第145話 西リムルガルドにて
2030年12月4日 8時
リーガンを出発して3日目。
ついにバルクス王国領内に入った。リーガン公爵領では魔物が1匹もいなかったが、バルクス王国領内に入るとすぐに魔物と遭遇した。まぁ脅威度G、Fクラスの魔物だったので大したことなかったのだが……
「今日中にリムルガルドに着きますね。今日はどこに泊まりますか? さすがにリムルガルド周辺で泊まるのはやめておいた方がいい気がしますが……」
隣の御者台に乗っているアイクに聞いた。ちなみに俺たちは2頭の馬で1つのワゴンを引いている。俺とアイクが御者をして女性たちはワゴンの中で暖をとっている。
「そうだな……騎士団や冒険者たちはどこに泊まっているのだろうな。俺とマルス2人なら冒険者たちがいる所に泊まりたかったが、一緒にいる女性陣達を冒険者達の目にさらすとあまりいい事は起きないだろう。今日は少しリムルガルドから遠いところに泊まって明日からリムルガルドを掠めるように南下して暗くなる前に西進しよう」
アイクは俺と同じことを考えていたらしい。南に6時間ほど進みリムルガルド領まであと20kmという所の街で宿を取った。アイクが俺と2人で話がしたいと言ってきたので俺たちは2人で外に出て話をすることにした。
「マルス。1つ聞いていいか? クラリスが神聖魔法を使えるという事を誰が知っている? 【暁】のメンバーはみんな知っているのか?」
「いいえ。知っているのは俺とエリーを除けばライナー先生、ブラム先生の2人だけです」
俺はアイクの質問に素直に答えた。するとアイクが意を決したように
「エーデに教えるのはダメか?」
「本来であれば義姉さんの右腕を治したときに打ち明けるつもりでした。だけどうまく誤魔化せたので敢えて言っておりませんが僕はいいと思います。この前アイク兄が義姉さんにクラリスを魔眼で鑑定させましたけどやはり特殊能力は分からないのですね?」
俺がアイクに聞くとアイクは頷いた。
「結局はクラリスの意志次第だと思います。クラリスが拒否した場合、説得するようなことはやめて下さい。ちなみに義姉さんは僕が神聖魔法を使える事すら知らないですよね?」
「そう言えばそうだったな……【暁】でマルスが神聖魔法を使えるというのは誰が知っている?」
「全員に教えました。もしも僕が攫われても自衛は出来ると思っての判断です。ガスターには負けましたが、もし僕を神聖魔法使いと知っていれば、A級冒険者も僕をあまり痛めつけるようなことはしないでしょう。そして僕には初見殺しの雷魔法がありますから」
「そうか……ではまずはマルスの神聖魔法から教えてもいいか?」
アイクがそう聞いてきたので俺は黙って頷いた。
「ありがとう……エーデも少しはレベルを上げて欲しくてな……だが神聖魔法使いがいないと本当に慎重に戦闘を進めないといけなくて……マルスとクラリスと離れてからこんなにもレベル上げがきついという事を思い知ったよ。
知っているか? 女性メンバーが怪我をしたら完全に傷が塞がるまで動かないパーティもあるらしいぞ。だから前衛の女性は少ないんだ。筋力値が足りないというのもあるかもしれないが……」
大分アイクも苦労したのだな……そう言えば1つ聞きたいことがあったから聞いてみた。
「義姉さんは弓を装備しないのですか? MPが枯渇すると攻撃方法が無くなってきついのではないですか?」
「ああ。本当は装備したいんだが弓を装備すると矢が必要になるだろ? かさばるから持ち歩きたくないと言われてな。ほら女性だと他にもっと持ち歩きたい物、持ち歩かなければならない物があるだろう?」
たしかにそうだな……クラリスの魔法の弓があれば別なんだが……
「とりあえず今回の旅はワゴンの中に余裕がありますから弓を買って大量に矢をワゴンの中にストックしませんか? 少しでも攻撃手段はあった方がいいと思うので……それに僕に少し考えがあります。弓さえあれば矢は僕が土魔法で作れるかもしれません。義姉さんも得意魔法は土魔法ですがMPの関係上僕が作った方がいいかと思うのですがどうでしょうか?」
俺の案にアイクは喜んで賛成してくれた。早速街の武器屋に行って弓と矢を探すと矢は無かった。冒険者や騎士団が買い占めてしまったらしい。まぁそうだよな。しかし弓は結構いい物が置いてあったのですぐに買った。
【名前】キラーボウ
【攻撃】-
【特殊】-
【価値】C
【詳細】放った矢の速度が上昇する。矢の風切り音がしづらく察知されにくい。
これに俺が作った矢で攻撃してもらえばいいか。俺としても土魔法の練習にもなるし一石二鳥だ。
俺たちは女性たちがいる宿に戻り早速眼鏡っ子先輩にキラーボウを渡して矢は俺が作る事を説明すると眼鏡っ子先輩も喜んでくれた。
俺とアイクはそのまま女性たちとは合流せずに冒険者ギルドに寄ってみた。するとクエストがほとんど放置されていた。みんなこの辺の冒険者はリムルガルドに向かっており、その他のクエストをこなす余裕なんて無いようだった。
「これは……酷いな……誰もクエストを受けないのか?」
「そうですね……この状況でも……」
俺はこの後の言葉を発することはしなかった。この状況でもリスター連合国を攻めようとするバルクス王国は何を考えているんだろうと言おうと思ったが、王族批判にもなりかねないのでこの場で言うのは避けた。
まぁクエストを見る限り緊急性が高いものは無さそうなので、もしかしたら優先順位を決めているのかもしれない。
それにしてもペーパー(F、G級冒険者)もいないのだろうか? これくらいのクエストであればペーパーでも十分対応できると思うが……今日中にこなせる簡単なクエストだけ受注してすぐにまたみんなと合流して全員でクエストをこなす事にした。
かなり簡単なクエストもあったのだが、冒険者ギルドの職員や依頼を出した人々からとても感謝された。
2030年12月5日 7時
これからリムルガルドを掠めるように南下する。いつも明るい5人組だが今回はかなり緊張感が走っている。なんせエリーが起きているのだ。
最近のエリーは寝ている事が多くこの旅もここまではほとんど寝ていた。しかし今日は完全に警戒モードとなっている。南下していくと凄く遠くにリムルガルド城のようなものがぼんやりと見えた。そしてリムルガルド城の上空には黒い靄がかかっているような感じがした。
「もうそろそろ西リムルガルドですね。西リムルガルドは大丈夫でしょうか?」
俺がそう言うとアイクが険しい顔をしながら
「西リムルガルドも東リムルガルドも大分厳しいだろうな……恐らくそこが前線の街だと思うのだが……」
西リムルガルドに近づくと魔物が街の外郭の半分ほどを取り囲んでいた。100匹くらいはいるだろうか?
「アイク兄! 街が包囲されております!」
俺がそう言うとアイクは冷静に
「マルス! 魔物達を鑑定できるか? どうやら人型のようだが……脅威度次第で街を救出に向かう!」
俺はもっと接近して包囲している魔物達を鑑定すると
【名前】-
【称号】-
【種族】デスアーミー
【脅威】C-
【状態】良好
【年齢】1歳
【レベル】3
【HP】45/45
【MP】12/12
【筋力】22
【敏捷】20
【魔力】10
【器用】12
【耐久】30
【運】1
【特殊能力】剣術(Lv3/E)
【詳細】神聖魔法にとても弱い。
【名前】-
【称号】-
【種族】デスナイト
【脅威】B-
【状態】良好
【年齢】1歳
【レベル】5
【HP】72/72
【MP】20/20
【筋力】40
【敏捷】38
【魔力】25
【器用】23
【耐久】55
【運】1
【特殊能力】剣術(Lv4/D)
【詳細】神聖魔法にとても弱い。
デスアーミーは骸骨が真っ黒な剣を装備しているような外見だ。デスナイトは真っ黒な鎧を着た骸骨が大きい剣を装備している。剣も体の一部とカウントされているのか装備欄に剣の記載がなかった。
どうやらデスアーミーをデスナイトが率いているようだ。なんか騎士団のように統率されているような動きをしている。大体デスアーミー10体とデスナイト1体でパーティを組んでいるような感じだ。
そして天眼レベル10の効果が現れた。神聖魔法にとても弱い……神聖魔法で攻撃魔法なんて覚えていないが……もしかしたらヒールが有効なのか?
「マルス! 指示をくれ!」
アイクが言ったのでとりあえず【詳細】は無視することにして
「アイク兄とクラリス、エリーは前衛を頼む! クラリスは剣で対応してくれ。出し惜しみはしないでくれ。なるべくお互いの位置が分かる程度の距離で戦ってくれると助かる! 義姉さんは俺が弱らせた魔物をキラーボウでどんどん止めを刺して下さい!」
最初からかなり強い敵と遭遇した。まぁ俺とクラリス、エリーは脅威度Cの敵を倒してもレベルが上がる事は無いと思う。だからなるべくアイクに倒させるようにとも付け加えておいた。逆に脅威度Bのデスナイトは積極的に倒してくれとも伝えた。
アイクは街を包囲している東側の方の魔物達の方へ向かっていった。
俺はアイクとは逆側の方へかなり威力を抑えたトルネードを放ち、瀕死状態になったらこっちに飛ばして眼鏡っ子先輩に止めを刺させる。必死になって眼鏡っ子先輩は弓を引いてデスアーミーを倒しまくる。
「凄い……こんなに簡単にこのステータスの敵を倒している……」
眼鏡っ子先輩もデスアーミーのステータスを鑑定したのであろう。そして一生懸命弓を引いて倒しているが今まであまり弓を引いていないせいかすぐに疲れが見え始めた。
「き、きついわ……少し休ませてもらってもいい?」
疲れた様子で俺に聞いてくるが、今回は眼鏡っ子先輩に強くなってもらわなければならないので
「義姉さん。ダメです。限界まで弓を引いてデスアーミーを倒してください」
スパルタ指導をする。頑張って弓を引こうとしているが、もう完全に握力がなくなっており、弓を持つことすらきつそうだ。
「ヒール」
俺が眼鏡っ子先輩の腕にヒールをかけると、眼鏡っ子先輩は口をパクパクさせながら俺に何かを言おうとしている。だが俺はそんなことはお構いなしに
「さぁ少しは元気出ましたよね? どんどん敵を倒してください!」
かなりきつそうだったが、西側のデスアーミーを全て眼鏡っ子先輩が倒すとよっぽど疲れたのか眼鏡っ子先輩もその場で膝をついてしまった。