第240話 和解
「どうだ? コディ? 今の気分は」
「ああ! 生まれてきてから最高の時間を過ごさせてもらっているよ!」
コディは右手に持ったジョッキを一気飲みして満足そうに言った。両脇にはミーシャとアリスがおり、一気に飲み干したジョッキにミーシャが聖水を注ぎ、2人でコディを甲斐甲斐しく接待をしていた。
リーガン公爵は今日の朝の試合で【黎明】女子がコディに全勝したので機嫌がいい。だからなのかミーシャは今日1日だけ蛇口係から解放された。
リーガン公爵がミーシャの代わりに聖水を売っており、セレアンス公爵とカエサル公爵はレッカ、ディバルを中心としたフレスバルド騎士団に護衛されながらリスター祭を楽しんでいるようだ。
2人のメイドに挟まれてコディもご機嫌だった。やはり落ち込んだときはメイド喫茶に限るよな。だがコディは体を小さく縮こまらせている。
「コディさん? そんなに縮こまらなくても……」
アリスがコディを気遣うと
「ありがとう。だけど女性に触れると恥ずかしくて……2人共美人だから特に緊張してしまって……」
なんだ? 天然なのか? 口説いているのか?
「で? どうだった? 私たちは? 楽しかった?」
ミーシャが何の嫌味もなくコディに聞くと
「完敗だったよ。まさかあんなに強い女性がいるとはね。しかも全員見たこともない美女だから余計に驚いた。
あ……こんなこと言うと姫に怒られるか……姫も顔だけはいいと思うのだが如何せん……でもクラリスなんて反則だろう? ダイヤモンドダストなんて初めて見たぞ?」
コディの答えにアリスが
「クラリス先輩は何をやらせても凄いですよね! 美人だし、強いし、家庭的。料理もとっても上手なんですよ!? 何をやっても勝てないですよ……」
クラリスを褒め称えたのはいいが自分自身と比較して落ち込んでしまった。アリスはアリスで素敵な所がたくさんあるから比較などしなくてもいいのに……すると落ち込んでいるアリスをコディが
「アリス、あくまでも俺はだけど、自分よりも強い女性はちょっと嫌だな……いくら可愛くてもやはり女性に守られるよりは守りたいからな。そのうちマルスもクラリスに負ける時が来るんじゃないか? マルスも底知れぬ強さがあったが……」
アリスを慰めていた。コディのいう事はとても良く分かる。俺も女性に守られるよりも守りたいと思うからな。
人の事を慰める余裕があるくらいだから、俺からもコディにいくつか質問してみた。
「すまん。クラリスとの差は正直分からないな。俺からも質問させてくれ。コディはかなりレベルが高いが近くに神聖魔法使いがいるのか?」
俺の言葉にコディが驚いて
「なに!? マルスは鑑定が出来るのか?まさか魔眼持ちか? 魔族に神聖魔法使いがいる訳がないだろう? 人族にも100人はいないだろうな。あと今の俺のレベルとステータスを教えてくれ。もしも分かるようであればスキルのレベルも頼む!」
確かに魔族で神聖魔法使いなんていなそうだよな。俺はコディのステータスを教えてやるとコディは自分のステータスに満足していた。
「なぁ神聖魔法使いが近くに居ないのにレベルが高いのは魔族だとレベルが上がりやすいとかなのか?」
【黎明】のレベルが高いのは間違いなく俺とクラリスが居るからだと思うが、コディのレベルの高さが気になったので聞いてみた。
「いや、イセリア大陸全土に言える事なんだが、魔物の数がこの中央大陸に比べてかなり多い。魔物が多い分沢山倒さざるを得ないので、勝手にレベルが上がっていくんだと思う。それに魔法が使える俺や姫は固定砲台のようなものだからな。後ろから魔法を唱えているだけでいいからどんどんレベルが上がっているんだと思うぞ?」
固定砲台か。確かにコディはそんな感じだよな。いくら魔法使いであっても少しは移動しないと狙われてしまうと思うのだがな……
「なぁ姫って誰なんだ? もしかして魔族だから魔王とかが居てその魔王の娘とかじゃないよな?」
「ああ……魔王は昔いたらしいが【剣神】様に討たれたらしい。俺が言っている姫と言うのはビラキシル侯爵の長女、ヒメリ様の事だ。ヒメリ様も強いぞ? クラリスには絶対に勝てないと思うが、他のメンバーであればもしかしたら姫様の方が強いかもしれないな」
魔王には敬称を付けないで【剣神】には敬称をつけるというのは、コディはやはり親人派なのかもしれないな。俺とコディが話していると俺の隣にクラリスが休憩の為やってきた。
「マルス、隣いいかしら。コディ、もう大丈夫? 良かったらこれ飲んで。私が作った聖水なんだけど……」
クラリスが休憩の為俺の隣に来ると少しコディの表情が強張ったが、聖水を渡されると少しだけ表情が緩んだ。
心の中で凄い葛藤をしているのだろう。クラリスの事が好きなんだが、自分よりも強い女は嫌だという葛藤が。
「ああ、まだクラリスの顔を見ると心がざわつく感じがするが……クラリスにだけは負けたくなかったんだけどな……仕方ない。そう言えばクラリスはあのマント装備できるのか? あのマントを譲り受けた時に、男性専用装備って言っていた気がするのだが?」
「ごめんね。コディ……少しやり過ぎちゃったかもね。でもグランザムが攻められると聞いてどうしても許せなくて。あのマントはマルスの為に私が預かっているだけよ? マルスも私が預かっていた方がいいでしょ?」
クラリスの答えにコディが首を傾げる。俺はクラリスの言葉の裏にあるものを感じ取って頷く。ここで返せと言ったらどうなるかはみんなも想像がつくだろう?
「でもあのマント有用だよね。本当はマルスに持ってもらった方がいいと思うんだよ。マルスは小心者だからなんだかんだ言っても犯罪に手を染めることはなさそうだし。それにクラリスや私たちの事を優先に考えてくれているのは間違いないと思うし……」
けなしているのか褒めているのかちょっと良く分からないが、最後にいいこと言ったからまぁいいといしょう。
「もしかしてミーシャもマルスの婚約者なのか? クラリスとカレンとアリスだけかと思っていたのだが……あとマルスにあのマントを持たせても意味が無いと思うぞ? 剣聖のマルスがあれを装備したところで透明になれるのはせいぜい2、3秒だぞ?」
コディの言葉にクラリスが答える。
「そ、そうね……マルスがあのマントを持っていてもね……バロンにでも渡そうかしら……あとミーシャもマルスの婚約者よ? 私の次に戦ったメイド喫茶の前で警備をしている金髪のエリーもよ。マルスの婚約者は今は5人なのよ」
おい、勝手にあの最高のブツをバロンに横流しをするな。あと婚約者は今はと強調したのがとても気になる。
これ以上は増えるわけが無い……と思う……クラリスの言葉にコディが信じられないような顔をして
「マルス、お前……パーティメンバー全員に手を出したのか……1人だけでも十分すぎるというのに……」
ここで否定してもどうせ信じてもらえないし、ミーシャがワクワクしながら俺の事を見ている。きっと俺が「誰にも手を出していないぞ」とか言うと「あの熱い夜はなんだったの?」とか言い出しそうだ。
「コディさん。信じられないかもしれませんが、マルス先輩はまだ誰にも手を出していないんですよ。少なくとも私にはまだ手を出してくれません……」
アリスが俺をフォローしてくれた。だがアリスの言葉には少し悲壮感が感じられた。少し変な空気になってしまったし、コディとクラリスも無事に仲直り? 出来たみたいだし俺が席を立とうとすると
「マルス……レッカ様……呼んでる……」
エリーが俺に声をかけてきた。ちょうどエリーと警備の交代をしようと思っていたので
「分かった。エリー、交代しよう。休憩してくれ」
エリーと交代し、レッカが待つメイド喫茶の店の前に向かった。
「悪いな、マルス。ちょっと頼みたいことがあってな」
レッカが申し訳なさそうな顔をして話しかけてきた。あれ? セレアンス公爵の警備はいいのだろうか? まぁあれだけのフレスバルド騎士団員がいれば大丈夫か……
「いいえ、ちょうどエリーと交代しようと思っていましたから。それで、話とは何でしょうか?」
俺の言葉にレッカが声のトーンを落として話してきた。
「今日のリスター祭後にアイクと1戦交えたい。マルスには俺たちの試合の審判をお願いしたい。観戦者はマルスとクラリス、そしてエリーだけだ。リーガン公爵にも許可を貰っている」
リーガン公爵とセレアンス公爵の2人は絶対に見たい試合だと思ったのだがよく許しが出たな……それにクラリスとエリーは観戦できるのか……
「条件が無ければ恐らく俺が勝つだろう。まだアイクは俺のフレアボムに耐えたり、レジストしたり出来ないだろうからな」
確かにあのフレアボムに耐えるのきついだろうな。だがアイクの耐久力と火幻獣の鎧があればもしかしたら……いや、もしも耐えられなかった時の事を考えるとリスクが高すぎるか……
「だが、迷宮の中での戦闘となるとまた違ってくる。迷宮の中でフレアボムは使えないだろうからな。理由は分かるだろう? フレアボムの爆発で迷宮が崩れたりするかもしれん。もしかしたら崩れないかもしれないが、未だに誰も試したことがない。フレアボムを使えるのはフレスバルド公爵、スザク様と俺、あとカレン様だけだろうからな。誰も試したことなくて当然だ。またあの爆発音でオーガたちが迷宮内から集まってきてしまうかもしれんしな。だから俺とアイクの一戦はフレアボムなしで戦おうと思っている」
もしもアイクが行くことになったら3公爵家から2名ずつ派遣して協力体制を知らしめるという効果が薄まるのでは?
リーガン公爵からは俺、アイク、クラリスセレアンス公爵からはエリーとビャッコ、そしてフレスバルド公爵からはスザクだけとなる。
まぁカレンの婚約者でもあるのだから俺がフレスバルド公爵家から派遣されたという事にすればいいのか……
「今、スザク様は俺かアイク、どちらをリムルガルド城に連れていくか迷っておられる。言葉にしなくても何となくだが分かるんだ。もしも俺がフレアボムを使わなくても勝てたら俺がリムルガルド城に行こうと思う。
しかし負けた場合にはアイクに行ってもらおうと思っている。これはまだスザク様には言っていないが、スザク様ならきっとわかって下さり、またそうしたいはずだ」
スザクへの信頼、尊敬の念がレッカの言葉の節々から感じ取れる。
「それにな、リムルガルド城に行くのは6名だけだが、リムルガルド城下町まではそれなりの人数で行くと思う。本当はフレスバルド騎士団を連れて行きたいのだが、他国に騎士団を連れていくと変な緊張感が生まれてしまうから騎士団は連れて行けないのだ。
俺が負けたらリムルガルド城下町の敵を倒す方に専念しようと思っている。どう考えても城下町での戦いの方が俺には向いているしな」
確かにリムルガルド城の外の敵を倒しておいてくれるといざという時、心強いな。問題は誰を連れていくかだろうな……
「もう一度聞く。マルス、審判を引き受けてくれるか?」
そう言えば俺はまだ返事をしていなかったな。レッカの真剣なまなざしに当然俺は頷く。そして本日のリスター祭が終わり、17時を迎えた。
ツイッターやってます。
https://twitter.com/qdUYSDZf8XzNaUq
フォローしてくれたら喜びます。










