第245話 考察
???
「ミリオルド公爵はいるかしら」
ミリオルドの屋敷を警備しているいつもの門兵に話しかけると
「申し訳ございません。ミリオルド公爵は現在外出しております」
ミリオルドが外出? ラースがそんなことを許すわけが無い……
「ではラースの所まで案内してもらえるかしら?」
門兵が頷き、そのまま私をラースの部屋まで案内する。普通であれば執事が案内するのだろうが、この屋敷はそうはならない。 門兵に屋敷の中を案内されてラースの部屋の前まで着くと
「ラース様! カミラ魔公爵がお見えになっております」
門兵の言葉に部屋の中から「入れ」との返事がする。部屋に入るとラースはいつものように寛いでいた。
「ラース、久しぶりね。ミリオルドを外出させるなんて珍しいわね。どこに行ったのかしら?」
いつもの仮面をしたラースに聞くと
「リスター帝国学校だ。カエサルを脅そうと思ったのだが、やはりもう先手を打たれていた。カミラ、ウピオルをまたカエサル公爵領で暴れさせろ」
「ウピオルは半年前にデアドア神聖王国で命を落としたわ。ウピオルだけではなく、ヴァンパイア5伯爵全員死んだわ」
私の言葉にラースは久しぶりに驚いた表情を見せた。
「死んだ? 殺されたのか? ウピアルの事は報告を受けていたが他の4人もか? やはり【剣神】に殺されたのか?」
「分からない。1つだけ言わせて。私はあの子と組むのをやめるわ。ラース、あなたとであればいいけど、あの子……ヨハンが来てから何かおかしいわ……」
杞憂であればいいが、念には念をだ。疫病神とは言わないが、ここまで計画が狂う事なんて過去になかった。
「そんなこと言うな。ヨハンは俺たちの切り札だ。【剣神】を殺せる確率が最も高いのはヨハンのジュデッカだぞ!? 俺のジュデッカでもいいのだが【剣神】が苦しんで死ぬところはしっかり見たいだろ? 積年の恨みもある。それにカミラなら分かるだろう? ジュデッカが発現するという事は……【剣神】さえ倒せばまた俺たちの時代がやってくる。それまでの辛抱だ。本当は俺自身で俺と同族の仇を取りたかったが……」
「確かにラースの言う通りだけど……でもヨハンだけはもう組まないわ。次は我が身と考えるとゾッとするもの。それで? ヨハンは今どこに?」
「ミリオルドと一緒にリスター帝国学校に行ってもらった。カエサルを追い込めばもしかしたらリーガンが【剣神】を呼ぶかと思ったのだがな。そのためにヨハンを同行させたのだが、フレスバルドを頼ったようだ。もっと煽らないと【剣神】は来ないらしいな。A級冒険者の死体で出てこないのであれば、次はリーガンのお気に入りの生徒たちの死体でも送り付けてやれば……
だが収穫もあった。いや、もしそうだったら大収穫だ。なぜリスター帝国学校に居るのかが分からないが……【剣神】さえいなければ俺自ら出向くのだが……」
リスター帝国学校で何かを見つけたらしい。そして何やら独り言を言って、物思いにふけっている。
ラースの目の前の机には使用済みの呪符が置かれていた。当然これを使ったのは分かっている。こういう時仮面を被らせていると便利ね。ミリオルドの額の呪符を仮面で隠せるから。
あと気になる事が1つ、本当に天大陸から【剣神】が戻ってきているのか? 【剣神】が戻ってきているのであれば、目撃証言の1つや2つあってもいいと思うのだけれども……一抹の不安を抱えてラースと今後の事を話し合った。
☆☆☆
2031年11月11日 10時
「じゃあまた来年な」
「ああ、来年来られたらまた来るよ」
俺達はドミニクとソフィアを送り出した後に、俺、アイク、そしてコディの3人はリーガン公爵の屋敷に向かった。
ドミニクたちと別れたら3人で屋敷に来いと言われていたのだ。今日は学校が休みだから校長室ではなく屋敷だ。
「ようこそ。待っておりました」
リーガン公爵が俺たちを出迎えてくれると早速部屋に入り、リーガン公爵たちに質問を受ける。
たちというのはフレスバルド、セレアンス、そしてカエサルを含めた4人の公爵の事だ。
「マルス、あなたの鑑定でもミリオルド公爵本人という結果でしたが間違いないですか?」
「はい。間違いないです」
「であれば、どうしてミリオルド公爵はあんな挑発的な態度を示したのでしょうか? 私たちリスター連合国の公爵はザルカム王国の王族と同格であって、その下のザルカム王国の公爵であればいくら同じ公爵と言えどもあのような振る舞いはしないと思うのですが?」
やはり考えることは同じなんだな。どう考えても自殺行為としか思えない。だから余計に不気味なのだ。ミリオルド公爵が。
「コディ、あなたにも質問です。遠目でミリオルド公爵を見ていたと思います。ミリオルド公爵は呪われていたようなのです。コディなら何か分かるかと思って呼んだのですが、ミリオルド公爵の呪いについて何か分かりますか?」
リーガン公爵の質問にコディが
「推測の域を出ないのですが、あの仮面は額を隠すものではないのでしょうか? もしもそうであれば、呪符を使った呪術かと思われるのですが、相当な熟練者、少なくとも姫クラスの呪術王でもない限りそんな事は不可能です。ですからもしもそうだった場合、ミリオルド公爵のバックには魔族がいると考えていいのではないでしょうか? 呪術は魔族しか使えないはずですし……」
姫……たしかヒメリだったっけ? 呪術王なのか。まぁ呪術って魔法っぽい感じはしないから七大魔法でなくても称号がつくのはなんとなく理解できるが……
女性の呪術といえば白衣に扮し、灯したロウソクを突き立てた鉄輪を頭にかぶり、藁人形を杭で打つというのを連想してしまうのは俺だけだろうか? 考えただけでも寒気がするが……
「魔族がミリオルド公爵についておりますか……これは少し厄介かもしれませんね。フレスバルド公爵、申し訳ないのですが、フレスバルド騎士団をリーガンにも少し配置して頂けませんか? もちろんお金は払いますので」
「分かった。第6騎士団半数をリーガンに派遣しよう。元々リーガン領とフレスバルド領の関所に騎士団を置く必要が無いくらい平和だからな」
フレスバルド騎士団がリーガンにいれば多少は抑止力になるだろう……しかしあのミリオルド公爵にはあまり関係なさそうな気がするが……
「あなた方も何か疑問があれば」
リーガン公爵が俺たちに問いかけてきたので
「カエサル公爵、ミリオルド公爵はやはり僕から見ても異様な雰囲気でした。カエサル公爵が見たミリオルド公爵はやはり覇気がなかったですか?」
「ああ。そうだ。操られているとしたらしっくりくるな」
やはり呪符で操っているものが裏にいるのか?
「リーガン公爵、ヨハンは復学させるのですか? 僕としてはミリオルド公爵よりもヨハンの方がよっぽど怖いのですが……」
俺の言葉にリーガン公爵も先に、セレアンス公爵が反応した。
「なんだ? マルスが怖いというのはなぜだ? マルスよりも強いわけがなかろう? 俺も見たがあの男からは何も感じなかったぞ? かくいうマルスにも何も感じないのだが……まさか!? あいつもマルスと同じくらい強いというのか!?」
おーなんかかなり勘が鋭いな……
「分かりません……ですが復学させるのであれば慎重にしたほうがいいかと思いまして……出しゃばったマネをして申し訳ございませんでした」
「ヨハンがミリオルド公爵の養子になった今、復学させるのはかなりのリスクと思っております。再受験してリスター帝国学校に入ろうとしても何らかの理由をつけて落とそうと思っております。マルスの方からその言葉を言ってもらって良かったです」
まぁリーガン公爵も俺に言われなくても分かっていたよな。だけど言葉にしてもらわないと不安だったから敢えて聞いてみたんだ。
「アイク、あなたは卒業式が終わったらマルスとずっと一緒に行動してください。まずはマルスのA級冒険者昇格試験に帯同し、リムルガルド城へ行き、そしてグランザムです。ですがリムルガルド城攻略後、何か変わったことがあればここに戻ってきてください。順調にいけばグランザムに行く頃にはメサリウス伯爵となっているはずです。予定はエーディンの誕生日の4月1日です。コディも同じくマルスと行動を共にしてください。コディは少し目立ってしまうから、その1年Sクラスの制服を貸与致します」
リーガン公爵の言葉にコディが何かを言いかけようとするが、コディよりも先にフレスバルド公爵が口を開いた。
「マルス、クラン【暁】にフレスバルド公爵家から正式にクエストを依頼したい。依頼内容はリムルガルド城下町の治安維持活動だ。期間はスザクやマルスたちがリムルガルド城に潜っている間。それにコディ、コディにも同じ内容のクエストを依頼したいのだが? コディの場合は冒険者登録していないからクエストと言うよりかはお願いと言う形になるが、報酬はしっかり払わせてもらう。
アイクに関してはスザクから聞いている。アイクがメサリウス伯爵になった際にはフレスバルド家から代官を引き上げさせよう」
この言葉にコディがホッとしたように
「あ、ありがとうございます。ただ働きじゃなくてほっとしました」
安どの表情を見せると
「ありがとうございます。よろしくお願いします」
「僕の方も承ります。よろしいですよね? リーガン公爵?」
2人の後に俺も首を縦に振った。一応リーガン公爵にお伺いを立てておかないとと思って聞いてみると
「ふふふ……当然お願いします。マルスも抜け目ないですね」
と当然のように許可が下りた。
「うむ。皆よろしく頼む。マルス、報酬は何がいい? 金で良ければ用意できるが?」
もう答えは最初から決まっていた。
「それでは今後何かあった時にお力添えをお願いします」
俺の言葉にフレスバルド公爵は満足そうに頷いた。俺としてはリムルガルドの事で便宜を図ってもらおうと思っていたのだが、もしかしたら報酬はいらないと捉えられたのかもしれない……
「ところでA級冒険者の昇格テストはどこでやるのですか? 今年もバルクス王国のどこかですか?」
俺の質問にリーガン公爵が
「今年は新入生闘技大会を行っているコロシアムでやります。そして円卓会議もリーガンでやりますから卒業式もA級冒険者のテストも両方出ることが出来ますし、観戦することもできます。A級冒険者のテストは一部の者しか観覧することが出来ませんが」
なんか客を入れれば金を取れそうなものだが……俺の表情を見て察したリーガン公爵が続けて
「A級冒険者になる、ならないは本人だけでなく、パーティメンバーにも多大な影響を与えます。AランクパーティかBランクパーティかで報酬が全く違いますからね。尤もほとんどがA級冒険者の取り分となり、パーティメンバーにそこまで分配されないという話ですが、独立した時に元Aランクパーティ所属と言う肩書はかなり強いですから。
それだけ経験を積んでいるという事なので有望な新人がそのパーティに集まりやすくなります。少し話がずれてしまいましたが、パーティメンバーも観戦しているのでかなり殺気立っております。一般の観客を入れると少々危ないので、限られた者たちしか入場させないというのが理由の1つです。
もう1つは戦っている本人たちも自分たちの戦いをあまり見せたがりません。まぁこれは当然なのですが、次の年の入れ替え戦までに研究されてしまうからです」
あぁそうか……最初の理由はともかく、自分の実力を見せないというのは重要そうだな。
「まぁA級冒険者への試験の事はまた後日話します。今日はミリオルド公爵の事を聞きたかっただけですので。これからお昼にしますが、一緒に食べて行きますか?」
当然4人の公爵と一緒にご飯なんて緊張するだけだし、今日は久しぶりにクラリスの手料理を頂けるとの事だったので
「僕はこれから用事がありますので、失礼させて頂きます」
俺が断るとアイクも断り、渋々と言う感じでコディも断った。
さて【黎明】部屋に行ってご飯を食べてからクラリスと昨日の話の続きでもするか。
次回は日曜日更新予定です。










