第192話 吃驚仰天
「ねぇマルス。セレアンス公爵の言っていた件どうするの?」
食事を終えた後、部屋に戻るとクラリスが不安そうに聞いてきた。
「うん。前向きに検討するつもりだ。かなりいい案だと思うから」
俺の言葉にクラリスとエリーが不安を募らせる。クラリスとエリーが見合った後に
「私とエリーも一緒に行っちゃダメかな? やっぱり足手まといになっちゃうかな?」
「俺としてはクラリスとエリーを危険に晒したくないから反対だ」
本来であればとてもいい人選というのは分かっている。エリー、ビャッコは前衛として俺はどっちでも前衛も後衛もどちらもフォローができる中衛。そして後衛にクラリス、スザク、レッカ。かなり豪華な布陣だ。
しかしクラリスとエリーを危険に晒したくないという理由の他にもう1つ連れて行きたくない理由がある。
それはクラリスの神聖魔法が他の者にバレる可能性がある。俺がA級冒険者になった後にリムルガルドの迷宮に潜るのであればいいが、A級冒険者になる前に行くことになったら、また【氷帝】のヒュージの時のようにいらぬ争いが生まれてしまう可能性が大いにあるからだ。
「危険に晒したくないのは私たちも一緒よ!」
俺の答えにクラリスが大きな声で反論する。クラリスの声の大きさに他のメンバーがビックリしていた。
「マルス……私たち……強くなる……だから……お願い」
エリーもクラリスと一緒になって懇願してくる。
「分かった。考えておくけど絶対に譲れない事がある。それは俺がA級冒険者になった後だったら2人の同行を考えるが、A級冒険者になる前だったら絶対に連れて行かない」
俺がそう言うと
「その辺は心配ないと思うわ。もしお兄様とビャッコが一緒にリムルガルドに潜るとしたら連携をしっかり取れるようにならないと潜らないと思うから、早くても半年はかかると思うわ。連携を取るというよりも信頼関係を築くと言った方が適切かもしれないけど」
カレンの話を聞いたクラリスとエリーの表情が少し晴れた。
「じゃあクラリス、エリー、一緒に頑張って強くなろう」
俺が2人を抱きしめながら言うと、アリスが俺の背中から抱きついてきて
「私も一緒に強くなりたいです」
アリスにつられてカレン、ミーシャも3人の隙間を見つけて抱きついてきた。その後少しみんなで話した後、明日の出発に向けて早く寝ることにした。
2031年4月19日
俺達はセレアンス公爵に挨拶をした後すぐにセレアンス公爵領を後にした。
本当はもっとビャッコと訓練をしたかったのだが、リーガン公爵、フレスバルド公爵とセレアンス公爵の仲をいち早く取り持つ方が優先だからだ。
そしてやはりブラッドも一緒にリスター帝国学校に行ってからフレスバルド公爵領まで行くことになった。
ブラッドが一時的に同行することにより、リーガン公爵領に着くまで、さまざまな問題が起きた。全てエリーの事がらみなんだが。
まず馬車の中はエリーの隣か正面にしろというし、宿も絶対にエリーと一緒とか言い始めた。まぁ全て姐さんこと、クラリスが抑え込んだのだが……
2031年4月25日 12時
ようやく学術都市リーガンに着いた。もうここが俺の故郷のようなものだ。ここに帰ってくるとホッとするのが分かる。
「ようやく着いたぁ。じゃあマルス。ここでブラッドと待っていてね。リーガン公爵にブラッドの入校許可を貰ってくるから」
クラリスが俺に対してそう言うと、俺とブラッドを残しみんな学校の中に入っていった。
ブラッドはリスター帝国学校の生徒ではないからリーガン公爵の許可が無いと入れない。眼鏡っ子先輩の父のメサリウス伯爵の時も入れなかったから仕方ないと言えば仕方ないのだが、ブラッドが不満げに
「なんでリスター帝国学校はいつもこんなにセキュリティが厳重なんだよ。セレアンス王立学校だったら、誰が入ってきてもいいのに」
と悪態をつきながら愚痴を漏らす。まぁこれで俺たちの安全がある程度確保できるのだから仕方ない事なのだが。
入校許可が出るまで俺はブラッドと軽く模擬戦をしていた。模擬戦をしながら少し疑問になっていたことを聞いた。
「なぁブラッド……あまりリスター帝国学校では目立つような行動をするなよ? 去年の新入生闘技大会の事を見ている生徒がかなりいるから。ブラッドの事を覚えている生徒もいるだろう。ヘイトを買うような行動は避けて用が済んだら早く宿に戻ったほうが良い」
「雑魚たちに何を言われても俺は気にしねぇ! まぁお前たちに迷惑が掛かるのであれば宿に向かうが?」
殊勝? なのか……?
「雑魚って……そう言えば1年生にもブラッドが勝てなそうな人物が1人いるぞ?」
「年下で俺より強いだと!? そんな奴いる訳ないだろ!?」
俺の言葉にブラッドが少しムッとしながら答える。そのせいかブラッドの斧を振り下ろす動作が雑になる。
「いや、強い強くないでは無くて、ブラッドでは勝てない人物だ。それに1年生というだけで年は俺たちと同じ年だ。ブラッドは魔眼持ちに弱いだろ? その人物は魔眼を持っているわけではないが、睡眠魔法と言う人を眠らせる魔法を使うからな。多分ブラッドではレジストできないだろう?」
「む……確かに……でもそれを言ったらマルスでも勝てないだろう? お前だって剣聖なんだから魔眼や魔法には弱いはずだ」
「俺には魔眼や状態異常系の魔法がなぜか効かないんだよ。ブラッドは状態異常対策とかしないのか? 装備で補うとか……」
「なんだよ。それは。あとな、装備で補うとかもあるかもしれないがそんな簡単に装備なんて揃う訳がないだろう? 特に俺達獣人にはそのようなクエストが来ないし、獣人を迷宮に入れないという所もあるからな」
装備が揃わない事は分かる。だが獣人を迷宮に入れない所なんてあるのか? 獣人を入れないとなればセレアンス公爵家に目を付けられるだろうに……俺とブラッドが模擬戦を始めて1時間くらい経って、ようやくバロンが俺たちを迎えに来た。
「すまないな。遅くなって。リーガン公爵からブラッドの入校許可が下りたから一緒に校長室に行こう」
3人で校長室に向かうと学生たちはまだ昼休みの最中だった。今が13時30分くらいだから、SクラスとAクラスだけ授業が始まっているのか。校長室に向かう途中、校舎の付近で人だかりができていた。気にはなったが校長室に急ぐことにした。
校長室のドアをノックし中に入るとミーシャ以外の全員がいた。
「ただいま戻りました」
俺がリーガン公爵に挨拶をして頭を下げるとリーガン公爵が
「よくぞ、戻りました。ドミニクとソフィアの件はマルスの早馬でも報告してもらいましたし、今ここにいるメンバーにもしっかり聞きました。辛い選択だったかもしれませんが、よく頑張りました。あと2人の休学の件ですが、承認しました。もうすでにデアドア神聖王国の教皇宛てに早馬を飛ばしております。
そしてセレアンス公爵家の件ですが、リーガン公爵家としては歓迎です。同じリスター連合国内の公爵がまとまるのはいい事ですので。ですから特例ですが、ブラッドをリスター帝国学校1年Sクラスへの編入を認めます」
え!? ブラッドがリスター帝国学校の生徒になるの? するとブラッドも意外だったようで
「俺がリスター帝国学校に入る!? そんなの親父が許すわけがないと思いますが!?」
それに対しリーガン公爵が
「あら? でもセレアンス公爵からの早馬でブラッドを1年生に編入させろ。よろしく頼む。と書いてありましたよ? これがその手紙です」
俺たちに手紙を見せた。俺は筆跡など分からなかったが、ブラッドの表情を見ると本物のようだ。あれだけセレアンス公爵からは歩み寄らないような事を言っていたのに、よろしく頼むって……
「マジか……俺がこの学校の生徒だと?」
ブラッドは嬉しさ半分、困惑半分という表情だった。
「取り敢えず私から1つだけ。あなた達全員一度フレスバルド公爵領に行ったら当分帰ってくることを禁止致します。武神祭もリスター祭も出ることはありません。これは校長として、リーガン公爵としての命令です」
そこまでしてフレスバルド公爵とセレアンス公爵の仲を取り持つことが優先されるのか。
「分かりました。頑張って両公爵家の仲を取り持って参ります」
俺がそう言うとリーガン公爵が
「何を言っているの、マルス。あなた達の身が危ないからフレスバルド公爵領に行くのよ? ウピオルというヴァンパイアを殺したのでしょう? 確かヴァンパイアの5伯爵は、どういう訳か色々な場所に神出鬼没のように現れるらしいの。もしかしたらウピオルの仇を取るために残りの4人があなた達を血眼になって探している可能性もあるのよ? だからデアドア神聖王国にもさっきのドミニクとソフィアの休学の件と共に注意するかフレスバルド公爵領に討伐に関わった者は避難するように伝えてあるわ」
あ、そういえばリーガン公爵にはウピオルを倒した事しか伝えていなかった。そしてこのリーガン公爵の言葉にブラッドが興奮して聞いてきた。
「お前らヴァンパイアを倒したのか!? ビャッコでも倒しきれなかったと聞いたぞ?」
ビャッコもヴァンパイアと戦ったことがあるのか。まぁHP回復促進が厄介だし、蝙蝠になって空を飛ばれたらビャッコは追いかける手段がないもんな……
「あのー、リーガン公爵。真に言いづらいのですが……実は5人とも倒しておりまして……」
リーガン公爵は目を皿のようにして驚き、声が出てこなかった。
活動報告の方に書かせていただきましたが、
皆様のおかげで月間総合10位に入れました。
ありがとうございます。










