第239話 Cの悲劇
2031年11月6日 7時
「コディ、昨日はゆっくり寝られたか?」
「ああ。あんなにふかふかなベッドは初めてだ。姫と一緒にこの学校に入りたかったよ。そして俺がこの学校でマルスと1位を競っていたかったな」
まぁこれから地獄を見るからな。夢くらいは好きに語らせてあげよう。
だってみんなもこの先の展開が分かるだろ? 何人目で心が折れるか賭けてみようって? 今日のクラリスは本気だからな。間違いなくクラリス1人で完全に心が折れるだろう。
「じゃあこれからクラリスとコディの試合を始めます。お互いよろしいですか?」
「昨日も帰りに確認したのですが、本当にクラリスが序列2位ですか? 俺を揶揄ってませんか?」
コディはまだクラリスが序列2位という事が信じられないらしい。
「コディ。本当ですよ。やれば分かります。準備はいいですか?」
リーガン公爵の言葉に疑心暗鬼になりながらもコディが頷いた。クラリスも頷くと同時に「始め!」と試合開始の声が響いた。
「フレ……」
コディがフレアと唱えようとするがその前にクラリスの魔法の弓矢がコディを襲う。
1射目はコディでも避けられるように速度調整をしたらしいが、2射目以降は正確にコディのひらひらした服を射抜いていく。
なんどもフレアを発現させようとするのだが、その度にクラリスの魔法の弓矢がコディを襲い、結局10秒しないうちにリーガン公爵がクラリスの勝利を宣言した。
「ちょ、ちょっと待ってください。流石にクラリスの武器のレベルが高すぎます。あれだったら誰でも強いじゃないですか!?」
こんな事言う奴だったのか? 買いかぶり過ぎていたのかもしれない。
「いいわよ。コディ。今度は武器なしで戦いましょう」
何度も言うが今日のクラリスは本気だからな。まぁそうだろう。急にグランザムを侵攻すると言ってきたからな。
クラリスもここでコディをコテンパンにやっつけると後の交渉が有利に進められるという事は分かっているはずだ。だから徹底的にやろうとしているのだ。
「分かりました。それでは再戦を認めましょう。クラリスは武器なしのハンデをコディに与えるという事で」
もしかしたらリーガン公爵はコディの事が嫌いなのか? それとも魔族が嫌いなのか? ハンデと言う言葉にコディは少し顔をしかめるが、リーガン公爵は全く気にしないという顔で試合開始を宣言した。
「始め!」
開始と同時にコディがフレアを放つ。そしてそれをクラリスが氷槍で迎撃する。
昨日コディがフレアの事を上級魔法と呼んでいたが、俺的には中級から上級くらいかなと思っている。
だってフレアよりもフレアボムの方が圧倒的に強いし、それ以上にファイアバードの方が厄介だ。
まぁフレアボムもファイアバードも創作魔法らしいが。そしてスザクに至ってはそれよりも強い魔法を唱えられると言っていたからな。
それに対して氷槍はせいぜい中級クラスの魔法だ。フレアと氷槍がぶつかり合えば普通はフレアが勝つだろう。
だが2人の場合は違った。相殺だったのだ。この結果にコディは驚きを隠せなかった。
「なんだ……と……フレアと氷槍が互角だと?」
そしてクラリスが完全にコディの心を折りにかかった。
「氷結世界!」
コディの周囲が一瞬で氷の世界に変わった。この前見た氷結世界よりも明らかに精度も威力も高い。
コディが火魔法で相殺しようとするが、氷結世界の冷気により火魔法が発現しない。発現してもすぐに消えてしまう。そして徐々にコディの周辺が凍り始めると、クラリスが最後の仕上げを行った。
「ウィンド!」
「氷槍!」
「氷槍!」
「氷槍!」
「氷槍!」
コディを闘技場の端まで吹っ飛ばしてから氷槍でコディの服を闘技場の壁に突き刺しコディを闘技場の壁に磔にした。
これはある意味救済措置でもある。あのまま氷結世界の中にいたらコディは氷のオブジェとなってしまっていただろう。
「まだやる?コディ?」
この言葉にコディはただ下を向いて「参りました」と言うしかなかった。完全にコディの心が折れる音が聞こえたが、これはまだ序章だった。
コディが磔状態から解放されてリング中央に戻ると次はエリーがリング中央に来た。
エリーはまだ寝惚け眼だ。正直エリーが一番危ない……コディにとっては。俺はコディに聞こえないようにエリーに
「エリー……武器は使うなよ……素手だ。素手だけで頼む」
俺がそう言うとエリーが全ての武器を俺に渡す。この様子をコディが見ており、俺とエリーを睨みつけてきた。お前のためを思って言ってやったのに……
試合が始まると当然の如く一方的な試合だった。魔法使いが魔法使えないって無力だよな。一応体術は出来るらしいけどどう考えてもエリーの敵ではない。コディは腹パン一発でリングに沈んだ。
当然エリーの勝利が告げられたのだがエリーは俺の所に歩いて来て
「……可哀想……コディ……1人で来たのに……」
「そうだな。試合が終わったら仲良くしてやってくれ」
確かにエリーの言う通りだ。コディは驚いたことにここまで1人で来たというのだ。
どうやら魔族に余裕はなく大人だと食費、船、宿代が高いから、子供のコディがここまで来たと言うのだ。だけどここで手を抜くわけにはいかない。
試合はどんどんと続く。次はカレンだ。コディがようやく立ち上がれるようになるとカレンが
「私は魅了眼持ちなの。そしてコディよりも魔力が高いわ。まず試合が始まる前に私の魔法を見なさい」
カレンはコディにそう言うと
「フレアボム!」
フレアボムを上空に飛ばした。すると激しい爆発音がし、大量の火の粉が降り注ぐ。コディはそれを見て恐怖で震えていた。
「これがフレスバルド公爵家当主の【爆炎】が得意とするフレアボムよ? 試合が始まれば魅了眼でコディを操るからコディには回避不能だわ。耐えられる自信があるのであれば、試合をしましょう」
「わ、分かった。参った。勝てるわけが無い」
カレンの脅しにあっさりとコディは屈した。まぁそうだよな。よほどのバカじゃない限りあんなものは食らいたくない。カレンが戻り次はミーシャが颯爽と出てくる。
「ようやくMPを聖水以外で使えるよぉー。コディ! 一緒にいい試合にしようね! 楽しもうね!」
ミーシャが笑顔でコディに話しかけるとさっきまで折れていた心が少しは元に戻ったらしい。
「ああ! えっと……名前は?」
「ミーシャ! ミーシャ・フェブラント。見てわかると思うけどエルフよ!」
「そうか! ミーシャ!よろしくな!」
コディはミーシャのおかげで少しは立ち直ったっぽい。
美少女に親しげに話されるとどんなに落ち込んでいても簡単に復活できるよな。だがこれはまたどん底に突き落とすパターンな訳で……
「始め!」
試合開始と同時にいつもはコディから攻撃を仕掛けるのだが、今回はミーシャから氷槍を放った。
コディは慎重になりフレアを唱えるとフレアは氷槍を飲み込み、先ほどミーシャが居た場所をフレアが通過した。
コディはこれに気を良くしたのかフレアをまた放とうとするが、ミーシャが軽快なステップで走り回る。
そして走り回りながら今度はウィンドをコディに対して放つ。
ミーシャもだいぶ動きながら魔法を発現できるようになったな。特に風魔法に関しては威力もあまり落ちることが無くなっている。
これは朝練でひたすら走りながら自分にウィンドを放っていた成果だろう。自分に全力ウィンドをぶっ放し、明後日の方向に飛んでいくミーシャの姿をよく見るしな。
コディはウィンドを食らって体勢を崩したときにどうしてもミーシャから目線を切ってしまい、その度にミーシャを見失っていた。
ミーシャは普通に幻影装備の効果を使っていたが、これは仕方ないだろう。パッシブだしな。
ミーシャの姿を見失ったコディはすぐにミストを使い、自分の身を霧の中に隠そうとするが、すぐにミーシャにウィンドで霧を晴らされる。
本来であればここでミーシャが近づけば終わりなのだが、ミーシャはそれをしない。
何故かって? だってまだまだミーシャはMPが残ってしまっている。このまま試合が終わってしまうとまたメイド喫茶で蛇口扱いだからミーシャはなるべくMPを消費させたいのだ。
その事情を知ってから知らずかコディは必死に足掻いた。何度もミストを唱えるのだが、ミーシャに風魔法で晴らされる。
フレアを何度放ってもミーシャには当たらないし、ストーンスピアが発現する時にはもう既にミーシャはそこに居ない。結局ミーシャ戦でほぼ全てのMPを使い切ったコディが
「参った……何もできん……」
その場に座り込むとと、ミーシャが
「え!? もうちょっとやろうよ!? やってくれないとMPが……」
そう言ってコディの手を取り
「もっとしてくれたら後で私の聖水飲ませてあげるから。ね? だからもっとしようよ。もっとできるでしょ?」
コディを強引に立たせようとした。みんな、間違っても漢字を間違えるなよ? それにミーシャの発言は狙ってではないのは分かるよな?
あの発言を聞いて変なことを想像した奴が居たら今度スカイダイビングをするといいだろう。真っ青な澄んだ空に心を洗ってもらうとまた一歩俺に近づける。
しかしコディはミーシャの手を軽く払うとリーガン公爵が
「コディ? これがこの学校の実力です。誰も本気を出して戦っていない事は分かりましたよね?」
クラリスだけはかなり本気だと思うのだが、リーガン公爵は交渉を有利に進めるために敢えてこう言ったのだろう。
「はい……全てリーガン公爵の仰る通りでした……」
「分かってくれればいいのです。もしもビートル伯爵と会談する時に力で押さえつけようとは思わぬように魔族の者たちにも伝えてください。これから早馬をヘルメスに飛ばしますから一緒にコディからも手紙の方をお願いします」
リーガン公爵が満足そうにコディに言ってから闘技場を去った。女性陣達もコディに言葉をかけようとしたのだが、今の状況で何を言っても傷つくだけかもしれないから俺が目配せをしてそのままメイド喫茶に向かってもらった。
女性たちがメイド喫茶に向かったのを確認してから俺がコディに魔法の言葉をかけると、コディは今までの絶望が無かったような笑顔で俺の方を見た。
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