第153話 ブライアント家
2031年1月4日 23時
ようやくアルメリアが見える場所まで辿り着いた。西リムルガルドからアルメリアまでこんなに早く着いた者はこれまでいないだろう。
「ようやく着いたな!」
アイクが興奮気味に言うと俺も
「ええ。やっとクラリスとエリーに会えます!」
無意識に本心が出てしまった。
「マルス。よっぽど2人が好きなんだな」
ジークが笑いながら俺に言ってきて、少し恥ずかしかったが仕方ない。
「初めてこんな長い時間離れ離れになってしまいましたからね。どれだけあの2人が僕にとって大切か痛いくらいわかりました」
開き直るとジークが申し訳なさそうに
「すまないな……俺のせいで……だが本当にお前たちが西リムルガルドを通ってくれて助かった。5人が来ていなかったらどうなっていたか分からないからな」
まぁ確かに……1つ懸念点があるとすれば俺たちがほとんどデスナイト達を倒してしまったので、他の冒険者たちのレベルは上がっていない事くらいか。
西リムルガルドの街の安全の方がはるかに重要だろうからそんなに気にするような事でもないだろうが……
アルメリアの街の中に足を踏み入れるととても懐かしい感じがした。まだアルメリアを出てから1年しか経っていないのに……
「少し街の様子が変わりましたか? こんなに建物やお店がありましたっけ?」
俺が疑問に思ったことをジークに聞くと
「そうだな。徐々にだがイルグシア迷宮を卒業した冒険者たちが、このアルメリアに移り住んでいるんだ。あと何年かすればこの町にも新たなB級冒険者が誕生すると思うぞ! それに将来有望な冒険者がこの街から輩出されるかもしれないという事で、綺麗どころの女性たちも続々とこの街に集まっているんだ。もしかしたらアルメリアはバルクス王国でも有数の都市になる可能性もある!」
嬉しそうにジークが答えた。確かにまだ営業をしている女性が接待をしてくれる店が何店かあった。まだ店の灯りはついているので営業しているのだろう。
だがそんな店の事はどうでもいい。今はとにかく帰宅することが最優先だ。急いで屋敷の前まで行くと屋敷の中の灯りは消えていたが、屋敷の周辺はかなり明るく警備している者たちがいた。
俺たちがアルメリアを出るまでは警備している人なんていなかったのに……なんか本当に上級貴族になったんだなぁって気がした。
警備の者たちがジークの姿を確認すると敬礼しながら「お帰りなさいませ! ジーク様!」と言い、俺とアイクの事を視認すると「アイク様、マルス様もおかえりなさいませ!」としっかり敬礼してくれた。
偉くなった気分だが慣れてないから恥ずかしい。俺たちが屋敷に入ると黒い2つの影が俺を襲う。
「「おかえり! マルス!」」
クラリスとエリーがジークとアイクには目もくれず俺にダイブしてきた。2人とも俺のワイシャツを着ていて下はショートパンツ姿だった。
俺は2人をしっかり受け止めてから抱きしめ
「ただいま。2人に会いたかった」
俺の声は歓喜のあまり涙声になっていた。なんか俺って涙もろいのかもしれない。
「クラリス、エーデはどうしている?」
アイクがクラリスに聞くと
「あっ、お義父様、お義兄さん。おかえりなさい。お義姉さんはMP枯渇して寝ていると思います。そういう私もMP枯渇して寝ていたのですが、エリーが「マルスが帰ってきた」と言ってさっき叩き起こされたばかりで……起こしてくるので荷物の整理とかしておいてください」
クラリスが部屋に戻ろうとしたが、エリーはずっと俺にくっついたままだったのが、エリーだけずるいという事でエリーも強制的に眼鏡っ子先輩を起こしに連れていかれた。
「ありがとうクラリス。俺は風呂に入るから急がなくてもいい」
アイクがクラリスにそう言うと俺も一緒に風呂に入る事にした。するとジークもついて来て男3人で風呂に入った。
急いで風呂に入ってすぐに2人に会いたいがしっかり洗わないと嫌われてしまうかもしれないから、はやる気持ちを抑えていつも以上に念入りに体を洗った。
風呂を上がりリビングに行くと眼鏡っ子先輩だけではなく、マリアも起きていた。美女たちがそれぞれの愛する男性の元に駆け寄り、愛を囁きあっているとジークが
「本当はみんなでいろいろ話したいことがあるが今日はもう寝るとしよう」
みんなジークの言葉に賛成のようで自室に戻っていく。まぁ愛する者と早く濃密な時間を過ごしたいよな。
俺とクラリスとエリーも一緒の部屋に戻ると早速ベッドに入り、お互いが居なかった1ヶ月間を語りあう事にした。
……がここで思わぬ出来事が。エリーがすぐに寝てしまったのだ。その様子を見たクラリスが
「エリーは寝かせてあげて。マルスが居ない間、ほとんどエリーは寝ていないの。とても眠いんだけど寝られないんだって。どうして寝られないのかエリー自身も悩んでいたんだけど……やっぱり原因はマルスが居ない事だったみたいね……」
エリーの顔をよく見ると少しクマが出来ていた。ずっと一緒に居たから気づかなかったけどかなり依存されていたのか……
そのあともアルメリアでの出来事をたくさん聞いた。眼鏡っ子先輩に神聖魔法が使えるという事をバラしたらしい。
どうやらアルメリア迷宮で眼鏡っ子先輩はかなり苦戦をしており、すぐに疲れてへばってしまうからヒールをかけて無理矢理戦闘に参加させたらしい。
どこかで聞いた話だがまぁいいだろう。やはり眼鏡っ子先輩を連れて迷宮に入ると怖いらしく、2層までしか潜れていないとの事だ。
そしてマリアからリーナが神聖魔法が使えることも聞いたとの事だ。これはクラリスだけが聞いたようだ。が別にエリーや眼鏡っ子先輩に対して隠すという事ではないらしい。
順番的にアイクよりも先に耳に入れたくないと思ったらしいのだが、クラリスは神聖魔法使いだから、誰もいなくて時間があるときにこっそりリーナに神聖魔法を教えてほしいと言われたようだ。
その他にも黒い三狼星がかなり強くなっている話やこの町の冒険者の話もいっぱい聞いた。
そして最後にカインの事。カインはどうやらエリーが好きなようだ。エリーが好きというのもあるのだろうが、エリーの大きいおっぱいが好きらしい。
エリーを見るとカインはエリーのおっぱいを見てにちゃーっとした顔をして抱きつこうとするらしいのだ。カインめ……いくら弟とはいえ、まだ俺も堪能していないのに……
だがそこは流石エリーだった。最近は「それはマルスお兄ちゃんの!」と言って一切触らせないらしい。その度にカインは泣きじゃくるのだがエリーはお構いなしという。
ずっとクラリスが話をしていて俺はずっと相槌を打っていた。本当は俺のことも話したかったのだが、今はずっとクラリスの話を聞いていた。なぜならもっともっとクラリスの声を聴いていたかったからだ。
だが長旅の疲れと家に着いた安心感、そしてクラリスとエリーの体温を感じているとだんだんと眠くなってきてしまった。
俺はクラリスとエリーに抱きしめられながら、いつの間にか寝てしまっていた。
2031年1月5日
「……きて……起きて……マルス……もうお昼よ」
最高の声で目を覚ますと目を開けたらもっと最高の光景が広がっていた。俺のブカブカのワイシャツを着て前かがみでクラリスが俺をおこしていたので、ワイシャツの中が丸見えだった。
俺の視線をクラリスが追うとどこを見ていたのか気づいたようで胸元を隠した。
「もう……相変わらずなんだから! 早く起きて! みんなでご飯食べようだって」
「分かった。今起きるよ……」
俺は完全には目が覚めていなかった。もし完全に目が覚めていたらこの状態で起きたりはしなかった……俺が布団から出るとクラリスはすぐに手で目を覆った。
……がいつものように手の間から見ているのが分かる。クラリスの視線の先は下の方……俺の下半身だった……俺がクラリスの視線を追うと立派になった相棒が、まるで俺はここにいるぞ! と言わんばかりの存在感を示している。
「ご……ごめん! すぐに風呂入ってくるから!」
俺は気まずくなってすぐに風呂に入った。さっぱりした後にすぐに風呂に入り湯船で目を閉じるとさっきの光景が目に浮かぶ。やばい相棒がまた元気になってきた……1か月振りのクラリスとエリーで俺も相棒も喜んでいるのだ。
風呂から上がり俺はまた寝室に戻った。どうせエリーがまだ寝ていると思ったのだ。案の定寝ていたのでエリーにキスをすると、すぐにエリーは目を覚まし俺に抱き着いてきたので、エリーをお姫様抱っこしてから降ろした。
「エリー。おはよう。着替えてみんなでご飯を食べよう。さすがに今のエリーの姿をみんなに見せたくない」
エリーも完全にワイシャツの前が開けており、ブラが見えている。エリーは返事をせずにこくんと頷くとなんと俺の目の前で脱ぎ始めた。
「エ、エリー! ちょっと待った! 部屋から出るから着替え終わったら言ってくれ!」
俺は慌てて部屋から出て部屋の前で待つことにした。上下とも黄色だった……相棒が何勝手に部屋から出てやがると、下から俺をアッパーするようにイキり立っていた。
エリーはもう起きてしまったから自家発電はできない。賢者様の手を借りなければ……エリーが部屋から出ると同時に俺が部屋に入り賢者様と手を繋ぐとやっと落ち着いた。
エリーと一緒にリビングに行くともう既にみんなはご飯を食べていた。
「おはようございます」
俺がみんなに言うとみんなが「おはよう」と返してきた。ここに居るのは全員で9人。父ジーク、母マリア、兄アイク、アイクの婚約者のエーディンこと眼鏡っ子先輩、俺と俺の婚約者のクラリスとエリー、妹のリーナに去年生まれたばかりの弟のカインだ。
クラリスの隣が空いていたので俺がそこに座ると俺の隣にエリーが座った。
みんなでご飯を食べている中ジークが声を上げた。
「みんな聞いてほしいことがある。まずは改めてアイクとエーディン、今まで悪かった。時間が出来たら俺がメサリウス卿に会いに行こうと思う。その時はアイクも一緒に来るんだぞ」
「はい。分かりました父上」
ジークの言葉にアイクが嬉しそうに返事をした。両家の顔合わせか……俺やリーナ、カインを呼ばないのは恐らくキザールの件があるからだろう。
俺たちが行ってキザールが居ないのはおかしいが、俺たちが行かなければキザールが居なくても不思議ではない……
「次にマルス、クラリス、エリーの3名はアルメリア迷宮の魔物の間引きをお願いしたい。安全地帯で泊るときは事前に知らせておくように。また魔石は2層の最終フロアに置いておいてくれ。黒い三狼星が回収しにいくからな。アイクとエーディンは任せる。あまり2人の時間が取れていないのであればここでゆっくりするのもいいだろう」
ジークの言葉に俺たち5人が頷く。
「そして俺はしばらくしたら王都に向かう。女性陣は知らないと思うが西リムルガルドでマルスが脅威度Aの不浄王を倒した。その魔石をバルクス王に渡し、西リムルガルドが魔物の襲撃を受けなくなったことを伝えに行く」
女性陣がみんな驚いた顔をして俺を見る。エリーはとても嬉しそうに俺に抱き着いた。それを見たクラリスも俺にすり寄ってきた。いい匂いがする……幸せだ。がその光景を見て人物が反応した。
まずはリーナだ。クラリスとエリーを押しのけて俺の膝にどっしりと座る。
「マルスお兄ちゃんはリーナの!」
俺の右隣にはクラリス、俺の膝の上にはリーナ、左側にはエリー。今度はこの光景を見てカインが大泣きし始めた。なぜかカインが泣いている理由が俺には分かった。あいつだけずるい。3人に囲まれて……と言っている。
悪いな、カイン。リーナはともかくクラリスとエリーを含めた婚約者全員譲るつもりは無い。
クラリスとエリーの感触と匂いをゆっくり楽しみながら食事を済ませてから、大泣きする弟を置き部屋に戻った。
もしかしたら書いてなかったかもしれないですが
この世界は1か月30日の年360日です。










