第159話 報告
2031年1月26日 10時
ようやくリスター帝国学校に着いた。結局アルメリアを出たのが1月14日となってしまった。
俺は12日に出発しようとしたのだがエリーがもう少し居たいと言って14日出発となったのだ。まぁ本来は20日以上かかる道のりだと思うのだが、いつもの馬にヒールを掛けて強行軍で帰ってきた。
流石にクラリスとエリーを野宿させるのは嫌なので宿には泊まったよ? え……? いつも迷宮に泊まらせているではないかって? 迷宮はある意味俺たちのデートスポットだから気にしないでくれ。
ちなみにアイクと眼鏡っ子先輩は同行していない。彼らはジークと一緒にバルクス王国の王宮に向かってから、そのままメサリウス伯爵領に行ってメサリウス伯爵に挨拶をするらしい。
この件はすでにリーガン公爵に早馬で伝えているという。だからアイクと眼鏡っ子先輩は2月中旬辺りに戻ってくるとの事だ。
荷物をそれぞれの部屋に降ろしてから俺たち3人は、リーガン公爵のいる校長室に向かった。戻ってきたことを報告するためだ。
俺が扉をノックして名乗ると入りなさいと言われたので校長室に入った。校長室の中には知らない男が1人いた。
「教頭はもう下がりなさい」
リーガン公爵が知らない男に向かって言った。え……? この人教頭なの? いつの間にかまた教頭が変わっていた。
「まずは無事に帰ってきてくれて何よりです。もしも良ければあなた達がこの休みの間に何をしていたか教えてもらえないかしら? 特に不浄王の事を詳しく」
うーん……もう不浄王の事は知っているのか……どこまで知っているのだろうか……
「分かりました。リーガン公爵はどこまで知っておられるのですか?」
「あなた方が西リムルガルドに残った事。そして神聖魔法でないと到底倒せない不浄王が出現した事。そして誰かが不浄王を倒したという事。その誰かという事がマルス君。なぜかあなたになっているという事よ」
方って俺しか残っていないんだけど……それに「なぜか?」だって? 俺が倒したのは間違いないんだけど……
「はい……僕が倒しました……が?」
「風王であるあなたが神聖魔法を使える訳ありません。しっかりとあなたの口から真実を言ってください」
ん……? 何か話がかみ合わない……もしかしたらクラリスが不浄王を倒したと思っているのか? やはりクラリスが神聖魔法使いだと疑っているのか? クラリスが神聖魔法を使えると知ればリーガン公爵はどうするか分からない。
少なくともアイクは絶対に警戒しろと言っていたしな……ここは俺が神聖魔法を見せた方がいいのか……? いや絶対に俺が見せるべきだ。クラリスとエリーは俺が守らなければ!
「リーガン公爵。では少しお時間を頂けませんか? ここでは証明もできませんし、何より屋外の方がいいので……あと絶対に人目に触れない場所でお願いしたいのですが……」
俺がそう言うとリーガン公爵は納得がいかない様子だったが、以前連れて行ってもらったリーガン公爵の屋敷の裏庭に案内してくれた。
「ここであれば誰にも見られませんし、聞こえません」
リーガン公爵が俺にそう言って早く説明するように促す。俺は説明するよりも見てもらった方が早いと思いいきなり魔法を唱えた。
「ホーリー!」
俺が言うと魔法陣から空中に向かって光の柱が立った。それを見たリーガン公爵が胸を押さえながら
「あ、ありえない……風王が神聖魔法使い……? それにホーリーって……過去に1人もそんな人存在した事ない……」
リーガン公爵はとても動揺しているようだったが、気になる言葉も吐いていた。
「1つのパーティに神聖魔法使いが2人? そんなパーティ見たことも聞いたこともない……そしてそのパーティに3人目が……」
リーガン公爵の言葉に俺だけではなくクラリスも動揺していた。
「リーガン公爵……神聖魔法使いが2人というのはどういう事でしょうか? それに3人目というのは……?」
俺がまだ動揺しているリーガン公爵に聞くと少し落ち着きを取り戻したらしく
「あなたとクラリスの事ですよ。私はあなた方が入学する直前にクラリスが神聖魔法使いという事を知りましたから」
え!? これは鎌をかけられているのか? 俺は敢えて沈黙した。クラリスもだ。この場合の沈黙は肯定と捉えられても仕方ないが、下手に喋るよりかはまだマシだろう……
「どうして知っているの? という顔をしているわね。ではマルスがホーリーというとんでもない魔法を見せてくれたお礼に教えて差し上げましょう。
クラリス……あなたグランザムで誰かに殺されかけなかったかしら? なぜあなたはその誰かに殺されかけたのかしら?」
この言葉で俺とクラリスは全てが分かった……そうだ……クラリスはダメーズの前でヒールを唱えているんだ……そしてダメーズはサーシャの奴隷……ダメーズからサーシャに報告が上がるのも当然……そしてサーシャがリーガン公爵に報告するのも……これは決定的な証拠だ……言い逃れはできない……
だとすると疑問に思う事がある。
リーガン公爵はクラリスが神聖魔法使いと入学前から知っていたのであれば、今までクラリスに対して何も変なことをしていない……もしかしたらアイクが警戒しすぎているのかもしれない……
俺とクラリスは顔を見合わせた。もうクラリスは隠すのが無駄と分かっているらしい。俺はクラリスに対して頷くとクラリスが
「はい。私も神聖魔法使いです。ですが不浄王とは戦ったこともありませんし見たこともありません。私は西リムルガルドには1日しかおりませんでした。これは本当です」
「本当にあなた達は……神聖魔法使いが2人もパーティ内に居ればカレンもミーシャもあそこまで強くなるわけね」
眼鏡っ子先輩と同じことを言ってきた……
「それで……3人目というのは……?」
俺が恐る恐る聞いてみる。見当はつくが……
「リスター祭でマルスの試合を見ていたアリスって子を知っておりますね? アリスは今年リスター帝国学校の1年Sクラスに入学しました。
そしてアリスが神聖魔法使いだと自分から私に告白したのです……だから【黎明】に入れて欲しいって……どうやらアリスは学校側が【黎明】を作ってSクラスの上位5人を【黎明】に当てはめたと思っていたようです。
だけど決定権はマルスにあると言ったら直談判すると言っておりました」
す、すごい行動力だ……神聖魔法使いですって自ら言うなんて……この言葉にクラリスとエリーはため息をつきクラリスが
「やっぱりアリスちゃんが5人目か……」
ヤバいクラリス。その発言はNGなんだ……リーガン公爵気づかないでくれ……
「やっぱり? という事はあなた達もアリスが神聖魔法使いと知っていたのですか?」
痛いところを突かれた……クラリスも自分の失言に気が付いたようだ。が、ここで機転を利かすものがいた。
「……アリス……可愛い……マルスの好み……だから5人目……私とクラリスで話していた……」
な、ナイス……フォロー……? 俺のイメージがだだ下がりだがハーレムパーティの俺にしかできない言い逃れだ……
「ま、まぁそうでしょう。アリスは私から見ても可愛いですね……」
リーガン公爵もこの答えに納得したようだ。納得されるとなんか傷つくのだが……
「ではアリスさんの件は僕に任せてもらっても構わないのですか?」
「ええ……なんか心配になってきたわね……まぁ任せましょう……」
リーガン公爵の俺に対する評価はやっぱり下がったようだ……神聖魔法の件は一通り話したので別の事を聞くことにした。
ここではなんだからという事でリーガン公爵の屋敷で昼食を頂きながら話すことにした。
「今年もSクラスが創設されるのですね。今年のSクラスは何名なのですか?」
「5名です。カエサル公爵の嫡男とアリスの姉のソフィア、そしてアリス。それにバルクス国王の次男のクロム。最後にあなた方も良く知っているドアーホです」
え……? なんか最後の1人どうしようもない奴の名前が聞こえたんだが……それにバルクス国王の次男のクロムって確か俺と同じ年だったような……
「ドアーホ……? 彼はそんなに優秀だったのですか……?」
正直そんな印象は無かったから鑑定をしていなかった。
「キザールよりも下ですね。でもいいのですよ。私の方から申し出たことですから。それにあなた達と違って本当にSクラスに相応しいのは、アリスとバルクス王の次男のクロムだけです」
クロムって確かリスター祭でガル先輩を倒した人か? どうせ上から目線で命令してくるだけだし……まぁ実際、雲上人だから仕方ないのだが……
「では私からも質問を。アイクとエーディンはどうなりましたか? ジーク卿に結婚は反対されていると思ったのですが? ジーク卿からの手紙が私の所に来ましたが本当に真実なのかを確かめたくて……」
この人ブライアント家の事まで知っているのか? 俺も最近まで知らなかった事なのに……そのくせ俺とアイクが兄弟という事を知らなかったという事は俺がここに入学してから調べ上げたという事か?
「お父様からは結婚の承諾を頂きました。2人が学校に遅れてくるのはメサリウス伯爵との場を設けるためだと聞いておりますが?」
「そう……良かった……これでバルクス王国がメサリウス伯爵領にちょっかいを出すことは無くなりそうね……」
「そういえばバルクス王国からリスター連合国にリムルガルドへのクエスト依頼があったと聞いたのですが?」
リーガン公爵が少し驚いた顔をしたがすぐに平静を取り戻し
「そう……スザクから聞いたのかしら? 見返りに王の子供をリスター連合国に入れるようにと言ったらなぜか一番優秀な次男のクロムが……何かたくらみがあるかもしれないからマルスも気を付けるように」
クロムも人質のようなものなのか……
「最後に僕から1つ質問させてください。今年A級冒険者に挑戦してみたいのですが、どうすれば良いのですか?」
俺の言葉にリーガン公爵がびっくりした顔をした。
「どういう意味ですか? ただ戦ってみたいという事ですか? それともA級冒険者になりたいという事ですか?」
「後者の方です」
「……B級冒険者10名以上の推薦かA級冒険者の推薦が必要です……ですがまだマルスには早いです……マルスも強いですがA級冒険者は想像もつかないくらい強いです……ガスターと手を合わせたあなたならお分かりでしょう?」
「はい……それでも試してみたいのです……」
「分かりました。手配の方をしておきましょう。武神祭の時にエキシビションマッチを組もうかと思います。そこで見事私が用意した者に勝てれば11月からの休学を認めましょう。
ただし条件があります。もしも……本当にもしもマルスがA級冒険者になれたとしてもこの学校は絶対に5年間通い続けてください。
いえ、通わなくてもいいので籍だけは残す事。しっかり5年経てば卒業証書は渡しますので」
なんかとっても美味しい話をされていると思うのだが……お願いされるとなぜか警戒をしてしまう……
「分かりました。そのようなお言葉を頂き光栄です」
昼食を食べ終わったので席を立とうとすると、食事の席に1人の男が入ってきてリーガン公爵に耳打ちをする。
「最後にあなた達3人に紹介したい者たちがおります」
俺たちが席を立とうとするのをリーガン公爵が言葉で制すると意外な人物が部屋に入ってきた。










