第161話 告白
アリスがドアをノックするのを躊躇っている。それもそのはず……この扉の奥にはマルスがいる。リスター祭のマルスは本当にかっこよかった。
アリスが惚れるのも無理はない……だからこの学校に入ったのだが、いざこの学校に入ってマルスの事を調べるととんでもない奴という事が判明した。
リスター祭で闘技場のアナウンスでもあったようにマルスは本当にハーレムキングだったのだ。
【黎明】というマルス以外女子だけのパーティを結成して、やりたい放題やっているという……それも全員美女のみ……どうやらマルスはあの超絶イケメンを利用し先生たちを篭絡して2年生の女子寮に入ることができるようにしたというのだ……
アリスもこの扉を開ければその弄ばれる1人になってしまう……でも大丈夫よ、アリス。まずは姉である私が先に弄ばれて、どういうプレイをされるか教えてあげるから……アリスが身体測定の時、マルスに放課後会いたいっていうから、お姉ちゃんは昼休みに急いで寮に戻って勝負下着を履いてきたのよ。
アリスが教室の扉をノックして緊張しているせいか、返事を待たずに教室の扉を開ける。教室の中にはマルスと4人の美女がいた。
クラリスはともかくエリーも私の審美眼でSクラスになっていた……なんかエリーは可愛らしくなったように思える……カレンは少し不機嫌そうな表情をしており、ミーシャはニコニコしながら私たちを見ている。正直ミーシャみたいな何を考えているか分からない子が一番怖い……
「2人ともようこそ。なんか緊張しているようだけどリラックスして」
マルスが初体験の私たちにまるでもう何回も言ったかのようなセリフを発した。これが殺し文句の1つか……こんな言葉で落とされる私ではない。せめてあと一言……「元気だった?」とか「また明日」とか言われないと私はあなたの物にはならないわ。
アリスはマルスの声を聴いて余計緊張してしまって何も言えないでいる。すると女神のような微笑みを浮かべながらクラリスが
「しっかり話すのは初めてね。私はクラリス。【黎明】のサブリーダーをしているわ。アリスちゃんはマルスにどんな用があったの?」
全ての不安を飲み込むように優しい声でアリスに聞いてくる。このずっと聞いていたくなる天使の声はずるい……そして1回クラリスの顔を見てしまうと目が離せなくなってしまう。
「は、初めまして……アリス・キャロルです。今日は私を……皆さんのお仲間に入れて欲しくて来ました!」
アリス! 仲間って何仲間よ!? しっかり言葉を選びなさい! この言葉にクラリスは微笑んでおり、他3人はさっきと表情が変わらない。
「アリスちゃんは何が得意なんだい?」
金髪超絶イケメンがアリスを口説き始めた。するとアリスがとんでもないことを言った。
「私は細剣術が得意です。あと……神聖魔法も使えます! 神聖魔法使いは貴重と聞いております。【黎明】でお役に立てると思うので是非パーティに入れてください!」
自分から神聖魔法使いって言ってしまった! 途中でアリスの口を塞ごうにももう遅い……が、【黎明】で驚いているのはカレンとミーシャだけだった。
マルス、クラリス、エリーは全く驚いていない。この3人は神聖魔法がどれだけ貴重なのか知らないのか? 昔は神聖魔法使いを巡って国同士で戦争も起きたくらいなのに。
「マルス! もしかして知っていたの?」
カレンがマルスに対して聞くとマルスは頷いた。え……? どういう事? マルスは最初からアリスが神聖魔法使いと知っていたの?
いや……それはない。もし知っていたなら絶対にマルスの方からアリスにパーティのお誘いが来るはずだ……それとも本当に神聖魔法の大事さを分かっていないのか?
「カレン、どうだい? まだアリスが入ることに反対かい? ミーシャはどうだ? 人数が多いほうが楽しいと言っていたが、しっかり仲間として受け入れてくれるか?」
マルスがカレンに問いかけた。カレンはアリスが入ることに反対だったのね……そしてミーシャはなんていう理由でアリスを受け入れようとしたの? 本当にただニコニコしているだけの子なの?
「神聖魔法使いであれば、話は別よ。大歓迎に決まっているわ。マルス達も最初から私に教えてくれれば良かったのに」
「いや、アリスちゃんが神聖魔法使いと分かってもカレンが反対だったら、俺はアリスちゃんの【黎明】へのパーティ入りを断ろうと思ったんだ。
エリーには前に言ったんだけど今のパーティに不協和音を奏でるような人間はたとえ神聖魔法使いでも入れない。みんなには知らせていなかったけど現に1人、俺の独断で神聖魔法使いの子のパーティ入りを断っているしね」
カレンの言葉にマルスが答えた。え……? 神聖魔法使いのパーティ参加を断ったことがあるの? A級冒険者よりも神聖魔法使いのほうが優遇されるのに? もしかしてマルスは脳筋のおバカさん?
「ミーシャもいいかい?」
「うん! 多い方が楽しいもんね! アリスちゃん! よろしくね!」
おい! 結局それか!? 神聖魔法使いよ? もっと違う理由があるでしょ?
「という事でアリスちゃん。【黎明】にようこそ。僕たちはアリスちゃんを歓迎するよ」
マルスの言葉にアリスが涙を流した。きっとこれはうれし涙ではないわ……これからされるであろう行為に恐怖しているのだわ……ここは私がしっかり守らないと!
「マルス……先輩? 私も……」
私がそう言いかけるとマルスが
「ソフィアさん。まず俺の事は呼び捨てでいいよ。あとソフィアさんはドミニクが直接話をするって言っていたから待っててもらってもいいかな? 話の内容は俺から言うわけにはいかないからドミニクに聞いてくれ。まぁこの話の流れからすると分かると思うけど」
……もしかしたら私だけマルスとドミニク2人で……? す、スペシャルコースね! 覚悟の上だわ!
「分かったわ。私の事もソフィアでいいわ」
「じゃあソフィアとアリスちゃん。また明日の放課後ここに来てくれるかな? 今後の事や俺たちの事も2人に知ってもらわないといけないから」
きた……「また明日」と言う言葉が……完全にマルスは私を落としにかかってきているわ……仕方ない。明日も勝負下着で来よう……
☆☆☆
「カレン、ミーシャ、別の件で話したいことがあるんだけどいいか?」
「いいけど……? アリスの事? 本当にいいよ?」
ミーシャが答えるとカレンも頷く。俺はいつの日かのように自分の指を剣で少し切る。カレンとミーシャは突然の俺の行動に少しびっくりしていたが、俺が神聖魔法使いと知っているのですぐに平静に戻る。しかし次の瞬間2人は目が飛び出そうになるくらいびっくりしていた。
「ハイヒール」
クラリスが俺の指の傷を治したのだ。
「え……?」
カレンは口をパクパクさせてこの後の言葉が出てこない。ミーシャも同様に驚いていた。やはりサーシャはミーシャにクラリスが神聖魔法使いと教えていなかったらしい。
「ごめんね……黙っていて……私も神聖魔法使いだったの」
クラリスが申し訳なさそうに2人に謝る。
「い、いいわよ。当然よ。神聖魔法が使えると隠すのは……だけどこのパーティってとんでもないパーティだったのね……そしてもう1人の神聖魔法使いが加わるって……こんなことがバレたら……他には誰が知っているの?」
俺は素直に答えた。
「【暁】では先生3人。そしてリーガン公爵だ。ちなみにサーシャ先生は【剛毅】に所属することになった。当然俺の家族は全員知っている。義姉さんにもこの前教えた」
サーシャが【剛毅】に加入したことにカレンが驚いていたが、ミーシャは驚いていなかった。やはり知っていたのか?
「やっぱりお母さん入ったんだ。ザルカム王国に行ったときに私が強くなりすぎていて驚いていたから……お母さんがミーシャにはまだ負けられないって言ってたからもしかしたらと思ったんだけど……」
そう言う事だったのか……サーシャが【剛毅】に入った理由が分かった。
「なんでこのタイミングでカレンとミーシャにクラリスの神聖魔法の事を話したかというと、アリスには俺とクラリスも神聖魔法使いという事を教えるつもりだ。アリスに神聖魔法を教えるためにな。だがアリスに教える前にカレンとミーシャにも教えないといけないと思ったからだ」
カレンとミーシャは俺の言った事に納得してくれた。
「あとみんなも分かっていると思うがソフィアは【創成】に入ると思う。ドミニクがバロンにあらかじめ許可を貰っていたからね。ソフィアはとても多才だ……戦闘以外の才能もある……というか戦闘以外の才能の方が高いようだ。
カレン、お願いがあるのだが炎の鞭を譲ってくれないか? ソフィアも鞭術の才能があるからソフィアに使わせたいのだが……そしてカレンがソフィアに鞭術を教えてもらいたいのだがいいかな?」
「いいわよ。私がビシバシ鞭の使い方をソフィアの体に叩き込むわ!」
なんか少し不安だ……本当にソフィアの体に鞭を打ちそうで怖い……
「あ、ありがとう……ソフィアはあまり戦闘が得意じゃないからそこまでスパルタ指導はしなくていいから……頼んだよ……」
カレンは俺の言葉を聞いているのか聞いていないのか良く分からないが引き受けてくれたからまぁ良しとしよう。
このまま5人で夕食を街で食べようとリーガンの街に出ると、ちょうどバロンたちと会ったのでみんなでそのままご飯を食べる事にした。俺は少しある店に行きたいからみんなには先にレストランに入ってもらった。
俺が向かった先は鍛冶屋だ。オリハルコンの事を聞きに行ったのだが、オリハルコンを見るどころか聞いたこともないらしい……これは参った……鍛冶屋の錬金術師なら知っていると思ったのに……
同じく武器や防具を売っている所やアクセサリーショップにも通ったが、誰1人オリハルコンと言う言葉すら聞いたことがないという……
鍛冶屋だけのつもりが色々な所に寄ってきたから時間が掛かってしまった。何の収穫もないままみんなが待つレストランに入るとすぐにクラリスとエリーが俺に駆け寄ってきた。
「マルス! 遅い! 心配させないで……」
クラリスがほっとしたように言うと
「……マルス……お願い……」
エリーの目には涙が溜まっている。2人ともよほどアルメリア迷宮のボス部屋の件が頭に残っているのだろう……俺が2人と一緒に席に着くと2人の反応に他のメンバーが理解できないという表情をしている。
「ちょっと、2人とも、さすがに大げさすぎるわよ。マルスは心配ないって私たちよりもあなた達2人の方が良く分かっているでしょ?」
カレンが2人に向かって少し呆れたように言うと
「マルス……死にそうになったの……」
「……死んだと思った……」
クラリスとエリーの言葉にこの場に居る全員が驚いた。クラリスとエリーはみんなにアルメリア迷宮のボス部屋の事を話した。ただ魔物はオーガという事は話していない。脅威度Bの魔物という事だけしか言わなかった。オーガだけ気を付ければいいと思われないようにだと思う。
「そんな……マルスでも脅威度Bの魔物にそこまで苦戦するのか……」
バロンがボソッと呟く。多分バロンは脅威度Bの敵の強さを知らないらしい。B-とBでは全然違うからな……
しんみりしてしまったので俺は違う話題を出した。
「そういえば、カレン。スザク様と会ったよ」
カレンは俺の言葉を聞くと明らかに動揺したのが分かった。










