第137話 激闘! リスター祭
「もしかしたらこの一戦が今回の闘技大会のメインかもしれません。我がリスター帝国学校最強の男が4人目で出てきました。その戦闘スタイルはまさに鬼神! 数々の強敵をその槍で葬ってきたのはこの男! アイクゥゥゥ・ブライアントォォォオオオオ!」
紹介と共に凄い歓声が響く。歓声で会場が揺れている。そしてその歓声と共に赤い色の刺繍が入った白い制服を身に纏いアイクが現れた。もう会場は狂乱状態となってお祭り騒ぎだ。間違いなくリスター帝国学校の顔はアイクであろう。
「そしてこの最強の男に立ち向かう漢は……新入生闘技大会決勝の大将戦から早半年が過ぎ、剣聖に剣を抜かせることが出来ずに負けたこの男! やられたらやり返す!やられてなくてもやり返す! 知らない奴でもやり返す! 目と目が合ったらやり返す! そして剣聖に勝てないと思ったら兄貴にやり返す! 今日グレンに勝てなかったら明日は誰にやり返す? なりふり構わず八つ当たりする男! お前の物は俺の物! 傍若無人という言葉も俺の物! ブラッドォォォオオオオゥ・レオォォォオオゥ!」
……このリングアナウンサーは煽るのが上手い。ブラッドの顔に青筋がはっきりと浮き出ている。
それにしても良くここに来たな……絶対にアウェーになる事は分かっているだろうに……それだけ自信があるという事か……? 獣人至上主義は納得できないがその心意気は感心する。
【名前】ブラッド・レオ
【称号】-
【身分】獣人族(獅子族)・セレアンス公爵家嫡男
【状態】良好
【年齢】10歳
【レベル】30
【HP】95/95
【MP】24/24
【筋力】51
【敏捷】43
【魔力】12
【器用】6
【耐久】60
【運】1
【特殊能力】斧術(Lv4/D)
【特殊能力】体術(Lv7/B)
【特殊能力】土魔法(Lv1/G)
【装備】ビーストアックス
【装備】大地の鎧
【装備】オーガシールド
なんか異常に強くなっていませんか……? 5年生のディバルとほぼ同じようなステータスとなっている……それに装備もかなり豪華だ……まぁ間違いなくアイクが勝つだろうけど簡単には勝てなそうだ……
戦う前に2人が何やら会話をしている。
「まさか4人目であんたと戦う事が出来るとはな。あんたのこと、少しは尊敬しているんだ。最年少B級冒険者を倒せるのは運がいい。今日から俺が最年少B級冒険者だ!」
「なかなか強くなったようだね。ブラッド君。1つ訂正がある。最年少B級冒険者は俺じゃない。今の最年少B級冒険者は、君が半年前に剣を抜かせることが出来なかった弟だよ」
ビックリしていたのはブラッドだけではなかった……
「な、なんとぉ! グレンの弟のマルスが既にB級冒険者となっていた衝撃の事実が発覚! これには私も驚きが隠せない! 今日明日にでも取材に行ってみようと思いまぁす! だがここでも単細胞の頭は残念だったぁ! 残念ながらB級冒険者を倒してもB級冒険者にはなれません! それにグレンやマルスはすでに冒険者だがあなたは冒険者ではありません! 残念無念また来世!」
リングアナウンサーの煽りに会場中が爆笑している。い、いやさすがにブラッドも分かって言っていたと思うよ? ネタにマジレスしてマジレスした側が勝った雰囲気を出すのってやはりホームの利って怖いな……
「俺はこの半年間リハビリをしながらずっと親父と訓練してきた! 今ならあんたやマルスを倒す自信がある! 親父も今リーガンの街で俺の勝利を祈ってくれているはずだ!」
セレアンス公爵も来ているのか……アイクがブラッドに質問をする。
「もしまた俺やマルスに負けたらどうする?」
「どうもこうもない! 俺は絶対に負けない! だがもしも負けたらまた1からやり直すだけだ!」
「そうか……なら安心だな。俺がここで完膚なきまで叩きのめしてもまだ諦めるなよ!」
なんか……熱いな……エリーが心配そうな顔をして2人の様子を見ている。俺は黙ってエリーの頭を撫でるとエリーが俺に身を寄せた。
アイクとブラッドが距離を取って構える。
「始め!」
2人は一斉に間合いを詰めて激しく攻撃を繰り出した。槍対斧はやはり斧の方が相性はよい。だがアイクの槍術はそんな不利を感じさせない。
ブラッドがアイクの槍を大きく弾いても器用にアイクは次の攻撃に移る。おかげでブラッドの攻撃のターンがなかなか回ってこない。アイクの刺突すべてを斧ではじき返すことが出来れば圧倒的にブラッドが有利なのだろうが敏捷値は大幅にアイクの方が上だ。
徐々にブラッドがオーガシールドでアイクの槍を受け止めきれなくなる。どうやらアイクはわざとブラッドのオーガシールドを狙っているようだ。ブラッドも負けじとビーストアックスを振り回すがアイクはそれを躱す。そして躱されるたびにオーガシールドをアイクが突き、ついにブラッドのオーガシールドにひびが入った。
さすが火精霊の槍に火魔法をエンチャントしているだけある。ブラッドはオーガシールドにひびが入ったことに驚いている。だがこれでブラッドももう攻めるしかないと思ったらしい。
ブラッドがこの試合一番のスピードでアイクに向かって詰め寄り、ビーストアックスを打ち下ろす。アイクはいつものようにバックステップを踏んでその隙にオーガシールドの破壊をしようとしたのだが、ブラッドはひび割れたオーガシールドをアイクに投げつけていた。
アイクはオーガシールドを槍で払うと、その隙に今までオーガシールドを装備していた左手でアイクを襲う。咄嗟にまたバックステップで避けようとするが間に合わなくアイクの右腕がブラッドの鋭い爪により切り裂かれ、鮮血が舞う。
火幻獣の鎧を装備していなかったら大分ヤバかったと思う。アイクは攻撃を食らう直前に火幻獣の鎧に火魔法をエンチャントしてダメージを軽減していた。
アイクの咄嗟の防御により、ブラッドは正確に鎧が無い部分を攻撃していたのに致命傷を与えることは出来なかった。まぁそれでも深手ではあるが……
今の一連の攻防に会場中から悲鳴があがる。そしてまたブラッドが攻撃を仕掛けた。また上から下にビーストアックスを振り下ろす。これは絶対に躱されるのを前提とした行動だ。
アイクはまた先ほどと同じようにバックステップでブラッドの振り下ろし攻撃を躱したがここからが違った。さっきまではオーガシールドを狙っていたのだが、今回狙ったのはビーストアックスだった。
ビーストアックスをどう狙ったのかというと、ブラッドがビーストアックスを振り下ろしきった時に、さらに上から火精霊の槍でビーストアックスを叩きつけた。するとビーストアックスは地面に埋まり、ビーストアックスを右手で持っていたブラッドの体勢も大きく崩れた。
このチャンスを逃すアイクではなかった。すぐさまアイクはブラッドを蹴り上げた。ブラッドはすでにビーストアックスを手放しており、一生懸命体勢を整えようとしているが体勢が不十分では力の入った攻撃はできない。あっという間にアイクに追い詰められてブラッドの頬にアイクの火精霊の槍が止まった。火精霊の槍は熱を持っていたらしくブラッドの頬は火傷していた。
「そこまで! 勝者アイク・ブライアント!」
大歓声が会場を包む。先ほどの入場の時よりも凄い。すぐさまリリアンがアイクの所に駆け寄りヒールをかけた。そしてリリアンがブラッドの火傷を治そうとするとブラッドはそれを拒んだ。どうやら負けた証にするらしい。いつかアイクに勝ったら火傷の跡を消すと言って立ち上がった。
大歓声が鳴りやまない中アイクが勝利者インタビューに答えた。
「まずはみんな応援ありがとうございました。みんなの声援の力で勝つことが出来ました。皆さんに聞きたいことがあります。俺と戦ったブラッドはどうでしたか? 彼の戦い方は正々堂々とした立派なものだと思います。もしも明日また戦ったら結果は違うものになるかもしれません。今だけは彼に最大限の賛辞と敬意、拍手をお願いします。彼が居なければこんなに良い試合はできなかったのだから」
アイクはそう言って闘技場を去っていくブラッドの背中を見ていた。大観衆もアイクの言葉に胸を打たれて去っていくブラッドに対して大きな拍手を送った。
アイク……かっこよすぎる……それにブラッドも……
あまりの凄い試合に俺は声が出なかった。まだ興奮しているのが分かる。俺の手は汗がびっしょりだ。
「凄い試合だったわね……こんな名勝負初めて見たわ……」
カレンがよほど感動したのか目を潤ませながら言うとミーシャも興奮した面持ちで
「なんか……これからあの2人はライバル関係にでもなりそうね……」
今回アイクは火魔法を使わなかったから、実戦で戦ったらやはりアイクが勝つだろう。だがここまでのステータス差、ホームとアウェーの地の利を考えると今回のブラッドは本当に大健闘したと言ってもいいだろう。エリーも何事もなくて良かったとほっとしているようだ。
アイクが勝利者インタビューを終えて関係者室に戻ってくると俺たちを見て驚いていた。まさかいるとは思わなかったらしい。
「おめでとうございます。アイク兄。凄い試合でしたね。カレンも言っておりましたが、こんな凄い試合初めて見ました!」
アイクとグータッチをすると【紅蓮】【黎明】メンバーはじめ大会関係者全員とアイクはグータッチをした。
「ブラッドは強いな……マルスはあれを剣なしで素手だけで倒したからやっぱりマルスは凄いな。俺はブラッドと戦っていて楽しかったよ。ブラッドとディバル先輩、この2人とはいいライバル関係になれそうだ」
確かに全力で戦える相手は絶対に欲しいよな。絶対に負けられないからもっと訓練しようとか思えるもんな。
「あとマルス。俺は明日からお前たちの所でメイド喫茶の店員をやるよ。ヒールで治してもらったけど、当分対人戦はやりたくない気分だし。いいか?」
もちろんOKに決まっている。アイクが居れば男勢の休憩時間も増えるしね。俺たちはまだ興奮冷めやらぬ会場を後にしてまたメイド喫茶に戻るのであった。
アイクはいつでもカッコいい。










