第191話 人気者
サブタイトルを【異世界クエスト5】にしようか悩みました(笑)
みんなが見守る中、バロンとブラッドの試合が始まった。やはり仕掛けたのはブラッドからだった。遠距離から土魔法で削られるのを嫌ったのだろう。
だがバロンはもとよりそんなつもりはなかったらしい。土砦を使い石弾で迎撃するのが、一番勝率が高いだろうが、バロンは剣を構え、そして左手にはなんと鎖が握られていた。
もしかしてバロンも鎖を使えるようになったのか? バロンを鑑定すると
【名前】バロン・ラインハルト
【称号】-
【身分】人族・ラインハルト伯爵家嫡男
【状態】良好
【年齢】11歳
【レベル】30
【HP】65/65
【MP】312/312
【筋力】44
【敏捷】40
【魔力】44
【器用】46
【耐久】41
【運】1
【特殊能力】剣術(Lv7/B)
【特殊能力】鎖術(Lv1/G)
【特殊能力】火魔法(Lv3/D)
【特殊能力】水魔法(Lv3/D)
【特殊能力】土魔法(Lv7/C)
【特殊能力】風魔法(Lv3/D)
【装備】土精霊の剣
【装備】シルバーチェーン
【装備】土精霊の鎧
なんと! 2週間ほど前までは鎖術なんて覚えていなかったのにしっかりと習得しているではないか! そして縛る事で器用値が、縛られることによって耐久値が上がるのかもしれない。器用値と耐久値が上がっているのが確認できた。
ブラッドの右手の斧での攻撃をバロンが剣で受け流す。バロンの剣術レベルがブラッドの斧術レベルよりも高いので筋力値に多少の差があっても簡単に受け流すことができたようだ。
ブラッドは受け流されるのを分かっていたようですぐに左手でバロンを殴ろうとした。しかしその時バロンの鎖がブラッドの右足に絡みついた。
構わずブラッドがバロンを殴りつけようとするとブラッドの右足に絡みついた鎖をバロンが手前に引っ張る。
鎖を引っ張られたブラッドはなんとか踏ん張り、体勢を立て直してまた右手の斧でバロンに襲い掛かる。何度もこれが繰り返された。
バロンはブラッドの斧を剣でいなし、ブラッドの左拳での攻撃はブラッドの右足に鎖を絡めることによって、満足な体勢で打たせることをしなかった。
徐々にブラッドがイラついているのが分かる。ブラッドからしてみればこの鎖が邪魔なのだ。ただ絡みついているだけの鎖。
ブラッドの次にとる行動は誰でも分かった。先ほどと同じようにブラッドの右手の斧の攻撃をバロンが剣でいなすと、ブラッドは左手の拳で攻撃すると見せかけておもいっきり右足を引っ張った。
鎖ごとバロンを引っ張ってやろうという考えだろう。
しかしバロンはそれを読んでいた。ブラッドが右足を引っ張る直前に、バロンは鎖を右足から解いた。全く抵抗のなくなった右足を思いっきり引いたのでブラッドは体勢を大きく崩した。
体勢を崩されながらも咄嗟にブラッドがバックステップで距離を取ろうとするが、バロンはそれすらお見通しだった。
ブラッドの右足に絡まっていた鎖が今度はブラッドの左足に絡まったのだ。結局ブラッドはバックステップをした際、鎖に引っ張られ抵抗虚しく転ぶと、ブラッドの首元にバロンの剣が添えられた。
結局バロンは剣術でブラッドの斧を受け流すことと、鎖を足に絡ませることだけでブラッドに勝ってしまった。
「くそ! なんだこの戦い方は! お前は剣と魔法主体のスタイルではないのか!?」
ブラッドが悔しそうにバロンに吠えると
「ああ。俺は剣と土魔法で戦うのが得意だが、俺の近くにはビックリするくらい、剣と魔法をうまく使う奴がいてな。同じことをやっていては絶対に追い付かないから色々と試行錯誤しているのさ」
ブラッドはこの言葉を聞いてクラリスの方を向いた。
「そういえば姐さんは水魔法も得意だったな」
ブラッドはバロンの言った人物の事をクラリスと思ったらしい。それにしても姐さんって……どこの世界に生きている人だよ、お前は。
それにいつの間にクラリスはブラッドを手懐けたんだ? バロンが嬉しそうに俺たちの所にやってきた。
「バロン! 凄いじゃないか! いつの間に鎖を使えるようになったんだ?」
俺がバロンに声をかけるとバロンは声を弾ませながら
「マルス! 見てくれたか!? ただただ喜んでミネルバに縛られていただけではない! 密かにミネルバに鎖の縛り方を教えてもらっていたんだ。まぁ俺には才能があまりないらしく、先ほどのように絡ませるくらいが限界らしいが、それでも接近戦だけでブラッドに勝てたのは大きい! マルスもどうだ!? 縛られているだけでなんとなく鎖の事が分かるようになるぞ!?」
「おお! そうか! じゃあ今日から早速俺も寝るときにクラリスに縛って……」
俺がバロンのお勧めの修行のやり方に賛同しようとしたらクラリスが
「やりません! これ以上マルスを変な方向にもっていかないで!」
とバロンを叱責した。これ以上って……何度も何度も言うが俺はいたって普通だよ?
俺達の会話を聞いていたセレアンス公爵が
「お前たち人間は本当に見ていて飽きないな。マルスは2本の剣を使いこなせるようになっており、クラリスは弓、剣、魔法が使えるのだろう? エリーも獣人だがいつの間にか空を駆けて戦う様になったと聞いた。そしてカレンは新入生闘技大会の時には扱えてなかったであろう鞭を装備している。バロンは剣を主体にしながらも鎖というマイナーな武器を器用に扱っている。本当に1年前とは別人のようだ」
目を細めながら言う。
確かにこの1年でみんなの戦闘スタイルはかなり変わったな。
実はエリーは昔から風のブーツで空を駆けて戦っていたが、今はカルンウェナンで影に入りながら戦う事を訓練している。
ミーシャだって風魔法ばかりだったのが水魔法を使う様になり、ミネルバは徐々に鎖術の才能を開花させている。
アリスはまだ細剣術オンリーの戦い方だが、来年になったら違うスタイルになっているのかもしれない。
ブラッドはまだ負けた時の体勢、つまり天を仰いだ状態で寝っ転がっていた。ただセレアンス公爵の言葉が聞こえたのかブラッドが起き上がった。
もしかしたらブラッドも自身の戦い方に限界を感じているのかもしれない。起き上がったブラッドが俺の方をじっと見つめてきた。ブラッドと目が合うとなぜか俺の脳内にあるメッセージが流れた。
『なんと ブラッドが おきあがり なかまに なりたそうに こちらをみている!』
いや……これはきっと何かの気のせいだろう……もう一度ブラッドの方を見るとやはりこちらを見ている。
脳内に『なかまにしてあげますか?』と一瞬流れた気がしたが、俺は全てを見なかったことにすると『ブラッドはさびしそうにさっていった』
バロンとブラッドの戦いが終わると俺はビャッコと訓練をした。昨日の剣の感触を忘れたくなかったから俺から志願してビャッコに相手をしてもらった。
ビャッコも本気で戦える相手があまりいないらしく喜んで受けてくれた。他のメンバーもそれぞれ訓練を始めている。日が暮れるまでみっちり訓練をしてから宿に戻った。
「ねぇ、さっきブラッドが仲間になりたそうな目で見ていなかった?」
ミーシャが食事中に急にブラッドの話題を出してきた。昨日と言い今日と言い、ミーシャはブラッドの事が気に入っているのかもしれない。
「そ、そうかな……俺は全然気づかなかったけど……?」
俺が惚けるとクラリスが
「マルスは絶対に気づいていたでしょう? だけど【黎明】はメンバーが埋まってしまったからね。本当はブラッドが入ってくれるとより一層、人と獣人との距離が縮まっていい事だとは思うんだけど……」
確かにその通りだ。俺は見なかったことにしたが、みんなが良いというなら良いかもな。
「じゃあパーティの再編成をするか? 【黎明】に6人、【創成】に2人、【剛毅】に3人だから4人、4人、3人に分けてブラッドを3人の所に入れる。そうすると全パーティが4人でちょうどよくなるんじゃないか?」
俺自身とてもいい提案だと思った。俺達は神聖魔法使いが3人もいる。俺、クラリス、アリスが別々のパーティに分かれて再編成すればバランスが取れたいいパーティを作れると思ったからだ。
しかしこれに反対する者が5名いた。
「絶対にダメ! そうするとまた婚約者が増えるでしょ!? もう【黎明】はこの6人で生涯固定!」
クラリスが言うと、エリー、カレン、ミーシャが頷いた。アリスが
「新参者の私が言うのもおかしいのは分かっていますが、せっかくマルス先輩と同じ【黎明】に入れたのに違うパーティに入るのは嫌です! お願いです! 捨てないでください!」
ちょっと涙ぐんだ目で俺に訴えかける。
「多数決……反対5名……よってこのまま」
エリーが強引に決定する。俺が何かを言おうとすると5名の鮮やかな連係プレーが俺の言葉を遮り、一言も弁明することが出来ずこの話題が終わった。お前らカンテラか?
「なぁマルス。俺もブラッドが入りたいと言ってきたら【創成】に入れてもいいと思っている。だが【創成】は【暁】に参加しているパーティだからな。しっかりクランマスターであるマルスの意見も参考にしないといけない。マルスはその辺の事をどう思っているんだ?」
バロンが俺に真剣な表情で質問してきた。
「政治的なことを考えると、やはりクランに参加してもらった方がいいと思う。俺自身、ブラッドに対して出会った頃こそ苦手意識はあったが、今はその苦手意識もだいぶ薄れてきている。だがブラッドはセレアンス王立学校の生徒だろ? 常に一緒に行動が出来るわけではないからな。そのことを考えると、俺は慎重に考えた方がいいと思うのだが? まぁこの件もリーガン公爵に相談しようと思うが、その前に他の者の意見も聞かせて欲しい。バロンは【創成】にブラッドを入れることに賛成のようだがどう思う?」
俺の問いにみんなが各々答える。【黎明】がこのままのメンバーで固定というのが大前提であれば賛成が6人、そしてカレンだけ保留との事だった。
結局食事中はブラッドの話題ばかりで、部屋に戻った時には21時を回っていた。
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