第141話 狐の企み
「申し訳ございませんでした」
意外にもドアーホはあっさり俺たちに対して謝罪した。ほぼ土下座の様な格好をしている。まぁセレアンス公爵に相当ビビっているようだし、何よりも俺が圧倒的にオリゴたちを倒したから観念したのだろう。
流石に一国の王子に謝罪されて許しませんとは言えない。だが許す、許さないは俺が言うべき言葉ではない。俺がクラリスとエリーの方に目線を向けると、クラリスは頷きエリーはクラリスの後ろに下がった。
きっとエリーはクラリスにすべて任せると言いたいのだろう。まぁクラリスは絶対に許すだろうなと思っていたのだが……
「今回の件はそう簡単に許されるものではありません。1国の王子がこの様な事を他国でしたのですから覚悟はおありでしょう? それなりの賠償を求めますのでそのつもりで」
え……? クラリス? いつからそんな凛々しい声になったの? 俺は驚いてクラリスの方を見たがクラリスも驚いていた。そしてクラリスはクラリスの隣にいるリーガン公爵を見ていた。
どうやら今の言葉はリーガン公爵の言葉だったらしい。それなりの賠償ってどのくらいなんだろう……後で発覚したのだがとんでもない要求をしていた。
はぁ……今日は疲れた。オリゴたちと戦ってからすぐにメイド喫茶に戻って接客をし、昼はリーガン公爵とセレアンス公爵に校長室に呼び出され食事を一緒に取りそのまま戻ってまた接客……
リーガン公爵とセレアンス公爵と食事をした時、とても高価なものを食べたのだが緊張しすぎて味が分からなかった。リーガン公爵の屋敷にお邪魔したときは緊張しなかったのに……やはり俺1人で公爵2人と食事するというのは無理なようだ。
そして今ようやく15時になりメイド喫茶が閉店したのだが、また俺だけ校長室に呼び出された……扉をノックしてから名乗ると「入りなさい」と言われたので入ると先客がいた。なんとソフィアとアリスだ。
「失礼します。何か御用でしょうか?」
俺がリーガン公爵に尋ねるとリーガン公爵が
「まずは本当に今日はご苦労様でした。マルスの行いにより我がリーガン公爵領はより安泰となるでしょう。そしてマルスには今回の褒美として何か望むものを差し上げましょう」
より安泰? リスター連合国ではなくリーガン公爵領が? セレアンス公爵と協力関係になれたという事か?
「それでは遠慮なく……1番欲しいのは装備が欲しいです。ミーシャかドミニクの装備を最優先で頂ければと思います」
するとリーガン公爵が笑いながら言った。
「マルスに差し上げると言ったのですよ? ミーシャとドミニクの装備でよろしいのですか?」
あれ? もしかして貰えないパターンか?
「ええ。出来れば2人の装備が良いのですが……もしダメでしたら僕の装備でもよいのですが……」
「いいえ。ダメではありません。ただいつもあまりにも無欲ですから……ミーシャの装備はすぐに見繕う事が出来ます。ドミニクの装備は少し待ってください。何か探しておきますから……」
良かった……俺は1つ気になることを聞いてみた。
「こちらから質問宜しいですか? オリゴはどうなりましたか? リリアンに治療してもらえましたか?」
するとリーガン公爵が
「オリゴはもう体は完治しましたよ。だけど完全に心が折れていますね。当分冒険者として復帰は出来ないでしょう……あっそういえばオリゴの剣を没収しておりますが使いますか? かなりの一振りだと思いますが?」
よし! いい感じに誘導できた。とりあえずソニックブームはドミニクに使ってもらおう。
「ありがとうございます。遠慮なく使わせて頂きます」
俺が言うとリーガン公爵が表情を引き締めてから口を開いた。
「さて、1つ参考までにマルスの意見を聞きたいのですが、まずマルスはこの2人を知っておりますね?」
リーガン公爵はソフィアとアリスの2人を見ながら言った。2人はかなり緊張しているようだった。
「はい。2人ともドミニクの幼馴染と聞きました」
「彼女たちをリスター帝国学校に迎え入れようと思うのですがどう思いますか?」
は? なんで俺にそんな事を聞くんだ?
「……いいことだと思いますが……ドミニクも幼馴染が来てくれて喜ぶでしょうし……」
質問の意図がいまいちよく分からない。
「では彼女たちをどのクラスに入れるのがいいと思いますか? ちなみにソフィアも1年生として考えてください」
「ドミニクの幼馴染という事以外僕にはわかりませんので……」
下手に答えると墓穴を掘りそうだから答えるのは控えておいた。ちなみにいうとアリスがSクラスでソフィアがAかSという感じだと思う。
「わかりました。最後にもう1つ。あなた方1年Sクラスは11月の卒業式が終わったら来年の1月の終わりまでそのまま休暇を取ってください。
帰省する際は必ず護衛を雇う事。特にマルス、クラリス、エリー、ドミニクの4人は他国の生徒ですから気を付けてください。あとクラリスが帰省するときは私に教えてください。
絶対に1月には元気な姿で戻ってくるように。あなた達はもう既にリスター帝国学校……いえリスター連合国にはなくてはならない存在となっておりますので。用件は以上です。ありがとうございました」
リーガン公爵がそう言うと俺から目をそらして2人の方をみた。これってもう用済みだから早く出て行けという事か?
「はい。では失礼いたします……」
間違いなくリーガン公爵はソフィアとアリスを鑑定したのだろう……アリスの特殊能力に気が付いていたようだしな。それにソフィアも面白そうな特殊能力を持っているようだが……
「ただいまー」
俺がSクラスの教室に戻るとアイクと眼鏡っ子先輩もなぜかいた。まぁメイド喫茶が終わって4年生のクラスに戻るのが面倒だったのかもしれない。
「おかえりなさい。リーガン公爵は何て?」
クラリスが心配そうな顔をして俺に聞いてきた。
「俺に褒美をくれるって。取り敢えず装備を希望したよ。オリゴが装備していたソニックブームはもらえると思う。もらえたらドミニクに装備してもらおうと思っているんだ」
俺の言葉にクラリスがほっとしていた。ドミニクは嬉しそうにガッツポーズをしていた。するとカレンがみんなにこう言った。
「ほら言ったじゃない。みんな心配し過ぎなのよ。マルスがやったことは絶対に間違っていない。間違ったことをしていないのになんで心配するの?」
「ごめんなさい。私はどうしても悪い方に考えてしまう癖があるようで……やっぱりいくら私やエリーを庇ったからとはいえ相手は一国の王子様で……」
カレンとクラリスの言葉を聞いてミーシャが
「でも何事もなくて良かったじゃん。カレンもこう言っているけど陰では凄い心配していたのを私は知っているん……だからね。本当に良かった……」
明るく振舞おうとしていたミーシャの声がどんどんと涙声になり、最後はほとんど聞き取れなかった。やっぱりみんな顔には出さなかったけど心配してくれていたんだな。エリーは何も言わずにいつもの定位置……つまり俺の左腕に絡みついて来ている。
「みんな心配かけたようですまない。俺が理不尽な目にあうのはいいんだけど、クラリスとエリーが被害にあってどうしても許せなくなって……もちろん他の者が同じ目にあっても同じように行動をしていたと思う」
俺がこう言うとミネルバと眼鏡っ子先輩が
「マルス君とってもかっこよかったよ。クラリスとエリーが少し羨ましかったくらい。私達の為に一国の王子と喧嘩してくれるなんて……素敵」
「そうね。マルスかっこよかったわ。お義姉ちゃんがご褒美上げちゃおうかな」
ど、どうやら他の女子メンバーからの印象も良かったようだ……アイク兄とバロンの視線が少し痛いが……
「あ、ドミニク! ソフィアとアリスがリスター帝国学校に来るかもしれないぞ。さっき校長室に2人がいて、リーガン公爵が2人を迎え入れると言っていたぞ」
俺の言葉にドミニクがとても嬉しそうな顔になった。
「あと11月の卒業式が終わったら俺たちは1月末まで休んでいいとの事だ。ただし帰省する際は絶対に護衛を雇って1月末には元気に戻って来いってさ」
するとアイクが驚いたように
「リーガン公爵が本当にそう言ったのか? もしそうだとしたらマルス達には生徒会をやらせないという事か? 卒業式が終わったら生徒会役員を決めるのだが……来年は俺たち5年生もやらないし……」
「もしかしたら来年の3年生、4年生を考えての事じゃない? 来年の3年生、4年生は無能と言われて就職先が決まらなくなったり?」
と眼鏡っ子先輩が言った。確かにその通りだ。リーガン公爵は全生徒の事を考えないといけないからね。
俺たちは休み何をしようかとか言いながら寮に戻った。










