第268話 ラブラブヒール?
「……という訳です。予定通り明日から迷宮に潜ろうと思うので、注意を怠らないようにしてください」
屋敷に戻り、風呂を済ませた後にみんなに【鬼哭】とゲドーの事を周知するとコディが
「事情は分かった。明日からのパーティ編成を教えてくれよ」
と聞いてくる。
「マルス班
4層以降に潜る班で、俺、アイク兄、クラリス、エリーの4人。
ライナー班
3層でライナー先生、サーシャ先生、カレン、ミーシャ、アリスの5人。
バロン班
2層でバロン、ミネルバ、ブラッド、コディ、義姉さん、ブラム先生の6人。
現状この編成で行こうと思っている。ただアリスがもしかしたら3層はきついかもしれないからその時はまた考える。アリス、無理はするなよ?」
俺の言葉にアリスは「はい!」といつものように元気よく返事をする。
「あとバロン、もし2層が楽勝そうだったらすぐに3層に潜ってきて欲しい」
「分かった。状況を見て判断する。3層に潜った時はマルスかライナー先生に報告するからよろしく頼む」
「ライナー先生、3層は色々な意味で危険です。全員女性という事もありますので色々大変かと思いますがよろしくお願いします」
カレンとミーシャを俺の班に入れることも考えたのだが、オーガは弱い者から狙ってくる傾向があるから今回は耐久値の低い2人を連れて行くのを見合わせた。
「分かった。じゃあ俺とブラムは今から景気づけにちょっとアルメリアの街に出てくる。昼間にいい店を見つけたからな」
たしかにこの街には綺麗どころがたくさん集まっているから、夜の蝶は沢山いるかもしれない。俺も連れて行ってもらおうかな。
そんなことを考えていると俺の右膝をクラリスが叩いて笑顔で俺の事を睨む。
笑顔で睨むって……まるで笑いながら怒る人のようだな。
ライナーたちを見送って夕飯を食べていると、ジークが遅れて食堂に入ってきた。
「父上、先に食べさせて頂いております」
アイクが立ち上がりジークに言うと俺達も全員立ち上がりジークに頭を下げた。
「ああ、気にしないでくれ。用事を済ませた帰り際にラルフの所に行ってきてな。マルスがA級冒険者になったと言ったら目が飛び出していたぞ」
ジークもテーブルに座ると次々とメイドたちが食事を持ってくる。
「お父様、聞いてよろしいでしょうか? どうしてこんなに大きな屋敷にしたのですか? 使用人の数も以前とは比べ物にならないのでびっくりしたのですが」
「ああ、俺も本当は以前の小さい屋敷の方が気に入っていたんだ。家族との距離が近い方がいいしな」
「ではどうして?」
「メサリウス伯爵家の方々がアルメリアに来た時に以前の屋敷のままだとしたら、アイクの顔に泥を塗る事になるかもしれないと思ってな。ゆくゆくはマルスも結婚してフレスバルド公爵家、セレアンス公爵家などの大貴族が来た場合、以前の屋敷のままだとしたらもてなせないからな」
確かに言われてみればそうだな。アイクや俺の事を思っての事だったのか。
「気を使って頂きありがとうございます。父上。今度メサリウス伯爵をお招きしてもよろしいですか?」
「当然だ。そのために屋敷を大きくしたんだからな」
アイクと眼鏡っ子先輩が顔を見合わせて微笑みあう。実にお似合いの2人だ。
夕食を食べ終え【黎明】全員で俺の部屋に戻ると早速エリーがベッドに入り、俺を誘ってくる。
「エリー、ちょっとだけお願いがあるんだ。すぐに寝ても構わないがMPを少しだけ消費しておいてもらってもいいか?」
俺の言葉に何の疑いもなくエリーが音魔法を使うと俺もエリーの隣で横になり、すぐにエリーを寝かしつけた。
「ねぇマルス……ちょっといいかな?」
ミーシャが少しこわばった顔をして聞いてくる。すぐにベッドから出てミーシャの側に行くとミーシャが俺の胸に額を当てて
「ゲドーって私を攫った人だよね? ちょっと……ううん、凄く怖いんだ」
おびえた様子で身を寄せてきた。震える体を抱きしめて、
「ミーシャ、ゲドーは昔ミーシャを攫ったやつで間違いないだろう。だからミーシャには先生方と一緒になってもらったというのもある。サーシャ先生と一緒であればミーシャも少しは安心かなと思ったのだがどうだ? それに何かあっても上にも下にも俺たちがいるからすぐに対処できると思うのだが」
「うん。マルスの気遣いは伝わったよ。ありがとうね。でもやっぱり怖くて……」
やはり11歳の子が自分を攫った者が近くに居るかもしれないと思うと当然不安になるよな。
「多分、俺たちの近くが一番安全だと思うんだが、もし嫌ならこの屋敷にずっとかくまってもらっても構わない。その時は信頼できるブライアント騎士団の人にミーシャを守ってもらうから」
その時は当然【蒼の牙】にお願いしようと思う。
「大丈夫。私も一緒に行く。マルスの言ったとおりだと思うから。ちょっと今日はお母さんの所で寝るね。色々話したいことがあるから」
ミーシャがそう言って部屋を出て行ったので、サーシャのいる部屋まで送り届けると、ミーシャは「ありがとう」と言って、俺のほっぺにキスをしてからサーシャの部屋に入っていった。
部屋に戻るとアリスが
「ミーシャ先輩大分塞ぎ込んでいましたね……流石に神聖魔法で胸をマッサージしましょうか? なんて言えなかったです」
「ねぇじゃあ代わりに私をマッサージしてくれないかしら? 神聖魔法でマッサージをされるとどれくらい気持ちいいのか私も知りたくて」
カレンが俺たちに聞いてきたので3人で俺とクラリス、アリスの3人でマッサージをすると案の定すぐにカレンも寝てしまった。
「先輩! MP枯渇するまでマッサージするので横になってください!」
アリスがそう言ってくれたので横になり2人のマッサージを受けるとすぐにアリスがMP枯渇したようで寝てしまった。
起きているのは俺とクラリスだけになったので
「クラリス、俺達も寝ようか? だけどその前に試したいことがあるんだがいいか?」
「いいわよ? どうすればいいのかしら?」
「いや、いつも通り一緒に寝てもらってくれないか?」
クラリスは俺の言葉に従い、エリーの近くで横になる。
俺はクラリスとエリーの間で横になり、ベッドでクラリスを包み込むように抱きしめある魔法を唱える。
「ラブラブヒール」
するとリーナの時とは別のヒール、この前クラリスに唱えた時と同じラブラブヒールが発現した。
「あったかい……この前と同じね。体に染みわたる感じがしたんだけど……それにマルス、言いにくいんだけど……」
やはりクラリスを抱きしめるとどんな状況でも相棒は元気になるらしい。
こいつはもう百獄刑の事など忘れているのだろう。
まぁこいつの事は放っておいて今はさっきのヒールの検証だ。クラリスを鑑定するとやはり俺の思っていた通りの事が起きていた。
「クラリス、俺のラブラブヒールはどうやらMP譲渡らしい。今クラリスのMPが回復したから間違いない。ちなみにリーナには発現しなかった。今からエリーにも試してみようと思うが、もしも失敗した時は黙っていてくれ」
「だから何か染みわたる感じがしたのね!? 分かったわ。エリーにも試してみて」
俺は反対側で寝ているエリーを抱きしめてラブラブヒールを唱えるとしっかりと発現し、エリーのMPも回復していた。
正直最近で一番ホッとしたかもしれない。もしもエリーが私にも試してと言ってきて失敗したらと考えると恐ろしくてたまらなかったのだ。
「エリーにも発現したよ」
クラリスの方に向き直り言うと、クラリスもホッとしたようで
「良かったわ。私だけだったら封印してもらおうかと思っちゃったわ」
クラリスもエリーだけは特別扱いしているからな。
「なぁこの俺の魔法の名前何にしようか? さすがにラブラブヒールではないと思うし……なんか注入って感じがするから……」
ラブ注入と言おうと思ったのだがやめておいた。もしも嫌がられるとなんか俺が傷つくし、俺以外にも傷つく人が居るかもしれないからな。
え? 注入するのは違う物だろうって?
紳士な俺には分からないからあとで教えてくれ。
「そうね……私としてはラブという言葉から離れたいんだけど、なぜかエリアヒールと唱えるよりもラブラブヒールと唱えた時の方が、回復範囲が広くなっている気がするのよね。それを考えると……」
2人でずっと考えていたのだが結局決まらなかった。やはりミーシャに相談したほうがいいのかもしれない。
結局クラリスと2人でラブラブヒールを唱えながら寝ることにした。
2031年12月2日 0時
昨日クラリスに合わせて21時に寝てしまったので0時に起きてしまった。
クラリスと抱き合っていたせいか相棒はずっと絶好調のままだった。
しっかりと自家発電をして相棒を鎮めてから屋敷を出て走ろうとするとちょうどライナーとブラムが酔っぱらって屋敷に戻ってくるところだった。
「こんな時間まで飲んでいたのですか? 楽しめましたか?」
俺の言葉にライナーが
「ああ! この街は最高だな! 今度マルスも一緒に行くか?」
「ええ、社会勉強の為にも今度連れて行ってください。今から走りに行ってくるのでどこら辺にあるか教えて頂いてもよろしいですか?」
ライナーとブラムにしっかりと場所を教えてもらってから屋敷を出て、店を目指しながら走る。
え? 1人で行くのかって? ただ見に行くだけだから安心してくれ。
もう1時近いというにも関わらず、アルメリアの街はまだ眠っていなかった。
夜のアルメリアは昼とは違った表情を見せる、昼は食事処からいい匂いが立ち込めていたが、今は女性たちのいい匂いと、酔っぱらいの酒臭い匂いが混ざり合っている。そして綺麗な女性たちが店の前に立っており、魅入られたように男たちが店に入っていく。
女性たち以上にブライアント騎士団が目立つ。昼よりも明らかに夜の方が警備をしている騎士団員の数は多い。
酔っぱらいや冒険者、夜の蝶をすり抜けるようにライナーに教えてもらった店の前に行き立ち止まると、急に後ろから肩を掴まれて
「あらぁ。可愛い子ね。食べちゃおうかしら」
図太いダミ声に鳥肌が立ち振り返ると、身長180cmくらいの俺よりも背が高く、青髭がうっすらと生えている女性の格好をした男が、まるでライオンが今から小鹿を食べるかのように涎を垂らしていた。
店の名前を見ると「珍ガール」と書いてあった。
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