな。
「エーデすまなかった!」
アイクは部屋に入ってくるなり眼鏡っ子先輩を強く抱きしめた。
当然クラリスはアイクが入ってきた瞬間に眼鏡っ子先輩から離れている。
「……どうして?」
眼鏡っ子先輩がすすり泣きながら聞くと
「バロンとミネルバが迷宮に入ってからエーデの様子が少し変だと教えてくれてな。部屋に戻ったらエーデがいなくて、そしたらこの部屋からエーデの声が聞こえて。申し訳ないが話を聞かせてもらった。エーデの気持ちを知らずに本当にすまなかった!」
何度もアイクが眼鏡っ子先輩に謝る。
部屋の外にはバロンとミネルバが心配そうに立っていた。
すまん2人とも! 絶対にアイク兄を変な道に誘い込もうとしているものだと思っていた。
「アイク兄、義姉さんにちょうどいいプレゼントがあるんじゃないですか? アイク兄が一生懸命戦って手に入れたものが」
アイクは俺の方を見ていいのか? という顔をしている。
当然頷くと、アイクは抱きしめていた眼鏡っ子先輩の肩を優しく掴んで優しい表情で眼鏡っ子先輩と向かい合う。
こんな表情をするアイクは初めて見た。
俺はアイクの歯を食いしばって頑張る姿ばかり見ているからな。
アイクは懐からハンカチで大事そうに包まれたものを取り出すと
「これは俺からの……俺達からエーデへのプレゼントだ。こんな時に渡すものじゃないかもしれないが、身に着けてくれると嬉しい」
ハンカチを解き豊穣のネックレスを眼鏡っ子先輩の首にかけると
「何これ……綺麗……いいの? 私が貰って?」
「ああ。マルスが言うには土属性系の攻撃、耐性UPでMP消費軽減もしてくれ、疲労回復にも効くらしい。こんなものしかプレゼントできなくて……すまない」
目に涙を溜めながらまた眼鏡っ子先輩を抱きしめると眼鏡っ子先輩もアイクの腰に手を回す。
しばらく俺とクラリスは2人の熱い抱擁を見ていると
「す、すまない、人の部屋に上がり込んで急にこんなことをしてしまって」
アイクは急に恥ずかしくなったようで、イケてる顔が赤くなっている。
「い、いえ……でも良かったです。これで義姉さんの悩みも少しは解消できたでしょうし。これからは今まで使っていた杖でお願いします」
眼鏡っ子先輩も少し恥ずかしそうに頷くと
「義姉さん? マッサージしましょうか? 手のひらであれば多分治ると思いますので」
クラリスが気を使う様に眼鏡っ子先輩に聞く。
「ええ、頼むわ。アイク、悪いけど先に部屋に戻っててもらえるかしら。マッサージをしてもらって綺麗になった私を楽しみにしていて」
アイクは頷き、俺たちに「ありがとう。エーデを頼む」と言って部屋に戻った。
アイクが部屋から出て行くのを見届けると眼鏡っ子先輩がエリーの寝ている隣にうつ伏せになり、声を押し殺すようにまた泣き始めた。
「良かったですね。やはりお義兄さんはお義姉さんの事が大好きでしたね」
ああ、これはホッとして泣いているのか。
「本当にクラリスは妹じゃないみたいね。でもありがとう。今日ここに来てよかったわ。でももしもアイクに捨てられていたらマルスに責任をとってもらう予定だったんだけどね?」
いつもの調子に戻ってしまった眼鏡っ子先輩を、俺たちがいつも以上に入念にマッサージすると、すぐに眼鏡っ子先輩が可愛い寝息を立てて寝てしまった。
さすがに起こすのは可哀想なので、このまま眼鏡っ子先輩にはここで寝てもらい、俺は事情を説明するのと、寝床の確保の為にアイクの部屋に向かった。
「そうか、エーデは寝たか。今日は本当にありがとうな。バロンとミネルバにも助けられたよ。エーデが少し変だなと思ったのはミネルバだったらしい」
やっぱり女性の変化は女性の方が気づくのだろうか?
「マルス、リムルガルド城から戻ってグランザムに行くまでの間に少し時間があるだろう? 俺はその時間をエーデと2人で過ごそうと思うんだ。マルスがいなくてもしっかりと訓練は続けるからいいか?」
「分かりました。義姉さんをこれからも大事にしてあげてください」
この日誓ったアイクの言葉が叶わない事を俺たちはまだ知らなかった。
色々な意味でめっちゃ悩みました!
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