第180話 教皇の間にて
ごめんなさい。
教皇の妻の名前をイリーナ→アリーナに変更しました。
理由はイザーク辺境伯の娘の名前が・・・
2031年4月5日
いつものように3時に起きたのだが、だるい感じがする。きっと精神的ダメージがまだ回復していないのだろう。
目を開けてまずはクラリスの方を見るとクラリスは俺の右腕をしっかりと抱きしめながら天使のような寝顔で寝ている。
いつもであれば、俺の右腕がクラリスの柔らかい物の感触を感じて相棒が目を覚ますのだが、昨日から相棒は元気がない。やはり俺の心と相棒は一体なんだな……
反対側を見るとアリスがぐっすり寝ていた……俺は2人を起こさぬようゆっくりとベッドから出た。まぁ2人ともMP枯渇しているのでなかなか起きることはないが。
他のメンバーもみんなぐっすり寝ていた。エリーがしっかり寝られているか心配だったが、相当疲れたのだろう……マルスと寝言を言いながら寝ている。
俺は音を立てないように部屋を出て、まだ日の昇っていないエルハガンの街に出た。
そう言えば、俺はヴァンパイアを2人倒してレベルが上がっていたな……
【名前】マルス・ブライアント
【称号】雷神/風王/聖者/ゴブリン虐殺者
【身分】人族・ブライアント伯爵家次男
【状態】良好
【年齢】11歳
【レベル】43
【HP】111/111
【MP】8080/8080
【筋力】105
【敏捷】104
【魔力】120
【器用】101
【耐久】97
【運】30
【固有能力】天賦(LvMAX)
【固有能力】天眼(Lv10)
【固有能力】雷魔法(Lv9/S)
【特殊能力】剣術(Lv9/A)
【特殊能力】火魔法(Lv5/D)
【特殊能力】水魔法(Lv5/D)
【特殊能力】土魔法(Lv6/C)
【特殊能力】風魔法(Lv10/A)
【特殊能力】神聖魔法(Lv8/A)
【装備】雷鳴剣
【装備】火精霊の剣
【装備】鳴神の法衣
【装備】偽装の腕輪
ヴァンパイア3人殺してもそれに対する称号は無いのか……ちょっと安心した。殺人者とかいう称号がついていないか少し怖かったのだ。
エルハガンの街をゆっくり歩く。街はヒスの死を悼んでいるのか、とても静かだった。目的もなくぶらぶらしていると、いつの間にかヒスが眠る大聖堂の前に来ていた。
普段であればこんな時間に大聖堂は開いていない。しかし、今日は大聖堂には明かりが灯っていた。
ゆっくりと大聖堂の扉を開けようとすると周囲を警戒していた神殿騎士が駆けつけてきたが、俺の顔を見るとあっさりと中に入れてくれた。
大聖堂の中に入ると、ここにも神殿騎士が警護していたが何も言われなかった。
俺はなんとなく教皇の間の方に歩いていた。まぁ大聖堂の中で知っているところと言えば、教皇の間しかないのだが。
その道中も別の神殿騎士たちが俺を見つけるが、何も咎められる事もなく、むしろ中には俺に頭を下げる者までいた。
教皇の間の前には神殿騎士が2名警備にあたっていたが、ここでも俺の顔を見ると、教皇の間の扉を開けてくれた。
教皇の間に入ると中には、安らかな顔で眠っているヒスとヒスをずっと見ながら、やつれている教皇がいた。何も食べてもないし、寝てもいないのであろう。
「教皇様……大丈夫ですか?」
俺が教皇に声をかけると教皇が
「マルスか……俺は大丈夫だ。何と言ってもこのエルハガンを守る教皇だからな」
クラレントの鞘を持ちあげて空元気を見せた。とても痛々しく、誰よりも悲壮な表情をしていた。
「そういえばマルス……この腕を治してくれたのはマルスか?」
包帯でぐるぐる巻きの右腕を俺に見せた。
「はい……包帯を巻いたのは僕ではありませんが、教皇様にハイヒールを唱えたのは僕です。教皇様の了承を頂いてからハイヒールを唱えようとしたのですが……」
「そうか……何から何までありがとう……まさかマルスが神聖魔法を使えるとはな……神に愛されし者か……」
教皇はなんとなく予想していたのだろう。
「本当はな……ヒスだってエルハガンの街から出たかったと思うんだ」
唐突に教皇がヒスの話をし始めた。俺は黙って教皇の話を聞く。
「だけど、俺を1人にするのが不安だったんだろうな……色々文句を言っては俺の周りのお節介を焼いてくれてな。俺もそんなヒスを頼りにしてしまった。気づいた時には、ヒスはもうこの街で必要不可欠な人物になっていた。ヒスがこの街から出て行ってしまったら、この街の冒険者はみんな出て行ってしまいそうだからな。責任感のあるヒスが街を出たいなんて言えるはずがないよな……」
教皇はまた涙声になっていた。
「おかしいな……もう枯れるくらい泣いたのに……」
教皇の目からまた涙がこぼれ、ひとしきり泣いた後、俺に尋ねてきた。
「マルスたちはいつまでエルハガンに居るんだ?」
「まだ決めてはいませんが、この後、指名クエストが入っております。エルハガンの安全が確認出来たら発とうと思っております」
教皇の質問に答えると
「そうか……ヒスの葬式には参加できるか? クエストとして依頼してもいい……」
俺に参加してほしいというのもあると思うが、一番はドミニクに出席してほしいのだろう。
「もちろんです。頼まれなくても参列させて頂くつもりでした」
俺の答えに教皇がほっとした表情を見せた。
「そう言えばドミニクから聞いたのだが、マルスたちは師匠の仇以外のヴァンパイアも倒したとか?」
「はい。教皇様の師匠とヒスさんの仇のヴァンパイアはウピオルという名前です。そして僕たちはエルハガンの北東でウピイル、ウピウル、ウピエルという3人のヴァンパイアも倒しました。3人ともウピオルより少し弱いくらいのヴァンパイアでした」
教皇の質問に俺が答えると
「ウピオルと言うのか……それに3体ものヴァンパイアを倒すとは……マルスの装備している剣はもしかしたらオリハルコン製か? 強靭な肉体のヴァンパイアの体をあっさりと斬ったり貫通したりしていたから……」
まさか教皇の口からその名称が出てくるとは思わなかった。
「教皇様。僕の剣はオリハルコン製ではないと思います。この剣は僕の剣の師匠から頂いたのですが、少し特殊で僕以外の者、正確には僕とクラリス以外の者が装備するとビリビリ麻痺してしまうのです。
僕からも質問させてください。教皇様はオリハルコンを知っておられますよね? オリハルコンってどうやって加工するのですか? オリハルコンを手に入れたのはいいのですが、鍛冶屋やアクセサリーショップに聞いても名前すら聞いたことが無いと、首を捻るだけで」
「マルスはオリハルコンを持っているのか!?」
教皇が驚いて聞いてきたので、俺は大切に袋にしまっているオリハルコンを教皇に見せた。
「ほ、本物だ……オリハルコンを加工できるのは俺が知っている限り、世界で1人だけだと思う……」
今度はその1人を探さないといけないのか……何年も探さないといけないパターンだろうな……なるべく早く加工したかったのだが……
「そうですか……もし知っていればその加工できる人を教えて頂けませんか?」
俺が教皇に聞くと教皇が
「……俺だ」
ん? うまく聞き取れなかった。「俺だ」と聞こえた気がしたが……
「教皇様、申し訳ございません。上手く聞き取れなかったのでもう一度聞いてもよろしいでしょうか?」
もう一度聞くと
「……俺。つまりデアドア神聖王国の教皇のみが、オリハルコンを打てると聞いている……」
俺は教皇の言葉を聞いて固まってしまった。教皇がオリハルコンを加工できるだって? 俺の辞書ではオリハルコンを打てるのは、魔界の名工だと書いてあったからてっきり鍛冶屋かと思ったのだが……
「マルスはこのオリハルコンで何か作りたいのか?」
フリーズしている俺に教皇が聞いてきた。
「はい。できれば専用の物を作りたいのですが……」
俺が教皇の目を見ながら言うと教皇の顔が少し緩み
「そんな顔しなくても大丈夫だ。だが俺の右手はこうなってしまった。そしてオリハルコンを打つときはかなりの力と魔力を持つ者の助けが必要と言われている。それに俺自身はオリハルコンを打ったことがない……手伝ってくれるか?」
願ってもない事を言ってくる。俺ってどんな表情をしていたのだろうか? 上目遣いでもしていたのかな?
「もちろんです! ではヒスさんの葬儀が終わって時間が出来ましたら声をかけてください。それまではこの街に滞在してアンデッドの討伐やもっとしっかりと街の改修作業をさせて頂きます」
教皇の顔色もだいぶ良くなってきた気がする。
恐らく教皇は相談をしたくても、もう気軽に相談できるものがいないから、色々と塞ぎ込んでしまっていたのだろう。
妻のアリーナさんにも血なまぐさい話とかはしたくないだろうし……ヒスのように教皇をサポートする人が居ればいいのだが……そんな人物に心当たりは……
「マルス。ありがとう。マルスと話をしていたら大分元気が出たよ。俺はこれから家に帰って寝てからヒスの葬儀の準備をする。日程は追って説明するから、マルスももう戻ってくれ」
俺が黙考していると教皇が少し大きな声で俺に言った。きっと自分に言い聞かせているというのもあるのだろう。
「分かりました。それでは僕は失礼します。こんな時間に申し訳ございませんでした」
と言って大聖堂を後にした。ちょうどもうそろそろ6時になる。宿に戻って天使たちの目覚めを待とう。