第243話 ミリオルド公爵
2031年11月10日9時
「ようこそリスター帝国学校へ!」
「リスター祭へようこそ!」
俺たちは今リスター帝国学校の正門からすぐ入ったところで、少しご機嫌斜めな来場客の機嫌を少しでも治すために必死になって笑顔を振りまく。
なぜ来場客の機嫌が悪いのかって? それは正門の前にはフレスバルド騎士団でも精鋭の朱雀騎士団50名が入場者を厳しくチェックしているからだ。
昨日フレスバルド公爵の護衛としてきた朱雀騎士団がそのままリスター帝国学校の警備を引き受けてくれたのだ。
荷物検査やボディチェックもある。女性の来場者はサーシャを始め、リスター帝国学校の女性教師がチェックをする。
厳しいチェックを受け、少し不服そうな来場者たちの機嫌を取るために、メイド喫茶と闘技場に居た者たちが笑顔を振りまいて声を出している。
俺はというと先日リーガン公爵から拝領した水精霊の剣を片手に持ちながら来場客に向かって笑顔を振りまいている。クラリスたち女性陣もエリーを除いてみんな笑顔で手を振る。
「マルス君! こっち向いて!」
「マルス様! 今日こそ宿に来てください! 部屋番号は……」
相変わらず自分でも驚くくらいの人気っぷりだ。
「マルス、あの子たちの言葉を鵜吞みにしないでよね? 私たちはマルスの事を信用してそのマントを渡したんだからね?」
クラリスが少し頬を膨らませながら言ってきた。そう俺はついにあれを装備することを許されたのだ!今日だけだが……
【名前】マルス・ブライアント
【称号】雷神/風王/聖者/ゴブリン虐殺者
【身分】人族・ブライアント伯爵家次男
【状態】良好
【年齢】11歳
【レベル】46
【HP】122/122
【MP】8289/8289
【筋力】113
【敏捷】110
【魔力】128
【器用】107
【耐久】106
【運】30
【固有能力】天賦(LvMAX)
【固有能力】天眼(Lv10)
【固有能力】雷魔法(Lv10/S)
【特殊能力】剣術(Lv9/A)
【特殊能力】火魔法(Lv5/D)
【特殊能力】水魔法(Lv5/D)
【特殊能力】土魔法(Lv7/C)
【特殊能力】風魔法(Lv10/A)
【特殊能力】神聖魔法(Lv8/A)
【装備】雷鳴剣
【装備】水精霊の剣
【装備】鳴神の法衣
【装備】偽装の腕輪
【装備】男のロマン
ついに念願のブツを装備することが出来た。え? ついに女湯を覗きに行くのかって? 俺は紳士だからな。そんなことするわけが無いだろう? 一番したいことは……今度クラリスに許可を取ってから発表する事にしよう。
「当然だよ。俺は世界一の幸せ者だからな。クラリスの信用を裏切る事は絶対にしない……と思う」
最後歯切れが悪くなった俺にクラリスがより一層心配をするが
「……大丈夫……マント……クラリスの匂い……」
そう。エリーの言う様にこのマントからクラリスのいい匂いがするのだ。俺はこの匂いを纏えるだけでも幸せなのだ。
エリーの言葉にクラリスは少し安心したのかまた来場客に向かって天使のような、いや女神のような笑顔を振りまく。そのせいか来場者たちは一向に俺たちがいる正門付近から進もうとしない。
「先に進んでください! 後ろが詰まっています!」
ローレンツたち教師陣が大きな声を上げて一生懸命叫んでいるが、クラリスに魅了された来場客は全く動かない。するとライナーが俺たちの所にやってきて、
「マルス、クラリス、エリー、アイク、エーディン、リーガン公爵がお呼びだ。来てくれ」
俺たちはライナーの指示に従い臨時に設置されたリーガン公爵たちがいるテントに向かった。
俺たちが正門付近から姿を消すと来場客もどんどん学校の中に流れていく。テントの中に入った俺たちに対してリーガン公爵が
「あなた達の人気を甘く見ておりました。クラリス、あなたもしかして魅了眼も持っていませんか?」
まぁあの人気っぷりを見たらそう思っても仕方ないよな。クラリスが首を振って否定すると
「まぁいいでしょう。今年のミスリスターの投票もほぼマルスとクラリスの2人に集まっておりますが、2人共今回は特別賞という事にします。もちろん【暁】からもミスリスターを出しません。来年はあなた達に色々やってもらう事があると思いますので。ただ節目の行事にはリスター帝国学校の顔として参加してもらうと思いますので、よろしくお願いします。いいですか?」
当然俺とクラリスは頷く。そしてその時だった。リーガン騎士団員がテントの中にやってきて
「失礼します! ミリオルド公爵と思われるものが来ました!」
リーガン騎士団員の言葉でテント内に緊張が走る。俺はエリーの右手を握るとやはりエリーは少し震えていた。クラリスもエリーの左手を握っており、優しい表情でエリーの頭を撫でていた。
「フレスバルド公爵、セレアンス公爵。準備はいいですか? あなた達5人も一緒に来てください。エリー? 大丈夫ですか?」
リーガン公爵の言葉にフレスバルド公爵とセレアンス公爵は頷いた。ちなみにカエサル公爵と息子のケビンはここにはいない。まぁ当然だよな。ミリオルド公爵のターゲットだと思われる人物をわざわざここに連れてくることはない。
「エリー? 本当に大丈夫か? もしもダメそうだったら言ってくれ」
「……大丈夫……私が……」
エリーはそう言って自らを鼓舞しているようだった。
「では行きましょう」
エリーの言葉を聞いてリーガン公爵が号令をかけると、3公爵を守るようにレッカとディバルを中心にフレスバルド騎士団が展開し、カエサル公爵を迎えに行ったとき以上に厳重な警備を敷いた。
当然来場客はまた何かの見世物かと思ってまた足が止まるが、今回は先生たちが強引にでも来場客を歩かせた。
俺たちが正門付近に行くとちょうど門の向こうから1台の馬車をチャコールグレーの鎧を身に纏った20名くらいの騎士団と思われる者たちが警備をしながら歩いて来ていた。
「マルス、分かっているとは思いますが、鑑定は私が言うまで行わないで下さい。戦闘行為とみなされても仕方ありませんからね」
「わ、分かっております。許可が出たら鑑定致します」
あぶねー。ちょうど今から鑑定しようと思ったところだった。あと数秒遅れていたら鑑定していたな……馬車が近づくにつれて俺の左手を握るエリーの手の力が強くなっていく。
朱雀騎士団が馬車の周りを警備している者たちを止めると、馬車の中から顔の上部だけを隠した仮面をかぶった男が降りてきた。こ、こいつは……俺がそう思ってクラリスを見るとクラリスも驚いていた。
「マルス……あの人って、あの時の……奴隷オークションの時の人よね?」
「ああ。俺もあの仮面を見てすぐに思った。カエサル公爵が仮面と言っていたからてっきり顔全体を隠しているものだと思っていたが、まさかあの仮面だとは……」
仮面をつけた男が杖をついてゆっくりとこちらに近づいてくる。あの杖は見たことがある。確か昔ヨーゼフが装備したものだ。気になるエリーはというと何故か俺の手を握る力が弱くなっていた。表情も心なしか緊張感や恐怖心が和らいでいる気がする。ミリオルド公爵は少し離れたところで止まりリーガン公爵に対して
「ミリオルド公爵家当主ビシャリ・グランツ。道中色々あったが、盛大な歓迎痛みいる」
仮面の奥から声が聞こえた。どこか生気がない感じがする。覇気も感じられない。人形が声を出しているというか操られているというか……間違いなく奴隷オークションの時の声とは違う……と思う。
カエサル公爵が異様と言っていたが確かに異様だ。しかし本当にカエサル公爵はこれを異様と言ったのか?
それにかなり上から目線で話してくるのも気になる。フレスバルド騎士団に囲まれているのにもかかわらず尊大な態度をとるとは自分にかなり自信があるのか、それともバカなのか?
「リーガン公爵家当主セーラ・エリザベスです。まずはその怪しい仮面を取って頂けますか?」
リーガン公爵はいつもと違う。言葉は丁寧なのだが、どこか攻撃的な言葉遣いだ。怪しい仮面って……言い方はもっとあるだろうに。
「額に疾患があって仮面を外すことが出来ない。その為ずっと仮面をつけて生活している。だから人前に出るのも憚られるのだ」
「それではこの鑑定水晶で確認を……」
リーガン公爵の言葉をミリオルド公爵が遮り
「鑑定水晶も嫌な噂を聞く。魂を抜かれると。魔眼で頼む」
魂が抜かれるって……写真じゃないんだから。それに覇気がない声でそこまでの要求には違和感しかない。
「マルス、エーディン。こちらに来なさい。2人でミリオルド公爵を鑑定してください」
リーガン公爵に促されて眼鏡っ子先輩がミリオルド公爵の方へ近づく。俺はというとエリーが心配でなかなか近づけないでいると、エリーが俺の耳元で小声で囁いた。
「……あいつ……違う……行ってきて……」
偽物か? だが俺自身もそんな気はしている。エリーの震えが止まっているからなおさら偽物だと思ってしまっている。
少しの間逡巡しているとリーガン公爵から催促されたのでリーガン公爵の方へ行くと、リーガン公爵と眼鏡っ子先輩はもう既に鑑定を終えていたらしくミリオルド公爵の鑑定結果を紙に書いていた。
まず2人の鑑定結果を見ると
【名前】ビシャリ・グランツ
【身分】人族・ミリオルド公爵家当主
【状態】良好
【年齢】42
【レベル】30
【HP】52/52
【MP】6/6
【筋力】21
【敏捷】20
【魔力】5
【器用】22
【耐久】22
とまぁ大体こんな感じだった。大体というのは2人の鑑定結果に多少の差異があったのだがまぁそこまで大きくは変わらない。
眼鏡っ子先輩の方にもスキルが書かれていなかった。クラリスが偽装の腕輪を外したときもスキルの鑑定は出来ていなかったからな。予想通りと言えば予想通りだった。そして俺が鑑定すると……
【名前】ビシャリ・グランツ
【称号】-
【身分】人族・ミリオルド公爵家当主
【状態】呪い
【年齢】42
【レベル】60
【HP】162/162
【MP】6/6
【筋力】31
【敏捷】30
【魔力】15
【器用】32
【耐久】32
【運】0
【特殊能力】剣術(Lv1/G)
【特殊能力】槍術(Lv1/G)
【装備】封印の杖
【装備】偽装の腕輪
は? 明らかにおかしい。レベル60?
60の割りにはステータスが低すぎるだろ?
レベル60までパワーレベリング出来る環境があるという事か?
スキルも両方ともレベル1ってあり得るのか?
そして最も気になる所はやはり『【状態】呪い』だ。だがこいつは間違いなくミリオルド公爵だ。
俺が鑑定した結果を紙に書くとリーガン公爵は表情を崩さなかったが、眼鏡っ子先輩は明らかに表情に出して驚いていた。ちなみに運や称号、才能は書かなかった。
俺は鑑定を終えるとすぐに下がり、エリーの下に行き、耳元で
「本物だった」
小声で言うとエリーも驚いた表情を見せた。
そして俺の体、いや眼は俺の意識とは別にある方向に対してずっと警告を鳴らしている。ミリオルド公爵に集中しようとしても眼が勝手に馬車に向かってしまうのだ。
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