第277話 夢の国
2031年12月23日 15時
「みんなヤッホー! 元気だった!?」
3層の安全地帯の白い光が見えると、元気印が我先にといつもの調子でみんなの下に走り話しかける。
クラリスがいつも通りのミーシャの姿に安心したようで
「元気だったわよ。ミーシャも大丈夫だった?」
「うん。本当に全部吹っ切れたよ。ありがとうね」
遅れて俺、アイク、眼鏡っ子先輩、サーシャが安全地帯に入り
「ただいま」
「「「おかえり」」」
みんなが気持ちよく迎えてくれた。やっぱり仲間っていいよな。
エリーが嬉しそうに俺に飛びかかってきて左首筋からマルス成分というものを補充している。
「マルス? 変な店とか行ってないわよね?」
開口一番それか? 普通は【鬼哭】やゲドーの事を聞いてくるのでは?
右隣に座ったクラリスが俺の左ひざに手を置きながら聞いてくると
「マルスはどこも行ってないよ。お風呂以外私とお母さんと一緒だったもん。ねぇお母さん?」
サーシャがミーシャの言葉に少しばつが悪そうに頷くとクラリスが当然のように
「え? 寝る時は別でしょ?」
「ううん。3人で一緒に寝たよ?」
ミーシャの言葉にクラリスが俺を睨んでくる。するとサーシャが
「クラリス、私の話を聞いてほしいのだけれどもいいかしら?」
サーシャが神妙な顔をし、クラリスに聞くと
「は、はい……なんでしょうか?」
クラリスが緊張した声で答えると
「クラリスも知っていると思うけど、マルスには一生かけても返しきれない程の恩があって、今こうしてみんなと笑っていられるのは全てマルスのおかげだと思っているわ。もちろん、クラリスにも恩を感じている。どうしたらこの大きすぎる恩を返せるかずっと考えていたのだけど、やはりこれしかないと思ってね。私の身も心も全てマルスに捧げようと思うの。だからクラリス、私をマルスの作る騎士団に……」
「ダメです!……え!? 騎士団? ハーレムじゃなくて?」
サーシャの言葉にフライングして答えたクラリスがビックリした顔で聞きなおした。
「ハーレム? 私が? 私が6人目の婚約者?」
サーシャは自分で言った言葉が可笑しくて笑うと
「クラリス、私が6人目になれるわけないじゃない。年の差もそうだけど、マルスは絶対に私とそういう関係にはならないわ」
何故かサーシャは俺に全幅の信頼を寄せる。
「どうしてそう言い切れるのですか?」
「マルスは絶対にクラリスやミーシャたちが嫌がるようなことはしないわ。それはあなた達が1番良く分かっていると思うの。だけどマルスがモテすぎるから不安になっているだけでしょう?」
サーシャの言葉にクラリス、カレン、アリスが頷く。
「改めて聞いていい? 私をマルスの作る騎士団に入れてもらえないかしら? ライナーたちと一緒にマルスを支えたいの。でも実際は女という事を生かして私は女性だけの集団でマルスの婚約者たちを守り、マルスを安心させたいのだけれどもダメかしら?」
確かにクラリスたちを護衛するのは絶対に女がいいよな。
だってクラリスを警備している男が一番危ないからな。それほどまでにクラリスには男を虜にさせるものがある。
「サーシャ先生、僕からも聞いてよろしいでしょうか? リスター帝国学校はどうするのですか? リーガン公爵がサーシャ先生を簡単には手放さないと思うのですが」
誰もが思う疑問を俺が質問すると
「そこは必ず説得するし、リーガン公爵もマルスであればいいと言ってくれると思うの。リーガン公爵とマルスが対立するようなことはないだろうしね」
俺とサーシャの言葉にクラリスが申し訳なさそうに
「サーシャ先生。変な誤解をして申し訳ございませんでした。是非頼みたいのですがよろしいでしょうか?」
この言葉にサーシャがホッとした様子で
「ありがとう。これでしっかりとマルスに恩返しができるわ。あなた達が学生のうちはライナーたちと同じように先生として接するけど、卒業したらしっかりと立ち振る舞うからよろしくね。ミーシャは別よ? ミーシャはいつまでたっても私の娘だからね」
「こちらこそよろしくお願いします」
俺が頭を下げるとクラリス、カレン、アリスが頭を下げる。
ミーシャはこのやり取りをずっとニコニコしながら見ており、エリーは相変わらず俺の首筋を吸っている。
「さて、マルス、今から潜らないか?」
サーシャとの話が終わるとまるで今から夢の国に行こうと言わんばかりのテンションでアイクが聞いてきた。
「ええ。僕は今からでも大丈夫ですが……クラリスはどうだ?」
「ボス部屋じゃなければ大丈夫よ」
声のトーンからそこまで乗り気じゃないのが分かる。しかしアイクが子供のように行くのを楽しみにしているからクラリスも断りづらいのだろう。
「そうか、じゃあエリーは?」
「……マルスが行くなら……どこでもついて行く……」
首筋にあった綺麗な顔がいきなり俺の真正面にきてドキッとしたが、エリーはそれだけ言うとまたいつもの定位置に戻る。
「じゃあ、俺たちももう一度2層に行くか!」
バロンが急に立ち上がるとライナーも
「じゃあライナー班もバロン班が2層から戻ってくるまで3層で魔物たちと戦おう!」
アイクのやる気がみんなに伝わり1名を除きテンションが上がる。しかしアイクの言葉にテンションが上がらなかった者……いや、むしろ相当下がった者が。
「私はもう疲れちゃったし、MPもほぼ空だし、矢も無くなったからゆっくりお風呂にでも入って休憩しているわ。矢があれば行きたかったのだけれども、危険な4層に行くマルスのMPを消費してまで作ってもらう訳にもいかないから仕方ないわね」
矢が無い事を理由に眼鏡っ子先輩が行かないと言い張る。
ん? MPがほぼ空?
【名前】エーディン・アライタス
【称号】-
【身分】人族・メサリウス伯爵家長女
【状態】良好
【年齢】14歳
【レベル】31(+1)
【HP】72/72
【MP】204/321
【筋力】26(+1)
【敏捷】26
【魔力】59(+1)
【器用】32(+2)
【耐久】23(+1)
【運】10
【特殊能力】魔眼(LvMAX)
【特殊能力】弓術(Lv4/D)
【特殊能力】土魔法(Lv7/C)
【装備】土精霊の杖
【装備】キラーボウ
【装備】魔法のローブ
【装備】守護の指輪
【装備】偽装の腕輪
鑑定するとレベルが上がっていたのだが、3分の2くらいあるのに空って……
眼鏡っ子先輩はHPが高いのだが耐久値が低いのが弱点なんだよなぁ。もう少し真面目に走ったりすればアイクも少しは安心すると思うのだが、如何せん本人にやる気がないからなぁ。
眼鏡っ子先輩を鑑定していると眼鏡っ子先輩に語り掛ける声が聞こえた。
「エーディン、矢なら俺の空間魔法でまだまだ収納してあるから大丈夫だ。マルスがこういう時の為にいっぱい作っているしな」
「え? いや、ブラム先生。そんな気を使わなくてもいいですよ?」
ブラムの言葉に眼鏡っ子先輩が抵抗しながら、俺の事を睨んでくる。
「やったじゃないか! エーデ! これもマルスのおかげだな! あとでしっかりとお礼をしろよ!」
アイクが満面の笑みで眼鏡っ子先輩に余計な事を言うと
「そうね……アイクの言う通りね。マルス、後で覚えていなさい……絶対にお礼をさせてもらうから」
後で覚えていなさいって……怖すぎるだろう。
「じ、じゃあ時間も遅いですから早く行きましょう」
眼鏡っ子先輩から逃げるようにして安全地帯を出るとアイク、クラリス、エリーがすぐについてくる。
俺の背中にはまだ鋭い視線が刺さっているのが分かる。
オーガのいる4層へ通じる階段がある部屋の敵を倒し終わると、エリーに言っておかないといけない事があったので呼ぶと、エリーが嬉しそうに駆け寄って抱き着こうとしてきたので
「エリー、ちょっとそこで止まってくれ。これからエリーに俺の新しい魔法を見てもらいたいんだ」
俺に待てと言われて素直に従ってくれているエリーの後ろに行き、エリーを後ろから抱きしめると、エリーは嬉しそうに俺の腕に顔をすりすりする。
「ラブラブヒールのようにこうやって体を重ねないと発現しないから少しの間我慢してくれ」
「……ずっと……このままがいい……」
エリーの言葉に思わずもっと強く抱きしめたくなるが、あまり密着すると相棒がエリーに襲い掛かってしまうからな。今もまだかまだかと出番を窺っている。
「ラブラブヒール」
俺の体からエリーの体に温かいなにかが流れていくのが分かる。
「……凄い……愛情と……応援?……ラブラブヒールとは違う感じ……」
「あ! そうね! マルスのラブラブヒールからは愛情も感じられたけど頑張れっていう気持ちも感じたわ!」
愛情に応援か……
「この魔法を使えばエリーもカルンウェナンの効果を何度でも使う事が出来る、少しでも危ないと思ったらすぐに影に入って俺の所に戻ってこい」
「……うん……すぐ戻ってくる……」
エリーは本当にすぐに戻ってきそうだな。まぁ嬉しいんだが一緒に前衛にいる人の負担が増えるよな。
「よし! じゃあ説明も終わったことだし行くか!」
俺の言葉にアイクはもう待ちきれないらしく、どんどん階段を駆け下りてしまったので俺達も急いでアイクの後を追っかけて夢の国に潜った。
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