第144話 バルクス王国へ
2030年12月1日
【暁】でまだリーガンに残っているのは俺、クラリス、エリーの3人だけ。
カレン、バロン、ミネルバの3人は早々に家から迎えが来て帰省。ドミニクもリーガン公爵の信用がある冒険者パーティを雇って帰省した。
ミーシャはサーシャ、ライナー、ブラムと一緒にザルカム王国へ。どうやらサーシャ、ライナー、ブラムはリーガン公爵にクエストを頼まれてザルカム王国に行ったようだ。
アイクに俺たちは帰省できないと言われていたがそんなことは無かった。リーガン公爵が言うには絶対に貴族たちを接待する必要はないらしい。だが去年だけはフレスバルド家の次女が入学するという事でかなり無理を言ってアイクと眼鏡っ子先輩に接待をお願いしたようだ。
来年の1年生に12公爵の1つ、カエサル公爵の嫡男が入学するらしいが、リーガン公爵は別にカエサル公爵は接待しなくても良いと言っていた。なんとなくだがリーガン公爵とはあまり仲が良くないらしい。
すでに学校のパンフレットのモデルとしての役目も終えていた。俺とクラリスでポーズを取ると、デザイナーみたいな人がペンを走らせる。そしてデザイナーが描いた絵に魔法を唱えると絵がまるで写真のように変わり、別の人間がまた違う魔法でその写真のような絵をコピーしていく。
そして俺とクラリスを待っていたエリーの絵も何枚かパンフレットの中に納まった。もちろんエリーの美貌もパンフレットに収まった理由の一つであるが、恐らくは金獅子がリスター帝国学校に在学しているという事のアピールもあるだろう。
俺たちはすでに11月下旬にはリスター帝国学校での仕事を終えていた。なぜバルクス王国に帰らないかと言うとアイクと眼鏡っ子先輩の生徒会の引き継ぎ業務がまだ終わっていないからだ。
リーガン公爵は俺とクラリス、エリーとアイク、眼鏡っ子先輩が一緒に帰省するのであれば護衛を雇う必要はないと言ってくれた。護衛を付けないほうが変に実力を隠さなくて済むからありがたかった。
「まさかリリアンが卒業するとは思わなかったね」
俺らが学校の広い敷地、校庭と言うにはデカすぎる場所でクラリス、エリーと剣の練習をしながら言うとクラリスが
「ここって5年制だけど進路が決まると卒業できるのね……だけどしっかりとした進路でないとダメみたいよ。Aランクパーティは最高の就職先らしいから卒業できたらしいけど」
クラリスがそう言うとエリーが
「……あいついなくなって……良かった……」
「最高の就職先かぁ……俺がA級冒険者になったら俺も卒業なのかな? 当然クラリスとエリーもAランクパーティ所属となるわけだから最高の就職先という事になるよね? そしたら2人も卒業かな?」
俺がそう言うとクラリスが首を振って
「私たちの最高の就職先は……Aランクパーティではなくて……その……マルスのお嫁さんになる事よ?」
顔を赤くし照れながら言う。リア充最高! 昼になりクラリスが作ってくれたお弁当を3人で食べた。
他の生徒たちはまだ授業があるので学食に移動し始める時間だ。クラリスのお弁当を食べて少し横になっていると俺の頭の上に誰かが立った。……白い。この白は……眼鏡っ子先輩だ。
「ちょっといつまで見ているのよ! お義姉さんもマルスの毒になるような事は控えてください。全くもう……」
クラリスが俺の目に手をかぶせて眼鏡っ子先輩に対して言う。うん。この手もいい匂いだ。
「ごめんごめん。マルスが可愛かったからついね。それよりようやく引継ぎが終わるわ。明日ここを発てるわよ」
その言葉にクラリスが喜んで立ち上がった。あ……白とピンクの美しいグラデーションが……
「マルス。エーデから聞いたよな? 今からリーガン公爵の所に行くぞ。まだリーガン公爵は学校にいるから急ごう!」
走ってきたアイクが俺に言うと俺も起き上がった。もうサービスタイムは十分堪能できたしね。俺たち5人は校長室に行きリーガン公爵のいる校長室に向かった。
校長室をノックし入るといつもと違う雰囲気のリーガン公爵がいた。いつもよりも着ている服が豪華な気がする。あまり飾らないリーガン公爵が上級貴族らしい服を着ているのだ。
「忙しいところ申し訳ございません。本日生徒会の引継ぎが終わりましたので明日出発しようと思います」
アイクが言うとリーガン公爵が
「分かりました。目的地はバルクス王国ですね。1つ約束してほしいことがあります。ザルカム王国には決して行かないでください。今リムルガルドは相当危ない状況となっているようです。バルクス王国、ザルカム王国にいるAランパーティ総出で抑え込んでいるようですが相当厳しいようです。
そしてザルカム王国に関しては東のイセリア大陸から少しちょっかいを出されているようです。侵略や戦争状態という訳ではないらしいですが、こちらにはBランクパーティが招集されているようです。今ザルカム王国はかなり治安も悪化しているようですのでお願いしますね」
リーガン公爵が言うとクラリスが不安そうに
「グランザムは大丈夫ですか? イセリア大陸と一番近いのですが……父と母がグランザムに居るのです。心配で……」
もしグランザムが危ないのであれば……いやグレイとエルナが危ないのであれば俺の行き先はグランザムになる。
「グランザムは分かりませんが、ランパード子爵家は大丈夫そうですよ。どうやらザルカム王国の王都にビートル伯爵と一緒に長期間滞在しているらしいので。これは確かな筋の情報ですから安心してください。あくまでもこの3人は大丈夫という事です。もう一度言いますがグランザムは分かりません」
クラリスは少しほっとしたようだがやはりグランザムは気になるであろう。
「分かりました。グランザム方面の情報も探らせておきます。他に何かありますか? 無いようであれば私もそろそろ行かなければなりません」
リーガン公爵がそう言ったので俺とクラリスが
「「ありがとうございます」」
頭を下げてから部屋を後にした。
「リーガン公爵はどうしたんだろうね? いつもとお召し物の雰囲気が違う気がしたけど……なんかいつも公爵と校長が50対50くらいの雰囲気だけど今日は公爵が100%の雰囲気がした気がするんだけど……」
俺がそう言うと眼鏡っ子先輩が
「12月は円卓会議があるからね。これからフレスバルド公爵領に行くんだと思うわ」
あーそう言えばそんなこと言っていたような気がするな……するとクラリスが
「なぜ父と母の所在をリーガン公爵は知っていたのかしら?」
「もしかしたら生徒の親の安全とかも考えてくれているのかもよ?」
クラリスの言葉に俺が答えるとアイク兄が小声で
「あまり楽観視はしないほうが良いと思うぞ。あの綺麗な見た目にみんな騙されるがしっかりとした公爵だからな。色々考えがあってのことだろう……お前たちも思い当たる節が何個かあるんじゃないか?」
……確かに。色々謀略を張り巡らせていそうではある。
「だがリーガン公爵が安全と言ったのだからそれは間違いないだろう。俺たちも明日から帰省に向けて荷物をまとめたりルートを決めたりしよう。これから各自部屋に戻って荷造りして夜は街でごはんを食べるぞ」
アイクの言う様に俺たちは寮に戻って荷造りをしてご飯を食べることにした。事前に荷造りはある程度済ませていたので15時くらいにはみんな外に出ていた。少し早いがご飯にして早く帰って明日に備えることにした。
「アイク兄。どのルートで帰りますか?」
ご飯を食べながらアイクに聞くと
「うーん……出来れば王都周辺は通りたくないな……マルス、クラリス、エリーもいることだしリムルガルドを掠る感じで南下してから西に向かうルートでどうだ?」
アイクの言葉に眼鏡っ子先輩が
「ちょっと危険じゃない? まぁ私も王都周辺は通らないほうが良いと思うけど」
これはもしかするとアイクの縁談の話は王都周辺辺りの人物なのか?
「それではリムルガルドに近づきすぎないように南下しましょうか? 僕とエリーは索敵が得意ですし。ヤバそうな魔物が居たら即逃げるという事で」
「そうだな。マルスが一緒に行動している間にレベルも上げておきたいしな。エーデもマルスやクラリス、エリーの戦闘を見ておくといい。きっと信じられない光景が見られると思うぞ」
アイクが言うと眼鏡っ子先輩も
「確かに……私はまだこの3人の戦闘をしっかり見たことないわね……マルスが装備している剣を抜いたところを見たことないし、魔法だって兄に手加減したのしか見ていないし……」
キザールの事を思い出して眼鏡っ子先輩の顔が曇った。キザールは結局カレンの近くにはおかずにフレスバルド公爵家の奴隷として下働きをしている。しっかり教育はされているようだが、あまり使い物にならないらしい。
そして眼鏡っ子先輩の実家のメサリウス伯爵領にはフレスバルド公爵家から代官が派遣されているとの事だ。
どうやらフレスバルド公爵家の血縁の準男爵が派遣されたという事までは聞いたがそれ以降は聞いていない。
カレンがこっそり俺にだけ教えてくれたのだが、どうやらリーガン公爵とフレスバルド公爵はアイクをメサリウス伯爵家当主に置きたいようなのだ。
キザールがメサリウス伯爵家当主になると恐らくメサリウス伯爵領はバルクス王国に攻め続けられてしまうと思っているようなのだ。まぁ誰が考えてもキザールとアイクだったらアイクを取るよな……
「僕も久しぶりにアイク兄と一緒に魔物と戦いたいです。成長した姿を見てもらいたいですし……楽しみです」
「そうだな。久しぶりに目の前の敵に集中して戦える。なんか明日が待ち遠しくなってきたな。魔物と遭遇しないに越したことはないんだが……戦闘はしたい」
俺とアイクがこう言うと
「2人とも兄弟ね……脳筋ではないんだけど……子供っぽいわね。【紅蓮】でアイクはこんな事言わないのに……よっぽどあなた方3人を信用しているみたいね。少し妬けるわ」
眼鏡っ子先輩が俺たち2人を見ながら言うと、クラリスもこう言った。
「マルスも【黎明】ではとても慎重に立ち振る舞っていますよ。きっと兄弟2人で一緒に戦えることが嬉しいのではないですか?」
ちなみにエリーはご飯を食べ終えるとすぐに俺の膝で可愛く寝息を立てていた。しっかりスカートはブランケットでケアしている。まぁいつものようにショートパンツを履いているんだけどね。
エリーを起こして早めに帰って明日の出発を早くすることにした。










