第237話 ミスト
活動報告にも書きましたが100.000pt突破しました。
ありがとうございます。
流石リーガン公爵が戦ってみなさいと仰っただけの事はある。魔法を初めて斬られたし、そんな事聞いたこともない。
しかも俺のフレアを涼しげな顔で、さも当然のように斬った時は驚いたし感心もしたが、腹も立った。
周囲の人間たちもマルスがフレアを斬って驚いた様子がない。普通であればフレアを見る事ですら稀で歓声が上がってもおかしくないのだが……
だから俺は持てる全ての力を持ってマルスを倒す。
この必殺連携を同年代で受けきれたのは姫だけだが、当時はこのマントを持っていなかった。マントを持っている今であれば姫ですら凌ぐことは出来ないだろう。
フレアに注意を向けさせてストーンスピアで攻撃する搦め手すらノーダメージというのにも驚いたが、それはこの霧を生み出すための布石だ。
この魔法の霧は術者の俺の視界を妨げる効果はない。俺からはマルスが見えて、マルスからは俺は見えない。
そして万が一という事もある。近づいた時に気づかれるかもしれないから、俺は念のためにこのマントの透明化の効果を使う。
弱点は透明化が物凄いMPをバカ食いするのと、透明化中はステータスがとんでもなく下がる事だ。
もしかしたら全てのステータスが半分以下になっているかもしれない。だが絶対に来るとは思わない所から魔法が飛んで来たら如何にマルスとはいえ、斬ったり、躱したりすることは出来ないだろう。慎重にマルスの所に近づいてからステルスを使って魔法を放てば……
十分に闘技場内に霧が充満した事を確認してから行動に出る。不十分で姿が見られてしまうと意味が無いからな。
姫にはいつもこの霧を芭蕉扇や風魔法で散らされてしまうのだが、マルスは剣聖だから風魔法を使えたとしても大したことは無いだろう。
それに比べて俺の霧魔法は……以前よりも霧が濃く感じる。このミストの魔法も使うのは久しぶりだからな。今年に入ってからは今日が初だ。俺もかなり成長したという事だな。
マルスの方を見ながらゆっくりと移動しようとするといつもとは違う事に気が付いた。本当に霧が濃すぎているのかマルスの姿が見えない。
もしかしてこのミストという魔法は魔力が高すぎると霧も濃くなりすぎて相手の事すら認識できなくなるのか?
落ち着け……俺はこの霧がなぜ発生したかを知っているし、慣れている。だがマルスはこの霧を発生させたのが俺と分かったところで霧の中での戦いの経験が俺よりもないだろう。
完全に俺が有利なのだ。ここはゆっくり慎重に……時間が経てば少しずつ霧も収まってくるだろう。
……おかしい。霧は収まるどころかどんどん濃くなっていく。もう俺はミストを唱えていない……なぜだ? なぜこうも視界が晴れない? そう思った時だった。俺の首筋に冷たい剣先が添えられたのは……
☆☆☆
コディの行動は予想通りだった。
同じ魔法をまさか相手が唱えているとは思わないだろうな。だから俺はミストを無詠唱で唱えることが出来るようになるまで訓練したのだ。
自分だけが視界良好と思っていたのだろうが大きな間違いだ。それに天眼のレベルが上がっていたので、ステルスを発動していてもぼんやりとだが捉えることが出来た。そしてサーチでほぼ正確な場所を把握できる。
あとはコディがミストの発現を止めても俺がずっとミストを発現させ続ければ、次第にコディのミストの効果はなくなり、俺のミストの効果だけが残るという作戦だ。
対ガスター用の作戦がここで役に立つとは……まぁ最初から天眼とサーチでゴリ押せたかもしれないというのは結果論だ。
「参った……」
俺がコディの首に火精霊の剣を添えるとすぐに降参した。
濃霧の中での出来事に会場は少し混乱していた。誰も何が起きているか分かっていないようだ。
選手控室の方を見るとクラリスたちが不安そうな顔で必死に俺の事を探し回っていた。
そこでさっきのコディの参った宣言だ。クラリスやカレンさえまだ状況を把握できていないのだ。アナウンサーが分かるわけない。
「コディ選手の声で「参った」という声が聞こえたような気がしましたが……?」
名物アナウンサーが不安そうに言うと
「ああ、確かに言った。俺は……コディ・ジョラスは負けを宣言する。霧が晴れるまでこのままでいるから風魔法使いがいたら早くこの霧を晴らしてくれ」
コディが名物アナウンサーにしっかりと通った声で自分の負けを認めた。すると風魔法で俺の霧が一気に晴らされる。
あれ? 俺の魔力で作った霧だからこんな簡単に晴れるわけがないのだが……と思っていたら、リーガン公爵とサーシャが貴賓室から風魔法を使って霧を晴らしていた。
あれ? リーガン公爵がなぜここに? と思っていると隣にはセレアンス公爵とカエサル公爵がおり、3人をレッカとリーガン騎士団員たちが警護していた。きっと近くにはフレスバルド騎士団もいるのであろう。
そして会場の全員に俺がコディの首筋に剣を添えている姿が晒されると
「勝者! マルス・ブライアント!」
勝利アナウンスに会場が沸き上がる。
「何やっているか全然分からなかったぞ!」
「でも凄い事をやっていたという事は想像できるぞ!」
「マルス君の勇姿もっと見たい!」
「今度はしっかり姿を見せて戦って!」
俺は大歓声の中、歓声にこたえるように手を振り選手控室に戻ろうとした。選手控室に辿り着く直前で後ろから声をかけられた。
「マルス! 待ってくれ!」
コディの声に俺が振り返るとコディはマントを手にしていた。
「マルス、約束の品だ。受け取ってくれ」
コディがそう言って男のロマンを俺に渡そうとした。
「本当にいいのか? それかなり高かっただろう?」
「俺もこれは譲り受けたんだ。ちょうど今みたいな感じでな」
あー、コディも相手からこれを奪ったのか。すると後ろから女性の声がした。
「マルス、受け取りなさい。受け取らないとコディが酷い目にあってしまいますから。でしょう? コディ? 呪言で契約でもしたのではないかしら?」
振り向くと貴賓室にいたはずのリーガン公爵がいつの間にか選手控室にまで来ていた。当然セレアンス公爵、カエサル公爵も一緒だ。
「はっ。仰る通り呪言を使って契約をしておりました。誠に申し訳ございません」
呪言ってさっきの約束っていうやつか? やたらと強調していたからな。そうか契約不履行となると呪いか何かが降りかかったりでもするのかもしれないな。
俺はコディから男のロマンを受け取るとなぜか自然な感じでクラリスが俺の手から男のロマンを奪い取った。
「ま……マルス、この綺麗な女性は……いったい……紹介してもらってもいいか?」
コディは男のロマンを自然に奪っていく様子よりもクラリスの容姿に驚いているようだ。
「初めましてリスター連合国、ランパード子爵家のクラリスと申します。私はマルスの婚約者でございます。どうぞよしなにお付き合いください」
クラリスは片足を斜め後ろの内側に引き、もう片方の足の膝を軽く曲げ、ただでさえ短いメイド服のスカートの裾を持ち上げて挨拶した。
見える。見えるぞ……と思ったが見えない……くそ! 俺がニュータイプであれば見えたかもしれないのに!
「は、初めまして……ビサン男爵家嫡男コディ・ジョラスだ。クラリスはランパード子爵家のメイドという事だよな?」
コディは顔を真っ赤にしてクラリスを見ながら話す。完全にコディもクラリスに落とされたな。
「あ、この格好はリスター祭でメイド喫茶という出し物をしているから着ているんです。普段はマルスと同じで2年Sクラスに在籍しております。可愛い女の子もいっぱいいるので、もしよろしければ後で来てください」
「こ、これは失礼致しました。子爵家のご息女とは。可愛い女の子って……クラリスよりも……」
コディがここまで言うとカレンが
「クラリスよりも可愛い子がいる訳ないじゃない。私はフレスバルド公爵家次女のカレンよ。私もマルスの婚約者よ」
コディの言葉を遮った。さらにアリスも
「初めましてコディ様。私はアリスと申します。一応私もマルス先輩と結婚出来たらなと思っております」
「私はアリスの姉のソフィアです。私はマルスの婚約者ではありませんが、親しくさせて頂いております」
ソフィアもアリスに続いて自己紹介をした。4人のメイド姿の美女たちにコディは目を丸くしている。
「はい、あなた達はメイド喫茶に戻ってください。4人がいないとお客様もがっかりしてしまいますから」
リーガン公爵に言われると4人のメイドたちがメイド喫茶に戻っていった。当然、俺の男のロマンまで……
「では、僕もメイド喫茶の警備の方に行って参ります……」
俺がそう言うとリーガン公爵が
「マルス、アイクは放課後に校長室に来なさい。あとクラリスも連れてくるように。コディはこのまま私と一緒に来てください。昨日の話の続きを聞きたいので」
恐らくコディはメイド喫茶に行きたかったのだろう。少し残念そうな顔をしてリーガン公爵の指示に従った。
メイド喫茶に戻った俺はその後も警備を続けた。
闘技場での試合を見てくれた女性客が大挙してメイド喫茶に押し寄せてきたのでゴンたちは大喜びだった。
去年と同じように長蛇の列があっても15時にはメイド喫茶を閉め、また明日来てくださいとみんなで見送る。16時まではここにいないといけないので、校長室に行くまでの間ここでみんなと話をして時間を潰した。
「マルス、魔族はどうだった? 強かったか?」
バロンが興味深そうに聞いてきた。
「ああ、初見であれを捌くのはキツイな。あの戦い方はバロンも相当参考になると思うぞ」
俺がバロンにコディの戦い方を伝えると目を輝かせながら
「そうか! そういう戦い方もあるのか! これはすぐに試さないと……16時になったら闘技場でやってみよう!」
やはり試してみたくなるよな。出来れば俺もやりたいのだがこれから校長室に行かないといけないから今日は我慢だ。
話をしていると16時になったので3人で校長室に向かう。それにしてもアイクが呼ばれるのは分かるが何故クラリスもなんだろうか? 少しの疑問を抱きながら校長室のドアをノックした。
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