表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
150/532

第149話 都忘れ

 

 今俺はクラリスとエリーに挟まれて寝ている。いつものように俺の右がクラリス、左がエリーだ。


 イザーク辺境伯領の砦でも同じように寝ていたが、あの時と違う事が1つある。それはクラリスとエリーの服装だ。


 俺と離れ離れになってしまうから2人は俺の物が欲しいと言ってきたので、当然俺はOKしたのだが、2人は俺のワイシャツを選んだ。


 しっかり洗っているのだが俺の匂いがするらしい……そして2人はそのワイシャツを着て俺が寝ているベッドに入ってくると、「もっとマルス成分を」と言って抱きついてきた。


 美女がブカブカのワイシャツにショートパンツ姿……い、いかん……賢者の杖(偽)の出番だ……


 俺も2人の私物が欲しかったがそれを2人に伝えることはしなかった。エリーは俺の隣で寝るといつもすぐに寝てしまう。のび太君とまではいかないだろうが、1分はかからない。そしていつまでも寝ている。起こさない限りずっと寝ている……


 クラリスも眠そうにしているが必死になって起きている。いつもはまだ起きている時間だろうがやはりベッドに入ると眠くなるものだ。


「マルスがグランザムに来てから初めて離れ離れになっちゃうね……」


 クラリスがボソッと俺に囁いた。


「ああ……ごめんな。ブライアント家の事情で……俺としても2人とは離れたくない……だから1月になったらすぐにそっちに向かうよ」


 俺がクラリスに言うとクラリスが


「私はまだいいのかもね……エリーがいるから……私だけ1人だったらもしかしたら嫌だと言っていたかもしれない……私はマルスと離れるのも嫌だけどエリーとも離れるのも嫌なの。いつの間にかエリーは私にとっても大切な存在なのよね……」


 この言葉はとても嬉しかった。エリーがクラリスの事を慕っているのは知っている。エリーの呪いを解いたのはクラリスだしね。


 クラリスがエリーを嫌いとは思ってはいない事は分かっていたが、どう思っているのかは少し気になっていたのだ。


 この話を聞いていたのか分からないが、俺の左腕を抱きしめる力が強くなった気がする。その後も少しクラリスと話しているといつの間にか俺も寝てしまった。



2030年12月6日 5時


 少し早めに起きて2人の寝顔を見ようとすると予想外のことが起きていた。2人は昨日俺のブカブカなワイシャツを着て寝ていた。そしてそのブカブカのワイシャツが開けていたのだ。下着をつけているとはいえ、早起きは三文の徳という言葉は本当だったようだ。


 絶景を眺めているとクラリスが起きてしまった。


「おはよう」


 俺が言うとクラリスは俺にキスをしてから


「おはよう」


 と応えてくれた。


 俺はエリーにキスをするとすぐにエリーも目覚めて、いつものように俺の首に顔を埋めてきた。


 今日は8時に出発するから色々先に済ませておかないといけない。もっとゆっくり3人で過ごしたかったがすぐに支度を整えて、リビングに向かった。朝早いというのにもうジークとバンは起きていた。


 アイクと眼鏡っ子先輩は起きてこないので俺たち5人は先にご飯を食べ終えた。


 ジークとバンは街の様子を見回りに行って俺とクラリス、エリーの3人でリビングで寛いでいるとアイクと眼鏡っ子先輩が起きてきた。


 眼鏡っ子先輩の顔はスッキリしていたがアイクの顔はあまり冴えていなかった。


「どうしたんですか? 昨日の夜何かあったんですか?」


 小声でアイクに聞いてみた。アイクと眼鏡っ子先輩は今回が初めて一緒の部屋で寝た可能性がある。若い2人が夜一緒の部屋に寝ていて何かないという事がおかしい。


「……エーデが部屋に入ったらすぐに爆睡でな……マルスのスパルタ指導と父上と会って緊張した疲れが一気に出たようだ」


 どうやら昨日は何もなかったらしい……今度アイクに賢者の杖(偽)を貸してあげよう。


 8時になり女性陣の旅の支度が出来たので、俺、アイク、クラリス、エリー、眼鏡っ子先輩、そしてバンの6人で西リムルガルドを出発した。


 俺とアイクは西リムルガルドから30分くらいの所まで同行し、周囲の安全を確認してから4人と別れることにしたのだ。


 馬車を30分ほど走らせ、周囲に魔物の気配もなく比較的安全と判断したので、馬車から降りてクラリス、エリーと熱い抱擁をした。


「マルス。戻ってきたら5人目も一緒とかやめてね」


 クラリスが冗談っぽく俺に言ってきた。エリーは何も言わずにただ俺の首筋に顔を埋めている。俺はクラリスの言葉に黙って頷いた。何か話すと涙声になっているのがバレてしまうからだ。


 もう出発という時にクラリスが俺の手に何か布のような物を握らせた。エリーも俺の反対の手に同じく布のような物を握らせた。


「もしも寂しくなったらそれを私たちだと思ってね」


 クラリスは一生懸命涙を堪えているようだったが、それは叶わなかったようだ。頬に涙が零れ落ちる。エリーは少し前から泣いているようで何も言わずに手だけ振って馬車に乗り込み、クラリスも後に続いた。


 クラリスが馬車に乗ると、アイクと抱き合っていた眼鏡っ子先輩もバンの隣の馬に乗り、馬車は俺たちから離れていった。


 結局俺はクラリスとエリーにしっかりとした別れの言葉を言わなかった。なんか別れの言葉を言うとフラグが立ちそうだったからだ。俺の頬に冷たいものが流れる……やっぱ堪えきれなかったか……


 アイクに見られないように手の中のいい肌触りの布を見ようとした。


 これは多分……きっと肌身離さず身に着けている物……多分アイクにも見せられないお宝だと思う。こっそり見ると……肌身離さないもの……ハンカチだった。もしかしたらクラリスとエリーは俺が泣いているのを見てこれをくれたのかも。


 馬車が見えなくなったので俺たちも西リムルガルドに向かって戻った。走って西リムルガルドの屋敷の前に辿り着くと、アイクが息を切らしながら


「マルスはこれだけ走っても平気なのか? 相当速く走っていたと思うが? 魔法か何か使っているのか?」


「さすがに少しは疲れますよ? 魔法は使っておりません。僕は毎日20km以上を1時間以内で走っていますから……」


 俺の言葉にアイクは絶句していた。とても疲れているように見えたので誰にも聞こえないように小声でアイクに


「ヒールをかけますか?」


「いや、この疲れている時に槍の練習をしたい。実戦で疲れていても槍を振り続けることが出来ないとな。最近あまり動けていなかったからいい機会だと思う」


 流石アイクだ。確かに実戦で疲れて剣や槍が振れませんでは話にならない。俺も朝練はもっと疲れることをしないといけないのかも……


 屋敷の中に入る前に俺とアイクは剣と槍の訓練をすることにした。久しぶりにアイクと手合わせしたがアイクの槍は力強い。だがやはり疲れているのか刺突がブレたりする事がある。


 槍を握る手も汗で滑ったりしている。イルグシア迷宮の湧き部屋ではもっと長時間戦っていたと思うが、あの時はもう既にゴブリンジェネラルくらいだと全力で戦っていなかったしな。


 小一時間程度訓練をしてから俺たちは風呂に入る事にした。昨日作った浴室に2人で入るとここでもアイクが驚いていた。


「マルス……お前……なんだその体は……? 鍛えているのか?」


「ええ。これも毎朝やっていますよ? もともと筋肉質というのもありますが……」


 アイクが笑いながら


「俺も来年から走る事と筋トレを日課としよう」


 風呂から上がりアイクと2人で見張り台の方へ向かった。ちなみにジークは12月までの暫定領主なので街の見回りに出ているらしい。


 見張り台で警備している冒険者に話を聞くと、昔は散発的に魔物が襲ってきたのに最近は昨日みたいにまとまって襲い掛かってくるらしい。


 冒険者曰く「昨日2回襲撃があったから今日は来ないだろう」との事だ。


 俺とアイクは西リムルガルドの住民たちと話をしていたジークに街の外を見回ってくると伝えてから外に出た。


 街の外には冒険者たちが何人か居た。どうやら交代で斥候をしているらしい。これだけの人数でしっかり見張っていたらそうそう奇襲とかも食らわないな。


 暇だったのでアイクとトレーニングをしていると、西の方から東へ……つまりリムルガルドへ向かう集団がいた。


 数は11。そして遠くからでも実力者という事は感じ取れた。西リムルガルドから出発した人たちではない……誰だろう……


 俺とアイクはその集団を注視していた。すると向こうの集団もこちらに気づいたらしい。集団の1人が俺たちの所に来ると


「その制服はリスター帝国学校の生徒だな? ここは危険だぞ!? 早く戻りなさい」


 心配なようでわざわざ注意をしに来てくれた。バルクス王国でもこの制服を見てリスター帝国学校の生徒という事は分かるようだ。


「はい。ご忠告ありがとうございます。皆さんはどちらに行かれるのですか? この先はリムルガルドなのでかなり危険だと思いますが?」


 アイクが聞くと忠告してくれた男が


「そのリムルガルドに行くんだ。俺たちはAランクパーティだからな」


 なんと! ここに来てAランクパーティの人間と話すことが出来た! しかもかなりいい人っぽい。わざわざここは危険だと俺たちに忠告しに来てくれたくらいだし。


「Aランクパーティですか! 凄いです! パーティ名を教えてください!」


「【氷帝】と【明星】だ。俺は明星のサブリーダーをしているラックだ。まぁ俺たち明星は去年Aランクパーティになったばかりだがな。本当に危ないから気をつけろよな!」


 そう言ってラックは集団の中に戻っていった。ラック……Aランクパーティのパーティメンバーだからそれなりに強いのだがガスターのような突出した能力ではなかった。まぁA級冒険者が1人いればAランクパーティだからな。



【名前】ラック

【称号】-

【身分】人族・平民

【状態】良好

【年齢】25歳

【レベル】42

【HP】182/182

【MP】20/20

【筋力】62

【敏捷】48

【魔力】18

【器用】50

【耐久】59

【運】5


【特殊能力】短剣術(Lv6/D)

【特殊能力】槍術(Lv7/C)

【特殊能力】斧術(Lv6/D)

【特殊能力】土魔法(Lv2/F)


【装備】ハルバード

【装備】ミスリル銀の短剣

【装備】大地の盾

【装備】ミスリル銀の鎧



 ハルバードという槍と斧が一緒になっているような珍しいものを装備していた。


 本当はA級冒険者を鑑定したいのだがさすがにこの距離からでは鑑定できないだろう。


 俺は【氷帝】と【明星】が見えなくなるまでずっと彼らを見ていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
bxmc4v912wvg6s41hxdbdiqjhk8c_k6g_1e9_22m_1m659.jpg dhdiadh6y42697w151s27mq2vpz_14nr_p4_110_lkan.jpg c5j6h10c5uog91hhkty1av6pe0z7_19c6_1d0_1xo_gl2r.jpg asc9b0i8bb8hgzuguaa1w3577f_17n4_28e_35p_y2kp.jpg c5j6h10c5uog91hhkty1av6pe0z7_19c6_1d0_1xo_gl2r.jpg c5j6h10c5uog91hhkty1av6pe0z7_19c6_1d0_1xo_gl2r.jpg
― 新着の感想 ―
[一言] ハンカチですか・・・ぱんつじゃないのね。
[良い点] アイクの素直さが眩しい。 [気になる点] >今度アイクに賢者の杖(偽)を貸してあげよう。 アイクに貸してあげる余裕あるの?(笑) ハンカチ… 日本語でしか通じないし、古い用法というか最近…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ