第238話 舌戦
校長室の中に入ると3公爵とコディの他に意外な人物がいた。
「え?お父さん、お母さん?どうしてここに?」
クラリスの父と母のグレイとエルナがいたのだ。ただいつもと少し様子が違う事はすぐに分かった。
いつもは柔和な表情でクラリスを出迎えてくれてくれるのだが、今回はかなり表情が硬い。エルナに至っては泣いているようで顔を伏せてしまった。
「どうしたの?」
クラリスが2人に寄り添っても2人は何も言わなかった。するとリーガン公爵が
「さて、ここに問題を解決できるかもしれない人物が来ました」
俺を見ながら言うとコディは驚いた様子で
「マルスが? どういうことですか?」
「コディ? ヘルメスの街の魔族がグランザムに侵攻するのはいつですか?」
リーガン公爵の言葉に俺達3人は全員衝撃を受けた。グランザムに侵攻するだって? 魔族が?
「来年の夏以降だと思います。私がヘルメスに戻るのに半年以上かかると思いますので。我々はヘルメスを北上して魔物達をある程度狩りつくした後にヘルメスに戻り、今度は進路を西にとりグランザムを攻略する予定です」
やばい……急な展開過ぎて全く分からない。ヘルメスというのはグランザムの東にある、イセリア大陸の魔族の街であろう。
そして北に進軍して魔物を倒すという事は分かった。だがなんでヘルメスに戻ってグランザムを滅ぼす? それに何故リーガン公爵にそれを伝える必要がある?
この言葉にグレイは歯を食いしばり、拳を固く握っている。当然だよな……今はいくらリスター連合国の貴族とはいえ、故郷が蹂躙されると分かれば絶対に助けたいよな。
「どうしてグランザムが侵略される必要があるのですか?」
俺の言葉にコディが答えた。
「俺たちは親人派を自負している。だから何があっても話し合いで解決できると思っていた。だがここ数年、小さい子供たちが頻繁に攫われるようになった」
ここでも人攫いか……それも小さい子供……
「そして去年偶然、子供が攫われるところを目撃してそいつを追いかけたら人魔橋の方に逃げて行ったのだ。当然俺も追いかけたのだが、人魔橋を俺が渡ろうとすると橋の向こうから魔法の雨が飛んできてな。人魔橋の向こうには、いつもビートル騎士団やビートル伯爵に雇われた冒険者たちがいるからな。間違いなくあいつらも1枚噛んでいるだろう」
魔法の雨? だとしたらビートル騎士団ではない気がする。昔の話で今どうか分からないが、俺がグランザムに飛ばされたときは、コディたちを脅かすほどの魔法の雨を降らせる実力がビートル騎士団にはなかったからな。
「何度もヘルメス側からグランザムに抗議をしているのだが全く取り合ってくれないんだ。去年からずっとヘルメスを治めるビラキシル侯爵が頭を悩ませ、今年になってからグランザムを攻めると決定した。それでも最後の希望をと思い、リスター連合国の円卓会議にこの議題を持ち込んでもらおうと思ったのだ。もしも解決が出来ない場合は絶対に再興出来ぬよう、焼け野原にすると魔族側は意気込んでいるのだ」
……突っ込みどころがかなりあるがそれはこの際放っておこう。今はグランザムを守る事が優先だ。
「円卓会議ではどのような決定が下されるのですか?」
リーガン公爵に聞くと淡白な答えが返ってきた。
「リスター連合国としては何もしない。間違いなくこう決定されるでしょう」
本音と建前か……
「ではリーガン公爵はどうしたいのですか?」
「そうですね。私としてはある人物の力を削ぎ落したい。もしもグランザムが陥落することでその人物の力が落ちるのであれば本当に何もするつもりはありませんし、ここにランパード子爵夫妻やマルスたちを呼んだりはしませんよ?」
そうだよな……ここに俺たちを呼んだという事は俺たちに何かをして欲しいから呼んだんだよな……
グランザムを焼け野原にするというパワーワードを聞いて俺も少し昂ぶり過ぎているようだ。え? 元からこんなもんだって? 少しはカッコをつけさせてくれ。
「マルスはどうしたらいいと思いますか?」
リーガン公爵が俺を品定めするように聞いてくる。この前俺の事を息子同然と言ってくれた人がする目じゃないよな……
「まだまだ情報が不足しているのではっきりとしたことは言えませんが、ビートル伯爵と会談できるようにするのがいいのかと思うのですが……」
俺の答えにどんどんとリーガン公爵が聞いてくる。
「マルス、どこで会談するのですか?」
「グランザムとヘルメスではない何処かで……」
「護衛はどうするのですか?」
「護衛は両者6名ずつくらいの1パーティで……」
「私もビートル伯爵という人物がどのような人物かをある程度は知っているつもりです。ビートル伯爵は腹に一物を抱えていることは何となくわかりますが、それでも人攫いをするような人物ではありません」
ビートル伯爵はリーガン公爵に腹に一物を抱えているって言わしめるほどの人物だったのか……
「そして今のビートル伯爵の立場であれば、如何に敵を少なくするかが重要だと思いますので、間違いなくビートル伯爵以外の者が人攫いをしていると思われます。ですが信用できるのはビートル伯爵だけで、ビートル伯爵を護衛する人物たちまで信用できるかと言えば、それは嘘になります。さてマルス、誰がビートル伯爵を護衛するのがいいと思いますか?」
こ、これは……どう考えても誘導尋問な気がするんだが……
「ビートル伯爵の手の者ではなく、それでもビートル伯爵が信用している者、そして魔族側からも信用されている者が適任かと思われます」
「魔族側が信用しているのはこのリーガン公爵家当主のセーラ・エリザベスというのはもうお分かりですね? つまり私の陣営、もしくは近しいもの、または生徒で適任者がいると思いますか? もしもいるのであれば私はその子を遣わせたいのですが」
その子って……もう生徒と言っているようなものじゃないか……そしてビートル伯爵と関りがある生徒なんて俺とクラリスしかいないわけで……
「は、はい……では僕が適任か……」
ここまで言ったところで食い気味にリーガン公爵が
「よくぞ言ってくれました! リムルガルド迷宮に行った後にグランザムまでお願いします。コディはマルスと一緒にグランザムに行くといいでしょう。ですからその時まで学校にいる事を許可します」
完全に出来レースじゃないか……だけどランパード夫妻だけでなくクラリスも安心したようだ。
「ありがとう、マルス。グランザムを見捨てないでくれて」
クラリスが俺の隣に戻ってきて両手を取って喜ぶと、ランパード夫妻も嬉しそうに俺の所にきて
「さすがクラリスの旦那様だ! マルスでよかった!」
嬉しいことを言ってくれる。これはもう神輿に乗るしかないか……
「どうして僕もここに呼ばれたのでしょうか?」
話が一段落するとアイクがリーガン公爵に疑問を呈する。確かに……この部屋に入る前は何故クラリスがいるのかと思ったのだが、この話を聞いた後だとなぜアイクをここに呼んだのかが気になる。
「今の話、どこかに欠点があると思いませんか?」
アイクの言葉にリーガン公爵が答えると全員黙ってしまった。欠点……決めてない事だらけで欠点だらけと言えば欠点だらけな気もするのだが……誰も答えられずにいるとリーガン公爵が
「それは第3者の格です。直接私が仲介役として行けば一番なのかもしれませんが、そこまで暇ではありませんからね。マルスは我々3公爵の息子同然ですが、直接の血縁はありません。それにまだ未成年です。だからアイク、あなたも一緒に行ってほしいのです。私の代わりとして……そしてメサリウス伯爵として。リスター連合国の上級貴族が仲介役となればビラキシル侯爵もビートル伯爵も満足でしょう」
もうその頃にはメサリウス伯爵となっているのか。
「分かりました。それでは僕もマルス達と一緒に参りましょう。エーディンはどう致しましょうか?」
「そうですね。一緒に連れて行くといいでしょう。エーディンもSクラスの実力がありますし、魔眼持ちですからね」
眼鏡っ子先輩も一緒か……あれ? 俺たちは何人で行くんだろうか? まだ先の事とは言え、急に行くとなったら嫌がる者もいるかもしれないしな。
「僕たちはどういうメンバーで行けばいいですかね?」
「それについてはこちらで少し考えさせてください。一応【黎明】のメンバー全員には行ってもらう予定です。ですがサーシャ、ライナー、ブラムの3人につきましては学校に残ってもらいます。他の生徒たちへの指導もありますし、評判もいいですからね」
なるほど。【創成】のメンバー、恐らくブラッドをどうするかで悩んでいるのか。
「最後にコディ。あなた方魔族に考えを改めてもらう必要があります。コディは同年代の2位ではありません。もちろんヒメリでもありません。5位にも入れないと思います。マルスたちがグランザムに入ったらヘルメスの住民たちがグランザムに侵攻したところで、グランザムを焼け野原にすることはまず出来ないです。特に今は【漆黒】や【亡霊】は居ないのでしょう?」
リーガン公爵の挑発的な言葉にコディが
「恐れ入りますが我々魔族の実力を侮っておりませんか? 確かに【漆黒】や【亡霊】はもうヘルメスにはおりません。ですが例え私がバロンに負けたとしても3位です。他の者に負ける要素などないはずです。まずはそこの誤解を解きたいと思うのですが……そうすればグランザムなど容易く焼け野原にすることが出来るとお分かりになると思いますが?」
語気を強めて反論した。リーガン公爵が何を言いたいのか、いや何を狙っているのかすぐに分かった。
交渉する時に魔族側にマウントを取られないようにしているのだろう。リーガン公爵はかなりビートル伯爵の肩を持つんだな。
「それでは私の言葉が本当か、コディの言葉が本当か、明日の朝に決めるとしましょう。これでもしもコディがリスター帝国学校の序列5位までの者に勝てるのであれば、コディの言う通り、魔族がグランザムを焼け野原に出来ると認めましょう。しかし5位までの者に勝てない場合は完全に5分の仲介案でよろしいですね?」
完全に論点をすり替えたな。コディもこう言われてしまうとなかなか断れないだろう。俺だったらプライドなんてものはないから断れるのだが……
「分かりました。リーガン公爵に乗せられた感はありますがその提案に乗りましょう」
コディも単身でここに派遣されるくらいだから、ある程度の裁量は任されているのだろうが、相手が悪かったな。うちの校長は誰よりも腹黒いんだぜ?
こうして明日の朝【黎明】女子対コディの戦いが始まるのであった。
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