第201話 銀色の悪魔
「初めまして、コジーラセ男爵、ミーシャと申します。エルフで11歳です」
今、俺とコジーラセ、ミーシャの3人で領主の屋敷に居る。隣には他の5人が待機している。
いきなり全員で話しかけると絶対にパニックに陥るし、過去の経験から2人っきりでは絶対に無理との事で3人で話をすることした。
なぜミーシャを選んだかと言うと一番人懐っこいし、クラリス、エリー、サーシャの3人は完全に大人の女性という雰囲気があってコジーラセには荷が重い。
まぁサーシャは実際に大人なのだが。その次にアリスが大人びており、カレンは少しだけ気が強くて短気な所があるからトップバッターとしては向いていない。
だからミーシャと3人で話すことにしたのだ。それにミーシャの長所の1つでもある人懐っこくて、懐に入るのが得意というのもトップバッターに起用した理由の1つなのだ。
昔、サーシャがミーシャの事を人見知りと言っていたがあれは俺とクラリスしかいないと思った所にエリーがいたから面食らっただけだと思う。
コジーラセはミーシャの自己紹介を完璧に無視をした。ミーシャが俺に向かって困惑の表情を浮かべると俺が
「彼女がミーシャです。僕を介してでもいいので少しお話をしませんか?」
改めてミーシャを紹介するとコジーラセが
「初めまして。コジーラセ男爵家当主ビビ・コジーラセ、18歳です」
ミーシャがコジーラセの言葉に笑いながら
「コジーラセさん、楽しい人ですね。趣味は何ですか?」
楽しい人と言われたことに少し気を良くしたのか、ミーシャの人懐っこい、優しいオーラに気を許したのかコジーラセが素直に
「女性を見ることが好きです」
と答えるとさすがのミーシャも若干引いていた。だがこの会話を期に少しずつ話が出来るようになったので
「コジーラセさん、ミーシャの顔を見られますか? 今まで一度も見ていないと思いますが?」
ずっと俺の方を見ているコジーラセに聞くと
「む、無理です。だけど何年かぶりにこうやって会話が出来ているのでもう少し慣れれば見られるかもしれません」
明日にはここを出発するから今日中になんとかしたいのだが、焦って無理矢理ミーシャを見せたら苦労が水の泡になってしまう。
1時間ほど会話を続けているとついにコジーラセがミーシャを見てみたいと言い出したので、まずミーシャには俺の方を見てもらい絶対にコジーラセと目を合わせないようにしてもらった。
「す、すごい……私はこんな可愛い人と話をしていたんですね」
コジーラセがミーシャの顔を見ながら言うと
「では今度はコジーラセ男爵がミーシャを見ながら、ミーシャが俺を見ながら話をすることにしましょう」
俺の提案に2人とも頷き、会話を始める。主にコジーラセがミーシャに質問をしている。
今まで女性と会話が出来なかった分、脳内で色々会話を考えていたのだろう。
嬉しそうにミーシャの方を見ながら話すとミーシャも嫌な顔一つせずに答える。そしてコジーラセがミーシャに
「尊敬している人は誰ですか?」
と聞くとなんといきなりコジーラセの方を向いて
「マルスです!」
微笑みながら答えた。
ミーシャは確信犯だったのか分からないが、コジーラセが嬉しそうにどんどんミーシャの目を見ながら会話を続けるとミーシャもコジーラセとの会話を楽しんでいた。
現在17時、もうそろそろお風呂入ってご飯を食べたい。何しろ俺だけ昼ご飯を食べていないからね。
「コジーラセ男爵、よろしければご飯を一緒に食べませんか? 女性たちと一緒にご飯を食べる事も慣れて頂こうと思うのですが? 場所は僕たちが宿泊する予定の宿でどうでしょう?」
ミーシャとの会話に夢中なコジーラセが
「わかりました。是非お願いします。ちなみに皆さんの宿は私の方で手配しております。私の方はお風呂に入ってから伺います。18時過ぎ頃でいいですか?」
コジーラセの提案に頷き、ミーシャと一緒に部屋を出た。宿を取ってくれていたのか……全く宿の事とか忘れていたな。
隣の部屋でガールズトークに花を咲かせていた女性たちに経緯を話し宿に行く事にした。
宿に着き、早速風呂に入る。ちなみにコジーラセは7部屋用意してくれていたのでお風呂はそれぞれの部屋で入った。
俺はいつもよりも早めに風呂から上がり、すぐに宿の食事処に向かうと、もうコジーラセが到着していた。良かった……俺が女性陣よりも先にここに来て。
「申し訳ございません。待たせましたか?」
俺がそう言うとコジーラセが
「いえ、本当に今来たところです」
手を横に振りながら答えた。なんか俺たちの会話、敬語を除けばカップルだな。俺はコジーラセの右隣に座った。
俺の次に食事処に来たのはエリーだった。エリーを見たコジーラセがすぐにエリーから視線を外しさっきまでのコジーラセに戻ってしまった。
「……エリーです……よろしく……お願いします」
エリーがペコっと頭を下げるが、コジーラセはやはりなんのリアクションもしない。
「こちらがエリーです。また僕を介してでもいいので少しお話をしませんか?」
コジーラセに言うとコジーラセが
「だ、大丈夫です……ミーシャさんで大分慣れたと思ったのですが、流石にこれほどの美女は見たことが無いので……」
エリーが美女という言葉に反応した。
「美女?……私が美女だったら……クラリス……」
と、ここまで言うとエリーが考え込んでしまった。俺とコジーラセがエリーの言葉を待っているとエリーが
「……悪魔?」
思わず飲んでいたアルコールを吹き出してしまった。悪魔的に可愛いという事だろうか? しかしコジーラセが今の悪魔という言葉に興味が湧いたようでエリーに質問をした。
「クラリスさんと言う方は悪魔族なんですか? 最後の悪魔族は剣神様が倒して絶滅したと聞いたことがあるのですがまだ生き残りがいたなんて……」
悪魔族? 魔族にそんな種族がいるのか……
「クラリス……1番綺麗……可愛い」
コジーラセの誤解を解こうとするわけでもなくエリーが答えた。
「魔族……それも悪魔族でそこまで綺麗な人がいるのですか……少し怖いですがエリーさんにそこまで言わせる人であれば是非見てみたいです」
結局コジーラセは勘違いをしたままだった。俺が訂正をしようとコジーラセに話そうとした時にミーシャとサーシャが一緒にやってきた。
「ヤッホー、お待たせ。なんかお風呂入って考えていたんだけどさ、コジーラセ男爵って呼ぶの長いから親しみを込めてコジちゃんでいい?」
ダメだろ! って内心思ったが
「ではビビ・コジーラセですので、ビビと呼んでください」
コジーラセはミーシャの目をしっかりと見て答えた。
「分かったビビちゃん。早速紹介するね。こちらが私のお母さんのサーシャです」
ミーシャが一緒に来たサーシャを紹介すると
「母のサーシャです。娘が大変失礼なことを申し、大変申し訳ございません」
サーシャが頭を下げるとコジーラセがサーシャを見て
「いえいえ、ミーシャさんにはとてもお世話になりました。短い間ですが、よろしくお願いします」
コジーラセもサーシャに頭を下げた。ミーシャに似ているからサーシャの事はすんなり受けいれられたようだ。そしてコジーラセが俺に向かって
「確かマルス様は女性全員婚約者という事を聞いたのですが、サーシャさんとミーシャさん、母と娘2人とも……?」
あ、そう言えば先ほどの冒険者がコジーラセにそう言っていたな。
「いえ、ミーシャは婚約者……ですが、サーシャ先生は違います」
俺の答えにコジーラセが少しホッとした様子だった。ミーシャはコジーラセの左隣に座り、サーシャはミーシャの隣に座った。次に来たのがカレンだ。
「初めまして、リスター連合国フレスバルド公爵家次女のカレン・リオネルです」
スカートの裾を軽く持ち上げてカレンが挨拶するとコジーラセが顔を真っ赤にしながらも
「こ、コジーラセ男爵家当主ビビ・コジーラセです」
カレンの方を真っすぐ見てしっかり挨拶をした。そしてすぐに俺の方を向いて
「やりました! これだけの美少女相手に初見で挨拶することが出来ました!」
興奮しながら大きな声で言うと、それを聞いたカレンが
「ありがとうございます。でも最後にくる子は覚悟した方がいいですよ? ある意味化け物が来ますから」
カレンがコジーラセに言うとコジーラセが
「もしかしてクラリスという女性ですか?」
カレンに聞くと、カレンは頷いた。悪魔、化け物と聞いて、コジーラセはクラリスをどのようにイメージしているのだろうか? カレンがミーシャの前に座った。
これで空いている席は俺の隣とコジーラセの前だけ。次に来たのはアリスだ。アリスはまだしっかりと髪の毛が渇いておらず、ピンク色の髪の毛が濡れていた。
「初めまして。アリスと申します。私だけ10歳ですが、よろしくお願いします」
ぺこりと可愛くコジーラセに挨拶をする。
「じゅ、10歳……? ですか? もう成人しているかと思いました。コジーラセです。18歳です。こちらこそよろしくお願いします」
もうすっかりコジーラセは慣れたようだ。アリスを手招きし、俺の隣に座らせて俺がアリスの髪の毛を乾かす。
「本当にマルス様のお連れの方々はとんでもない美女ばかりですね」
俺に言うと、アリスがみんなと同じように
「クラリス先輩をもうご覧になりましたか?」
クラリスの事を聞く。
「ああ……悪魔で化け物ですよね? 拝見するのが楽しみです」
アリスは何のことか分からないという顔をしながら適当に相槌を打っていた。
いつも通り、いやいつにもましてクラリスは長湯だった。俺達はクラリスが来るまでお酒を飲みながらワイワイ楽しんだ。
もうコジーラセはエリー以外の相手とはしっかり目を見て話せるようになっていた。
エリーと話をするときだけ、緊張からか声を詰まらせたが、ここまで話せればもう大丈夫だろう。しばらくすると急に俺の前方から声がした。
「ごめんなさい。ちょっとしつこい人がいてなかなか振り切れなくて」
俺達の目の前に銀色の髪の毛の悪魔が現れた。
悪魔とコジーラセの目が合った瞬間、コジーラセの顔が真っ赤になったのだが、その後すぐに過呼吸の症状が出て、一気に顔が真っ青になった。人ってこんなすぐに顔の色が赤や青に変わるのだな。
「コジーラセさん! コジーラセさん! ゆっくり息を吐いてください!」
俺がコジーラセをさすりながら呼びかけるが、コジーラセの過呼吸は治まらない。
急にコジーラセが過呼吸になり、クラリス含め、女性陣が少しパニックになった。仕方ないからコジーラセにバレないように背中にキュアを唱えると過呼吸が治まり、コジーラセが俺に向かってこう言った。
「悪魔は凄いですね。僕には悪魔の耐性がないようです。僕は今呪術をかけられたのでしょうか? それともこれが魅了眼でしょうか?」
そう言えばクラリスへの誤解を解いていなかった。
「クラリスは人族ですよ? 悪魔と言ったのは悪魔的に可愛いという事だと思うのですが……」
エリーの方を見るとエリーが
「うん……やる事も悪魔……」
ボソッと言う。ああ1人の男の人生を終わらせてしまったからか。
エリーの一言で久しぶりにクラリスとエリーの戦争と言う名のじゃれあいが始まった。2人の戦争をよそにコジーラセが
「本当に人族なのですか? 魅了眼をかけられたわけでもなく?」
俺に聞くとエリーと戦争中だったクラリスが
「挨拶遅れて申し訳ございません。クラリス・ランパードと申します。何やら私の事を酷く言う者がいたようですが全て嘘ですから気になさらないで下さい」
コジーラセに優しく微笑むと、それをまともに見てしまったコジーラセが本日2度目の過呼吸を起こした。
皆さん!決して作者はコジーラセではございません!
女性と話す時は少ししか緊張しないですから!
なぜこの話を差し込んだのかと言いますと・・・