第151話 3K
「アイク兄! 後ろ!」
俺は吐きそうになりながら叫ぶとアイクはすぐに察知してくれた。
【名前】-
【称号】-
【種族】不浄王
【脅威】A
【状態】良好
【年齢】3歳
【レベル】42
【HP】529/529
【MP】201/231
【筋力】78
【敏捷】60
【魔力】142
【器用】5
【耐久】342
【運】1
【特殊能力】HP回復促進(Lv5/C)
【詳細】神聖魔法にとても弱い
レベルが異常に高いな……恐らくここら辺のB級冒険者たちを倒しまくったのだろう……そして何よりこの極端なステータス。
まずHPと耐久値がとんでもない事になっている。魔力も高いのだが……特殊能力に魔法がない……恐らくこの黒い霧がMPを消費するのだろう。
俺がさっき霧を晴らすのは無駄ではなかったのかもしれない。再戦する際はこの臭い霧を晴らしてから戦う事にしよう。
「どうする? マルス? 戦うか?」
「魔法を少し当ててみましょう。この感じだとスザク様の言う様に無駄な気がしますが……」
俺が最大火力のウィンドカッターを放つと不浄王のドロドロした体に少しの跡を残してもとの形に戻ってしまった。
与えたダメージは5……すぐにHP回復促進で回復されてしまう。確かにこれでは何度やっても無駄だな……アイクのフレアは全くダメージが通っていなかった。
不浄王の攻撃も厄介だった。まずは口から黒い唾を吐いてくる。かなり速いスピードで飛んできて躱すのも結構苦労する。
唾を躱すと地面に付着するのだが案の定地面から『プシュー』という音が聞こえてくる。これも溶解液系かと思っていると
なんとその音と強烈な臭いと共にデスナイトが地面から湧いて出てきた。もしかしてデスナイトは不浄王の唾だったのか……俺は今までなんという物を斬ってきたんだ……
それだけではない。今度は不浄王が体を揺さぶると黒く小さい泥のようなものが飛んでくる。こっちはかなりの量が飛んでくるので、必死に風魔法で防ぎ泥が地面に付着すると、先ほど唾が地面に付着した時のように『プシュー』という音を立てながらデスアーミーとデスハウンドが湧いてできた。かなりの量が飛んできている分デスアーミーとデスハウンドの数も多かった。
「アイク兄! これは無理です! しっかり準備してからまた来ましょう!」
とにかく匂いがきつい……目からは涙が止まらない。アイクも同じようで俺たちは不浄王から逃げることにした。不浄王自体は俺たちを追ってはいるのだがスザクが言う様に不浄王の動き自体はとても遅かった。
なんとか不浄王から逃げ切った俺たちは黒い霧から離れていても、俺とアイクはまだ嘔吐いていた……これはトラウマになる……だがヒールとキュアを唱えると少しは気分が楽になる事が分かった。
ようやく西リムルガルドに到着すると見張りの冒険者達から凄く嫌な顔をされた。やはり臭いのだろう……いつもは俺たちが帰ると冒険者たちが寄ってくるのだが今日はそれが一切なかった。
屋敷に戻るとジークが居て臭いからすぐに風呂に入れと言われた。こっちだってもとよりそのつもりだ。結局1時間風呂に入り、風呂に入りながら何度も着ていた服や装備の洗濯、手入れをした。
風呂から上がりジークに匂いチェックをしてもらうと、まだ少し残っているがもうそこまでではないと言われた。後でもう一回風呂に入ろう……
風呂から出て3人でご飯を食べて今日の出来事を話した。もちろん不浄王の事を今は話さない。思い出してご飯をリバースしてしまうからね。アイクも同様に不浄王の話題を避けていた。ジークからはなんでこんなに臭くなったんだと聞かれたが、後でちゃんと話すと言って回避した。
「お父様。今日フレスバルド侯爵、つまりカレンの兄と初めて会いました。スザク様のステータスを見ましたが、さすがA級冒険者ですね。それに【朱雀】のメンバーも相当強かったです」
「なぜ……? リスター連合国の冒険者が……? しかもフレスバルド公爵の嫡男で侯爵のスザク……様が?」
「どうやらバルクス王国はリスター連合国にも増援のクエストを出したようです。スザク様が言うには条件付きと言っておられましたが……」
「そうか……良かった……ようやく王族も重い腰を上げたか……」
食事も食べ終わり落ち着いて来たので俺たちはジークに不浄王の事を話した。スザクは不浄王の事を知っていたようだがジークは知らなかったらしい。
「やはりリスター連合国の情報収集能力は凄いな……自国の上級貴族の俺ですら知らなかった事なのに……」
リスター連合国とバルクス王国では情報戦でも冒険者の質でもリスター連合国に軍配が上がるらしい。そしてジークにホーリーの事を聞いたのだが名前すら聞いたことが無いという。まぁそうだよな……
その後しばらく話した後また風呂に入り、ベッドに戻った。最近寝るときはクラリスとエリーからもらったハンカチを隣に置いて寝ている。ほのかにそれぞれハンカチからいい匂いが漂ってくる。最高のアロマを嗅ぎながらMPを枯渇させてから寝た。
翌日から俺はデスナイトやデスアーミー相手に必死にホーリーの練習をしていた。なんとなくイメージは湧く……下から地面から筒状の魔法陣が出てきて空中まで白い柱が立つ感じ……だがいくらそのイメージでホーリーと唱えても発現する事は無かった。
2030年12月21日
今日も必死にホーリーの練習。少しイメージを変えて神聖なものを思いながらホーリーを唱えてみた。このやり方があっているのかは分からない。少なくとも雷魔法ではこのやり方では発現しなかった。だけど何もイメージをしないでガムシャラにやるよりかはマシだと思った。
まず一番神聖だと俺が思うもの。それは亜神様だ。多分亜神様より神聖なものはないと思う。神聖や荘厳をイメージしながらホーリーと唱えたが無理だった。
あとほかに神聖だと思うものは……動物たちだ。狐って確か神聖な動物だった気がする。あと狛犬も神聖な気がする。しかし狐や狛犬ではホーリーは発現しなかった。
無理もない。狐は何となくわかるが狛犬って石像でしか見た事ないし、イメージしろと言われても……
結局今日もホーリーは発現しなかった。あと少し気になることがあった。デスナイトやデスアーミー達が2度も襲撃してきたのだ。
幸い俺らが街の外でトレーニングしているときに来たので何も被害はない……俺とアイクのいい経験値になっただけだが……だが昨日結構やっつけたのに2度も襲撃がくるなんて……
2030年12月22日
やはり今日もホーリーは発現しなかった。
そして今日もデスナイトや、デスアーミーの集団が2度も襲ってきた。これはおかしいと思い俺とアイクでリムルガルド方面に歩いてみると、なんと1時間くらい歩いた先に黒い霧がかかっていた。
間違いない。これはどんどん近づいてきている。下手すれば明日、明後日にも西リムルガルドに黒い霧がかかってしまう。何とかしなければ……
街に戻りジークに報告するとジークは街の住民にいつでも避難できるように準備しておけと伝達した。
こんな直接的に言うと住民たちがパニックを起こすと思ったが、そうでもなかった。むしろ住民たちは落ち着いていた。
覚悟はしていたのかもしれないが、それ以上にジークの事を信用しているように見える。一刻も早くホーリーを扱えるようにしなければ……
2030年12月23日
斥候をしている冒険者の所から30分くらいの所に黒い霧が迫っている。この分だと明日の朝までにはここまで到着してしまう。そして夜には街の近くまできてしまう……
俺はホーリーが発現しない焦りからイライラするようになってきた。気持ちばかりが焦って何も進展しない……デスナイト達ももう纏まって攻めてくることはなく、出現したらもうそのまま西リムルガルドに来るようになっていた。
なぜ不浄王はずっと一定の場所に居たのが急に西リムルガルドにきたのだろうか? もしかしたら俺たちが戦ったのが原因か? 結局俺たちは夜までデスナイト達を倒し続けた。ホーリーは覚えられなかったが、レベルは上がった。
【名前】マルス・ブライアント
【称号】雷神/風王/聖者/ゴブリン虐殺者
【身分】人族・ブライアント伯爵家次男
【状態】良好
【年齢】10歳
【レベル】38
【HP】92/92
【MP】8000/8000
【筋力】88
【敏捷】89
【魔力】108
【器用】86
【耐久】80
【運】30
【固有能力】天賦(LvMAX)
【固有能力】天眼(Lv10)
【固有能力】雷魔法(Lv8/S)
【特殊能力】剣術(Lv9/A)
【特殊能力】火魔法(Lv4/E)
【特殊能力】水魔法(Lv5/D)
【特殊能力】土魔法(Lv5/D)
【特殊能力】風魔法(Lv9/A)
【特殊能力】神聖魔法(Lv7/B)
【装備】雷鳴剣
【装備】火精霊の剣
【装備】偽装の腕輪
ステータスがオール80以上になりMPも8000になった。末広がり……これは絶対にいいことあるはず!
そう自分に言い聞かせてひたすらホーリーを唱えたが、やはり今日もホーリーを発現させることは出来なかった。もしかしたらホーリーなんて魔法は無いのかもしれない……
2030年12月24日 6時
ついに街の見張り台から黒い霧を認識できるようになってしまった。街を覆うのは時間の問題だろう。冒険者たちが街の住民を先導して避難を始めた。
俺とアイクは黒い霧を目指して外に出るとすでにかなりの魔物が黒い霧の周辺に集まっていた。一気にこの街を叩こうという算段か……
俺はファイアストームで魔物たちを倒すのと同時に黒い霧を晴らし始めた。
霧を晴らすとすぐにまた黒い霧がかかるが間違いなく不浄王のMPの方が先に無くなるはずなのでずっと霧を晴らし続けた。
やはり俺の予想は正しかったようで黒い霧は完全に霧散した。そして霧が晴れるとともに不浄王が姿を現す。黒い霧の匂いがマシになった分、この前よりは大分楽に戦えるし今日は鼻栓をしている。
1つ試したいことがあった。
もしかしたら雷魔法で足止め……感電させることが出来るかもしれないと思ったのだ。
「アイク兄! 少し離れてください! 雷魔法を使います!」
アイクはすぐに不浄王から離れた。不浄王はアイクの事は眼中にないらしい。ずっと不浄王のヘイトは俺に向いていた。
「ライトニング!」
俺の手から金色の雷が不浄王に放たれると予想外のことが起こった。不浄王が雷を吸収してより一層大きくなったのだ……ダメージも全く通っていない……むしろ元気になっている気がする。そして状態異常にもなっていない……なんてこった……俺の雷魔法がこうもあっさり……
しかし雷魔法が通じないという最悪な情報と共にいい情報も手に入った。それはどうやら不浄王は俺を追ってここまで来ているようだ。
その証拠に俺は今リムルガルド城下町を背に不浄王と戦っているが、不浄王はずっと俺を追うようにして移動してきている。だからどんどん西リムルガルドから離れているのだ。
もしかして俺は不浄王に惚れられたのか……? 不浄王の中身は女性という事はないよな……
日本では今日はクリスマスイブだというのに、俺は今なんて奴に付きまとわれているのだろう。
不浄王はひたすら俺に好意を向けているのか唾と泥を飛ばしてくる。こんなクリスマスイブは嫌だ……クラリスと一緒に過ごしたかったのに!
「ホーリー!」
俺は怒りを発散させるかのように叫ぶと、不浄王がいる地面に白い魔法陣が浮かび上がった。
このタイトルの3Kは臭い、汚い、気持ち悪いです。
不快に思われたらごめんないさい。
 










