第169話 新たなクエスト
昨日書き忘れましたが今日から新章です。てへぺろ
2031年3月16日
朝からリーガン公爵に呼び出された俺は今、校長室に居る。
「昨日はお疲れさまでした。聞きたい事がありますがよろしいですか?」
校長室に入った俺に早速リーガン公爵が話しかけてきた。
「はい。僕が答えられる質問であれば」
俺が答えるとリーガン公爵が飲み物を飲みながら
「マルス、あなたは何の称号を持っているか教えてください」
いきなり答えにくい質問だな……雷神の事は伏せておこう。
「風王、聖者、ゴブリン虐殺者です」
「ゴブリン虐殺者とはなかなかレアなものをお持ちですね……まぁ聖者の方が圧倒的に希少なのですが……マルスは剣王の称号は持っていないのですか? 私が知る限りではライナーが13歳の時に獲得したのが最速記録だと思っておりましたが、もしかしたらマルスが最短記録を塗り替えたのかなと思いまして……それに剣王の称号なしに槍王のヒュージに接近戦で勝つというのはどうしても信じることが……」
ゴブリン虐殺者ってレアなのか……
「僕もこの1か月猛特訓しましたが獲得できませんでした。この件で僕からも1つ聞かせて欲しいのですが、幼い頃に称号は3つまでしか獲得できないと言われた記憶があるのですが、もし僕が剣王を取得した場合はどうなりますか? 称号の効果が無くなったり、称号自体が剥奪されたりするのですか?」
「バルクス王国で聞いたのですね。あの国では情報がアップデートされることはないですからそう教えられても仕方はありませんね。
私が知る限りでは6つ称号を持っている人物を知っております。剣神、風王、トレジャーハンター、ドラゴンキラー、アント虐殺者……それにあともう1つの称号をもっております。
特に称号の効果がなくなったり、剥奪されることはありません。バルクス王国では3つまでしか称号を持った者を確認したことがないのでしょう」
良かった、称号が無駄にならなくて……まぁなんとなくは予想していたんだけどね。
それにしても凄い人がいるものだな……剣神と風王ってかなり強い組み合わせだよな……それにトレジャーハンターやドラゴンキラーってとてもいい響きの称号もあるのか……
「凄いですね……僕もその人目指して頑張ります!」
俺がリーガン公爵に言うとリーガン公爵は何故か悲しそうに
「そうですね……頑張って下さい。マルスが剣王の称号を持っていないのは分かりました。それではなぜ槍王のヒュージに勝てたのか……ライナーに言った言葉が少し聞こえてしまったのですがステータスがヒュージと同じくらいと言っておりましたね? 私はなぜかマルスを鑑定することが出来ません。もしよろしければマルスのステータスを教えてくれませんか?」
今日のリーガン公爵はなんかグイグイくるな……それに質問がストレートな気がする。
だがここは正直に答えた方がいい気がする。下手にスタータスを低く答えるとA級冒険者になるのに支障が出るかもしれない……
「はい……分かりました。僕のレベルは41です。ステータスは上から99、98、114、96、93です」
どうしてもMPだけは言いたくなかったので敢えてこう答えた。だがリーガン公爵にはこの答えで充分だったらしい。
「レベル41……11歳で41とは非常に高いですが……予想よりかなりレベルは低いのですね……最低でもレベル50……いいえ55は超えていると思ったのですが……
レベル41でそのステータスというのも反則ですね……それに剣聖と呼ばれて魔力の方が高いって詐欺ですね。だけどこれでマルスがどうしてヒュージに勝てたのか納得できました。答えてくれてありがとうございます」
リーガン公爵は納得してくれたようだ。
「また僕からも質問させてください。テンペストという風魔法の最上級魔法があると昔サーシャ先生から聞いたことがあるのですが、僕にも扱えますか?」
「……テンペストは確かに凄い魔法ですが、あれだけは絶対に唱えては……習得してはなりません。時の風神はテンペストを唱えて自身が死んでしまいましたから」
もしかして術者の命を削る系の魔法か? だったら無理に覚えなくてもいいか……
「分かりました。テンペストの事は忘れます。あと何かございますか?」
俺がテンペストの事を素直に諦めたのが嬉しかったのかリーガン公爵は微笑みながら
「【黎明】にクエストを受けてもらおうかと思います。もうあなた達は学校で授業と言うよりかは実戦の方がいいかと思いますし。【黎明】にはいくつかの指名クエストも来ております。私の方で選りすぐりましたのでどれを受けるか選んで下さい。
1つはデアドア神聖王国で最近魔物が異常に増えているとの事で、リスター連合国に協力要請が来ております。
デアドア神聖王国は昔からリスター連合国の友好国でもあり、アリスの故郷でもあります。もしもこのクエスト受ける場合は【創成】にも依頼を出そうかと思います。そうすればドミニクとソフィアにも同行させることもできますから。
本来であればライナー、ブラム、サーシャの3人にも同行してほしいのですが、この3名には別にやって頂くことがありますので10名でお願いします。
もう1つはセレアンス公爵からの指名クエストです。クエスト内容はただセレアンス領にエリーと一緒に来いとの事です。
セレアンス公爵領はマルスも知っているとは思いますが、北東にあるデアドア神聖王国の通り道にあります。デアドア神聖王国のクエストを受けてくれるのであれば帰り道にでも寄って頂ければと思います。
そして最後は、【氷帝】がクエストを受けるはずだったザルカム王国の魔の森の間引きのクエストです。
【氷帝】は急遽、東リムルガルドに行くことになったので別のパーティを募集しております。もともとBランクパーティの募集だったらしいので【黎明】でも受注することが出来ます」
【黎明】のレベルアップを考えるのであれば魔の森。そうでなければデアドア神聖王国と言った所か……
「分かりました。今日の放課後みんなで相談しようと思います。返事はそれからでもいいですか?」
俺の返事にリーガン公爵が頷いた。他に用は無いようだったので俺は校長室を後にした。
その日の昼食。
2年Sクラスとソフィア、アリスを含めた10名、つまり【黎明】と【創成】で先ほどのクエストの話をした。まぁ予想はしていたが満場一致でデアドア神聖王国に行くことになった。
「10人での移動なんてなんか遠足みたいだよね。楽しみだなぁ。早く行きたいなぁ」
ミーシャがデアドア神聖王国のクエストを選んだのは大勢で行けるクエストの方が楽しいからであろう……ミーシャがはしゃぎながら言うとカレンも
「なんか久しぶりにクエストを受ける気がするわね。ミーシャじゃないけどワクワクしてしまうわ」
とこちらも少し高揚している。
「そう言えばエリー、デアドア神聖王国のクエストが終わったらセレアンス公爵領に行こうと思うがいいか? どうやらセレアンス公爵が俺とエリーに来いと言っているらしいんだが?」
俺の左隣にいるエリーに話しかけると
「……うん……行く……」
エリーはいつもの調子で答えた。ちなみに昨日は女子の部屋には行っていない。
クラリスがもうエリーは大丈夫そうだから、ちょっと様子を見たいとの事で行くのをやめた。どうやらしっかり寝られたらしく、いつものエリーだ。
放課後になり俺はまた校長室に向かい扉をノックしようとすると、校長室から1年Sクラスの残念王子こと、ドアーホが出てきた。
「久しぶり、ドアーホ」
俺はひやひやしながらため口を利いた。これはクラリスとエリーに相談したのだが、自国の王子を呼び捨てにして他国の王子に敬語だとバルクス王国の威信に傷をつけるかもしれないとの事で、ドアーホには敬称もつけず、ため口で話すことにしたのだ。
クロムの事は慣れるまでは殿下と呼び続けると思うが……
「……久しぶり……です。マルス……先輩」
おい、お前はエリーか? いやいや敬語を使っているのがひしひしと伝わってくる。俺はただ挨拶だけしようと思ったのだが、意外にもドアーホの方から話を広げてきた。
「マルス……先輩とクラリス先輩、エリー先輩がしているそのお揃いの腕輪はなんだ……ですか?」
敬語使ったことがないのか? なんだ……ですかって……お揃いの腕輪って偽装の腕輪の事か。正直に話すわけはいかないので
「これは仲のいい3人で、お揃いで身に着けているだけなんだ。これが気になるのか?」
「うん……はい。ザルカム王国に居た時に同じもの身に着けていた者がいたから聞いてみた……ました。ありがとうございます」
さすがに気になったので、俺から離れていくドアーホを呼び止めて
「ちょっと待ってくれ。誰が身に着けていたか教えてくれないか?」
ドアーホは少し考えてから言った。
「ミリオルドとその近くにいた2人……近くに居た2人の年齢はマルスと……マルス先輩くらいの年だった」
「ミリオルドってミリオルド公爵か?」
俺が聞くとドアーホは面倒そうに頷く。ここでもミリオルド公爵の名前が出てくるのか……ケビンの父のカエサル公爵と一緒になにか良くない事を企んでいるとリーガン公爵が言っていたが偽装の腕輪を装備しているとは……エリーがここに居なくてよかった。
「ありがとう。あと俺に敬語は不要だよ。また今度話そう」
ドアーホと別れると校長室をノックして中に入った。早速俺はリーガン公爵にデアドア神聖王国のクエストを受けると言うと
「やはり、こちらを選びましたか。分かりました。ギルドの方に私の方から伝えておきます」
「リーガン公爵……また聞きたい事とお願いがあるのですがよろしいでしょうか?」
俺が言うとリーガン公爵が
「私が答えられる質問であれば」
前に俺が言った言葉をリーガン公爵がそのままオウム返しした。
「ザルカム王国のミリオルド公爵について何か知っている事があれば教えて頂きたいのですが?」
俺が聞くと、リーガン公爵は綺麗な顔を少し曇らせて
「ミリオルド公爵については正直私もあまり知らないのです。普通上級貴族になればなるほど表舞台に出てくるものですが、ミリオルド公爵は1回も表舞台に出たことは無いと思います。私が知っている事と言えば、ザルカム王国で1番新しい公爵家という事。そして今のザルカム王国で1番影響力を持っていそうという事くらいです」
偽装の腕輪をしてなるべく表舞台に出ないようにする……去年までの俺によく似ているな……
「あと最後に……ミリオルド公爵の事をエリーの前では言わないようにしてくれませんか? 何故かエリーはミリオルド公爵の名前を聞くと怖がるので……」
「分かりました。気を付けましょう」
俺は「ありがとうございます」と言って校長室を後にした。
ミリオルド公爵……どんな奴だろう……
あけましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。