第155話 平常運転
「久しぶりの宝箱ね……早く開けて見せてよ」
クラリスが俺を急かす。しっかり宝箱を鑑定すると罠付きだった。毒矢か……ここでいい気になって開けると痛い目見るパターンだったな。
「みんな毒矢が仕込まれているから離れてくれ」
俺は宝箱を開けてすぐに後方に下がると勢いよく毒矢が天井に刺さった。あれ刺さったら毒じゃなくても死ぬだろ……宝箱の中身を確認すると見たこともない形状をした剣? があった。
【名前】聖銀のレイピア
【攻撃】16
【特殊】敏捷+1、魔力+1
【価値】A-
【詳細】神聖属性の細剣。ダメージを与えると装備者のMPが回復する。
これって……かなりチート装備ではないだろうか……? まぁ神聖魔法使いは戦闘に参加しないという前提だとゴミ装備だが細剣術の才能がある神聖魔法使いなら……1人だけ思い当たる人間がいた。
「なにこれ? 初めて見る形状ね。どんな剣なの?」
クラリスが興味津々といった感じで俺に問いかけてきた。この聖銀のレイピアの性能を2人に話した。
「私たちの中には装備適任者はいないわね……細剣術と神聖魔法の両方の才能を持つ人なんているのかしら?」
俺は2人に隠し事をしたくなかったので素直に
「実はドミニクの幼馴染のアリスって子がその両方の才能の持ち主っぽい」
俺の言葉にクラリスとエリーが驚いた。
「え!? アリスちゃん神聖魔法使いなの!? ずっとメイド喫茶に当選し続けていた子よね?」
クラリスが驚いて声を上げるとエリーが
「……この流れ……5人目の流れ……」
ボソッと呟く。クラリスがその言葉を聞いて俺を睨む。
「マルス……もしかして本当に5人目とか思ってないわよね?」
あんなに可愛かったクラリスの声がなぜかとても怖く聞こえる。
「え……いや……才能がある人をパーティに勧誘するのはいいことだと思わないか? みんなの身の危険も軽減されるし……」
必死に抵抗すると
「まぁ……そうだけど……別の意味の才能もありそうだから……」
別の才能ってなんだ?
「別に【黎明】じゃなくてもいいと思うんだ。最終的には【創成】でもいいと思う。だけど貴重な神聖魔法使いだからしっかりと育てたい。でもアリスが拒否すれば仕方ないが……」
「……絶対に断らない……アリス……マルスの事好き……」
エリーがまたもボソッと呟くと俺とクラリスはこの言葉に驚いた。俺の事好きって言われても全くそんな感じはしなかったけど……でもエリーの直感は99%当たるからなぁ……
「マルス! 顔! 顔がにやけているわよ!」
クラリスが俺の顔を軽くつねってきた。
「でもマルスの言うとおりね。5人目の婚約者としてではなく【黎明】や【暁】のメンバーとしてなら歓迎しないとね。マルスの目標はリムルガルドの領主だから戦力はいくらあっても足りないわよね」
な、なんとか機嫌を直してくれたらしい。エリーもクラリスの言葉に納得している。
「とりあえず先に進もう。今度は俺が前に出る」
4層にはあまり魔物が居なかった。3層までは通路にも魔物が現れていたが、4層からは通路には魔物は出現せず各部屋に10体ほどのオーガが居るだけだった。
もうオーガとは真っ向勝負はせずに魔法戦でMPを枯渇させ、魔法で削ってから倒しているのであまり苦戦することはなかった。
時間をかけてゆっくりと4層を探索し4層全てのフロアを探索し終わった。5層に続くフロアも発見し、少しだけ5層を覗くと5層の壁は赤く、大きな扉が1枚あるだけだった。ボス部屋だ。
俺のMPはまだ5000以上残っているのだが、クラリスのMPが半分を切っていたので今日はもう安全地帯に戻る事にした。安全地帯に戻る時もオーガがリポップしているのでそのオーガも倒しながら戻った。
安全地帯に戻ったのは19時だった。お風呂に入り携帯食を食べ、3人でベッドに潜る。ちなみにもう2人とも寝るときは俺のワイシャツを着るようになっていた。
だが寝るときの服装で違う事が1つある。それは2人ともショートパンツを履いていないのだ。実はアルメリア迷宮に入ってから2人はショートパンツを履いていない。他の冒険者たちに見られることがないからだろう。
前衛のエリーの下着はちらちら見える……スカートが捲れるたびにどうしてもそっちに目線がいってしまう。特に風のブーツの効果で空中を飛び回る様に動くときは、男ならわかるだろうが戦闘中でダメと分かっていても釘付けになってしまう……
流石にオーガと戦っている時はそんな余裕がなかったが……そして今2人は下着とブカブカのワイシャツしか着ていない。
さらにその状態で俺に絡みつくように抱き着いてくる。2人の体のラインを何とか意識しないように平静を装って俺が言う。
「明日はレベル上げをしながら4層で宝箱を探して明後日5層のボス部屋に行こう」
俺がベッドの中で2人に言うとクラリスが「うん」と可愛く返事をしてくれた。エリーは……もう既に寝ていた。まだベッドに入って1分も経っていない。エリーが寝られなかったなんて考えられない……
「それにしてもオーガたちは強かったな……魔法が得意じゃないパーティだとかなりきついと思うが……それに魔法が得意だとしてもすぐにMPが枯渇してしまうよな」
「そうね……普通のBランクパーティだと例え倒せたとしても、次の部屋に入るのには6時間以上かかりそうよね……それに1体1体が強いわ……オーガのMPが枯渇したところで、どのくらいのパーティがオーガ10体を相手に倒せるのか疑問よね」
「オーガたちを魔法抜きで倒せるようにしたいな……再来年にまた来てチャレンジしよう」
「あら? マルスにしては意外ね。来年っていうと思ったけど?」
「来年はグレイさんとエルナさんに挨拶しに行くのと、エリーの件でセレアンス公爵に会いに行こうと思うんだ。ずっとバーンズ様とエリーの件で納得いかないことがあったから色々聞きたいし、エリーにとってもセレアンス公爵の件はしっかり清算したほうが良いと思う。エリーが嫌がるならやめるけど……」
「……ありがとう。エリーの件もちゃんと聞かないとね……」
今日もクラリスと会話をしながらMP枯渇をさせて寝た。
2031年1月8日 3時
いつも通り早く起きて2人の寝顔をもっと見ていたいという衝動を抑えつつ俺はベッドを出て1人で4層に向かう。
少し試しておきたいことがあったのだ。まずはホーリーがオーガに対して有効かどうかだ。もし有効であればクラリスのメイン攻撃の1つとなるだろう。
結果は他の4大魔法に比べると有効だった。4大魔法はすべてレジストされるがホーリーはレジストされることが一度もなかった。まぁ一撃で大ダメージを与えることは出来ないのが欠点だが。
そして次に雷魔法だ。これはある程度予想はしていたがやはり効果抜群だった。光ると同時に着弾する雷魔法はレジストできる暇なんてない。見てからでは遅いのだ。
そしてしっかり感電(大)の状態を付与できる。感電すればオーガの首を雷鳴剣で簡単に刎ねる事が出来る。が消費MPが半端ない……最大MPが8000になってもライトニングは10発くらいしか撃てないからしっかりと使い所を見極めなければならない。まぁボス専用と思っといたほうがいいだろう……
最後に風纏衣と鳴神の法衣でのスピードブーストにどれだけオーガがついて来られるかだが、これに関しては微妙だった。
結果的にオーガはついて来られないというのが判明した……が俺も使いこなせないのだ。あまりにも速すぎで直線的な動きになってしまう。
オーガはついてくることは出来ないが、動きを読むことは出来る。俺の動きを読みあらかじめ棍棒を振っているという事が多々あり、その棍棒に対して真正面からぶつかってしまうという事があった。
これは宝の持ち腐れになってしまう……慣れるまで練習しなくてはならない……
以上のことを試して3層に戻るともう6時前になっており、急いで風呂に入って汗を流した。風呂から上がるとクラリスはもう起きて着替えを済ましており、簡単な朝ごはんを用意してくれていた。
「おはよう。クラリス」
クラリスの方に歩いて行くとクラリスが俺にキスをしてくれて
「おはよう。今日も頑張ろうね。あとエリーを起こして。ご飯の準備終わらせておくから」
可愛く言って抱きついてきた。クラリスの言葉通りにいつものようにエリーにキスをして起こすのだが、エリーはまだワイシャツに下着姿のままの恰好で俺に抱き着いてきた。エリーの豊かな2つの丘が俺の胸に押しつぶされる。
「お、おはようエリー……さすがにその恰好で抱き着かれると俺も理性が保てないから……着替えてきてくれ……」
俺がそう言うとエリーが
「……マルス……手が……それに……ノックされてる……」
いつのまにか腰に回したと思った手が少し下の方にいってしまったようだ……そして俺のキカン棒がエリーのお腹を千本ノックしていた。すでに体の方が勝手に反応してしまっていたようだ……
「ご、ごめん! わざとじゃないんだ!」
俺が言うとエリーが笑顔で
「……ありがとう……嬉しい……着替えてくる……」
なぜかお礼を言われた。エリーの笑顔は天使のような笑顔だ。何かお礼を言われるようなことしたか? 最低とも言われてもいい行為しかしていないが……エリーの言葉の意味を考えながら賢者様を手に取り心を静めた。
その後3人でご飯を食べ明日に向けてオーガ狩りに勤しんだ。俺もレベルがあがり手ごたえを感じさらに宝箱も1つ取れた。やはり4層はまだ他の冒険者に荒らされていないから宝箱のポップ率がいい気がする。
【名前】レッドビュート
【攻撃】18
【特殊】魔力+2
【価値】B-
【詳細】レッドビュートで負った火傷の回復は遅くなる。鞭に火魔法を付与することができる。
カレン用の武器も手に入れることが出来た。レッドビュートという割に鞭は白い……これで【黎明】で武器が心許ないのはエリーだけだ。
夜まで4層のオーガたちをひたすら討伐した。安全地帯に戻り明日に備えた。










