第202話 東リムルガルドにて
2031年5月8日9時
「なんか納得いかないのよねぇ……」
クラリスが俺の正面の席でボソッと呟く。
先ほど俺たちはコジーラセや冒険者、領民に見送られて西リムルガルドを発った。コジーラセの女性恐怖症は解消され、冒険者、住民は喜んだ。
当然、女性の外出禁止の時間帯は廃止された。一番喜んだのはコジーラセ本人だった。
自分で大の女性好きを公言しているだけあって女性と話せるようになると、今までのうっぷんを晴らすように朝から街の女性たちと話しまくっていた。
俺達が西リムルガルドを出発する時にコジーラセが
「私もマルス様のようなハーレムを絶対に築きます!」
嬉しそうに大声で俺に誓った。いやそんな大きな声で言われると俺が恥ずかしくなるからやめてくれ。
「ミーシャさん! 僕と根気よく話してくれてありがとうございました。サーシャさんに、エリーさん、カレンさん、アリスさんもありがとうございます」
クラリス以外の女性たちにコジーラセがお礼を言った。そして最後にコジーラセがクラリスに
「クラリスさん。今度会う時までには必ず目を見てお話が出来るように頑張ります。不快な思いをさせたなら謝ります」
コジーラセの言葉にクラリスが微笑みながら
「大丈夫ですよ。コジーラセ男爵。また会う事もあると思いますのでよろしくお願いします」
コジーラセの顔を見ながら言うと、過呼吸にはならなかったがフリーズしてしまった。慌ててクラリスを馬車に入れてコジーラセの肩を揺すってコジーラセの意識を取り戻すと、
「本当に悪魔的ですね。マルス様もご自愛ください」
フラフラしながら俺たちを送り出してくれた。
「まぁクラリスが綺麗ってことだからいいじゃないか?」
馬車の中で拗ねているクラリスを励ますと俺の右隣にいたアリスも
「先輩、仕方ないです。女の私から見ても別格だと思いますから」
一緒になってフォローしてくれた。
「なんか私だけ仲間外れみたいで……まぁ少しずつ慣れてくれれば……」
クラリスが言うと、エリーが
「方法は……ある……」
クラリスが「なに? どうすればいいの?」とその方法をエリーに問う。するとエリーが
「得意技……股間クラッシュ……大丈夫!」
親指を立ててクラリスに言うと案の定2人が開戦する。今日も相変わらず仲が良くて何よりだ。
安全を考慮してリムルガルド城下町付近は通らず、相当南側に大回りしているのだがそれでも魔物がチラホラ出現する。それも脅威度CやDの魔物だ。
ここから北上してリムルガルド城下町付近になるともっと強い魔物が徘徊しているだろう。
なるべくアリスを中心に討伐してもらうが、正直アリスにはまだ脅威度Cの敵を倒すことが出来ない。脅威度Dの敵も1対1でないと見ていて怖い。
だから必ずアリスが戦闘をするときは俺かクラリスがアリスの側にいるように心がけた。
「よし! もうそろそろ越国だ! リムルガルド城下町から遠いとはいえみんな気を引き締めるように!」
俺が言うとクラリスが質問をしてきた。
「ねぇマルス? このまま東に進む? それとも越国したら北上して東リムルガルドに行く?」
「東リムルガルドに寄るよ。今日の朝にサーシャ先生にも確認したから大丈夫だ」
クエストを優先するのであれば東リムルガルドに寄らずにこのまま東進したほうが絶対に早く魔の森に着くが、東リムルガルドの現状も見ておきたい。将来の為にもだ。
今朝サーシャにそのことを伝えたらあっさり了承してくれた。俺達へのクエストはあくまでも、魔の森の様子を見てこいとの事らしい。
しばらく馬車を走らせ、越国してもすぐに北上はせずに東進し続けた。少しでもリムルガルド城下町から離れている、東リムルガルドの東側から街に入った方が安全だと思ったからだ。
「なんか魔物の数多くない? それもかなり敵が強いと思うのだけれど?」
俺と一緒に外に出ているクラリスが聞いてくる。
「そうだな。予想以上に多いな。東リムルガルドが少し心配だな」
予想以上に魔物の数が多かった為、全員外に出て魔物達を倒しながら東進した。
「マルス。もうそろそろ北を目指しましょう」
サーシャの言葉に俺が頷き北上を始める。北上するにつれて魔物の数が減っていくのが分かる。ということはもしかしたら東側で何か起きているのかもしれない。ここから東側にあるといって思い出すのは魔の森だ。
15時を過ぎたあたりでようやく東リムルガルドの街が見えてきた。
「ようやく見えてきた。相当遠回りをしたけど無事辿り着けたな」
街の付近まで行くと東リムルガルドの街の様子が以前とは違った。街壁は崩れ、街門も傷んでいた。もしかして街の中は魔物が徘徊しているのかもしれない。
サーチで警戒しつつも急いで東リムルガルドの東側から街の中に入ると、昔に比べて大分人が減ってはいるもののそれでも魔物に襲われているという事は無かった。
「取り敢えず最悪な状況ではないようだ。クラリス、昔はこんなんじゃなかったよな?」
「そうね。もっと活気があって街もそれなりには綺麗だったと思うけど……」
街の中心までみんなで歩いて行くと
「マルス! どうしてここに居るんだ!?」
聞きなれた声が俺を呼ぶ。すぐに声がした方を見て
「アイク兄! 僕たちはリーガン公爵に魔の森に行くようにと。【紅蓮】はどうしてここに居るのですか?」
アイクの近くには【紅蓮】のメンバーが勢ぞろいしていた。
「いや、俺たちも魔の森に行くようにリーガン公爵に言われてな。俺達は今日の昼前に着いたのだが、マルスはどこから来たんだ? どうやら街の東側から来たようだけれども?」
俺はルートをアイクに説明し、ここに来るまで魔物が多かったことを言うと
「そうか……やはり魔の森で何かあったのかもしれないな。お前たち宿は取ったか? 良ければ一緒の宿に泊まらないか? それと今後の行動も出来れば共にしたい。どうだ?」
俺は2つ返事でOKした。むしろこっちから頼もうと思ったくらいだ。
すぐに俺達は宿に向かい部屋を取った。しかしドワーフのガルが絶対に男女同室は認めないとしつこいので俺はアイクと同室となった。
みんな風呂に入ってから宿の食事処でご飯を食べる。俺はアイクに東リムルガルドの事を聞いた。
「アイク兄、昔と比べて大分荒れていますが何があったのですか?」
「俺たちも今日ここに来たから詳しくは分からないんだが、どうやらこの街は去年、魔物によって落ちたらしいぞ。今年になってAランクパーティがここを奪還したらしいが……」
多分【氷帝】がここを奪還したのだろう。もしかしたら他のパーティもいたのかもしれない。それにしても落ちていたのか……ザルカム王国の冒険者、騎士団は想像以上に人手が足りていないのかもしれない。俺とアイクの話の途中にある人物が割り込んできた。
「マルス、あなたのせいで私の足や腕が少し太くなったのよ。アイクに捨てられたらしっかりとマルスが責任取りなさいよ」
相変わらず眼鏡っ子先輩の言う事はメチャクチャだ。きっと去年の西リムルガルドでのスパルタ戦闘をまだ根に持っているのだろう。
「大丈夫ですよ。アイク兄は絶対に眼鏡っ子先輩を捨てたりはしませんから」
眼鏡っ子先輩を適当にあしらうともう1つ気になっていたことをアイクに聞いた。
「アイク兄は今年どこに行かれていたのですか? 新入生闘技大会の時にしかあっていない気がするのですが」
「ずっとクエストを受けて迷宮の魔物の間引きをしていた。それなりには強くなったつもりだが……」
アイクは少し表情を曇らせながら言った。あまりレベル上げが芳しくなかったのだろう。
【名前】アイク・ブライアント
【称号】-
【身分】人族・ブライアント伯爵家嫡男
【状態】良好
【年齢】14歳
【レベル】34
【HP】100/100
【MP】1187/1187
【筋力】77
【敏捷】65
【魔力】42
【器用】45
【耐久】70
【運】10
【特殊能力】剣術(Lv6/C)
【特殊能力】槍術(Lv8/B)
【特殊能力】火魔法(Lv6/C)
【特殊能力】風魔法(Lv2/G)
【装備】火精霊の槍
【装備】火幻獣の鎧
【装備】火の腕輪
【装備】守護の指輪
ステータスは上がっているのだが特筆するような事は何もなかった。アイクが小声で
「やはり神聖魔法使いがいないとこんなものだろうな。だがパーティ全体としてのレベルはだいぶ上がった。今までは俺と他のメンバーのレベルが離れていてチャレンジを躊躇っていたクエストも今なら受けられる。だから今回、魔の森のクエストを受けたんだ」
確かに眼鏡っ子先輩はだいぶ強くなっていた。
【名前】エーディン・アライタス
【称号】-
【身分】人族・メサリウス伯爵家長女
【状態】良好
【年齢】14歳
【レベル】30
【HP】70/70
【MP】267/267
【筋力】25
【敏捷】26
【魔力】56
【器用】30
【耐久】22
【運】10
【特殊能力】魔眼(LvMAX)
【特殊能力】弓術(Lv4/D)
【特殊能力】土魔法(Lv7/C)
【装備】土精霊の杖
【装備】魔法のローブ
【装備】守護の指輪
かなり弓術が磨かれた印象だ。
それに後衛でこれだけHPが高い女性はなかなかいない。魔力も高いし、何より束縛眼もちだから少しはアイクも安心しながら前衛に回れることだろう。
【紅蓮】で2番手のガルもC級冒険者クラスはあるだろう。イーストもユーリもレベルが30まで上がっており十分Bランクパーティとして通用する構成となっている。
【紅蓮】のメンバーの話題はずっとアリスのようだ。どうして【黎明】に入ったのか、好きなタイプはとか聞いていた。ちなみに好きなタイプを聞いたのは眼鏡っ子先輩だ。
どうやらアリスが照れたり、恥ずかしがる姿を見るのが楽しいらしい。ほんと、いい性格しているよ。
ガルもクロムとの戦いに負けた事はもう引きずっていないらしく陽気に酒を飲んでいた。
「良かったですね。ガル先輩が立ち直ってくれて」
アイクに言うと
「そうだな。エーデとガルは【紅蓮】のムードメーカーだからな。まぁミーシャほどではないが元気でないと困るな」
明日東リムルガルドを出発するというのに宴会は遅くまで続いたようだ。俺はみんなが寝るタイミングで起きれるように早めに宴会を切り上げた。
予想はついていると思いますが、この章は相当ステータス表記が多くなりますm(__)m
 










