第273話 ゲドー
全部ゲドー視点です。
ちなみにプランBです。
ここ1か月は散々な目にあっていた。
アルメリアに入ろうにも検問が厳重過ぎて俺も【鬼哭】のメンバーとして入らないといけなくなってしまい、体毛を全て剃り、クンという愛称をつけられてようやくアルメリアに入れた。
入れたはいいものの、街中には騎士団員が多数警備しており、目的の伯爵家の近くには情報になかった騎士館まで出来ていた。夜になれば警備も手薄になるかと思ったが、全くの逆で夜こそ何もできない。
だが間違いなくブライアント伯爵家に神聖魔法使いがいるという事だけは分かった。
アルメリア迷宮から出てきたブライアント騎士団の騎士団長、バンが仲間と共に伯爵家に入ったのを見たのだが、バンは一目見て分かるくらいの怪我を負っていた。バレないように仲間に囲まれながら移動していたのだが、しっかりとその姿を俺は捉えた。
しかし1時間後に伯爵家から出てきたバンは先ほどの怪我が無くなっていたのだ。
ポーションを飲んだくらいじゃすぐには怪我が治るわけない。ポーションはあくまでも回復薬だからな。薬を飲んで怪我がすぐに回復する事なんてありえない。間違いなく神聖魔法で治したのだろう。
本当はすぐにでも伯爵家を襲撃して神聖魔法使いを攫いたかったのだが、予想以上に伯爵家の警備が厳重なのと、何故か最初から騎士団に目をつけられていたので、レベルを上げてから襲撃する事になった。
幸いアルメリア迷宮はかなり難易度が高いらしく、安全地帯まで辿り着けるパーティは今この街にはいないらしい。
そして俺の天才的な閃き、つまり安全地帯を拠点にしようという提案が全ての流れを変えた。
迷宮に入ると1層まではブライアント騎士団かブライアント家の者と思われる奴らが俺たちの事を尾けてきたが、2層までは追いかけてこなかった。
さすが元A級冒険者擁する【鬼哭】だけあって2層の敵も余裕だ。あんな馬鹿でかい熊をあっさりと仕留めるズルタンはやはり化け物だ。
3層の敵はやはり強いらしくツルピカハゲマルはかなりきつそうだったが、ズルタンだけは危なげなく倒している。そしてようやく白い光が溢れる部屋、安全地帯に辿り着いたのだ。
3層の安全地帯に入ると幸運にもベッドや風呂が完備されていた。
安全地帯にベッドや風呂が有るなんて聞いたこともない。ズルタンたちに聞いても初めての経験だという。そしてこのベッドからはとてもいい匂いがする。何日か俺たちが使ってもまだ匂いが残っていた。
しばらく3層で【鬼哭】のレベル上げに付き添っていた。今日もいつものように3層の敵を倒して安全地帯に戻るとそこには男女合わせて10名以上の美男美女がこちらを警戒しながら見ていた。
そしてすぐにそいつを見つけた。母親であるエルフの後ろに隠れている子供を。
エルフは大分大きくなってしまっているがまだ成人前だろう。10歳を超えてしまっているが愛好家は沢山いるしな。
エルフの娘と行動を共にしているのは相当厄介な奴で【剣狩】と呼ばれるB級冒険者、そして母親のサーシャだが、こっちにはズルタンがいるから問題ない。さっきツルが言っていたがズルタン以外のメンバーもB級中位クラスといっていたしな。
【鬼哭】はパーティリーダーのズルタン以外も強いところが気に入っている。
普通であればもう独立してもおかしくないやつも、出ていかないのだ。
理由は簡単、悪事は1人でやるよりもみんなでやった方が安心するし、バレたら全てリーダーのズルタンのせいにすればいいと考えているのだろう。
迷宮では何があっても闇に葬れる。人を殺しても魔物に食われたと言っておけば証拠がないから無罪だ。迷宮の中では力が全て。俺には元A級冒険者のズルタンがいる。ここでは俺たちが規則だ。
できれば他の女たちも超一流の容姿をしているから捕えたいが、さすがにリスクがありそうだからな。楽しんで装備をぶん盗った後は処分するしかない。
だがこれで確実に収支がプラスになったな。【鬼哭】を1年雇うのに白金貨3枚というAランクパーティクラス以上の出費をしてしまったが、美少女神聖魔法使いと稀少なエルフの少女、そしてあの豪華な装備品が得られるのであれば、白金貨5、6枚でも安いくらいだ。
そしてさらに僥倖は続く。
なんとライナーという脳筋が就寝時間を大声で叫び出したのだ。
どう考えても22時以降のライナー、サーシャがいない時間帯がいいが、1時まで待ってもいい。ブラッドとコディという獣人と魔族が寝ればヒョロい金髪と女たちだけだからな。
「おい、ズルタン、あのエルフの子供を捕えろ」
ツルピカハゲマルにも聞こえないような声でズルタンに言うと
「そいつは無理だ。相手は【剣狩】と【風雅】だぞ? 剣王と風王相手だと分が悪い。特に俺は風魔法使いが苦手だ」
そうだった……ズルタンは相当強いのだが風魔法使いには弱いんだった。
こいつのB級冒険者に落ちた試合を直接見た訳ではないが、噂が流れてきたことがあったな。あまりにもひどい試合だったと。
くそ! 目の前にお宝があるのにみすみす逃すなんて……そう思っているとズルタンは続けた。
「今貰っている依頼料では無理だと言っている。白金貨3枚でB級冒険者相当5人を殺してエルフを捕まえ、そのうえ騎士団相手に立ち回り伯爵家の長女を攫うなんて事はしない。白金貨5枚であればやってやる? どうだ?」
そういう事か! それならそうと早く言え。
「分かった。白金貨5枚と金貨10枚だ。この金貨10枚というのは女たちを殺すとき、最初に俺に楽しませること。いいな?」
「商談成立だな。だが1つ、前から気になっていたことを教えて欲しいんだが、伯爵家の神聖魔法使いはどうするつもりだ? ミリオルド公爵の信条は確か神聖魔法使いは即殺す、だった気がするのだが? さすがに殺す相手に白金貨3枚というのはいくらあんたでもやり過ぎだよな?」
「神聖魔法使いは別の使い道があるからな。取引相手はミリオルド公爵だけではない」
こいつに全てを話す必要はないからな。ズルタンはあまり納得してはいなかったようだがもう突っ込んでくることは無かった。
ツルピカハゲマルを呼び作戦会議を始める。
「今サーシャが表に出てきているが、22時以降になるとサーシャはMP枯渇させてから寝るらしいから、23時以降にあいつらを襲うぞ。もしも風魔法を使う者がいたら優先的に狙ってくれ。エルフの子供以外であれば殺しても構わん」
ズルタンがそう言うと視線をサーシャたちの方に向ける。俺もつられて安全地帯で座っている奴らを見るが、やはりあのレベルの女たちを殺すのは勿体ないよな。
ブラッドという獣人にずっと話しかけられているが、つまらなそうにしている金髪のショートカットの美女はスタイル抜群でもう成人間近だろう。もしかしたら成人しているのかもしれない。
同様に赤い髪の男とずっと話をしている眼鏡をかけている女も相当レベルが高い。俺が見た中でもトップ3に入るレベルだ。
そしてもう1人……さっきから鎖で隣の男を縛っている可愛らしい女、もしかしたらこいつは使えるかもしれない。
こいつに女全員を縛らせればもしかしたらサーシャ以外は生かしておけるかもな。
それにしても縛られている男はどこかで見た気がするんだが……俺の知り合いに縛られて喜ぶアホはいないから勘違いか。
作戦会議を続けているといつの間にか22時を過ぎており、ライナーやサーシャが部屋の中に入っていく。
部屋に戻るとなにやら笑い声が聞こえてくる。これから殺されるかもしれないというのに呑気なものだな。
「部屋に入っていったぞ……もうそろそろ準備をするぞ。俺達も今から寝る準備をしよう。準備しながら襲撃の準備をするぞ。作戦決行は23時だ」
ズルタンの言葉に皆が頷くと、今度は大きな声でズルタンが
「さぁみんな! 寝る準備をするか!」
と言うと、それとなくみんなが寝る準備をしながら武器を取りに離れる。
完璧だ。絶対にあの獣人と魔族はこの名演に騙されているだろうな。
俺は戦闘要員ではないためベッドの方に向かう時に異変が起きた。
「っ???」
何故か俺の体が宙に浮いたのだ。
風魔法で浮かされているわけではなく、誰かに後ろから首根っこを持たれている感覚だ。
だが後ろを見ても誰もいない。
ズルタンやツルピカハゲマルは俺が宙に浮いている事に気づいていない。
そして誰もいないはずの俺の後ろから男の叫び声が聞こえた。
「ブラッド! 受け取れ!」
次の瞬間、俺は獣人の男の方に投げ飛ばされていた。
少しでも面白い、続きが気になると思う方は
★★★★★とブクマの方を頂けたら私のモチベーションにも
なりますので是非よろしくお願いしますm(__)m
Twitterやってます。
フォローして頂ければ喜びますのでもし良ければお願いします。
https://twitter.com/qdUYSDZf8XzNaUq










