第150話 スザクと朱雀
2030年12月20日
あと10日でこの西リムルガルドから出発できる。
この2週間で【氷帝】と【明星】を含めてどうやら4つのAランクパーティがリムルガルドに向かったっぽい。
向かったっぽいというのは全てこの街の周辺を見張っている斥候の人たちが教えてくれたのだ。
11月、12月にA級冒険者の入れ替え戦や昇格試験があり、勝ち残った者の一部がリムルガルドに来ているらしいのだ。
A級冒険者には明確な順位があるらしい。A級の下位20%、つまり80位まではB級冒険者から入れ替え戦の申し込みを受けないといけない決まりがあるとの事だ。
Aランクパーティがリムルガルドに行った直後は魔物の出現がなかったが、Aランクパーティが通り過ぎた2日後くらいにはまた西リムルガルドを魔物が襲うという事が続いた。
恐らくリムルガルドの魔物を相手にするので精一杯でこっちになかなか気が回らないのであろう……
そのおかげでアイクはかなりパワーアップしたのだが。
【名前】アイク・ブライアント
【称号】-
【身分】人族・ブライアント伯爵家嫡男
【状態】良好
【年齢】13歳
【レベル】32
【HP】91/91
【MP】1123/1123
【筋力】71
【敏捷】61
【魔力】40
【器用】41
【耐久】65
【運】10
【特殊能力】剣術(Lv6/C)
【特殊能力】槍術(Lv8/B)
【特殊能力】火魔法(Lv6/C)
【特殊能力】風魔法(Lv2/G)
【装備】火精霊の槍
【装備】火幻獣の鎧
【装備】火の腕輪
【装備】守護の指輪
少なくともレベル42のラックよりかは強い。
アイクも久しぶりにこの短期間でかなりレベルアップできたことに満足しているようだ。
俺? 残念ながらレベルは上がらなかった。デスナイトを中心に倒していたのだが……
今日もアイクと街の外でトレーニングをしていると、北の方から6人こちらに向かってくる者たちがいた。いつもは西からこちらに向かってくるのだが今回は北だ。リスター連合国から来たのか?
北から向かってきたパーティも俺とアイクに気づき全員で俺たちの所にやってきた。
「もしかしたら君はマルスかい? そっちは間違いなくアイクだね」
集団の中の1人が俺たちに話しかける。アイクの事はすでに知っているらしい。そして俺の事も顔は知らなくても名前は知っている……
「はい……そうですけれども……申し訳ございませんがどなたでしょうか?」
アイクが真紅の髪の男に言った。アイクもこの男を知らないらしい。この人の髪の毛の色……そして顔立ち……もしかして……
「あーごめん。まさかこんなところで会えると思えなくてな。俺の名はスザク・リオネル。リスター帝国学校のカレンの兄だ。君たちの事は父やレッカから聞いているよ。マルス君はレッカに勝ったらしいじゃないか。さすが父上に認められるだけの事はある」
やっぱり! フレスバルド公爵に似ていると思った。
「は、初めまして! アイク・ブライアントです!」
緊張した面持ちでアイクが挨拶したので俺も続いた。
「初めまして。マルス・ブライアントです。どうしてスザク様がこのような場所に居られるのですか?」
「バルクス王国から直接依頼があってな。ある条件と引き換えにリムルガルドにAランクパーティを派遣することになったのだ。俺もずっと平和なフレスバルド領に引きこもっているのは性に合わないんでちょうどよかった」
色々ちょっかいをかけていた相手に援軍を頼むなんてよほどバルクス王国の王族は面の皮が厚いのだな。
「お願いがあります。スザク様を鑑定してもよろしいですか? あと帰りは自力で帰りますのでリムルガルドの近くまでご一緒してもよろしいでしょうか?」
「鑑定? 君は魔眼持ちなのかい? 答えはどちらもYESだ。話しながらリムルガルドに行こう」
スザクの言葉にお礼を言い、早速鑑定した。
【名前】スザク・リオネル
【称号】火王
【身分】人族・フレスバルド侯爵家当主
【状態】良好
【年齢】25
【レベル】55
【HP】152/152
【MP】588/588
【筋力】82
【敏捷】90
【魔力】132
【器用】120
【耐久】72
【運】1
【特殊能力】短剣術(Lv8/C)
【特殊能力】火魔法(Lv10/A)
【特殊能力】土魔法(Lv5/D)
【装備】ミリオンダガー
【装備】朱雀の法衣
【装備】火の腕輪
【装備】守護の指輪
正直ガスターよりもステータスが高い。魔力132は俺が見た中で最高の値だ。火魔法の才能がAでレベルも10だ。そして器用も高い……この人はどういう攻撃をするのだろうか? そういえばA級冒険者で順位とかあるって聞いたな。
「スザク様はA級冒険者何位なのですか?」
「67位だ。俺は80位以内であれば何位でもいいと思っているからな。まぁ10位以内に入れるのであれば狙いたいがさすがにまだ無理だな。あと5年くらいしたら挑戦しようとは思う」
このステータスで67位か……そしてスザクと一緒にいるメンバーもかなり強い。少なくとも昨日のラックよりは1人を除いて強かった。全員魔法使いよりだがしっかり物理攻撃もできるようなステータスだった。だが神聖魔法使いだけはレベルだけは高いがステータスは低かった。パワーレベリングばっかりやっていたのであろう……
「スザク様のパーティは全員魔法使い系なのですか? 前衛とかはいないのですか?」
俺が気になったことを聞くとスザクは
「そうだな。Aランクパーティ【朱雀】には前衛はいない。朱雀騎士団にはいるのだがな」
こういう振り切ったパーティもあるんだな……まぁ魔法使いよりと言うだけで筋力や敏捷がそこまで低いという訳ではない。
リムルガルドに向かいながら話をしているとデスナイトを含めた100体前後の魔物がこちらに向かってきていた。どうやらこのままこいつらは西リムルガルドを襲撃するつもりか?
「アイク君。マルス君。援護してもらっていいかな? ここであまりMPを消耗したくないのでね」
多分スザクが戦えば短剣だけで余裕で倒せる相手だろう。俺たちの実力を見てみたいという事か……アイクもそれに気づいたのかもしれない。
「わかりましたスザク様。この敵は僕たちだけで倒しますのでご覧になってくれますか? もしよければ戦闘を見て頂いた後にアドバイスなど頂ければと思うのですが……」
「ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうよ」
いつものように俺がデスナイト、アイクがそれ以外と言う感じで魔物達を倒すとスザクはあまり驚かなかったが他のメンバーは驚いていた。
「さすがだな。噂以上かもしれない。その年で脅威度Bクラスの魔物を余裕で倒すとは。本気で戦っていないのにアドバイスも何もないね」
スザクが笑いながら俺たちに話してくれた。その後も散発的に魔物と遭遇したが全て俺とアイクで倒していく。
もうそろそろ昼になるくらいという時間で俺たちはリムルガルドの城下町を目に捉えることができる位置まできた。
なんだ……ここは……4年前と全く違う……黒い霧がかかっている。ここを通らないとリムルガルド城下町までは行けないが……
「聞いていた通りだ……これは流石にやっかいだな……だから他の奴らも討伐できないのか……」
スザクが【朱雀】のメンバーと何やら話をしている。そして俺とアイク2人に
「君たち2人はもうここから戻ったほうがいい。ここには脅威度Aの不浄王という魔物が出現する。もしかしたら脅威度Sの魔物より厄介かもしれない。こいつを倒す手段は俺たちにはない。というか他のパーティにも無いと思う。
不浄王を倒さない限りデスナイト達が無限に湧いて出てくるだろう。まぁ死の森の簡易版と考えておけばいいのかもしれない。俺たちはここを一気に駆け抜けてリムルガルド城下町まで行く」
脅威度Sより厄介? そして不浄王というネーミング……聞いただけでも不快だな……
「不浄王を倒すにはどうすればいいのですか?」
俺がスザクに聞くとスザクは少し怖い顔をして
「基本的に物理攻撃と魔法攻撃はあまり効かない。多少のダメージを与えることは出来るかもしれないがすぐに回復してしまう。それに物理攻撃をすると攻撃した装備品が腐ったりするから間違ってもお前たちの剣や槍では攻撃しないほうがいいだろう。
俺のミリオンダガーであれば問題はないのだが……倒すなら神聖魔法で倒すしかない。うちのパーティにも神聖魔法使いはいるが、さすがにホーリーを覚えるような聖女、聖者にはなれないだろう……」
あれ? 聖者の俺ならホーリーっていう魔法使えるの?
「ホーリーってどういう魔法なのですか?」
「俺も実際見たことは無いから詳しいことはしらない。唯一の神聖魔法の攻撃魔法と言われているが……もしかしたら眉唾物かもしれん。とにかく不浄王に出くわしたら逃げることだな。攻撃は速いが不浄王自体の動きは遅いからお前たち2人なら逃げ切れるだろう。
不浄王の周りには勝手にデスナイト達が湧いて出てくるから本当はレベル上げにはいいんだが、攻撃を受けると毒や麻痺などの状態異常になるから気をつけろよ。じゃあ俺たちはもう行くから。忠告はしたからな」
そう言って【朱雀】のメンバーは黒い霧の中を走りリムルガルド城下町の方まで走っていった。
「マルス。お前もしかして聖者の称号持っているのか?」
アイクが俺に聞いてきたので俺は頷いた。
「不浄王……倒したいですね。そうすればB級冒険者の西リムルガルドの招集命令が無くなりそうですし……」
スザクはこの黒い霧を見て不浄王が居ると確信したっぽい……恐らくこの黒い霧のどこかに不浄王がいるのだろう……
「とりあえず……不浄王を見るだけ見てみるか……スザク様が言うには逃げられると言っていたしな」
アイクも俺と同じ意見のようだ。俺たちは黒い霧が濃い方へ警戒しながら歩いて行く。
黒い霧に入る前からうすうす気づいていたのだがこの霧は臭い……黒い霧が濃い方に進むと匂いがきつくなってきた。
く、臭い……これは不浄王と戦う前に心が折れそうだ……俺は索敵魔法のサーチ、魔力眼、未来視をフルに使っている。いつ何が起きてもいいようにだ。
だが恐らくサーチは意味が無いと思われる。この黒い霧の中に不浄王がいるのであれば絶対にもう索敵できているはずだ。風魔法で霧を晴らそうにもすぐに霧がかかってしまう。
2、3分歩くと黒い霧の中心付近に辿り着いた……が俺にはもう我慢できなかった。
「アイク兄! いったん戻りましょう! 匂い対策しないとこれは無理です……おぇぇぇ」
俺は嘔吐きながらアイクに話しかけるとアイクも同じように嘔吐いていた。アイクは涙目になりながら俺の言葉に頷くと俺の前にいたアイクが踵を返した。そしてその瞬間アイクの後ろに黒いドロドロとした人型の魔物が地面から湧いてきた。
不浄王・・・執筆していても気持ち悪い・・・
 










