第164話 アリス・キャロル
リスター祭でマルスが1対10で戦っていたのを見ていたから、クロムとの戦いが本気ではないというのはすぐに分かった。
マルスは神聖魔法の重要さを理解していない脳筋かと思ったんだけど、そうでもなかったらしい……考えてみると1年Sクラスって私とアリス以外の身分がとんでもなく高いことに今気づいた。
私は最年長だから普通に呼び捨てにしていたけれど、リスター連合国12公爵の嫡男、バルクス王国の神童王子、そしてどうでもいいザルカム王国の残念王子。私とアリスは場違いね……
今度ミーシャがクロムに挑むって言っていたけど流石に女の子のミーシャがクロムには勝てるわけがない。それなのにマルスはミーシャに対して手加減しろと言っている。
その後リーガン公爵が退出すると、マルスが私に渡したいものがあるという……ついにこの時が来たか……子種を渡すって……アリス……お姉ちゃんは今日女になってくるわ……
クラリスは一線を越えていないと言っていたけれど、はっきり何のことを指しているのかは言っていない。男と女……あんな超絶イケメンと超絶美女が一緒に居て何もないほうがおかしい……でも今日で私も姉妹の仲間入り……
そんなことを思っているとマルスが私に鞭をプレゼントしてくれた。えっ……? 鞭の使い方って1つだけよね……? 私に痛みに慣れろという事なのね……と思ったがどうやらカレンが教えてくれるらしい。
え……? もしかしてマルス……あなたMなのね……確かにマルスの頭文字はM……そして私の頭文字は……S! YES! これ以上ない相性ね!
早速カレンが私に鞭術を教えてくれた。もっと腕をしならせるように、体全体を使って鞭を打てという……こんなに強く叩いてマルスは大丈夫なのかしら?
どうやら私には本当に鞭の才能があるらしくカレンが驚いていた。マルス……待っていてね……女王様に私はなる!
周囲を見渡すとミネルバも鎖を使って縛る練習とかをしていた。この【暁】というクランは役割分担が色々あるのね! アリスの方を見るとアリスもマルスに何かを貰っているようだった。
良く見てみるととんでもない代物だった。私の審美眼でAという美しいレイピアだった。強さ? そんなものは知らないわ……この世の中は美しいか美しくないかが重要なのよ! 私は聞き耳を立ててマルスとクラリス、アリスの3人の会話を盗み聞きした。
「アリス、これは聖銀のレイピアという武器で神聖魔法が使える者しか装備できない。そして細剣術が得意な人物と言ったら世界広しと言えどもアリスくらいしか装備が出来ないだろう……
聖銀のレイピアは敵にダメージを与えると、装備者のMPが回復する特殊能力がある。ぜひこれを装備してアリスは【黎明】の前衛の中心となるような活躍を期待している」
「あ、ありがとうございます! 絶対に大事にします! そして前衛の中心になるような……? 【黎明】の前衛の中心はマルス先輩ですよね……? それに考えてみればこんなに高価そうなものを頂いても私には何も返すものがなくて……あの……勝手な話なんですが……私は3月3日生まれなので……その……今は9歳ですが10歳になれば……いいかなって思っているので、それまで待ってもらえますか?」
ア、アリス……アリスも誕生日に女になるのね……
「ソフィア! しっかり集中しなさい! なるべく早くソフィアを1人前にしないといけないんだから!」
アリスたちの会話を盗み聞きしていたのがバレたのかカレンが鞭で地面をたたきながら怒鳴ってきた……そ、そうね……アリス。お姉ちゃんも頑張るからアリスも頑張るのよ!
☆☆☆
アリスが3月3日までには聖銀のレイピアを使いこなすようにするから待っていて欲しいとの事なので
「分かった。アリス。3月3日を楽しみにしている。成長した姿を見せてくれ」
俺の言葉を聞いてアリスが顔を真っ赤に染めるが。クラリス慌てて俺たちの会話に割って入る。
「マルス! アリスがどういう意味で言ったのか分かっているの!? アリス……本当にマルスはそういう事はしないから大丈夫よ? あと私たちの事をしっかり教えておかないといけないから、ここでは無くてリスター祭の時の関係者専用の部屋に一緒に来てくれる?」
どういう意味って……どうもこうもないだろ……? アリスの方を見るとじっと俺のことを見ながら
「あの……3月3日になったら私の成長した姿を見たいんですよね? 私はそのつもりだったのでいいのですが……」
アリスが確認するように言ってくる。
「ああ。成長したアリスを見たい。だから3月3日が待ち遠しいんだけど……クラリス……俺は何かおかしなこと言っているか?」
「あのね……マルス……アリスは3月3日に10歳になるから成長した体……つまり裸を見せると言っているのよ? このままではマルスは聖銀のレイピアで9歳の女の子を買う変態キモマルスになってしまうのよ。
そしてアリス……マルスはきっと3月3日に10歳になったアリスの成長……つまりステータスが楽しみだと言っているの」
俺とアリスはクラリスの発言にびっくりしてお互いの顔を見合わせた。
「え!? マルス先輩は体が見たいって言っていたのですよね?」
アリスの発言にもっとびっくりした。
「いや……アリスが10歳になって成長したステータスを見るのが楽しみだったんだ……そうか……アリスは俺が鑑定できるのを知らないんだったね……そっちに受け取られても仕方ない……のか……?」
危ない……クラリスに一生変態キモマルスと言われるところだった。
「良かった……10歳になってもクラリス先輩やエリー先輩みたいにナイスボディにはなれないからどうしようと思っていたんですが……では体の方はしっかり成長してからでいいですよね」
あれ? なんかすごい事言ってないか……? ちなみに成長前? のアリスのステータスはこんな感じだ。
【名前】アリス・キャロル
【称号】-
【身分】人族・平民
【状態】良好
【年齢】9歳
【レベル】16
【HP】33/33
【MP】40/40
【筋力】19
【敏捷】24
【魔力】20
【器用】22
【耐久】18
【運】20
【特殊能力】細剣術(Lv5/A)
【特殊能力】神聖魔法(Lv2/C)
【装備】聖銀のレイピア
【装備】身躱しの服
細剣術の才能がAで神聖魔法の才能もC。これは本当にかなりの有望株だ。
クラリスはため息をつきながら関係者専用の部屋に歩いて行く。俺とアリスもクラリスについて行った。
部屋に着くとクラリスが【黎明】の事を説明し始める。今回はクラリスに任せよう……俺が説明するとまた変な誤解を生む可能性がある。
「まずはマルスの事を話すわね。マルスは剣聖と呼ばれているけど本当は魔法使いなの。驚くかもしれないけど本当よ。称号も風王の称号を持っているわ」
クラリスの言葉にアリスは驚いていたが、クラリスは構わず話を続ける。
「もっと驚くかもしれないけどマルスは神聖魔法も使えるの。そして神聖魔法は私も使えるのよ。だからアリスも神聖魔法が使えるとなれば【黎明】には3人の神聖魔法使いが居るという事になるわ。そして他のパーティと最も違う所は【黎明】の神聖魔法使いは必ず戦闘に参加するの。どこか安全な場所に隠れてとかいるという事はしないわ」
アリスはあまりにも驚いたのか顎が外れていた。しかしそれすらクラリスは無視をして話を続ける。
「アリスが入った【黎明】の隊列は前衛にエリー、ミーシャ、アリスの3人。中衛にマルスとカレン、後衛に私というのを考えているわ。最終的には大幅に変更予定だけど、アリスが強くなるまではこのフォーメーションで行くから覚えておいてね」
アリスはただひたすら頷いているだけだ。
「最後に1ついいかしら。もしよければアリスとソフィアは2人で私たちの部屋に引っ越してこない? 神聖魔法使いはなるべく誰かと一緒に居た方がいいと思うの。もうリーガン公爵には了承を貰っているわ。
私たちの部屋はとても広くて6LDKで1つの部屋が20帖を超えているの。1部屋余っているからアリスとソフィアが一緒の部屋で良ければ来て欲しいなって思っているんだけど……
私とエリーは今年から同じ部屋で過ごしているけど全く狭さは感じないわ……広い部屋が良ければエリーの部屋を空けるけど?」
アリスは一生懸命顔を縦に振る。ようやく顎が元に戻ったらしく
「姉と一緒でいいのであれば行きたいです! よろしくお願いします!」
アリスが弾むように答える。俺からも1つ言うべきことがあったので
「アリス、一つだけお願いがある。毎日必ず寝る前にMPを枯渇させておいてくれ。神聖魔法使いはMPが多いと何かと有利だからね。あと明日から放課後は俺たちと一緒に訓練しないか? 取り敢えずは新入生闘技大会までは」
「是非お願いします!」
アリスは嬉しそうに賛同してくれると俺たちもみんなの所に戻って訓練を始めた。
2031年2月14日
今日は1年生の新入生闘技大会の日だ。
ミスターリスター、ミスリスターとして俺とクラリスは、新入生闘技大会にリーガン公爵と共に会場のコロシアムに行くこととなった。
俺とクラリスが一緒に行くのであればエリーも一緒に行きたいとリーガン公爵にエリーが直訴すると快諾してくれた。
なんでもセレアンス公爵の抑えとしてもともと連れて行きたかったらしい。俺とクラリス、エリーが行く事となると、今度はカレンとミーシャの2人も同行したいとリーガン公爵に直訴し、これも承認された。
コロシアムに着くと俺とクラリスはリーガン公爵と一緒に行動し、色々な貴族たちに紹介された。貴族たちはリーガン公爵のご機嫌を必死にとろうとしており、献金という名目でリーガン公爵に金品を渡したりしていた。
貴族たちがリーガン公爵に媚びている中、1人だけリーガン公爵に媚びない黒髪の男がいた。その男がリーガン公爵の近くに近づくと一緒に来ていたライナーとサーシャがリーガン公爵の前に立ち警戒心を露わにした。
「リーガン卿。久しぶりだな。相変わらず警戒心が強くて何よりだ」
黒髪の男がリーガン公爵に言うとリーガン公爵も
「去年の年末以来ですね。カエサル卿。今日はケビンの晴れ舞台を楽しみにしてくださいね」
この黒髪がケビンの父のカエサル公爵か……リーガン公爵がカエサル公爵に俺とクラリスの事を紹介すると、カエサル公爵から嫌な視線が俺たちに注がれた。魔眼持ちらしい。
カエサル公爵は鑑定に失敗したのであろう。明らかに怪訝な表情を浮かべてすぐに去っていった。俺とクラリスは自己紹介をする暇もなかった。
「あれがケビンの父のカエサル公爵です。マルスとクラリス。あの男は絶対に注意するように。ザルカム王国のミリオルド公爵と一部の魔族と組んで良からぬことを企んでいると常々噂されております。私達も探りを入れているのですが尻尾がつかめなくて困っております」
なんでこんな国家機密を俺とクラリスに漏らすんだ? クラリスも同じことを思ったらしく思わず俺たちは顔を見合わせた。
貴族たちの紹介も終わり少し時間があったので、俺とクラリスはエリー、カレン、ミーシャの3人と合流した。そして合流した時にクラリスがさっきの話をした。
「ねぇマルス……ミリオルド公爵ってどこかで聞いたことなかった?」
この言葉に過剰に反応する者がいた。エリーだ。
エリーはクラリスの言葉を聞くと急にしゃがみこみ、全身を震わせ小さくなった。










