第170話 燃える聖都
2031年3月24日
リーガン公爵領を出発してもう7日目。
これから私たちは宿を出発してデアドア神聖王国を目指す。ここまでの旅路で驚いたことが何点かある。
まず1つ目に驚いたことは旅が快適なことだ。
馬車での旅は寒暖差が大きくアリスが体調を崩すことも多々あったが、馬車の中もあったかいし、馬車の周囲もあったかい。
どうしてかとクラリスに聞いたらマルスが温度調整をしているとの事だった。もしかしたらマルスは私の肌が見たくて、私が厚着になるのが嫌なのかもしれない。
マルスはハッキリ物事を言わないから、私がしっかり察してあげないといけないけどそこがマルスのいいところでもあるから仕方ないわね。
2つ目は必ずその街の最高級の宿に泊まれるという事だ。
こんな宿には泊ったことがない……マルスは私の事を本当に大事にしているのだろう……少しでもセキュリティが高いほうが安心すると言って、絶対に私とアリスだけは一番セキュリティが高そうな部屋を割り当ててくれる。
どの宿に行ってもまず私とアリスの部屋から決めるのだ。もうマルスは私に貢ぎたくて仕方ないらしい……ここまで大切にされてしまうともうプロポーズされたようなものよね。
そして最後はやはりこの【暁】というクランは強い。
マルスだけが強いという訳ではなく、全員とても強く、みんなC級冒険者以上の実力がありそうだ……だから魔物が現れても馬車の速度は全く変わらない。
マルスとエリーが索敵をし、バロンやドミニクが魔物を倒す。その際絶対にマルスは私の近くに居る。明らかにソフィアは俺が守ると言っている。
私とアリスの2人で構成されたパーティ【聖女隊】と私のことが好きな5人の男たち【聖女の盾】での旅路は魔物が出るたびに逃げ回っていたりしたが、今は全くそんなことを考えなくても良い。奇襲されることもないので本当に安心できる。
「皆さんは毎回こんな快適な旅をしているのですか?」
アリスがこの場にいる女性陣に聞く。ちなみに2台の馬車で移動しており、男3人と女7で別々になって移動している。男性陣の馬車には10人分の荷物も積みこまれている。
「快適かしら……? もう慣れちゃったから……」
クラリスが答えると
「クラリスはずっとマルスと一緒だからありがたみが分からないんだよ! ママたちと一緒に行動していてもこんなに気を抜けることは無かったよ?」
「そうよね。そこらの騎士団に守られるよりも安全だし、何よりこの空調や、温度、湿度管理も徹底されているからみんなの健康にも、お肌にもいいよね。あとおトイレ……お花摘みに行きたい時もマルス君がトイレを作ってくれるからとても助かるし」
ミーシャの言葉にミネルバも同意する。
「マルスと一緒にいて一番快適と思うのは迷宮よ。2人も絶対にマルスがいる、いないで世界観が変わると思うわ。昔は迷宮に行くと、お風呂に入る事が出来なかったり、ベッドで寝られなかったり、迷宮が大っ嫌いだったけど、マルスさえいればその問題が解消されるから本当に快適よ」
カレンが頬を紅潮させながら言った。やはりマルスはみんなに信頼されているんだ。そんなマルスに私も必要とされている……悪い気はしないわ。
「マルスでも苦戦することはあるのよ。あまり思い出したくはないから詳しくは言わないけど……」
クラリスが言うとエリーが
「……マルスに何かあったら……向こうの馬車に……行く」
立とうとして、向こうの場所に行こうとすると
「エリー、抜け駆けはダメよ」
クラリスに制されエリーは結局その場にとどまった。しばらく馬車を走らせているといつもと違う様子のリスター連合国とデアドア神聖王国の関所が見えてきた。
☆☆☆
「ここからは通行禁止だ! デアドア神聖王国の魔物達の行進が収まるまでは!」
魔物達の行進に発展したのか……
「僕たちはデアドア神聖王国からのクエストを受けております」
俺がクエストの受注票を見せると関所の兵士が驚いて
「学生が……それも1年生と2年生が魔物達の行進が発生している現場に行くのか?」
「はい。僕たちはBランクパーティとCランクパーティですから」
しっかり説明すると納得してくれたようでリスター連合国側の関所の兵士がデアドア神聖王国側の関所の兵士を呼んでくれて、現状を教えてくれた。
「聖都エルハガンで教皇様がデアドア神聖王国中の戦えるものを集って抗戦している。だがこれまでにない規模の魔物達の行進だ。
お前たちも気を付けてくれ。そしてどうかデアドア神聖王国を頼む! ぞくぞくとリスター連合国から冒険者たちが来ているがなかなか魔物達の行進が収まらない」
それを聞いたドミニクが
「マルス! 早く行こう! ここからエルハガンまで馬車で半日掛かるか掛からない位の距離だ! そして俺たちの家もエルハガンにある! 頼む!」
「分かった! では御者はここまでにしてもらおう! 今日中にエルハガンに着くように!」
俺はリスター連合国側の兵士に金貨を握らせ、馬車を御している御者を連れて行くと危ないから近くの街まで送っていってほしいと頼むと快く引き受けてくれた。いつの時代も、どこの世界でもお金の力は強い。
女性陣が乗っている馬車をバロンが御し、俺がもう1つの馬車を御する。
今回は10人での旅路なので荷物が相当多い……尤もそのほとんどがソフィアとアリスの荷物なのだが……2人は今回がクエストでの遠征が初めてだったので何が必要で何がいらないかまだ分かっていない。
リーガンを出発する前日にソフィアとアリスがリーガン公爵に旅の支度をしたいから学校を休ませてほしいと言って承認されると、2年Sクラスで唯一全ての授業を免除された俺に対してクラリスが2人の買い物に同行して不必要なものを買うようだったら止めてきて欲しいと言ってきた。
クラリスに言われるがまま同行したのだが、2人がこれ欲しいとか、これがいいと言ったものに対して「それはいらない」なんて言えない……
困ったのはランジェリーショップだった。なぜか俺も店に入らされてアリスに好きな色は? とか好きな形はとか? 聞かれた。まぁしっかり答えると
「マルス先輩の好きなピンクはクラリス先輩だし……次に言った白はミネルバ先輩……黄色はエリー先輩で赤はカレン先輩。そしてミーシャ先輩が水色や青でお姉ちゃんが髪の毛の色と同じ薄紫色だから私は……」
別に同じ色でもいいと思うのだがなぜ被るのがいやなのだろうか? 結局アリスはほぼ全ての色の下着を買っていた。
そしてソフィアはと言うと……テカテカに黒く光るワンピースみたいな露出の多い衣装……もしかしてこれがボンテージという物だろうか……そして蝶のようなガラスが入っていない眼鏡に黒いブーツ……最後に赤い蝋燭を3つずつレジに持ってきて俺に一言
「マルスの期待は裏切らないからね。マルスに言われたように今は一生懸命鎖術をミネルバに教わっているからね」
自信にあふれた表情で言ってきたのでついつい
「あ、ありがとう……き、期待しているよ……」
と答えてしまった。ソフィアはいつこれを着るつもりなのだろう……そしてなんでボンテージも眼鏡もブーツも蠟燭も3つずつ必要なのだろうか? ミネルバとソフィアが少し同じ匂いがしてしまうのは俺だけだろうか?
デアドア神聖王国に入り、聖都エルハガンまで強行軍で一気に進んだ。エルハガンの街が遠くに見えると、とんでもない光景が見えてきた。
エルハガンは街の周囲をぐるっと湖で囲まれている街らしい。東西南北に橋が架かっており湖のせいで魔物は一斉に攻撃は出来ないようだ。
しかし遠くから見ると街のところどころから火の手があがっていた。橋の先にある街門は突破こそされてはいないようだが、街の外から魔法や弓が街の中に大量に打ち込まれている。
対して街からは投石やバリスタの矢がたまに魔物達に向けて放たれる程度だ……
「マルス! 俺はここから走っていく!」
ドミニクが悲鳴にも似たような声を上げて馬車から降りて走っていく。俺は馬車の操縦があるからドミニクと一緒には行けないので
「クラリス! エリー! ドミニクと一緒に行動してくれ! 間違っても魔物達の中心に突撃するという事だけは避けてくれ! カレンとミーシャはこの馬車を守りながら周囲を警戒してくれ! ミネルバ、ソフィア、アリスはいつでも馬車から降りて戦闘できる準備をしてくれ!」
クラリスとエリーはすぐに馬車を降りてドミニクを追いかけていく。この2人なら安心して任せることが出来る。
カレンとミーシャもいつもとは違う引き締まった顔で馬車から降りてくると馬車の周辺を警戒し始める。
ミネルバはいつも通りだが、やはりソフィアとアリスは顔に憂色を浮かべていた。
馬車を急いで走らせると魔物達が詳細に見えてきた。そこに居た魔物達は……ゴブリンだった……しかし見たこともないような種類のゴブリンが大半でゴブリンナイト、ゴブリンアーチャーと脅威度Eのゴブリンが多かった。
そしてそのゴブリン達をまとめているのがみんな大好きゴブリンジェネラルのようだった。ゴブリン達だったらアリスとソフィアでも対応できるな……
「ミネルバ、アリス、ソフィア! 3人も馬車の外に出て魔物達を倒してくれ! だけど決して遠くまではいかないように! ミーシャとカレンは3人の周辺を重点的に警戒するように! バロンも引き続き馬車を操縦しながら警戒するように!」
3人とも馬車の外に出てゴブリン達と戦い始める。アリスとソフィアはゴブリンを倒すことは出来るものの、ダメージは食らってしまうようだ。
「アリス! 少しでもダメージを受けたらすぐにヒールで回復だ! ソフィアは前に出過ぎだ! ミーシャとアリスの後ろから攻撃するように!」
ソフィアは戦闘狂なのか狂ったように前に出てしまう癖があるらしい……どんどん1人で進んでいってしまう……これは誰かが絶対にソフィアの近くにいないとだめだな……この状況では……やはり俺か……
「ミーシャ! ソフィアを俺の所に連れてきてくれ! 危なっかしいから俺の近くに置いておきたい!」
俺が大声で叫ぶとミーシャがすぐにソフィアを抱きかかえて俺の所に連れてきてくれた。すると連れてこられたソフィアの顔がなぜか真っ赤になっていた。
もしかしたら薄着過ぎて熱でも出したのだろうか……?
誤字脱字報告いつもありがとうございます。
非常に助かっております。










