第263話 百獄刑
結局プランC……2度書き直しました。
「随分探したんだからね!? 私の時間を奪うなんて責任取ってもらうわよ?」
眼鏡っ子先輩ばりの謎理論を言いながら俺たちに近づいてくる。
クラリスとエリーはもう警戒心MAXだ。
「カストロ公爵、それにスザク様、どうなされたのですか?」
大きな音を立てて扉を開けた人物……カストロ公爵が俺の方に歩きながら話しかけてきたので、とっさに立ち上がって質問をすると
「もう知っていると思うけど、エルシスが神聖魔法使いの2人を襲ったのよ。幸いスザクとヒュージが近くにいたからすぐに取り押さえることができたんだけど……」
カストロ公爵がスザクの方を見ながら言うと
「まぁあいつが暴走するタイミングは俺とレオナは良く分かっているからな。もしかしたらと思ってビャッコとヒュージと俺の3人で医務室に運ばれていたエルシスを見張っていたんだ。そしたらあいつが目を覚ました瞬間、今まで自分を癒してくれていた神聖魔法使い2人に襲い掛かってな……そのうちの1人はこの前マルスが話していたリリアンという子だ」
俺とクラリスの嫌な予感は当たってしまった。
「リリアンは大丈夫なのですか?」
「ああ……すぐに取り押さえたからな……だが精神的に少し参っている」
女の子がエルシスに襲われたら誰でもトラウマになってしまうよな。
「それで今エルシスはどうしているのですか? ちょっと怖くて……」
クラリスが2人に聞くとカストロ公爵が
「エルシスはカストロ騎士団が捕えています! 極悪非道なエルシスを私自らの手で裁くので明日の朝、興味がある者はコロシアムに来なさい!」
カストロ公爵は俺たちにというよりも、このお店の冒険者に向かって大きな声を張った。
もしかしたらソフィアばりの地獄耳で店の外から聞いていたのかもしれない。
大きな声で話し終えると俺の方を向き
「マルス君も明日の朝、必ずコロシアムに来なさい。アリス、本当の神聖魔法の使い方を明日教えてあげるわ」
そう言い残すとカストロ公爵は店の外に出て行った。
「マルス、今日はエルシスのせいで祝勝会に参加することが出来ないと思う。すまないが今度改めて祝わせてくれ」
カストロ公爵の後を追ってスザクが店を出ると、カストロ公爵の事を罵っていた冒険者たちの顔が青ざめていた。聞かれたかもしれないと思っているのであろう。
「本当の神聖魔法の使い方ってなんでしょうか? とても気になるんですけど……」
「ああ……明日になれば分かるだろう。ローマンの街を出発する前にコロシアムに行くとしよう」
アリスが俺に神聖魔法の本当の使い方というものを聞いてくるが流石に俺も分からないのでこう言うしかなかった。
2人が外に出て行った後もみんなで騒ぎ、ミーシャが床と友達になったところでお開きにした。
宿に戻り風呂に入ってから、カレンとミーシャの部屋にお邪魔する予定だったのだが、ミーシャはもうグロッキーでカレンも昼間にローマンの街を散策して疲れていそうだったので自室で大人しく寝ることした。
2031年12月1日
筋トレも終わり、風呂に入ってからみんなで朝食を取る。
「マルス、今日はどうするんだ?」
アイクが今日のスケジュールを聞いてくる。
「昨日カストロ公爵にコロシアムに来いと言われておりますので、コロシアムに行ってからアルメリアに向かおうと思います。いいですか?」
「ああ。じゃあ荷物はここに置いてコロシアムに行くか」
みんなで話をしているとリーガン公爵たちが俺たちの所にやってきて
「昨日は申し訳ございませんでした。しっかりとマルスを祝福したかったのですが、エルシスが余計な事をやってそれどころではなくなってしまって……」
「エルシスはどうなるのでしょうか?」
恐る恐るリーガン公爵に聞いてみると
「相当重い罰が下されると思います。エルシスの件につきましては、被害者であるレオナに任せております。もしも刑が軽い場合はレオナを円卓会議で問い詰める予定です。レオナもそのことは分かっていると思いますので恐らくは……」
リーガン公爵はそこまで言うと言葉を濁した。
さすがに今は食事中だから死刑とは言わなかったのだろう。
みんなを見渡すとクラリスとエリー以外はどこか楽しみというような雰囲気を醸し出していた。
こっちでは娯楽が少ないからこういうのは一大イベントなのだろう。
俺とクラリスは元日本人だからこういうのは得意ではない。そしてエリーはというと、そもそも興味がないといった感じだ。エリーらしいといえばエリーらしい。
朝食を終え、コロシアムに向かうとA級冒険者昇格試験の初日よりも道が混雑していた。
みんな今日のエルシスの断罪を楽しみにしているのだろう。
俺とクラリス、エリー以外のメンバーもダンスのステップをするかのように軽やかにコロシアムに向かう。
元日本人2人の足取りは重く、エリーも俺たちに合わせて遅い。
当然俺とクラリスとエリーの3人がみんなから少しずつ取り残されていくと
「なんか……いくらゲスな人でもこういうのを見るのは嫌よね……マルスはどう?」
「ああ……俺も得意じゃないな……でもこっちで生きるためには慣れないといけない事かもしれないしな。クラリスは無理しないでくれ。このままの優しいクラリスの方が好きだからな」
クラリスにそう言うと「ありがとう」と言って俺の右手を恋人握りし、それを見たエリーも俺の左手を恋人握りすると満面の笑みを向けてくれた。
2人と手を繋いだことで俺の心が少し軽くなった。
コロシアムに着くと、観客席は超満員らしくコロシアムの外にも人が溢れていた。
どんだけみんな楽しみにしているんだよ……
「あ、いた! マルス! どうする? これじゃあ入れないよ?」
俺達3人よりも先に着いていたミーシャが俺の所にくると、その他の者たちもみんな俺の所に来た。
「これは仕方ないだろう……宿に戻るか」
諦めて宿に戻ろうとするとちょうど俺の近くで時計の紋章が刻まれた馬車が止まった。カストロ公爵の馬車だ。
「なに帰ろうとしているのよ? ちゃんとマルス君たちの席は用意してあるから来なさい」
馬車の中からカストロ公爵に話しかけられる。
そしてカストロ公爵の隣にはスザクがいた。
「マルス、裏口から入るぞ。付いてこい」
スザクに言われ、2人を追うとゲンブと戦った時にシールズ公爵たちが使ったコロシアムの裏口に着いた。
裏口はカストロ騎士団と思われる者たちが厳重に警備していた。
鎧に時計の紋章が刻まれた騎士団員たちの横を通り抜け、コロシアムの中に入ると観客席の一角だけ空いているスペースがあった。
「マルス君たちはあそこの席に座ってね。スザクは貴賓室ね」
カストロ公爵に促されて席に着くと、そこはどうやらAランクパーティ専用のスペースらしく、審判をしていたA級冒険者と共にそれぞれのパーティメンバーも座っており、驚いたことに俺の前には昨日エルシスに襲われたというリリアンが座っていた。
俺から声をかけようとしたのだが、もしかしたら男に不信感を抱いているかもしれないと思い、クラリスに目でサインを送るとすぐにクラリスは分かってくれて
「リリアンよね? 大丈夫だった?」
優しい声でリリアンの後ろからクラリスが声をかけた。こういう時自分のサトラレ体質は役に立つな。
「クラリス……さん? うん……まだちょっと怖いけどなんとか……ありがとう声をかけてくれて。ちゃんと話したことなかったし、私の憧れの存在だったから」
そうか、この2人接点ないのか……エリーとリリアンがちょっとあるだけだが、この2人の出会いは最悪だったよな。そう思いながらエリーの方を見ると案の定エリーはリリアンを威嚇するような目で見ていた。
リリアンは思ったよりも精神的ダメージを受けていないように見えた。
俺も会話に加わり3人で少し話をしていると、カストロ公爵が手に杖を持って選手控室からコロシアムの中心に向かって歩く。
いよいよエルシスの刑が執行されるらしい。
「皆さん! 私はカストロ公爵家当主レオナ・バルサモです! 今日はエルシス・エルストの私への侮辱罪、そして貴重な神聖魔法使い2人を襲った罪を裁きます!」
カストロ公爵の綺麗な声がコロシアムに響くと、会場中からは歓喜の声が上がり、コロシアムが揺れるほどだった。そして「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!」というコールが観客から湧き上がる。
そのコールと共に上半身を縄でぐるぐる巻きにされたエルシスが、つるべ井戸の桶のようにテコの原理で宙づりの状態で運ばれてきた。だいたい地上から3mくらいの高さで宙ぶらりんとなっている。近くに縄を持つ者がおり、その縄を離すとエルシスは垂直に落下する仕組みなのだろう。
特徴的なのがエルシスの下半身だった。今から股裂きをするのかというくらい開脚しており、エルシス本人も相当痛そうだ。
そしてエルシスと一緒に大木が運ばれてきてエルシスの下に設置された。
おいおい、もしかしてこれって縄を離すと……相棒が大木に直撃するやつじゃないか?
そう思っただけで、俺の体から少し脂汗が出てきて、相棒が完全に委縮してしまっている。
それは俺だけではなく、アイクやブラッド、コディ、そしてバロンまでも顔が青ざめそして顔からは脂汗が滲み出てきている。会場中の男たちもみんな同じことを想像したらしく血の気が引いていた。
流石にバロンもこれをやってみたいとは言わなかった。
「今日でエルシス・エルストという男を殺します! ですがエルシス・エルストは生かします! それでは百獄刑を始めます!」
百獄刑? 多分やる事はアレだよな?
そう思っているとやはり予想通りの事が行われた。
縄を持っていた男が縄を離すとエルシスは股裂きの状態で下に置いてある大木にフリーフォールする。
「ぎょえええぇぇぇえええ!!!」
エルシスの叫び声と共に鈍い音がすると、エルシスの全身から滝の様な汗が零れ落ちた。
完全にクラッシュしただろう……会場からはエルシスの叫び声しか聞こえない。
男たちはみんなで自分の相棒を無意識に抑えている。
中にはまるで自分が食らったかのように倒れこむ者もいた。
それに対して女性たちは少し痛いくらいでしょ? みたいな感じで見ている。
いや……本当にこの痛さは半端じゃないんだ……さすがにエルシスの様な体験はしたことは無いがな。
でも血も出なかったし良かったなと思っていたら、なぜかまたエルシスが宙づりにされた。もう潰れているからそこまでのダメージを負わせることは出来ないのに、なぜまた宙づりにするんだろうと思っていると、カストロ公爵はとんでもない事をやり始めた。
勘のいい人はもうお気づきかもしれないが、手に持っていた杖をエルシスの潰れたであろう場所に充てると
「ヒール!」
大きな声で叫ぶ。
あ……これ絶対にやっちゃダメなやつだ……
どうやらしっかりと回復されたようでエルシスの顔は絶望に染まっている。
隣でクラリスが
「これが本当の神聖魔法の使い方なのね……確かにこれなら……もしもマルスが浮気した時に……」
怖い事を呟いている。
この言葉にもう俺の相棒は完全にダウンしている。何日間か相棒は立ち上がる事ができないだろう。
カストロ公爵は何という事を女性陣に教えてくれたんだ。
コロシアムにはエルシスの「ぎょえええぇぇぇえええ!!!」という叫び声が壊れたスピーカーのように何度も響き渡る。
先ほどまで楽しそうに殺せコールをしていた男たちが我先にとコロシアムから出て行く。
確かにこんなのずっと見せられたら夢に出てくるよな。
何度目かのエルシスの叫び声を聞いた後についに俺も耐えきれなくなり、席を立ちあがると呼応するようにアイクたちも立ち上がった。
俺たちが逃げるようにコロシアムから立ち去ったのは言うまでもないだろう。
ここまで読んで頂きありがとうございます。
これでもかなり残酷なシーンは削ったつもりですが……
カストロ公爵のMPが無くなると、次は襲われたリリアンがやるという件も書いたりしてました(笑)
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