第205話 深夜の戦い
「デーモンって……」
サーシャが呟くとヒュージが
「あくまでも可能性だ。だが魔の森から来た魔物達の傷跡を見ると火魔法、水魔法、土魔法で傷つけられた跡があったからな。言い伝えだとデーモンは風魔法以外の魔法を使うと聞いたことがあるからそう思っただけだ」
ヒュージの言葉にサーシャが
「そうですね。リーガン公爵であればもしかしたら傷跡だけで判断できたかもしれませんが……」
ヒュージの言葉を聞いてどこか納得したような表情で同意していた。リーガン公爵だったらなんで分かるというのだろうか?
「よし、それではこれからの作戦を考えたいのだが何かあるか?」
ヒュージが俺たちに問いかけてきたので
「はい。まずは戦場をバーグットから移したいと思います。ですから魔の森の近くに拠点を構えてそこで魔物達を迎撃しようかと。万が一の事もありますから、ここにもある程度の戦力を残すのと、隣町のガナルにはこの街から避難して街に入れない者たちが多数おります。その者たちをなるべく早くこの街に呼び戻したいのですが?」
「そうか……ではガナルから住民たちを呼び戻すことを最優先にしよう。呼び戻すのには【氷帝】のメンバーを遣わせよう。バーグットの住民たちは恐らく俺達【氷帝】のメンバーの事を覚えているだろうから素直に従ってくれるとは思う。
だが魔の森の近くに拠点を構えるというのは無理だ。ここの住民たちが大工仕事をしている余裕はないだろう。それに魔の森の近くまで非戦闘員を連れて行くのは避けたい。資材を持ち運ぶことも大変だしな」
「資材も住民たちも必要ございません。必要なのはヒュージ様のお力だけです。小さい砦のようなものでしたら1日もかからずに作る事ができます」
俺の言葉にヒュージが少し顔をしかめた。何言ってんだこいつとでも思っているのだろう。
「分かった……ではその件はまた後日考えよう。今はすぐにでもガナルの住民を呼び戻すことを優先としよう。呼び戻すにあたってこの街にいる冒険者を派遣したいのだがこの街の防衛の事も考えないといけない。
俺達【氷帝】を含めて20名ほどいるが、どのくらいここに残しておけばいい? 住民たちがここに戻るまでの間の護衛もしないといけないから最低でも10名は派遣したいのだが……」
ヒュージの言葉にサーシャが答えた。
「この街にいる冒険者全員で行っても問題ないと思います」
サーシャの言葉にヒュージが
「サーシャさん。さすがにそれは自信過剰すぎるのでは? 確かにマルスとサーシャさん、そしてアイクがいれば多少は持ちこたえることが出来るかもしれませんが……」
と少し困ったように言うとサーシャが
「ヒュージ様、私は一緒に来たメンバーの中では7番目くらいの実力だと思っております。私はB級冒険者中位クラスだと自負しておりますが、少なくとも上位クラスがマルスを除いても3名はいるかと。ここは私たちを信じてガナルの街にいるバーグットの住民たちを少しでも安心して戻って来られるように、なるべく多くの人数で迎えに行ってもらえませんか?」
「サーシャさんが7番目? にわかには信じられないですが……分かりました。サーシャさんがそこまで言うのであれば私も一緒にガナルの住民たちを迎えに行くとしましょう。
もう日が落ちてきますが、私たちは準備が出来次第出発します。マルス、アイク、サーシャさん、少しの間だがこの街をよろしく頼むぞ」
ヒュージの言葉に俺たちが頷くと満足そうにヒュージが部屋から出て行き近くの冒険者たちに指示を出し始めた。
俺達も皆の下に戻り事情を説明してから今後の方針を述べる。
「12人を2つの班に分けて12時間交代で見張りをすることにします。もちろん余裕があるのであれば休んでいる班の者も警戒に当たってください。
バーグットの住民たちが戻ってくるのに5日はかかると思ってください。みんな徒歩だし、訓練もされていない、中に赤ちゃんまでもいたから住民たちの移動速度は非常に遅いものと仮定しておいてください。
この街の警戒中は【黎明】と【紅蓮】のパーティを割り、マルス班とアイク班に分けます。それぞれ今から言うから覚えておいてください。
まずはマルス班から
エリー、カレン、ミーシャ、イースト、ユーリの5名
続いてアイク班
クラリス、アリス、サーシャ、眼鏡っ子先輩、ガルの5名
基本的にマルス班は0時〜12時、アイク班は12時〜0時の警備を担当してもらいます。ちなみに僕は3時間の睡眠で済むからアイク班の警備にも参加します。これからマルス班はすぐに休憩に入ります。みんなよろしく頼む!」
俺が指示をすると、アイクが「分かった」と頷いた。ちょっと俺たちの班の方が強いかもしれないがエリーは夜でも警戒ができるし、ミーシャも索敵は得意な方だ。
それにカレンは火魔法で明かりをつけることが出来る。バランスを取るためにイーストとユーリをこちら側に配置した。それに皆に伝えたように俺はアイク班でも警備をするつもりだからベストではない班割りかもしれないが、悪手ではないはずだ。
すぐにマルス班は休憩に入る。もう18時になろうという時間なので風呂に入り、軽食で済ませ、すぐにベッドに入った。
俺がベッドに入るとエリーがすぐに俺の隣に潜り込んでくる。エリーの精神安定も兼ねて、エリーと同じ班にしたというのもある。
22時前に起きて俺はバーグットの街の中を歩いた。どうやらヒュージ達はもうバーグットを出発したようだ。
街の外に出ると南側にはアイクとクラリスを中心に警戒にあたっていた。サーシャとアリス、眼鏡っ子先輩とガルが2人一組となってバーグットの街の周囲をグルグルと徘徊しながら警戒にあたっている。
「どうですか? 魔物は来ましたか?」
俺がアイクに聞くと
「魔物はまだ来ていない、ヒュージ様が言うには魔物達はある程度まとまってくるようだ。デーモンたちに恐れをなした魔物達が群れを生して逃げてきているんだろうと言っていたが、そうかもしれんな」
魔物に恐れられる魔物ってかなり強いのかもしれない。
俺とアイクが話していると少し離れたところにいたクラリスがやってきた。
「マルス早いわね。今日はアイク班、1時まで警備するわよ。流石に18時から色々やって0時に警備始めるのは大変だろうから」
「ありがとう。助かるよ。美容の為に早く休んでほしいけど今回は厚意に甘えさせてもらうよ」
「あら? 私がこのために夜更かしをして、シワが増えてもしっかり責任取ってくれるでしょ? もしも責任を取ってくれなかったらお義父様やお義兄様に泣きつくからね」
笑いながら俺に寄り添ってきた。今日も絶好調でクラリスは可愛い。3人で談笑していると俺のサーチに何かが引っ掛かった。
「南から何かが来ています!」
俺が2人にそう言うと2人はすぐに戦闘態勢を取った。夜空に向かってファイアを放ち他のメンバーに合図を送った。空に打ち上げたファイアが南側の暗闇を照らすと魔物達が砂煙を上げてこちらに向かってきている。
「来るぞ!」
しっかり犬のような魔物達が30匹くらいこちらに向かっている。
【名前】-
【称号】-
【種族】アサルトドッグ
【脅威】C
【状態】狂乱
【年齢】5歳
【レベル】7
【HP】42/42
【MP】3/3
【筋力】22
【敏捷】34
【魔力】1
【器用】32
【耐久】21
【運】1
「魔物は脅威度Cのアサルトドッグです! 狂乱状態となっているから気をつけてください! あとその後ろにも何体か来ています! アサルトドッグはそいつらから逃げているみたいだから十分に注意をしてください!」
俺がアイクとクラリスに向かって叫ぶと2人は頷いた。
「マルス! ここは俺とクラリスだけで十分そうか? もしも任せても大丈夫そうな場合は他の索敵を頼む!」
「分かリました、2人なら多分大丈夫です! 俺はアリスと眼鏡っ子先輩の近くに行って様子を見てくる!」
そう言ってまた夜空をファイアで照らす。すると街の方から凄いスピードで駆け寄ってくる者がいた。
「マルス!……私……どうすればいい……?」
エリーが俺の所に走ってきながら聞いてきた。エリーはいつもMPを枯渇させないで寝るからこういう時にすぐに起きられるのが強みだ。
「エリーは眼鏡っ子先輩とガル先輩の所に……」
と言おうとしたがもう既に眼鏡っ子先輩とガルは俺の視界の中に入っていた。そしてサーシャとアリスもこちらに向かっているのが分かる。
「サーシャ先生とアリスもこちらに向かっているようだ! みんなここで迎え撃ってくれ! 俺は別の魔物達の群れが居ないか探してくる!」
正直脅威度Cの敵であればクラリスだけでも勝てそうだが、初戦だからみんなの緊張をほぐしておきたい。
それにアサルトドッグの後ろから迫ってきている魔物も気になる。俺の考えをよそにクラリスとアイクだけでアサルトドッグをどんどんと屠っていく。2人とも気合が入っているから仕方がないか……
「く、クラリスもここまで強いのか……」
ガルがクラリスの魔法の弓矢の攻撃に見惚れていた。
結局2人だけでアサルトドッグを全て倒してしまった。まぁ夜間の戦闘だから仕方ない。昼であればアリスに倒してもらいたかったが。
アサルトドッグを倒した1分後くらいに醜悪な顔をした紫色の肌の人型の魔物達が槍を片手に迫ってきた。その数は10体。1体だけ体が大きい魔物がいた。まずは小さい方、小さいと言っても160cmくらいの魔物を鑑定した。
【名前】-
【称号】-
【種族】レッサーデーモン
【脅威】C+
【状態】良好
【年齢】1歳
【レベル】5
【HP】45/45
【MP】47/99
【筋力】24
【敏捷】30
【魔力】35
【器用】25
【耐久】20
【運】0
【特殊能力】槍術(Lv2/E)
【特殊能力】火魔法(Lv3/E)
【特殊能力】水魔法(Lv2/E)
【特殊能力】土魔法(Lv2/E)
【詳細】神聖魔法に弱い
そして大きい方の180cmくらいの魔物を鑑定すると
【名前】-
【称号】-
【種族】デーモン
【脅威】B+
【状態】良好
【年齢】1歳
【レベル】8
【HP】103/103
【MP】187/257
【筋力】44
【敏捷】68
【魔力】89
【器用】71
【耐久】58
【運】0
【特殊能力】槍術(Lv3/E)
【特殊能力】火魔法(Lv7/C)
【特殊能力】水魔法(Lv6/D)
【特殊能力】土魔法(Lv5/D)
【特殊能力】MP回復促進(Lv3/E)
【特殊能力】魔物召喚(Lv1/G)
【詳細】神聖魔法に弱い
ヒュージの睨んだ通りデーモンだったか。デーモンに関しては背中から黒い羽が生えている。もしかしたら飛べるのかもしれない。
「来ます! レッサーデーモンとデーモンです! 魔法攻撃もしてくるみたいだから気をつけてくだいさい! 脅威度はC+とB+です! レッサーデーモンもデーモンも神聖魔法が弱点です! 眼鏡っ子先輩とガル先輩、それにアリスは後方で待機してください!」
深夜の第2ラウンドが始まった。










