第174話 教皇
本当にギリギリで書き上げました。
明日ヤバい・・・・
2031年4月2日 8時
宿を出て10人で西門に向かうと途中の道で意外な人物と会った。豪華な祭服を着て、とても立派な剣を腰に携えている教皇だった。
「マルス! ありがとうな! こんな立派な街壁を築いてもらって! 1つ気になるんだがあの街壁に刻まれている紋章はなんだ?」
軽やかなトーンで教皇が俺に話しかけてきた。
「もしも街壁を高くしてしまったことで景観が損なわれてしまうという声が上がってしまった時に、僕がどれを作ったか分かるように紋章を入れました。あの紋章は雷の紋章といい、将来僕が貴族家の当主になった時に、家紋にしようと思っている紋章であります」
教皇が装備している剣を見ながら言うと
「そうか。景観よりも守備力の方が大事だ。それにあの紋章はなかなか斬新でセンスが良い……さっきからマルスはこの剣が気になるのか?」
俺の視線に気づいた教皇が剣を抜いて見せた。それを見たドミニクが
「もしかしてそれは……」
「そう……師匠の使っていた剣だ。これほどの剣を俺は今まで見たことがない。そして俺はこれを持ち続けている限り、どんなことがあってもデアドア神聖王国の平和を必ず守ると誓っている」
そう言いながら剣を鞘から抜いた。手入れが行き届いており、とても綺麗な剣だった。
【名前】クラレント
【攻撃】25
【特殊】筋力+2 敏捷+1 魔力+1
【価値】A
【詳細】魔剣の1つ。平和の願いを込められて作られた剣。全ての魔物、一部の者に対して傷が治りにくくなる。
凄い業物だな……傷が治りにくいというのもいいかもしれない……教皇とその後も少し話をしてから
「では、僕たちはこれから西門からゴブリンを倒してきますので」
教皇と別れ、西門に群がるゴブリン達を倒してから開門し外に出た。街の外は相変わらずゴブリンばかりで楽なのだが厄介な敵も出現し始めた。
アンデッドだ……冒険者たちが街壁の上からゴブリンを倒すのはいいのだが、焼く手段がないらしく死体はそのままとなっている。
ゴブリンゾンビというアンデッドが出現するのだが、そいつが本当に臭いし、醜い。
アンデッドを武器で攻撃すると武器が臭くなったり武器がネバネバしたりと前衛の女子たちの天敵だった。
アリスなんかゴブリンゾンビを見た瞬間、泣きながら俺かクラリスの所に駆け寄ってくる。
だから俺たちは火魔法が使える者は火魔法で倒すようにし、前衛で火魔法が使えない者はゴブリンを倒したら風魔法で一か所に死体を集めることにしていた。
昼を過ぎたあたりでようやくエルハガン周辺のゴブリン達を倒し終わると東門が突然開門し、冒険者たちが外に飛び出してきた。なんと先頭に立って走ってきたのは教皇でその後ろからヒスが追いかけていた。
「マルス!……いや皆さん! ありがとう! これでエルハガンは救われた!」
まだこちらに進軍してきているゴブリン達がいるがエルハガンを包囲していたゴブリン達がいないと思うと精神的に安心したのだろう。教皇はとても嬉しそうだった。
「おい……じゃなかった……教皇! 立場を弁えてください! いつまでも剣士気取りはやめてくれ!」
大声でヒスが教皇に叫ぶ。ドミニクから聞いた話だが、この2人は2人っきりで話すときは絶対にため口にしろと教皇から口を酸っぱくしていっているらしい。
変わり者の教皇という事は確かだが、俺の教皇に対する好感度は抜群だ。教皇とヒスの後から来た冒険者たちが、教皇を守るように円陣を敷く。
「今日はこのまま周辺のゴブリンを倒しますが、明日からはゴブリンが来ている方向に行こうと思います。ですので、エルハガンの守りはお任せしてもよろしいですか?」
俺が教皇に聞くと
「ああ! そうしてくれると助かる! 明日から俺も神殿騎士を従えて街の外に討って出る! いつまでもマルスたちだけに頼むわけにはいかないからな!」
教皇が剣を抜いて振り回すとヒスが頭に手をやりながら
「はぁ……まぁ教皇が最前線で戦うというのであれば、俺たちもずっと中に閉じこもっているわけにはいかないからな。そもそも貴族共が最初から教皇のいう事を聞いていれば良かったものを……」
俺は1つ疑問に思ったことを聞いてみた。
「デアドア神聖王国では教皇様と貴族たちはどちらが上の立場なのですか?」
俺が聞くとヒスが
「簡単に答えるのであれば教皇だな。大雑把にいえば、政治は貴族、外交は教皇、軍事も教皇という感じだな」
教皇は政治をしない王様みたいなものか……俺たちが教皇と話をしていると他の冒険者たちがゴブリンたちと戦っていた。
多少のダメージは受けているもののゴブリン達を倒せている。外にいる冒険者だけでも2、300人はいた。
エルハガンにもまだいるし、神殿騎士もいる。これで何故あんな簡単に包囲されてしまったのか不思議でならない。
ゴブリン相手ではレベルが上がらない俺たちよりもゴブリン相手でもどんどんレベルが上がる冒険者が倒したほうが絶対にいいだろう。明日のことも考えて、早いがエルハガンに戻る事にした。
「教皇様、ヒスさん。僕たちは明日、北東へ向かいますので今日は早いですがエルハガンに戻ります」
教皇たちにこう言うと
「マルス。これから一緒に食事でもどうだ? お礼もしたいし、何より話もしたい」
教皇の言葉に俺が頷く。
「よし! じゃあ早速俺の家に行こう! 少し狭いが妻の料理は絶品だから期待してくれていいぞ!」
教皇に連れられて、教皇の家の前に着いた。大きさ的にはブライアント家と同じくらいの大きさだった。ブライアント家は上級貴族の家としてはかなり小さいが日本人の俺からすれば大豪邸だ。
中に入り、リビングダイニングに通されると教皇の妻と思われる人と子供が出迎えてくれた。
「アリーナ。申し訳ないがこれから大宴会をしたい。財布の紐を緩めて大盤振る舞いをしてくれ」
教皇が妻のアリーナに言うと
「分かったわ。彼らが英雄ね。張り切るから待っていてね」
流石に1人で俺たち10人と、教皇、ヒス、そしてアリーナと子供の合計14人分を作るのは大変だろう。ここで気が回るのがクラリスだ。
「奥様。私もお手伝いをします。何をすればよろしいですか?」
クラリスがアリーナの手伝いを買って出ると、アリス、ソフィアも手伝い始め、結局女性陣全員アリーナを手伝っていた。エリーは主に試食で活躍し、ミーシャは主に賑やかしで活躍していた。
「あっちは楽しそうだな」
教皇がキッチンに居る女性陣を見て微笑みながら言った。
「うるさくてすみません……」
俺が謝ると
「いい事じゃないか。あんな美女たちと毎日一緒に居られて羨ましい限りだよ。おっと……アリーナには内緒な。さてマルス……俺の我儘を聞いてもらいたい。ドミニクとヒスの模擬戦をしたいのだがいいか?」
俺が答えに困っていると教皇が
「今エルハガン出身の冒険者で一番強いのは間違いなくヒスだ。ドミニクが約2年前にエルハガンを後にしてからどれくらいの実力の差が埋まったのか見てみたい。もしかしたら逆転している可能性もあるしな。ドミニクがデアドア神聖王国から出たのが成功だったのか、失敗だったのか……それ次第で俺の息子のセラフの将来を考えたい」
2年前はどっちが強かったんだ? 俺が許可というよりかはドミニクの気持ち次第だと思うが
「ドミニクがいいというのであれば」
俺がそう答えるとドミニクが首を縦に振ったので庭でドミニク対ヒスの模擬戦をすることになった。
お互い木剣を装備し、魔法を使うのは一切なし。本当に剣のみでの試合だった。
「ドミニクとやるのは2年ぶりか……どのくらい強くなったのか俺が見極めてやる」
ヒスがそう言うとドミニクも
「俺の剣を受けて世界は広いという事を分かって欲しい」
真剣な表情で答える。
教皇の「はじめ」という言葉に2人の激しい剣戟が始まる。
俺からすれば結果はやる前から分かっていた。剣術レベル、筋力、敏捷のどれをとってもドミニクが勝っている。
ドミニクの攻撃はヒスにとって重いのか、何度もヒスの剣が弾かれ、防御をするのに精一杯となっている。
何合か剣戟を交わすとついにヒスの木剣が弾き飛ばされ、予想通りドミニクの勝ちとなった。負けたヒスが信じられない顔をしながら
「これが……ドミニクの剣か……? 以前はスピードだけで軽い剣だったのだが、今はとても剣が重く感じる……」
「本当にドミニクは変わったな……剣の腕も磨かれたが、俺が一番驚いているのはドミニクの人間性だ。以前はもっと自信過剰でみんなを上から見下している感じだったが……」
ヒスも教皇2人してドミニクの成長に驚いている。今の戦いを見ていた教皇の息子のセラフが
「ドミニク兄ちゃん強い! 俺も兄ちゃんみたいになる!」
弾むような調子で言った。俺たちがダイニングに戻ってもまだ女性陣は料理をしている……いや、なんか別の話……コイバナで盛り上がって手が止まっている。これじゃあ当分料理は出てこないな……
「マルス、マルスの剣の師匠はだれなんだ?」
教皇が俺に聞いてきた。
「僕の剣の師匠は……敢えて言うのであれば2人いて、1人は亡くなってしまいました。もう1人は学校の先生で剣王の称号を持っております」
俺が答えると、
「ドミニクもその先生に習っているのか?」
ヒスがドミニクに聞くと、ドミニクが頷きながら
「この前の俺の話が聞こえてしまって気分を悪くしただろうが、ヒス、あの話は本当だ。外の世界は本当に広いぞ。このままではもっともっと差が広がってしまう。
リスター帝国学校は最高の環境だと思う。もう25歳になるヒスが入るわけにはいかないと思うが、未来ある若者は積極的にリスター帝国学校に通わせるべきだ。入れる、入れないは別としてな」
ドミニクの話を真剣に聞いていた教皇が
「マルス。ドミニクは冒険者としてはどのくらいの立ち位置だ?」
俺は忖度せずに
「C級冒険者クラスだと思います。もしかしたらバルクス王国ではB級かもしれませんが……」
俺がそう答えると教皇が
「ヒスに勝ったドミニクがC級冒険者か……やはりギルドでの査定をリスター連合国並みにしっかりしないといつまで経ってもA級冒険者が誕生しないか……デアドア神聖王国のA級冒険者は師匠以来出てないからな……」
「教皇様たちの師匠はA級冒険者だったのですか?」
俺の言葉に教皇が答える。
「ああ……1年でB級冒険者に落ちてしまったけどな。それでも、まぐれでなれるほどA級冒険者は甘くないからな。俺たちがA級冒険者に依頼を出してもA級冒険者は他の国でも取りあいだから、なかなか俺たちのクエストを受けてくれない。だから師匠の仇もまだとれていない……本来なら自分たちの手で取らなければならないが相手はヴァンパイアだからな……」
そういえばソフィアが言っていたな……ドミニクの師匠はヴァンパイアに殺されたって。B級に落ちたとは言え、師匠と呼ばれる人物は元A級冒険者。
それを倒すヴァンパイアはやはり相当強いのか……今戦えば雷魔法を使わなくても勝てそうな気がするが……
「師匠を殺したヴァンパイアの名前とか分かりますか?」
俺が3人に聞くと
「いや……実は分からないんだ……エルハガンの外で魔物退治をしていた冒険者がヴァンパイアに襲われたらしく、それを助けようとした師匠も殺された……ちなみに目撃者は居ない」
え……? 目撃者がいなくてなんでヴァンパイアが殺したと思っているんだ?
「全ての死体の血が吸われていたからな。だが残されたこのクラレントには大量のヴァンパイアのものと思われる血が付着していたから、ヴァンパイアも相当深手を負っているはずだ。もしかしたらまだ傷は癒えていないかもしれない」
俺が疑問に思っていたことをなぜか教皇が答えた。
確かにクラレントの特殊能力がヴァンパイアには効きそうな気がするが……実はこのエルハガンに大量に侵攻してくるゴブリン達はヴァンパイアの仕業なのではないかと思っている。
イザークの時と似ているところがある。だがこれをみんなに言うと絶対にみんなが不安がると思うからまだ言うのは控えている……がいつまでも言わない訳にもいかない。
明日の出発前に可能性があるという話だけでもしておいた方がいいかもしれない。
俺たちの話が一段落したころようやく宴の準備が終わったようだ。今日は久しぶりにお酒でも飲むか。
感想頂いているのですが、返信すると更新が遅れそうなのでもう少し待ってくださいm(__)m










