第211話 戯れ
210話のサーシャのステータスを変更しました。
足し算しないといけなかったのに引き算をしていたようです。
2031年7月11日
「今から魔の森の中に入る! 魔の森の中央から入り、西側に向かう! 最初から西側から入るという手もあるかもしれないが、俺はそのルートを通ったことがないから中央から入る事にする! 油断するな! いくぞ!」
「「「おおおぉぉぉーーーー!!!」」」
砦の前でヒュージがみんなに檄を入れ、ヒュージの言葉にみんなが答える。
「マルス! アイクに何かあって私の嫁ぎ先がなくなったらマルスに責任を取ってもらうからね!」
眼鏡っ子先輩の言葉にみんなが笑っている。縁起でもないことを……
「マルス! アリスを絶対に守るのじゃぞ! 何かあったら許さんからな!」
本当はガルも行きたかったに違いない。悔しそうに俺に頼んできた。俺は当然のようにしっかり頷いた。
みんなに送り出されて俺たちは砦を出発した。早速魔力のカーテンをくぐり、魔の森まで走った。昨日のヒュージに言われた隊形をとり、まずは魔の森をまっすぐ南に進む。少し歩くと早速魔の森の魔物たちと遭遇した。
トロルコングと言うゴリラのような魔物が群れを成して俺たちの上に立ちはだかった。木の上に生息しており木の上から土魔法で生成した大きな岩をどんどん投げてくる。
【称号】-
【種族】トロルコング
【脅威】B
【状態】良好
【年齢】14歳
【レベル】5
【HP】152/152
【MP】59/61
【筋力】62
【敏捷】41
【魔力】30
【器用】35
【耐久】60
【運】1
【特殊能力】土魔法(Lv3/E)
これはまぁまぁ厄介だ。木の上に登るか魔法でトロルコングを撃ち落とすか……だがこれは上だけを警戒してはダメだ。さっきから地中から振動が響いてくる。
「みんな! 下からも何か来ているぞ!」
俺が叫ぶと地面から鋭利な槍のようなものが次々と飛び出してきた。これは地中にも魔物がいるのか……だがワームのようなでかい魔物ではないな……
「ちっ、最初からとんでもない最悪のパターンに出くわすとは! 地面にはモグエースという脅威度B-の魔物の群れがいるはずだ! 今から指示を出す……少し待ってくれ!」
モグエースというからにはモグラかな? ヒュージの指揮能力は非常に高い。しかしこのメンバーの特性を全て把握しているわけではない。
「ヒュージ様! いったん僕の意見を……指示を出してもよろしいでしょうか?」
逡巡しているヒュージに対して俺が言うとヒュージは頷いた。
なんとか隊形を保ってはいるが上からは岩のシャワーで下からは剣山のように槍が飛び出してくる。このまま指示が遅れればいつかやられてしまう。
「俺とエリー、ミーシャは上のゴリラをやる! クラリスは俺たちの援護をしてくれ!
だがまずはこの下にいる魔物からだ! カレンは地面にフレアボムを放ってくれ! 俺が今から地面に穴をあけるからそこを狙ってくれ! まだ鑑定したわけではないがモグエースという魔物が想像通りであればフレアボムの爆発音が苦手なはずだ! フレアボムが着弾する直前にクラリスとミーシャは氷壁と氷砦で熱と衝撃からみんなを守ってくれ!
アイク兄とライナー先生、ブラム先生はカレンとアリスの護衛を優先で! アリス!傷ついたものが居ればすぐに回復できるようにしてくれ! ヒュージ様とサーシャ先生は他に魔物が来ていないか警戒をしてください!
上からのトロルコングの岩もなるべくお2人で対処の方をお願いします! まずはカレンのフレアボムからだ! みんないいな!?」
俺の言葉に【暁】全員が早速行動に移る。ヒュージも俺の指示に対して納得してくれたのか、周囲の警戒をしつつトロルコングの岩も警戒してくれている。
尤もほとんどの岩はクラリスの魔法の弓矢によって粉々にされており、粉々にされた岩や石はサーシャの風魔法によってみんなに降りかかる事無く周囲にまき散らされた。トロルコングの攻撃をいなしている中、カレンが叫んだ。
「みんな行くわよ! フレアボム!」
カレンが俺の土魔法でえぐられた地面にフレアボムを放った。
フレアボムが地面に入った瞬間に俺とクラリス、ミーシャで氷壁と氷砦を発現させて熱と衝撃に耐えようとした。
ドゴォーン!!!
フレアボムの衝撃が魔の森に響き渡る。え……? こんなに威力高いんだっけ?
かなり広範囲を守ろうとしていた為、氷の壁は薄く、フレアボムの爆発に氷壁は割られ、氷砦が耐えることが出来なそうだった。カレンの魔力も高いというのもあるが、このフレアボムという魔法は相当威力が高い。
今考えるとレッカが俺にフレアボムを放とうとしたのはどう考えても危ない行為だったと思うのだが……恐らく全力ではなかったとは思うが……いやそう思いたい。
「少しは頼りにしてくれよな」
ヒュージがそう言って一緒に氷砦を発現させてくれるとフレアボムの衝撃に耐えることが出来た。
土埃が舞うが、俺が素早く風魔法で吹き飛ばして周囲を確認するとモグエースはビックリしたのか体を震わせて地面から出てきて腰が抜けているようだった。中には地上に出てきて気絶したモグエースもいた。フレアボムが着弾したあたりにいたモグエース達はそのまま死んでいた。
そしてフレアボムの爆風は木の上にいるトロルコングにも伝わっており、何体かは木から落ちてきた。
「このまま俺とエリー、ミーシャは木の上のトロルコングを追うぞ! ここにいるモグエースとトロルコングは他の者に任せる!」
俺が言う前にすでにエリーは行動に移っていた。フレアボムの爆風や衝撃でトロルコングは木から落ちると思っていたが、ほとんどはエリーが木の上からトロルコングを叩き落としていた。
周辺のトロルコングを全て叩き落して地上の雛鳥たちに経験値を運ぶとみんな喜んでトロルコングを狩っていた。木の上から地上に戻ると1体のモグエースを残して全ての魔物を倒していた。鑑定用に取っておいてくれたようだ。
【名前】-
【称号】-
【種族】モグエース
【脅威】B-
【状態】気絶
【年齢】6歳
【レベル】11
【HP】24/84
【MP】20/20
【筋力】42
【敏捷】48
【魔力】10
【器用】55
【耐久】32
【運】1
大きさは100cmくらいとかなり大きかった。槍と思っていた物はスコップだったらしい。
鑑定が終わるとしっかりアイクが止めを刺した。
「早くここから離れよう。カレンのフレアボムの威力が予想外に大きかったから、ここから逃げる魔物もいるかもしれないが、もしかしたらここにやってくる魔物がいるかもしれない」
ヒュージの提案にみんなが頷く。隊形を整えてから進路を西に取り西側に進んだ。
「まさかフレアボムをカレンが使えるとは思わなかったな。たしかあの魔法は現フレスバルド公爵のオリジナル魔法だったよな?」
「はい、そうです。ご存じかもしれませんが、私の他にスザクお兄様とフレスバルド第2騎士団団長のレッカも使えます」
ヒュージの言葉にカレンが答えると
「スザク様のは見た事があるがレッカも使えるのか……」
とヒュージが少し驚いていた。少し歩くと上空が少し騒がしくなった。
「あれはワイバーンだ。脅威度A-の空の覇者だな。まぁ天大陸ではヒエラルキーが最下層で仕方なく降りてきているという説があるが……魔の森周辺に飛んでいるが魔の森の中に降りることはないし、魔の森の外側にも出ないから俺たちには害はない。先ほどのフレアボムの衝撃音で様子を見に来たのかもしれない」
空の覇者ってかっこいいな……さすがに鑑定できる距離ではないから諦めよう。
「さっきの所……いっぱい魔物来た……多分キマイラ……そしてこっちに向かってくる……」
エリーがキマイラたちを感知したらしい。ちなみに俺はサーチを使っていない。俺のサーチを感知できる魔物がいたら厄介だからね。
「キマイラもさっきの衝撃音で寄ってきたか……今日はここまでだな……さすがにキマイラはきついだろう……」
ヒュージの言葉にミーシャが
「えっ? キマイラってマルスの大好物だったやつだよね?」
まるで食べ物のようにキマイラの事を言った。
「なに? マルスはキマイラと戦ったことがあるのか?」
「はい。メサリウス伯爵領の迷宮でずっとキマイラと戦っておりました」
「それはいつの話だ?」
「去年の8月ごろだったと思います。あの頃よりかは確実に強くなっているので倒せると思いますが……」
「そうか。ならキマイラと戦うか。俺もキマイラでよくレベル上げをしていたからな。だがいつもは魔氷の鎧の効果を使っていたが、今日はMPを温存するためになるべく使わないようにする。
流石に複数体を相手にしなければならない時は使うが、ブラムがいるとはいえ節約できるところは節約したいからな。指示はマルスに任せてもいいか? マルスの方が俺より皆の実力を分かっているようだし、その慎重な采配は好感が持てる」
「分かりました。キマイラには僕とヒュージ様、アイク兄、エリーの4人で前を固めようと思います。ただしキマイラを倒すのは最後で、とにかくダイアウルフを召喚させてキマイラのMPを枯渇させましょう。MPさえ枯渇させてしまえばみんなで魔法や弓で遠距離攻撃をしていれば倒せると思います。
クラリスにはいつものようにみんなのバックアップをお願いしようかと思います。クラリスがフリーで居ることが出来れば、みんな安心だと思いますので。ダイアウルフにつきましては、他のメンバーでも十分に対応できます。一応アリスにはライナー先生をつけておけばいいかと」
今回も俺の言葉にみんなが頷きヒュージも従ってくれた。俺達はキマイラを迎え撃つ隊形を取り待ち構えていると20匹ものダイアウルフの群れが勢いよく走ってきた。
「キマイラ10匹はいると思え! どうやら巣穴から出てきた奴らかもしれない! まずはダイアウルフを殲滅するぞ!」
キマイラ10匹は流石に想定外だった。しかしダイアウルフが20匹いるという事はキマイラが10匹いてもおかしくないという事だ。
どんどんダイアウルフが走ってくるが、俺達はそれをものともせずに倒しまくる。
驚いたことにカレンのレッドビュートでの攻撃を喰らうとダイアウルフたちはひっくり返り腹を見せて降参? 従順の意思を見せた。
しかしカレンはそんな事お構いなしにとどめを刺しまくる。さすがカレンだ。鞭を持ったカレンはいつも以上にカレンだ。容赦がない。
30分くらい経っただろうか? 何百匹というダイアウルフの死骸をまとめて燃やすとキマイラたちがようやく俺たちの前に姿を現した。










